後編
学君の家にへ行った。
学君の母は床屋さんをしていた。普段は家にいてお客さんが来た時だけ店を開けて髪を切る。
彼は自分の家の事などいっさい言ってなかったし自分もそれについて聞かなかったのでまったくわからなかった。
近くのお寺に行った。
学君は、一夏、ここで座禅を組んだとか。
お寺に入る時、慣れていて自分の家に入って行くように、ヒョウヒョウとごくごく自然にその場に溶け込んでいる。
スーと入って行く
彼の前世は、僧侶それともお坊さんだったのではないだろうか?
さて、この旅の最大というか唯一の目的奈美さんに会いに行くのではなかったか…指さして
有耶無耶になってしまった。
行かなかった。
時間も残り少なくなってきている。
このまま元カノに会いに行かないのかイヤ、彼は人でこっそり会いに行っていたと思う。
なぜならこれは後日談だが、学君は大学を卒業して田舎に帰り火消し(消防士)になり広島に勤務していたが
もうその時は奈美さんと結婚して子供が出来ていた。
どうやらよりを戻していたらしい。
一度広島の彼の所に会いに行った。
奈美さんは器量よしで性格も凄くいい人だった。
羨ましいくらいだがそんな性格がいい彼女が学君を振ったとは思えない。
彼の性格は難ありではあるが。
もしかすると本当は彼女に振られたのではなく
テキトーなことを言って私を引っ張り出して一緒に旅に行かせたかったのだと思う。
しかしあんな彼が奈美さんと言う女性を持っているなんて少し妬みが沸いたものだ。
この旅の終わりに近づいた。
私は学君より二日多く休みがあったので先に学君は東京へ戻ったが
私は折角の休みでありこちらは初めての地を少しでも見たかった。
広島へ行った。
路面電車に乗って原爆ドームを見に行った。
歴史はカラッキシダメだが歴史があったからこそ今があるのだと常々思えてきた。
やはり旅をすることはいいものだ。
まだまだ当時は歴史が苦手な自分だが不思議なものには興味があった。UFOとか。
広島にはピラミットがあるという。葦嶽山がそうだ。
一度見たいと思っていたからよい機会だ。
バスに乗り、降りて山へトボトボと歩いて行った。
お~ここか、小さな立札があった。ピラミット入口と。
やったさあ登ろう。
山道はほんの小草がない細道だ。
周りは木、草と生い茂っていた。
一歩、二歩、三歩と踏み出した。その時だった。
ニョロニョロとかなり大きなしかも蛇が出てきたのだ。
青大将は何んども見て来たが、こいつは違うぞマムシか。
自分は蛇年なのだが、蛇は嫌いだ。
足がなく長い舌をぺロペロと出し、目つきが悪く顔つきだって半端なくよくない。
干支に入っているのだって変だ。
ア~ヤダヤダ、ヤ~アメタ
今度来る時は蛇が冬眠している冬にしようん~そうしよう。
それっきり来ていない!!
トボトボ歩いて駅に着いた頃には、夜になっていた。
やっと最終電車に間に合った。
あのまま山へ入って登っていたら完全に夜になっていただろう。
そこでまた野宿か?山の中で、蛇君、ありがとうだね。
無計画はよくない。けどおもしろいことも多い。
寝台車に飛び乗って、東京へ戻る。
そこでの出来事
今はJRになったが当時はまだ国鉄だった。
電車の車掌はエバッテイタ「何!!寝台の切符をまだ買ってないだと!何やっているんだ!」と凄い顔で怒っている!!
