第7話 囚われの家入
林は自分が勤務する宇田川交番に戻っていた。
林「戻ってきました。」
熊谷「お疲れさまです。」
林「私がいない間に何かありましたか?」
熊谷「いっぱいありました。たくさんの人がこちらの交番に訪ねてきました。きっと他も同じでしょう。」
ほとんどが渋谷襲撃事件についての問い合わせだ。
渋谷のみならず他の地区も大混乱である。
健康被害に遭わないか人々が一番懸念していることである。
熊谷はその対応に追われていた。
今後もその件で対応に追われるだろう。
白い煙についてまだ解明されておらず情報も少なすぎる。
白い煙は消えていて現在渋谷では確認されていないが空気中にその白い煙の成分が含まれているかもしれない。
それが住宅に侵入しないように戸締りを厳重にして外出時はマスクをかけるという指示で対応した。
家入とほぼ同じ対応である。
新しい情報が入ってくるまではこれで持ちこたえるしかない。
被害者の血液などから採取し成分調査するそうだ。
交番では前述のとおり対応に追われやっと落ち着てきたころに安田巡査部長から連絡が入った。
林が応答する。
林「はいこちら宇田川交番です。」安田「安田だ。お前ら手空いているか?」
林「はい。大丈夫です。」
林「しかし住民たちは渋谷から出た白い煙を心配されているそうでこちらに訪ねてくる人がかなり多かったみたいです。」
安田「やはりそうか。他の部署もそうだ。だがそれだけじゃない。」
安田「肝心の実行犯がまだ捕まっていない。」
林「そ!そんな!なんですって!」
安田「実行犯が使用していたトラックの中に爆弾仕掛けられていた。行方をくらますためだろう」
林「あの爆発がそうだったんですね。」
安田「これはかなり深刻な事態だ。」
実行犯が都内に潜伏していることになり住民に危険が及ぶため予断を許さない状況だ。
安田「2時間以上経っている。遠くへ逃げられたら捕まえられなくなる。」
安田「他県にも要請した。一応手は打っておかないとな」
事件発生から2時間以上経っていることから他県へ逃亡したことも視野に入れ警視庁は他県の県警に捜査を依頼した。
安田「林と熊谷も巡回してもらう。」
安田「悪いが休日の職員も出勤させる。数で制圧するしかねえ。」
安田巡査部長は林らに巡回パトロールを命じ、さらに休日の職員も出勤させた。
これも平和と住民の暮らしを守るためだ。
林「目星は付いているんですか?」
安田「それが問題だ。顔がわからない」
機動隊が現場に到着したころには実行犯の姿が見られなかった。
目撃者の証言からも実行犯の顔を確認することができなかった。
家入が言うには彼らはガスマスクを装着していたらしい。
彼ら自ら白い煙を吸わないためでもあるが顔を見せないところからも理がかなっていると言える。
闇雲に捜査しても意味がないし、彼らの思う壺かもしれない。
林「しかし何もしないままではいけませんよね。」
安田「その通りだ。犠牲者をこれ以上だすわけにはいかない。」
安田「また奴らが動きだして何もかも手遅れになっては渋谷事件の二の舞になる。」
安田「それに俺達が動けば抑止力につながるからな。」
犯人を捕まえることはできないが警察が警備することによって彼らの動きを制限することはできる。
安田「事例を見るに今度は新宿区辺りを狙う可能性がある。」
安田「人出の多い場所狙っていたからな。」
予測を立てて人手の多いところを重点的に警備するそうだ。
安田「とりあえずお前たちは渋谷区内を警備に回れ。」
林「はい承知しました。」熊谷「承知しました。」
林と熊谷は安田からの指示でパトロールすることになった。
彼はまだ知らなかった家入が犯罪組織に捕まっていることに。
また花が犯罪組織の一員であることにも。
家入は花と男二人の三人に捕まり貨物車に乗せられ誘拐されてしまう。
なんと男二人は渋谷襲撃時間の実行犯であった。
つまり花はその事件に関与していることになる。
花は銃を所持しておりおそらく男二人も同じように銃を所持しているだろう。
家入「う~う~」ガムテープで口が塞がれて喋れない。
また彼の両腕と両足は縄で縛られて動かすことが出来ない。
花「もうはがしていいわ」男B「はいっす!」
花の命令で男Bは家入の口についているガムテープをはがした。
口を動かせるようになりこれで家入は喋ることができる。
だが抵抗できないように両腕と両足は縛られたままだ。
あんな大人しくてお淑やかな花が屈強な男二人を従えている。
花「なにじろじろ見てるの?」
家入「あの…本当に花さんなの…?」
花「ふふ、驚いた?」
格好も本当にあの花なのか見違えるほどである。
