第6話 歯の不調はお菓子の天敵
歯の治療のため星川家から2Km離れた翠の歯科クリニックで診察を17時に予約を取ったエビスじいちゃん
その歯科医院のエントランスで本多と再開する。
本多はエビスじいちゃんのかつての仕事仲間で部下であり「オリーブ」の従業員として今も現役である。
治療を受けるのは本多本人ではなく息子の付き添いでこの歯科医院に来ていたらしい。
エビスじいちゃんが現役だった頃から本多に息子がいると知っているがまだ会ったことがないらしいが
歯の手術を終え手術室から出たその男の子は昨日駄菓子屋エビスに来てくれた翔吉だった。
本多の息子は翔吉だったのだ。
歯科医院で予期せぬ出会いを果たしたエビスじいちゃんと翔吉。
翔吉の父「星川店長と知り合いだったのか!」
翔吉「店長?父ちゃんも知ってるのエビスじいちゃんを?」
翔吉の父「エビスじいちゃん?」
エビスじいちゃん「本多や、実はのう半年前から駄菓子屋を始めたんじゃ」
エビスじいちゃん「こやつにはエビスじいちゃんって呼ぶようにわしが言ったんじゃ」
翔吉の父「へえ〜駄菓子屋始めたんですね」
翔吉「お客さんまだ全然来ていない見たいんだけどね〜」
エビスじいちゃん「うぐぐ…」
翔吉の父「こら!翔吉!失礼なことを言うんじゃない!この人は凄いんだぞ!」
息子をしかり店長時代のエビスじいちゃんの魅力をアピールする父。
エビスじいちゃんを尊敬する父だが一方で息子はあまり関心がないようだ。
店長としてスーパーマーケット「オリーブ」を支えてきた経歴があるからこそ翔吉の父は頭が上がらないほど慕っているが
翔吉は昨日あったばかりでこじんまりとした駄菓子屋で経営するただのおじいさんぐらいしか見えていない。
親と子でエビスじいちゃんの印象が違うのは仕方がないことだ。
翔吉「エビスじいちゃんも虫歯なの?」
エビスじいちゃん「いやわしは歯を折ってしまったんじゃ」
本多親子に翠の歯科クリニックに来た経緯を話した。
翔吉たちの指摘を受けグミを「オリーブ」で仕入れて
その午前中買ったグミ菓子「グニャボヨ」を味見のため口に入れたのだが
そのグミの弾力と固さに負けて歯が折れてしまったと言う。
翔吉の父「そうですか…いろいろ大変なさっているのですね。」
翔吉「グミ出してくれるんだ…でジュース?」
ジュースの方はどうなのか聞いてみると
エビスじいちゃん「すまんがジュースはまだじゃ」
エビスじいちゃん「冷やせるのが今なくて、ショーケースがあればいいんじゃが」
エビスじいちゃん「オリーブに行って部下の玉井に頼んでみたんじゃがやっぱり駄目じゃった」
翔吉の父「権利関係的に難しいですね…なんとも言えません。」
エビスじいちゃん「ジュースの方はわからん、期待せんでおくれ」
翔吉「そっか〜」
ジュースの件は検討中であるが導入するのは難しいと正直に応えた。
翔吉の意見を真摯に受け止め改善していくというところが見受けられ
翔吉もエビスじいちゃんに対する印象が変わってきた。
翔吉の父「すみません、翔吉がご無礼を…」
エビスじいちゃん「いや寧ろ感謝しておる!」
エビスじいちゃん「やることが見えてきたんじゃからのう!」
翔吉の指摘は決して悪いことではなく駄菓子屋の改善の余地を見出してくれた大変貴重なものだ。
ハプニングもあったもののエビスじいちゃんの歯や体の健康面についても考えさせるきっかけにもなった。
翔吉の父「翔吉、店長の駄菓子屋の住所知っているのなら後で教えてくれないか?」
翔吉「うんいいよ」
翔吉の父「星川店長、私も微力ながらお力添えいたします!」
エビスじいちゃん「それは有り難いのう〜」
エビスじいちゃん「さておぬし、翔吉と言ったか。お前さんはわしの駄菓子屋以外お菓子を買うのは禁止じゃ!」
翔吉の父「それがいいですね!」
翔吉の父「翔吉!これからお前が店長の駄菓子屋を支援するんだぞ!いいな?」
翔吉「え〜なんでそうなるの〜」
翔吉の父「明日星川店長の駄菓子屋でお菓子買ってこい!お金渡してやるからよ!」
翔吉「え?いいの!?」
翔吉の父「昨日お菓子友達に買ってもらったんだろ?」
翔吉の父「次はお前が友達にお菓子を買ってやる番だぞ!」