私は初めての長旅、寝台車なんて乗ったことがもなかったし、何もわからずたたスミマセン…」と謝ってなんとか乗せてもらった。
それが、この旅の締めくくりだ。
次の旅行は、八ヶ岳を登山。
その切っ掛けと言うか山登りしようとしたのは学君と話をしていて
学君「我々はあの山登りの姿をしていたが1つも山に登っていない、何たる事だ1つぐらいは行こうじゃないか。」と彼が言う。
私「そだね。行こうか。」
そういうことで休暇をいただきまた二人で一緒にすぐ登山に決めた。
夜行列車に乗りいざ八ヶ岳へ
その電車は学君は曰く「駅に止まっている時間の方が、走っているよりも長くね~。」と
私「ソダネ~。」
窓の外を眺めていると駅で車掌が縄った新聞をホームに置いていた。
投げ置くと言った方が適切かな。
新聞に載っている記事の内容を二人で話をしながら過ごしていた。
茅野駅についた時には、朝になっていた。
朝日が差して来て、空気も東京では味わえない、清々しくて、いつもの朝とは、一味も二味も違ったものだった。
深呼吸を何度もした。
空気がうまい!!
駅から八ヶ岳の登山口までタクシーで行くことにした。
そのタクシーの運転手さんが話しかけて来た。
私「何ですか?」
運転手「八ヶ岳と富士山の話は知ってるか?」
学君「知んないっすね。」
運転手「そうかそれなら教えてやるよ。」
運転手「ある時と言っても昔々の話だ、八ヶ岳と富士山は背比べをしたんだ。」
運転手「頂上と頂上に竹簡をおいて水を流してそしたら八ヶ岳が長いということだ。」
運転手「んで富士山は八ヶ岳の頭を蹴り飛ばしてしまってな」
運転手「八ヶ岳の頭頂部が縮んでしまってな富士山より低くなってしまったんだ。」
そんな感じで八ヶ岳と富士山の話をしてくれた。
タクシーに乗ってよかった。おもしろい話を耳にした。
山頂の出来事
一人の年配の男性に親しくなった。
彼は小さなバックを背負っていた。その中には色々な物が入っていた。
リンゴを取り出し切り分けて、私たちにもくれたのだ。
今まで食べたリンゴの中で一番おいしいと思えた。
格好だけは良かったが私たちは中身が伴ってなかった。
まずはテントなんていらない。シェラフ(寝袋)だっていらない。
本格的な登山者だけでよいのではないのか。
山小屋に寝ればよいのだ。
だけど支給される飲み物や食べ物はちょっと高値で手が出しづらい。
だから何泊かするなら食べ物やお金は多めに持っていくべきだ。
自分たちはお菓子を少ししか持っていなかった。
色々分かってきた。
1つ、我々の一番の強さが分かった。
それは体力!!
新聞配達をしているので知らずに体が鍛えられていた。
雨の日も、強風の時も台風だってなんだって新聞を配らなければならない、少しぐらい風邪を引いて熱があったって。
だから、いつの間にか体が丈夫にできて根性もついていたのか、普通の山登りなんてへっちゃらだった。
地図に書いてあるルートやポイント、掛かる時間などを見て
例えば三時間掛かる所を、我らは一時間から一時間半で歩いてしまう。
他の登山者達を、軽々と抜かしてどんどん進んでいく
そして気色が眺めが良いところで一休み
カメラを取り出し写真を撮りまくり、お菓子を食べ水を飲み、休みと言うより一眠りしていた。
その間に、一般の登山者においこされて行く。
カメラを腹に乗せて寝ていた。
どこでも聞いた話正にウサギとカメではないか。
ラがおまけについているけど。
八ヶ岳登山の最後は電気が通っていない宿に一泊。
良いこと悪いことが交互に来る。
気持ち良く登山を終えて、休みのこの宿の同室のおじさんがヘビースモーカーだった。
部屋中、煙、そして嫌な臭い。
部屋にいたたまれず、風呂へ行く。
部屋に戻ってもまだそのおじさんはタバコを指に。
こうなれば二度目の風呂に行く。
今度は宿の人に聞いた露天風呂へ。
月明りを頼りに川の近くまで下っていくと露天風呂を見つける。
アッタアッタ
イヤー気持ち~
少しでも上がろうとすると寒くてすぐに肩まで浸かってを繰り返しかなり長い時間入っていた。
体の芯まで温まった。
部屋に戻るとおじさんは寝ていた。
煙は少しおさまっているが部屋は依然としてタバコ臭い。しょうがないからこのまま寝た。
今度はいびきでが大きくてうるさかった。
コリャマイッタ!!
