イエイリ

第6話 家入を襲う魔の手

人が大勢集まる渋谷で事件が起こり、厳戒態勢がしかれ機動隊が出動したのだが実行犯の姿が見られなかった。
犯行に使われていたトラックは放置されていたままであった。
機動隊の数人はトラックを調べそのトラックのコンテナの中に蜘蛛のような形をした機械が設置されていた。
捜査の手がかりのため蜘蛛の形をした機械を取り外そうとしたが、なんとその機械には時限爆弾が仕掛けれていた。
タイマーは10秒切っていて対処できず爆発した。
仕掛けられていた爆弾は、機動隊や渋谷にいた人々に被害が及び建物も損壊し渋谷の街で甚大な損害をもたらした。
実行犯らは、救助などを見越して爆弾を仕掛けたのだろうか。
もしそうであればこれは計画的な犯罪で恐らく反社会的勢力や犯罪組織が絡んでいるのかもしれない。
実行犯を行方を追いかけたいがこれ以上の被害は今のところでないと判断し人命救助を優先することになった。
救助のため警視庁は消防と救急車に出動要請した。
出動要請されたのは川代が勤務する神泉町の消防署である。
家入は新聞配達で渋谷を通るので事件に巻き込まれていないか出動準備の合間に林に連絡した。
家入は携帯電話を持っていないが、ルート的に林が勤務している宇田川交番の近くを通り
よく顔を出しているため林に連絡したのだ。
家入は林の隣にいたらしくひとまず無事であることを知る。
実際家入は渋谷の襲撃事件に巻き込まれそうになった身である。
顔を知られていて狙われていると感じ家入は林に自分の家に帰るまでボディガードしてほしいと頼む。
熊谷に交番勤務を任せ、家入の頼みを了承し林は道玄坂のアパートまで同行することにした。
土屋氷魚の死を妹である花に伝えたい林であるが彼女本人がどこへ行ってしまったかわからない。
家入の住むアパートを紹介していたので花は
そのアパートに引っ越していると思っていたがそこに彼女はいなかった。
未だ彼女の行方は知らないままである。
家入を問題なく帰らせることができたので林は交番に戻るのであった。


川代「これはひでぇ…」
事件が渋谷の街に消防が到着し川代はその現場を見て驚愕した。
見るも無残な死体が転がっていた。
直ちに生存者を確認し救助しなければいけない。
白い煙を吸って呼吸困難になりもがき苦しんでいる人や爆発によってビルの崩壊に巻き込まれ怪我をした人達が多くいた。
白い煙を吸わされた上に爆発に巻き込まれてしまった人達はとても痛ましい。
この人たちが一番重症である。
川代は救助活動に専念し一刻も早くこの現場から避難させなければならない。
丸山「直ちに人命救助だ!川代行くぞ!」
川代「うっす!」
川代と丸山そして何人もの消防隊員や救助隊が駆け付け怪我した人たちを運び救急車に乗せたり、
壊れたビルの瓦礫を退けたり、被害者を救助し怪我をした人達を病院へ搬送する。
現場検証は警視庁により行われる。
安田「やってくれたな…」
犯行に使われたトラックは爆発により解析できないほど損壊された。
トラックの所有者は誰なのか出所も不明になってしまう。
仕掛けられた爆弾は範囲が広く周りにも被害が及んでいる。
安田「痕跡を残さない上にこんな置き土産を用意してくれとはな…」
吉永「今回も一筋縄ではいきませんね。」
吉永は安田巡査部長の相方である。
安田「吉永、この爆発は人為的なものか?それとも反社会的勢力の犯行か?」
吉永「恐らく後者でしょう。」
渋谷の襲撃事件が反社会的勢力による犯行と断定した。
吉永「彼ら銃を所持しております。発見された銃は貫通力のあるフルメタルジャケット弾です…」
安田「なんだと!」
吉永は銃弾について詳しく発見された弾丸は何なのかすぐに言い当てた。
フルメタルジャケット弾は主に軍用に使われている弾丸である。
殺傷能力が高く防護服をも貫通すると言われている。
法律で銃の所持が禁止されている日本でこの弾が使われているのはあり得ない。
安田「反社という線が濃厚だな。」
吉永「その銃の入手ルートはこれから調べていくしかないでしょう。」
安田「それしかねえな。あと白い煙は一体何なんだ?」
吉永「トラックから放出されたと聞きましたが、それがコンテナの中にあったと思われます。」
安田「それなんだよな~。機動隊らが調べようとしたところコンテナの中に爆弾が仕掛けられたみたいでな」
安田「それが爆発して、機動隊だけじゃねえ、周りにいた人らも巻き込まれちまった。」
吉永「捜査を妨害するための目くらましと言ったところでしょうね。」
安田「それにしては度が過ぎるぞ。」
吉永「彼らの目的はなんでしょう?」
安田「この大都市で人が大勢集まる渋谷で事件を起こしている。」
安田「なにか恐ろしいことをしてくるの確かだ。」
吉永「今後同じような事件が起きる可能性が大いにありますね。」
犯人の足取りがつかめない状況で捜査が難航すると予想されているが
渋谷と同じように大規模な襲撃事件が起きることも懸念される。
わずかでも犯人の手がかりを見つけようと安田巡査部長とその相方吉永が
救助の促進性を損なわないように慎重に辺りを調べていた。