翔吉「うん!やった!」
本多親子も駄菓子屋エビスのお菓子を買って支援してくれるそうだ。
翔吉という子供のお客さんが再び来てくれるのがエビスじいちゃんにとって嬉しいことである。
明日の学校の帰りに来て友達も連れてきてお菓子を買いに来てくれるそうなので
また駄菓子屋エビスがにぎやかになるのが楽しみだ。
歯科医院のスタッフ「星川様〜」
エビスじいちゃん「はい!」
エビスじいちゃん「それでは行ってくるぞい、またな」
明日が待ち遠しいがエビスじいちゃんは乗り越えるべき壁がある。
それが歯の治療だ。
過去に何度も歯の治療を受けてきているが歩く足を止めてしまうほど恐れている。
麻酔針が歯肉に刺さる痛みとタービンの歯を削る音は未だになれない。
ちなみに翔吉は虫歯が5つあって今日で3つ目の虫歯の治療を終わらせたが
やっぱり彼も歯の治療は大の苦手のようだ。
絶賛治療中のようなのでもしかしたらまたこの翠の歯科クリニックで会う機会があるかもしれない。
治療を終えて歯科治療室から出てくる翔吉の表情はいつも赤く顔も心も泣いている。
翔吉の前では弱音を吐かずエビスじいちゃんは大人として「オリーブ」の元店長としての威厳を見せ
堂々と歯科治療室へと一歩一歩進んでいくが心は泣いていた。
エビスじいちゃん(うぬ〜いぎだぐない〜)
「行きたくない!」っと心の中で叫んでいた。
翔吉「エビスじいちゃん頑張ってね!」
翔吉の父「お大事になさってください!それではお先に失礼いたします」
歯科治療室に向かうエビスじいちゃんの背を翔吉は手を振り見送った。
その後本多親子は翠の歯科クリニックを後にした。
歯科治療室に入ると歯医者が笑顔で出迎える。
エビスじいちゃんの歯の治療を担当する歯医者は森園である。
森園「星川さん、こんにちは」
エビスじいちゃん「こんにちは」
森園「本日はよろしくお願いいたします。」
森園「欠けてしまった歯をお預かりしていますが、一度口内の歯の状態を調べさせていただきます。」
エビスじいちゃん「お手柔らかにお願いします」
今回の歯科治療は痛くしないでほしいと懇願している様子だ。
担当となった森園は理貴と同じくらいの年代で若い人だった。
理貴は今年で30歳である。
エビスじいちゃんはレントゲン室の方に案内された。
その中はカメラのような機材が置いてあって背もたれのない椅子がありその椅子に座った。
エビスじいちゃんの歯や顎のレントゲンを撮るようだがこれを歯科医院ではX線撮影と呼ばれている。
X線撮影が終わり歯科治療室の背もたれのある柔らかい椅子にエビスじいちゃんは腰掛けた。
上顎の左の犬歯が欠けてしまったのだがX線撮影の分析結果で損傷具合を調べた。
幸い歯根膜の損傷はないようだ。
歯根膜は歯の根っこの周りを覆っていて歯の靭帯と呼ばれている薄い膜上の組織である。
これが損傷してしまうと歯が浮いた感覚や痛みが生じ放置すると最悪歯が喪失する恐れがある。
森園はエビスじいちゃんにX線撮影の結果をモニターに表示し歯根膜の損傷はなかったと伝えるが歯根膜が損傷してしまった場合のリスクも教えてくれた。
安心はしたがこれをどう治療するか検討しなければいけない。
欠けた左の犬歯は3分の2ぐらい欠損していて少し神経がむき出しになっている状態でどの治療法にするか悩ましい。
歯を保存できるかできないか中間ぐらいだが保存できない方に大きく傾きそうである。
治療法について歯を保存して被せ物にするか、保存せず入れ歯、ブリッジ、インプラントにするか以上これらが治療法として挙げられた。
できるだけ歯を残したい意向であり被せ物で治療したいがそれなりのデメリットがある。
経年劣化や被せ物と歯の間の隙間から生じる最近の侵入による二次虫歯のリスクが伴う。
また被せ物は歯を削って土台を作らなければいけないため最悪の場合は神経を抜かなければいけなくなるため
神経を抜いてしまえば歯を失ってしまったと同じで歯を残したい意向に沿わず本末転倒である。
一応被せ物にもメリットがあり前歯か犬歯であれば保険が適用され費用が安くなる。
しかしデメリットを考慮した上で、ハードグミで歯を折ってしまった経験からも被せ物の耐久性に懸念がある。