学君との旅はこの二つ、未だに忘れずに自分の心の中に残る大切な記憶、宝物になった。
学君は法政大学をちゃんと四年で卒業することができた。
本人は言っていた。
まともに学校へ行ったのは一ヶ月か二ヶ月ぐらいかなって少し大げさだがそんないいかげんな彼だ。
きっと卒業できたのは私のおかげだろう。そう思った。
学君の大学時代真っ只中のこと、いつもの様にひょっこりと私の部屋に現れてくる。
そして学君は私の本棚を覗いて彼は言う。
学君「哲学の本とかあるよね?」
私「うん、少しはね。」
学君「俺さ、いいかげんに授業選んじゃったんでその中で哲学もあったんだ。」
学君「久々に授業に行ったら先生(教授)から出席は足りないなんだかんだ言われちゃって落第だって」
学君「このまま留年確定だよ!」
それで何とかならないかと私の方に学君は頼み込んだんだ。
レポートを15枚以上を5日以内書いて提出しろと言われたらしくその題は哲学についての考察ということだった。
それで落第だけは許してくれるそうでまったく何を書いていいやらわからなかったので
私の本棚に哲学に関連した本があるのでそれを頼りにしていたのだ。
学君「頼めるのは君しかいないんだよ!!友を助けてくれ!!」
半泣きの学君。
私「しょうがないな。ん~3日まって何とかするから。」
私は人が良いのか悪いのか?馬鹿なのか?
学君の代わりにレポートを書くことになった。
その時は私はレオナルドダヴィンチにはまっていた。
その当時、一ケ月の給料が5万ぐらいだった時、10万もするダヴィンチの本も買っていた。
何とか学君のレポートを書き上げた。
下書きが今でも手元に残っている。
彼につきっきりで清書も手伝った。
何しろ私の字ときたら、ミミズが蛇がのたくった様なもので、自分でも読み返すと
「これ何て書いたんだっけ?、読めない分からない、これは字じゃないよ。」と
そんないい加減な学君はちゃんと4年で卒業した。
新聞配達は三年間でやめた。
その少し前から彼は専売所のすぐ近くのアパートに住んでいた。
当時、高成長期で新聞を取る家庭や会社が増えてきて一年二年経たずに配達区を見直しどんどん増えていった。
逆に八区なんかは専売所から遠いと言うので隣の専売所に譲っている。
私が新聞配達に入った次の年は、オイルショック、そして新聞の値段が月決めで
950円から1200円になった。
それなのに新聞の部数はどんどん伸びって行った。
ゆえに配達員も増員し専売所の部屋も足りなくなってアパートへ引っ越し
先輩、年上、朝寝坊ではない人たちを取り込んだ。
朝が弱い学君は少しずれていたかな何度も朝起こしに行った。起きろー!と声を掛けた。
学君が大学4年になって新聞配達を辞められたかと言うと彼の弟が大学1年生になり
上京して弟も新聞配達をして、兄にも大学最後の年にして満喫してほしいと。
弟は渋谷の隣の原宿の朝日新聞の専売所へ
家庭の話をほとんどしない学君は弟の話を少ししてくれた。
学君「親父は俺をしっかり者に育てたくて、かなり厳しくされたんだよ」
学君「でも俺はチャランポランでね、親父はこいつは無理だと悟ったんだよ。」
学君「弟も兄みたいに厳しくやっても無駄だと思って何にも干渉せず自由に育てたんだと」
学君「だけど弟はしっかり者で怒られたことが一度もないんだよね。」
学君「兄弟って不思議だよね。全然違うんだよね。」と言っていた。
自分は学君にこう返した。
私「多分そのお父さんが原因で学君はグレて変人になっちゃったんじゃない?」
学君「ハハハ!かもね!けど変人は言い過ぎだろ!」
ここまでいい加減な学君を形成させたのは彼の父の育て方だと自分は思われるが
その父のおかげで学君は魅力的な人になれたのではないかなって思う。
子育て奥深い。
学君が田舎へ帰った。
その後、彼が住んでいたアパートに彼の弟が引っ越してきた。