彼女はショートタンクトップでへそだしだがそれが見えていることで腹筋が割れていることがわかる。
鍛えているのだろう。
昨日一緒に料理をしていてあの巧みな包丁さばきは料理だけで培ったものだけではない気がする。
花にも敵いそうにない。
家入「どこへ連れていく気なんだ」
花「どこへ連れていく気かだって?私たちの拠点よ、まあアジトみたいなところよ」
花「そこへ連れてってあげるわ」
家入「他に仲間はいるのか?」
花「フフ結構いるわよ。この男二人よりイケてる男はたくさんいるわ。」
行き先は彼らのアジトらしく他の仲間もいるそうだ。
どれくらいの規模なのかわからないが組織ぐるみで渋谷襲撃事件のような犯行を起こすに違いないだろう。
男A「姉貴~俺もそこそこイケてると思いますよ~」
花「ドブネズミのような顔のあんたには興味ないわ」
花は男に辛辣な言葉を発する。
本当に花であるのか疑ってしまう。
これが花の本性なのか。
家入「僕をどうする気なんだ?」
花「あんたは人質になってもらうわ」
家入「そんな~やっぱり~」
家入は人質にされるのである。
警察の林と仲が良いため、彼らにとっては都合の悪い存在ではあるが同時に都合のよい存在でもある。
人質として利用すれば捜査を牽制することができる。
今は家入は犯罪組織の手中にある。
一般人であり有益な情報は持っていないが逃がせば必ず警察に通報する。
解放など絶対しない。
生かすも殺すも彼ら次第であり家入は最悪な状況だ。
花「林さんを恨むのね。あなたの住所を教えちゃったんだからね。」
林が花に家入の住所を教えたのは事実である。
家入「林さんは困っている人をほっとけない人なんだ。」
家入「だから僕は林さんを恨んでなんかいない!」
元から林は川代と家入の家で夕食をする予定だった。
その日に花がやってきて兄の行方が分からなくなり困っていてまた住む場所も失いかけていた。
警察としての公務を全うするだけにとどまらず林は困っている彼女に手を差し伸べたのだ。
花「そうね。なるべくして彼は警察になったということね。」
花「それにあなたおちゃらけている奴とは思ったけど結構いいこというのね。」
花「けどあの男のお節介であなたは大変な目にあってるのよ。」
家入「善意でやったことだ!僕は林さんのしたことを非難するつもりは絶対ない!」
家入「林さんは…林さんは…あなたのことが…」
花「あら~もしかして林さん私にひとめぼれ?」
男B「姉貴は魅力的ですからね~」
花「フフ昨日ね。その男が自分の家に私を連れて行ってくれたのよね」
男B「それホントっすか?一緒に寝てやっちゃったんすか?」
男A「嘘だろ?姉貴~」
花「バカ!そんなわけないでしょ!」
花「警察が自分の家に連れていくと思う?私が犯罪組織の一員なんて知らずにねフフ」
男A「恋は盲目ってやつっすね。」
花「ハハもっと踏み込んでも良かったかもしれないね。」
林の良心を踏みにじるかのようだった。
家入「何が目的はなんだ?罪のない人々を襲うなんて!」
花「教えないわ~。でももっと国中大迷惑を起こすことだけは伝えておくわ。」
家入「なんてことを!花さんはお兄さんを探しているんじゃなかったの?」
花は昨日、林が勤務する交番へ行って土屋氷魚の失踪届を申請していたのだ。
本来なら彼女は兄の行方を求めていたはずなのだ。
花「あのクソ野郎はとっくに死んだわ」家入「え…」
花は土屋氷魚の死を知っていた。
話によっては彼女も数日前の殺人事件にも関係しているかもしれない。
家入「それを知っててどうして警察に失踪届を…」
花「どうせすぐに身元が判明するだろうし。予定通り計画進めるためよ。」
花「フフ警察の目を欺くためでもあるね。あの男が私のことをか弱い女としてみているみたいだし。」
そして花は兄の土屋氷魚のことについて話した。
花「死んで済々したわ。あんな奴…」
花「女遊びはやめないし、ギャンブルばかりするし元から親の借金があったけどそれがどんどん膨れちゃうし」
家入「それが殺した理由なの?家族がすることなの?血のつながっている兄妹なんだよね?」
花「家族なんかじゃないわよ!血のつながっているとか言わないで!こんなの呪われた血よ!」
花「父も母も金のことばかり私を愛してくれなかった!私のことなんかどうでもいいんだわ!」
花「あんな奴死んだってどうでもいいわ」
花「あいつクソみたいな性格な癖に変に正義感が強くて」
花「私たちの計画を邪魔をしようとしてきたのよ!」
花「それでムカついたわ。けど土屋氷魚を殺せば借金を返せるほどのお金をくれるって言われてね!」
花「だから思いっきりやっちゃたわ!ははははは」
花「借金も返せて一石二鳥よ!はははは」
土屋氷魚の殺害の真相は彼女によって語られた。
