第9話 ギャングスタ―
家入はアミュ真仙教のリーダーである赤城に勧誘を迫られた。
受け入れれば犯罪組織の一員になってしまうが断れば殺されてしまうかもしれない。
この究極の選択に家入の返事はいかに。
家入「……」やはり彼は沈黙した。
赤城「うむ、答えられぬか。ならば何が望みだ。欲しいものはあるか?」
赤城「お金でも何でも欲しいものがあるなら叶えてやるぞ。」
しかし家入は物やお金で釣られる男ではなかった。
家入「物やお金は働いて自分の力で手に入れますので結構です。」
赤城「それは我々の仲間になれぬと言うことかい?」
竹原「アミュ様、残念ですね。」
花「家さんならうまくやっていけると思ったのに…」
猿江「では、こいつ処分してよろしいでしょうか?」
家入「え!やっぱり僕殺されちゃうの?」
赤城「殺されるのは嫌だったね。自由になれなくなるからね。そうだよね?」
家入「はい…嫌です…」
家入は弱みを握られたのも同然である。
彼らの仲間になること以外選択の余地はない。
赤城「ではこれで最後だ。我々の仲間になるのかならないのか?どっちだ?」
赤城「仲間になれない、もしくは答えられないのなら」
赤城「猿江殿、彼を処分してもかまわない。」
家入(うわ~んやっぱりそうなるよね~)
殺されるのが嫌なら従うしかない。
黙っていても埒が明かない。
家入「はい…仲間になります。よろしくお願いします…」
花「やったーー!家さんよろしくね!」
とうとう家入は犯罪組織の一員になってしまった。
こうなることは捕まった時点で決まり切っていたことである。
殺されなかっただけでもよしとするしかないだろう。
もう背に腹は代えられない。
家入は覚悟を持って犯罪組織の一員となった。
家入(なんとか…命の危機は脱しそうだ。隙を見て絶対逃げ切ってやるう~)
わずかながら彼の胸の内にある希望はついえていなかった。
あきらめず、彼らの仲間になったふりをして隙あらば脱出しようとの考えだ。
赤城「家入殿よろしく、我々の計画を必ずや成功させよう。」
どうやら赤城は仲間や部下に対して名前の語尾に殿とつけるようだ。
赤城「さてこれからだが、新宿の襲撃は一旦保留となった。」
赤城「賽は投げられた。次なる一手を考えよう。」
赤城「我々の計画の進行においてネックになるのはやはり警察だ。」
警察の動きは活発であり人気の多い地区を重点に守備を固めていくと考えている。
新宿も例外ではないく計画では新宿を襲撃する予定であったが一旦保留することに至ったのだ。
赤城としては警察の動向を見極めって計画を実行したいだろう。
赤城「警察の動きを知るためには家入殿の力が必要ですな。」
家入をアミュ真仙教の仲間にいれた理由は赤城自身が気に入っただけではなく
彼の知り合いの中に警察がいるためそれを利用するためであろう。
家入を組織に加入することで警察の情報や動きを知ることができる。
赤城「家入殿はやつらの動向についての情報を我々に提供してほしい。」
猿江「しかし、いいんですか?こいつが警察に暴露する可能性があると思いますよ。」
猿江の言う通り、家入が警察側に行ってしまえばアミュ真仙教の計画について言いふらす可能性がある。
少なくとも新宿襲撃の件を話すはずだ。
そうなると計画の進行が困難になる。
そして家入が命を狙われると知れば警察側は彼を保護することになるだろう。
赤城「それについては大丈夫ですよ。猿江殿」
花「アミュ様!私に良い考えがあります!」赤城「おや?」
花は自ら挙手した。
花「家さんが知り合ってる警察の名前が林という人なんですが」
花「その人がですね。私に好意を持っているのですよ。家さんから聞きました。」
赤城「なるほど。あの男の失踪届を申請した時に知り合ったのだな。さすがだな。」
花「私も聞き出して情報を集めます。」
赤城「おお!その案はとても神懸かっているな!素晴らしいぞ花殿!」
花「アミュ様のお役に立てて光栄です。」
彼女はいずれ知らてしまうからということで兄が行方不明であると自ら明かしていたがこれも計画のうちであったようだ。
たまたま訪れた交番が林の勤務している宇田川交番だったのだ。
林が花に好意を持ってしまっているのは事実だ。
林が花のハニートラップにひっかかってしまう恐れがある。
彼女がそれを利用し色目つかしてあれこれ情報を引き出す気だ。
赤城「もし家入殿が裏切ったら林という男も殺してほしい。」
赤城「警察一人くらい勝てるよね。お願いね。」
花「はい。アミュ様のためならなんでもします。」
家入(う~林さんが~)
林も命を狙われるなら家入は身動きが取れなくなる。
花の提案に乗った赤城であるが家入が裏切ったときに赤城自身も策を講じているはずである。
赤城「とても素晴らしい提案だがこちらもすでに考えはある。これもつけたそう。」