その学君の弟は新聞配達は一年でやめて大学二年から卒業するまでバイトなしで勉学に専念した。
私から二人とみるとよく似ている。
その頃私は写真に凝っていた。
フィルムの現像から写真の焼き直しまで夜部屋を暗くしてやっていたのだが
学君が来て「俺の瞳の中に残されている奈美さんの映像を撮ってくれないかな?」
無理、俺、ユリゲラーじゃない、超能力なんて持ってない、何千枚も写真撮ったけど一つもないよ。
学君の頭の中には奈美さんと言う女性の顔が映っているだろうが
それを写真で取るのは難しい。しかもその当時奈美さんの顔を見たことないから似顔絵すら描けない。
後日、学君の弟君が私に兄の学君と同じようなことを言う。
外を歩いていたら女性の下着が干してあったのが見えて弟君は「可愛らしい」と言っていた。
弟君「もしそれを取ってしまえば窃盗の犯罪になってしまうよね、見るだけなら罪にならないよね、目の保護だよね。」
今の時代だったらストーカーとか何とかでヤバいかもしれないが
それを聞いた時、笑う言うかそう言うのじゃなくて兄弟が深層心理と言うか見えない下の下の部分で、似ていて繋がっていると
思って感心してしまった。
最後に彼、学君は本当におもしろい人だと思った。
自分で自分の事を極楽蜻蛉と言っていた。
トンボってあの虫のことかな?
トンボを見ていると目ん玉をキョロキョロと動かしフワッと浮いたり急降下したりと自由に飛び回っている。
トンボの目の前で指を回すと目が回り捕まえられたリ、なんだかトンボって面白いと思っている。
他人から物やお金をもらう時、心よくありがとうともらっておくとのこと。
なぜなら、悪いとかいらないよとかじゃなくて、あげようとする人はもうその者はあげるものだから
それを断るのはよろしくないと言う。
何とかうまく説明が出来ないけれど、彼はいつでも自由にフワフワと、自分の人生を渡っていくいい加減なのかいい塩梅なのか。
学君の消防士としての勤務地は広島だった。
奈美さんと一緒に子供も出来て私が遊びに行ったときに学君から聞いた話
学君「消防署でつめている時、子どもが来たんだ。子供が家で火が出たって」
学君「どんな具合か聞くとな母親がフライパンから火が出ちゃったて。」
学君「んで俺はその子に早く帰ってお母さんと手伝って火消な」
学君「黙ってあげるからっていたのさ」
私「おいおいそれ大丈夫だったの?本当に火事じゃなかったのかい?」
学君「大丈夫だったと思うよ。その日家燃えたなんてなかったから」
学君「報告書書くのメンド―だから」っと
学君と知り合い、四年間プラスα、おかげで自分も随分知らず知らずのうちに、変わってきた。
歴史に興味がわき、史学科に入ったり山登りするようになったり何といっても考え方を変えてくれたのかと思う。
自分は四角四面の融通の利かない、きちっとしなくちゃいけないと考えすぎて胃潰瘍を三度もしたのだがそれもなくなり変わることができた。
でももし彼にそんなことを言ったら多分、ニヤっと笑って「知らね~」ぐらい言うのが落ちだろう。
最後の最後に変なエピソードを1つ
夕方、道でバッタリ彼と会った。
学君「あ、良かったよ合えて!!」
私「どうしたの?」と聞くと
学君「後ろ見て、いや見ないで二人の警察に職務質問されているんだ」
黄昏時だったがこっちとら目だけは良いのでつけている二人が見えた。
私「つけられているね…」と言うと
学君「もっと良いものないいけれど…」と
そんな話を二人でしていると二人の警察は去っていった。
真っ当な私と一緒にいる所にいるを見て安心をしたのだろうか。
学君「もう何度もあるんだよ。」言っていた。
でも彼には、何だか、福というのか幸というのかそういうものがついているのか
彼はいつもフワッとしている。そんなところが良いのだろうかな。
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