土屋氷魚は犯罪組織の計画を知っているようで、彼らにとって氷魚は邪魔な存在となり借金全額返済と引き換えに
妹である花に殺害を命じたのだ。
家入「なんで知ってるの?」
花「あいつが蔵冨興業で働いているのは事実よ。」
花「あの会社がうちの組織と裏で繋がっているのよ。」
家入「君たちの言う組織って何?」
男A「アミュ真仙教さ」男B「俺たちはアミュ様に導かれたのさ」家入「アミュ?」
アミュとは何者か。
彼らが言うアミュ真仙教のリーダーということなのだろうか。
その組織が蔵冨興業と繋がっているらしい。
家入「あの数日前の殺害事件、土屋氷魚を殺したのは花さんだったのか…」
花「知ってるのね。まだ新しいけどね。やったのは私だけじゃないわよ」
花「そうか、家さんは新聞配達やっているのよね。知らないわけないか。」
花「でもこれ以上あなたに教える気はないわ。」
花「とりあえず二人を紹介しておくわ。運転しているのが猿江でもう一人が竹原よ。」
運転している男Aが猿江で、もう一人の男Bが竹原である。
竹原は若く大学生くらいの年だが、
猿江の顔はルームミラーで確認でき顔のシワから30代後半くらいだと推測し
花より年上ではありそうだが彼女を姉貴と呼ぶようで立場的に花が上みたいだ。
竹原「よろしくね~家さん~」
竹原は携帯を取り出し家入りの顔の前でカシャっと音を立てた。
家入「何をしたんだ?」
竹原「写真撮ったんすよ。」
竹原「ほらちゃんと顔を写っているでしょ?」
家入「あ!本当だ!僕の顔そっくり!」
携帯電話の画面には家入の顔が写っていた。
家入「携帯電話ってそんなこともできるの?」
写真機能がついていることに驚きの家入である。
家入「へえ~世の中便利になってきたな~」
猿江「関心してる場合かよ!」
花「面白い人でしょ?携帯持ってないのね~」
花「非常事態こそ持ってなきゃいけないでしょ?」
彼女も携帯電話を持っているようだ。それを家入に見せつけた。
花「手間も省けたわ。楽勝ね~」
家入には通信手段がなく助けを呼ぶことができない。
携帯電話を持っていないことを知られてしまい、さらには顔まで写真を撮られてしまった。
家入「僕の顔で何をする気だ。そんなにカッコよくないよ!」
竹原「これを組織のみんなに送ってっと」家入「え?みんなに?」
花「そう仲間のみんなにメールを送ったのよ。これでみんな家さんの顔が知られるわ~」
家入「え!!そんなことできるの!!」
猿江「いちいち驚きのリアクションとるな!」
猿江「日々新しい情報を提供する新聞配達が携帯の機能を知らんとは時代遅れだな。呆れたもんだ。」
花「まあいいんじゃないの。この家さんの写真でいろんなことができるわ」
家入「なにするの?やめてよ~」花「ははは、もうあなたは逃げられないわよ~」
花の思惑は家入本人には伝えなかったが彼にとってはマイナスしかない。
家入の顔写真が組織の者たちによって悪用されるだろう。
家入を組織の構成員としてでっちあげることが可能になる。
家入「うあ~ん林さ~ん助けて~」
花「残念~誰もあなたの助けなんて来ないわ~」
家入「あ警察!」
警察がパトロールカーを走らせ巡回パトロールしている。
彼らと同じ車線走ったりすれ違ったりしている。
しかし彼らは平然としている。
家入「なんで気付いてくれないの~」
花「当たり前じゃん私たちのこと知らないじゃん」
家入「あ~そうだった~」
パトロールしている警察に気付かれることはなかった。
彼らが使われている車は一般車両と何の変わりもなく怪しまれたりもしない。
また顔も知られていないのも気付かれない要因だ。
猿江「大人しくしていれば問題ない。」
猿江は音楽を流した。流行りの曲である。
猿江と竹原は歌い出し花も歌い出した。
花はとてもきれいな歌声であった。
家入りは彼らが歌っている曲が分からず置いてけぼりであるが
そんなことよりもパトロールしている警察に気付いてほしいと大きな声を出して抵抗する。
その声は届くことはない。
防音対策もばっちりであった。
大きな音を出しても外に漏れることはない。
このまま一般車両に紛れてやり過ごす気だ。
縄で両腕と両足を縛られていて拘束されているため体を動かすことができない。
下手に動けば殺されるかもしれない
警察の目を搔い潜り裏道などを通って警察の目が届かないところまで行ってしまった。
家入は抵抗できず彼らが向かう場所へ連れ去られるのであった。
パトロールへ行った林は家入が誘拐されたことに気づき助け出すこはできるのだろうか。
続く
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