赤城「滝川殿来てくれ」
滝川「はい。アミュ様どうなさいましたか?」
滝川と呼ばれる男は同じホストクラブのような場所にいたらしく
赤城に声を掛けられ彼らの座るテーブルに近寄った。
赤城「滝川殿、彼が本日組織に加入される家入殿だ。」
家入「よ…よろしく…」
滝川「家入さん初めまして私は滝川と申します。」
自己紹介を少し交えつつ本題に入った。
赤城「家入殿は警察と知り合いなんだ。」
滝川「なるほどですね。我々の計画を阻止するために警察に相談する可能性があると言うことですね。」
赤城「その通り。裏切る可能性があるということだ。だからその監視役を花殿と一緒にお願いしたい。」
滝川「わかりました。つまり同胞として受け入れたがまだ信用できていないということですね。」
赤城「いや、実は私が彼を勧誘させたんだけどね。彼、殺されるのが嫌で」
赤城「警察と近い存在にあるが故にリスクになる。」
赤城「滝川殿も警察の動向を調べて欲しい。」
赤城「滝川殿は機械に詳しくてね。例の装置を開発したのも彼なんだ。」
家入「例の装置ってまさか!」
赤城「家入殿も既にしているだろう。あれだよ…」
渋谷で放出した白い煙は滝川が開発した装置だったのだ。
トラックのコンテナの中にその装置が入っていたと思われるがあのようなものを作れるほどの
技術力があるということは情報収集力にも長けているのだろう。
家入の監視役として適任であるということだ。
機械に詳しいということでおそらく盗聴器でも作るのだろう。
花「確か家さんのアパートに空室があったと思うわ。」
家入「空室があるのは本当だよ。あれは本来花さんの新しい引っ越し先の1つの提案だったのに…」
花「そう。ならそれを有効活用しない手はないでしょう。」
赤城「花殿!いろいろいい情報を持っていますな!」
滝川「家入さん、住所を教えてください。」
滝川「住民票や戸籍など諸々手続きを済ましたいので」
家入「は…はい」
家入は滝川に自分の住んでいる住所とアパートについて教えた。
監視役となった滝川にとって近くに住めれば都合がいいだろう。
赤城「滝川殿、軍資金だ。受け取ってくれ」
赤城は札束を取り出しそれを滝川に渡した。
見てざっと100万はありそうだ。
滝川「ありがとうございます。有り難く使わせていただきます。」
赤城「これであのアパートで半年くらいは十分暮らせるだろう。足りなければ追加しておくから安心せい」
そして地下駐車場に移動した。
赤城は自転車を持ってきた。
服を着ていてスーツ姿になっている。
赤城「明日家入殿は新聞配達だったよね。」
家入「こっこれは…」
とても性能がよさそうな自転車でギア6段、リアキャリアも備え付けてある。
リアキャリアがついていれば新聞紙を乗せることができる。
家入に施しを与え、忠誠心を抱かせるためのものであるだろう。
滝川に大金を渡すといい、欲しい物があるなら何でも叶えてあげると言ったのは嘘ではないようだ。
金やこの自転車はまだしも
猿江たちが使っていた銃や白い煙などの危険物質はどこで調達したのだろうか。
家入は疑問を覚えた。
家入「渋谷襲撃の件だけどいったい、あの煙の成分は何が入っているんだ?」
家入「それに銃はどこで手に入れたんだ?」
赤城「知りたいのなら、与えられた任務を遂行することだ。」
赤城「1つ言えることがあるとすればそれは私が神だからだよ。」
赤城「我は世界の中心にそびえ立つ世界樹のような存在。」
赤城「その聖なる根から花殿、猿江殿、竹原殿、滝川殿、我が同胞たち、そして家入殿…」
赤城「世界の人々と私は繋がっているのだよ!」
神様気取りの口調だが要するに人脈によって得られたものだと考えるのが妥当だ。
戦闘訓練されているということは人脈の先に軍人などがいるはずである。
恐らく武器も闇ルートなどで辿り密輸して手に入れたに違いないだろう。
家入は赤城が持ってきた自転車に目を背けた。
頑なに赤城の施しを受けない気である。
赤城「家入殿、遠慮することはない。もう君は我が組織の一員なのだぞ。」
赤城「それにこれは滝川殿との仲を深めるためのきっかけ作りに過ぎないのだよ。」
赤城「表立って同じアミュ真仙教のメンバーだからとは言えないだろう。」
赤城「滝川殿と家入殿の関係だが…」
表向きの家入と滝川の関係について赤城はこう述べた。
滝川は仕事の転勤で家入の住む道玄坂のアパートに引っ越すことになる。
アパートに住む人々とあいさつした後、自転車をなくして明日の新聞配達に困っている家入に滝川が自転車を貸す。
それをきっかけにお互い知り合うことになり仲も深まるということだ。
さらに滝川の勤務している会社は出張や転勤が多いことにしておけば短期で退去しても怪しまれることはない。