救助活動をしている川代と丸山とその他の消防隊員だがビルの損壊で瓦礫の下敷きになった人々を救助している。
川代「ん?なんだこれ?」
救助のため瓦礫を取り除く作業をしているのだがそこに筒状のようなものが見つかる。
筒状のようなものは黒く焦げ付いていた。
怪しいと思った川代は警察にそれを届けに行ったあとすぐに持ち場に戻った。
丸山「どうした?」
川代「なんか変なもの見つけてそれを警察へ預けに行ったんっす。」
川代「パイプのようなものでそれが焦げ目がかなりあってそれが怪しいと思ったんすよ。」
丸山「あ~それか。さっき俺も同じようなもの見つけたぞ。」
丸山も川代と同じようにその焦げた筒状のようなものを見つけたらしい。
他の消防隊員「私もそれ見つけまして警察に預けてきましたよ。」
川代「え!そうなんですか!」
川代と丸山の二人だけでなく他の隊員からも発見される。
爆発物の破片のようなものだろうか、それがいくつか見つかり安田巡査部長に渡った。
吉永「この焦げ付きは爆発に巻き込まれて損壊したものとは違いますね。」
安田「起爆装置の部品らしきものだってことか…」
安田「コンテナの中を調べようとした隊員が数人いたよな。何か知っているかもしれんな。」
吉永「ですが彼らは重傷です。」
間近で爆発を受けているため重傷である。
彼らは被害者含め、今担架に乗せて救急車に搬送される。
トラックのコンテナの中を知っているのは彼らしかいないが回復を待ってからでもよいかもしれない。
安田「現場まできたんだ。収穫ゼロという訳にはいかないだろ。」
担架に運ばれる機動隊員の中に意識がある人が確認された。
意識のある隊員に安田巡査部長は急いで意識があるうちに当時の状況を彼に聞き出した。
安田「今言えることだけでいい…トラックのコンテナの中に何があった?」
隊員「……くっ…もぉ………」
安田「くも?」
吉永「これ以上は無理です…」
安田「ああ…そうだな…。」
重傷を負った隊員の証言は「くも」とたったの2文字だけであった。
彼はすぐに救急車に運ばれ病院へ搬送された。
負傷者が数え切れないほど多くいて意識不明の人もいる。
しかし損壊した建物が救助を遮り手が回らない。
一刻も早く助けなければ救えた命も救えなくなる。
時間をかけるわけにはいかないので救助に行ける部署を片っ端から要請した。
そんな時にお呼びでないメディアが押し寄せてきた。
安田「くそ!こんな時に!」
話題性のある情報はメディアにとって喉から手が出るほどほしい。
渋谷で襲撃事件が起きた時からメディアは情報提供している。
一般人にも事件の透明性や真実を知ることができるようにメディアはそれを伝える大きな役割を担っているが
時には当人に対して配慮が欠けた行き過ぎた取材が捜査や救助活動の妨げになる恐れもある。
安田「こうなったら俺が行くしかねえな!」
安田「取材を受けよう。警視庁巡査部長の安田だ。」
吉永「部長!」
安田巡査部長自ら表に出てメディアの取材を受けることにした。
これも救助活動の妨害を阻止するための考えなのだろう。
また直視できないほど悲惨な光景を映すのはよろしくないとのことで視線誘導を兼ねて自ら動いて取材を受けたのだろうか。
安田「カッコよく映してくれよな!」
吉永「部長~何言ってんすか~真面目にやってください!」
カッコよく映りたいのかどうかわからないが取材を受けた理由は前者であると思われる。
質疑の内容だが被害者の人数や規模など聞かれたがまだ確認できていないと安田巡査部長は述べ
被害の規模は災害レベルになると見込まれると答えた。
救助活動中でありいつ終わるのかわからない状況である。
不確かな情報しかないのでメディアにそれを伝えることは避けたい。
人命救助を優先しているため二次災害を防ぐように求めた。
安田「もし何か情報が入ったらすぐに伝える。」
安田「だから今は取材は控えてくれないか?」
メディアの取材の質疑応答を終わらせた。
メディアが知りたい情報は被害の規模だけではなく白い煙の正体だろう。
それを吸ったものは呼吸困難になり命を落とした者も確認されている。
有害なものが含まれているに違いないが被害者の体内を検査して成分を調べてみないとわからない。
死者を含め被害を受けた人の具体的人数など後日公表されるだろう。
すでに渋谷で襲撃事件が起きたことは知られているが人々に混乱を招く恐れがある。
襲撃事件がまた同じように起きる可能性があると思われるので今後とも警戒していかなければいけないだろう。
この後は消防隊員と救助隊にこの場を任せ安田巡査部長と吉永は本部に戻った。