であれば歯を保存しない方向で考え他の治療法に視野を入れる。
エビスじいちゃん「被せ物はちょっと無理じゃな…」
森園「では他を提案しましょう。これはどうですか?」
まず森園はインプラント治療を提案する。
インプラントのメリットは歯をしっかり噛めるほど耐久性に優れ、見た目など審美性にも高い評価を得ている。
インプラントは顎の骨にネジ状の部品を埋め込んで義歯を装着する治療法のことである。
森園はインプラント治療についての説明を行い、より具体的にイラストや写真付きの資料をエビスじいちゃんに見せた。
インプラント治療のことを知り資料で歯根部にネジが埋め込まれているイラストを見てエビスじいちゃんは全身が震え上がるほど怖がる。
エビスじいちゃん「それ絶対痛いじゃろ!死んじまう〜〜!」
誰だって体に金属部品を入れられて人体を改造されるようなことには抵抗がある。
エビスじいちゃんの反応はごもっともだ。
森園「多くのお客様方からも大変不安になられることがあり」
森園「星川さんのお気持ちお察しいたします。」
森園「しかし痛みはほとんどありません。」
インプラント治療に対して不安や戸惑いを感じているエビスじいちゃんに歯医者である森園は落ち着かせる。
森園が言うようにインプラント治療はほとんど痛みを感じないらしい。
手術中に局所麻酔をするため個人差はあるが痛みは感じないようになるそうだ。
エビスじいちゃん「麻酔もいやじゃ〜」
森園「そうですか…」
麻酔も嫌ということでエビスじいちゃんは歯科治療全般苦手意識があることを森園は理解する。
しかしどちらにせよ麻酔は避けられない。
インプラント治療もいいことばかりではなくデメリットもある。
保険適用外のため治療費が高額であり1本あたり30万以上する上、治療期間も長く場合によって外科手術も必要になる。
治療費が高額と聞いてエビスじいちゃんはそれを支払って治療するくらいなら
冷蔵ショーケースを買ったり駄菓子屋をリフォームして充実したりしたほうが安いと感じてしまうほどだ。
リスクとコストを鑑みてインプラント治療は現実的ではないと断念した。
森園もお客様の思いや意見に寄り添う歯医者としてインプラント治療ではなく他の治療法を検討する。
次に森園は入れ歯を提案した。
入れ歯であれば保険が適用されるため治療期間が短い。
だが噛む力が弱まってしまうので「グニャボヨ」のようなお菓子のみならず固い食べ物を食べるときは注意しないといけない。
また味覚の変化が起きる可能性があり思うように食事が楽しめなくなることもある。
それを差し引いても入れ歯治療のほうがインプラント治療よりも現実的である。
ひとまずエビスじいちゃんは歯の治療として入れ歯を候補とする。
さらに森園は他の治療法も提案するがそれがブリッジである。
ブリッジとは失った歯の両隣の歯を削ってそれを土台にして人工歯を装着させる治療法だ。
費用は安くないがセラミック以外なら保険が適用され費用はだいたい2万円から3万円程度になる。
インプラント治療と比較すると治療費が安い点と入れ歯よりも強く噛める点がメリットである。
しかしデメリットとして両隣の歯を削って土台にするため健康な歯に負担が生じてしまうことと治療期間が長く約2ヶ月はかかる。
歯科治療に苦手意識があるエビスじいちゃんとってはこの治療期間は苦痛になるかもしれない。
エビスじいちゃん「うむ…ブリッジか…」
メリットデメリットを聞いた上で入れ歯にするかブリッジにするか
エビスじいちゃんは腕を組んで深く考え込む。
どちらを選択しても治療後の懸念がエビスじいちゃんを不安にさせる。
でもデメリットばかり意識しては前に進まない。
森園「まずはどちらかお選びになってこれからのことを一緒に考えましょう。」
森園「X線撮影の結果を見たのですが治療後も定期的な歯科検診やクリーニングを受信することをおすすめします。」
エビスじいちゃんを後押しするような形で森園は定期的に歯科検診とクリーニングを勧める。
エビスじいちゃんの歯の健康状態だが噛む力が衰えているそうだ。
加齢と共に身体能力が衰えていると同時に噛む力も歯も弱くなってしまう。