赤城「ということでいいかな?」
滝川「異議なしです。」家入「くう~」
家入自身望まずとも支給された自転車を使わざるを得ない。
甘んじて施しを受けることになったのだ。
しかし自転車を手放したのは彼らが行った計画によって起きた災難であるため赤城の施しに対して感謝の気持ちなど微塵もない。
だがこれでいつも通り新聞配達ができるようになった。
自転車があるのとないとでは全然違う。
いつも家入は、自転車で新聞配達をしている。
慣れているやり方で仕事がしたいはずだ。
確か明日は号外が出る可能性もあるかもしれないということで忙しくなる。
有り難くこの自転車を使ったほうがいいだろう。
赤城「ではよろしく頼む。花殿、滝川殿、家入殿」
花「はい!アミュ様!」滝川「お任せください。」
家入「……」
この後家入はまた布で目隠しされ車に乗せられた。
国道に入ったあたりで目隠しの布が解かれた。
結局彼らのアジトはどこにあるのかわからないままであった。
車は一般のものであるが大きめである。
滝川が運転していて後ろに家入が座っていて隣に花がいる。
花はタンクトップではなく普通のレディースの洋服を着ていた。
そして後ろに荷物と自転車が積まれていた。
空は薄暗くなっていて、まるで闇の世界に訪れてしまったかのようだ。
家入が見ている景色が変わっていた。
だいぶ数は減ったがまだ警察が巡回パトロールをしていて国道を走り犯罪者らを追っている。
目星はまだついておらず闇雲に捜査していると思われるが眼光炯々と犯人の影を探ろうとしているのが伝わってくる。
家入は犯罪組織のメンバーになってしまっている。
警察らの目を見て捕まってしまうのではないかと家入は怯えている。
花と滝川は肝が据わっていて平然としていた。
花「私たちが捕まるわけないでしょ。家さん」
花「犯人の顔がわかっていないんだから」
滝川「現行犯ではない以上、捕まることはありません。」
家入「けど僕の扱いについては慎重なんだね。」
滝川「アミュ様の指示に従ったまでです。不審な動きがあればいつでもあなたを処分いたします。」
花「警察の顔をうかがっているところを見てると私たちの仲間になったていう自覚はあるみたいね。」
花の正体を知ってこれから彼女にどう振る舞って良いのかわからないのが家入の心情にある。
昨日のような振る舞いをするのもやりづらい。
滝川も同様だ。彼に監視され不自由な暮らしを強いられることになる。
家入「花さんは、林さんの家に居候する気なの?」
花「そのつもりよ。住む場所ないからきっとあの男はすぐに私を受け入れると思うわ。」
家入「林さんに何する気なんだ?裸でも見せる気?あんな筋肉見せたら林さん驚くし怪しまれると思うよ。」
花「ふふ、忠告ありがとう。けど一線超えるようなことはしないと思うわ。」
花「あ!もしかしたら逆にこういうのが好みかもしれないわ~」
滝川「土屋さん、あまり変なことはしないで下さいね。」
花「わかっているわよ。滝川はそういうところが嫌いなのよ。顔がいいのに勿体ないわ。」
花「一度もあんたを恋愛対象としてみたことがないわ。」
家入「ええっと…花さんはその~アミュ…様が好きってこと?」
花「うん…愛しているわ。けどアミュ様は神様のようなお方よ。」
花「こんな私では肉体に触れることすら許されないわ。」
花は赤城という男に酔いしれているようだ。
林は恋愛対象ではなく計画の為に利用するためのものに過ぎないということだ。
このことを林に伝えたいが家入ではどうすることもできない。
家入「そういえば、飲食店でバイトしているってことはどうするの?」
花「あ~そうね。まあそれはなんかするわ。」
花「ここでいいわ降ろして。」滝川「わかりました」
花は車から降りた。
辺りを見てみるとここは道玄坂でいつも家入が通っている道である。
つまり家入の住むアパートも近い。
滝川「家入さんもここで降りてください。」家入「…はい」
家入も車から降りた。
花「家さんまたね。明日にでも会いに行くわ。」
家入(来ないでほしいな…)
そう言って花は去っていった。
行く先はきっと林が勤務する宇田川交番のはずだ。
この時間帯なら林は仕事を終えている頃だろう。
そして滝川の車も走り去っていた。
引っ越しの手続きなど申請しにいったのかもしれない。
家入(ん?あれ?待てよ!?これはチャンスだ!)
花と滝川がいないときがまさに千載一遇のチャンスと言っても過言ではない。
ほんのわずかな時間だが警察に相談しに行ける。
林が勤務する交番は無理だが他の交番に行って事情を伝えれば助かるかもしれない。
彼は希望を胸に警察のいる交番へと駆けていった。
続く
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