家入だが道玄坂のアパートに帰宅した後シャワーで体を洗ってお昼のカレーを食べていた。
時間は14時である。
2日目ということもあってコクがでていておいしそうではあるそう感じなかった。
黒いマスクの男たちが頭から離れない。
彼らが渋谷で襲撃事件を起こしたのだ。
彼らに狙われないか怖くなってしまう。
怖くなりカーテンを閉めて中の様子が見られないようにした。
気分転換に好きなクラシック音楽を聴こうと思い流したがその音が家入の心理に重くのしかかる。
家入はクラシック音楽を流すのをやめてテレビをつけた。
塞ぎこんで周りが見えなくなるのはいけないと感じ世の中の動きを把握することにした。
ちょうどニュースでは渋谷の襲撃事件について情報が公表された。
警察のお偉い人が取材されている映像が流れていた。
ニュースを聞きながら家入は食器を洗っている。
事件の捜査と救助活動中であると話、被害の規模は災害レベルになると予想されるとのことであった。
川代が救助活動に行っているそうなのでテレビの映像の向こう側で彼が必死に救助活動を頑張っているのかもしれない。
今の家入ができることはテレビでじっと見て知ることしかない。
すると固定電話が鳴った。
ビクついた家入であったが受話器をとって応答した。
新聞屋の事務員からであった。
新聞屋「家さん大丈夫ですか?」
家入「私は無事ですよ。」
新聞屋「何度か電話したんですよ!電話に出ないから何かあったんじゃないかって心配しました。」
林と川代だけでなく新聞屋で働く従業員も家入を家さんと呼んでいる。
新聞配達のルートで渋谷を通るので心配になったのだろう。
携帯電話があれば着信履歴などで確認できるが家入にはそれがない。
家入「あ~すみません~渋谷が大変なことになっちゃいましたね。」
新聞屋「よかったですよ本当に。事件に遭わなくて。」
家入「いや~実は巻き込まれそうになりました。」
新聞屋「え!!そうなんですか!」
家入は正直に話した。
家入「何とか逃げ切れましたけど自転車手放しちゃいまして…」
新聞屋「え?どういうこと?」
家入「川に飛び込みまして…」
新聞屋「えええ?どうして?」
うまく事情を伝えることができない家入。
現実離れしていることもあり電話越しでは伝わりづらいか。
交番で林に伝えたときのように復唱するような感じで新聞屋に伝えた。
新聞屋「ふ~んそういうことか…そういうことにしておきましょう。嘘じゃないみたいですし。」
新聞屋「いつも冗談を言う家さんにしては嘘が下手だと思いました。」
家入「嘘じゃなくてほんとですよ~」
新聞屋「実際渋谷で事件が起きているんで嘘じゃないことはわかりますよ誰だって」
新聞屋「家さん明日も新聞配達お願いしますよ。明日は忙しくなると思いますので。」
おそらく渋谷襲撃事件について記事が新聞に載せられるだろう。
号外が出る可能性もあるので部数も多くなると予想される。
家入「明日もですか?あれシフト入っていましたっけ?」
新聞屋「そうですよ。よろしくお願いしますよ。」
家入「私今自転車ないです。」
新聞屋「あ~家さん、自転車ないんでしたね。手放して」
家入は自転車を手放してしまっている。
新聞屋「家さんは免許持ってませんよね?原付も」
家入「はい…持ってないです…」新聞屋「う~ん」
家入は運転免許も持っていない。
家入(運転免許も必要になるのかな~)
明日の新聞配達はできないと家入は言うが。
新聞屋「一日かかってもいいから歩きで新聞配達お願いします。」
新聞屋「家さんから定期購読されている方の話を聞いてますし、仲が良い思います。」
新聞屋「事情を聞けばわかってもらえると思いますよ。」
新聞屋「うちも人手が足りてるわけでもないし部数が多くなるとその分配達に割く分が多くなってしまうから」
新聞屋「猫の手も借りたいんですよ。」
家入「私は猫ですか~」
新聞屋「じゃあ明日お願いしますね。」
家入「あ…黒須君は大丈夫でしたか?」
新聞屋「黒須君ね。彼は大丈夫だよ。ルート的にあそこは通らないし。」
新聞屋「明日は渋谷の方は通らないでくださいね。明日どこやるか教えます。」
家入「わかりました…」
明日歩きで新聞配達することになった。
外にあまり出たくないのが家入の本音である。