X線撮影の結果で注意すべき点がありエビスじいちゃんの奥歯で一箇所ちょっと割れ目のある奥歯は見つかったのだ。
既に折ってしまったがおそらく左の犬歯も割れ目ができてハードグミを噛んだ結果割れ目は大きくなって割れってしまったのかも知れない。
また歯並びも全体的によくないそうだ。
以上から長期的な観察が必要であるということだ。
エビスじいちゃん「ブリッジで治療をお願いします。」
エビスじいちゃん「やっぱり歯大事じゃな!」
エビスじいちゃん「クリーニングと検査も申し込んでおきます。」
森園「はい!星川さんこれから歯の健康のため一緒に頑張っていきましょう。」
いろいろ考えて入れ歯と比較して食事やこれからの駄菓子屋経営をしていく上で支障をきたさないブリッジの治療を選択した。
そして歯科検診と歯のクリーニングも申し込んだ。
1つでも多く健康で丈夫な歯を残すのであれば歯医者の指示を聞いて歯科検診とクリーニングを重ねることが懸命である。
もちろんも美味しい食事とお菓子を楽しむためには健康な歯が必要だ。
歯の不調はお菓子の天敵である。また病気のサインでもある。
本日からブリッジによる歯の治療が行われ欠けた犬歯を取り除き土台のとなる歯を削って仮歯を入れた。
その後、ブリッジの制作のため型取りをして約2週間仮歯で過ごすことになった。
保険適用外のセラミックで制作することにしたが費用が高くなる。
歯のためなら惜しまず、これからの駄菓子屋経営のための投資と考えれば高くないと思う。
歯科検診は3ヶ月に1回、クリーニングは毎月1回行うことになった。
最低でも1回は翠の歯科クリニックに行くことになった。
歯科医院に行くことすら苦手で行きたくないと思っているエビスじいちゃんだが何度も通って慣れていけば重い足も軽くなりスムーズになるだろう。
星川家に戻り息子の理貴にブリッジの治療と定期的な歯科検診とクリーニングを受けるという旨を伝えた。
それを聞いて理貴は頷いて理解した。
エビスじいちゃん「来月は健康診断に行くとして駄菓子屋は休まないといけんのう〜」
来月は健康診断を予定していて結果次第になるが治療のため病院に行くため
その都度駄菓子屋を臨時休業にしなければいけない。
すると理貴がいい提案をする。
理貴「定休日を入れてみたら?」
エビスじいちゃん「お!それありじゃな!」
定休日を設ければ日程調整しやすくなる。
どの曜日が都合いいか今後の歯の治療と来月の健康診断の結果を見て決めていきたい。
また半日営業の曜日を入れてもいいだろう。
治療が完了した後も定休日を利用してお菓子の仕入れや作戦も練ることができる。
理貴「でも今は定休日があってもなくても変わらないけどね」
エビスじいちゃん「それもそうじゃな…」
まだ客足もほとんどないので臨時休業が突然あっても誰も困ることはないだろう。
これから駄菓子屋が大きくなれば定休日を設けるのも検討していきたい。
夕食、理貴が作ったキムチ鍋を問題なく食べることができた。
麻酔の効果が残っていて感覚は変だが治療中の箇所はキムチの辛味に染みず痛くもなくおいしく食べられた。
エビスじいちゃんは理貴に良い知らせを聞かせる。
エビスじいちゃん「歯医者に行ったらな本多がいたんじゃよ!オリーブで働いているあの男がよ」
エビスじいちゃん「それでな本多の息子さんが虫歯でその付き添いで来たそうなんじゃ!」
理貴「へえ〜それで?」
エビスじいちゃん「その息子がじゃ!昨日来てくれた客の翔吉君だったんじゃ!」
理貴「ああ!なるほどそういうことか!」
昨日駄菓子屋エビスに客としてきてくれた来客名簿に同じ「オリーブ」で働く苗字の人がいたがまさかと思ったら本当だった。
エビスじいちゃん「その子がまた友達を連れて明日ここの菓子を買って来てくれるんじゃよ!」
理貴「お!それはいいね!」
明日翔吉たちが駄菓子屋エビスに来てくれるそうなのでエビスじいちゃんは張り切って準備に取り掛かった。
明るい兆しが見えてきた駄菓子屋エビス、今後はどのような展開になるのだろうか…。
続く
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