今日は災難であった。
明日は何が起きるかわからない。
家入の頭と心の中は不安でいっぱいだ。
愛用している自転車をなくしてしまったのが一番のショックである。
免許を持っていない家入とっては自転車は必要なのだ。
家入「新しいの買うしかないかな~」
免許証はともかく自転車がないと不便だから新しい自転車を購入することに決めるのであった。
川に飛び込んだ際に財布の中の紙幣が濡れてしまっていてこのままでは使うことができない。
乾かせば使えると思った家入は破かないように慎重に紙幣をストーブの前に置いて乾かした。
部屋は静寂に包まれボーボーとストーブの音がするだけであったがピンポーンとインターホンが鳴った。
家入「なんだ?郵便?」
何か宅配など注文した覚えはない。
川代は救助活動中で林は交番に戻ったばかりだ。
川代と林以外にここにお客さんが来ることはない。
保険などの営業かそれとも花がここのアパートに引っ越してきてそのあいさつに来たのだろうか。
どちらでもなければオーナーか。
オーナーとは仲がいいので消去法でオーナーだと思う家入だが、玄関の扉を開けないと誰なのかわからない。
玄関の扉を開けてみると、男性二人と若い女性一人いた。
家入「え…花さん…」
なんとその若い女性は花であった。
なぜか男二人を連れている。
男性二人が急に入ってきて家入を捕まえた。
家入「なにするんですか!」
家入「花さん!これはどういうことですか!」
花「家さんは警察と知り合いだから見逃すわけにはいかないわ」
花「二人が言ってた顔の特徴と一致しているわ。彼で間違いないわ。」
花「はあ~危なかった~」
男A「おいお前俺達のことはどこまで知っている?」
家入「ま!まさか渋谷で…」
花「そうよこの二人よ」
男B「ははあれで生きていたなんてな。悪運が強いな。」
男B「きっと警察に事情を話したんだろうな。」
男性二人はトラックを追いかけていた家入の顔を記憶していたらしく花に伝えたようでその顔の特徴が似ていた。
家入(うわ僕馬鹿だ~追いかけなきゃよかった~)
家入の住所については花が知っている。
花が渋谷襲撃事件に関与しているなんて思いもしなかった。
林がそれを知ったらどうなってしまうのか。
花「私たちのことは誰にも言わないわよね?林さんには内緒よ」
花は胸元から何かを取り出した。
家入「あ…」(殺される…)
それは拳銃である。
それで脅すのかそれとも自分たちにとって不都合な存在なので今ここで殺す気なのか。
抵抗しても絶対に敵わないと悟った家入である。
花「ここだと音で目立つと思うわ」
花「家さんあなたは人質よ」
男性二人は家入を動けないようにロープで縛り拘束した。
家入「うわぶ!」(林さん助けて!!)
さらに口をガムテープで塞がられる。
そのまま外に出され家入は貨物車に乗せられ、花たちに連れ去られてしまった。
一難去ってまた一難、家入はどうなってしまうのか…。

続く

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