第29話 救出
滝川が新たに考えていた林を利用する案はなくなり併せて東京タワーの爆撃テロも一度白紙となった。
班の中で揉め事や意見の対立があったためそれを解消するべきと判断し滝川たちの班は解散することとなった。
家入は人質に戻り、林の足枷のため人質を一人追加し川代を連れていくことになる。
滝川、山本、花、林のメンバー四人、家入、川代の人質二人の計六人はアジトへと戻り
猿江と竹原とその他のメンバーたちは、10時に行われる人質の殺害計画のため残った。
夜遅くの深夜3時だったため人質の見張りを交代しながら体を休めていた。
人質を監禁している場所は千葉県の我孫子市なのだが警察はここを知らないと思っていた。
だが大きな物音がして何者かがこちらに侵入してきたのがわかり
就寝中だった猿江たちは起きて武器を持って大きな物音がする方へと向かった。
そこは人質のいる場所であった。
猿江「なんで警察が!?」竹原「えええ!なんで!」
そこにいたのは警察であった。
見張りをしていたメンバーは既に警察に拘束され身動きできない状態になっていた。
一条「他のメンバーもいたぞ!捕まえろ!」
猿江「畜生!!!」
猿江は銃を乱射するが防弾盾で全て防がれてしまう。
竹原も応戦し銃を構え撃とうとするが
一条が銃で2発早撃ちして猿江の肩と竹原の持っていた銃に命中する。
命中された竹原の銃は弾け飛び床に落ちた。
竹原「つっつええ~」
そして竹原も衝撃に耐え切れず尻餅をついてしまう。
猿江「ぐう!いててててえ!!」
猿江は肩を打たれたため激痛が走り肩を抑えてそのまま床に倒れこんだ。
一条「ふっ舐めるなよ。クソが!」
一条は手首のスナップを利かせてガンスピンした後にガンホルダーに納めた。
警察たちは一斉に猿江たちを囲み一斉に大量の水をかけた。
「うわあああああああ!」
さらに冷却ガスも出し全身が凍えるほど浴びせる。
猿江「冷てえぞ!何すんだ!畜生!」
大隈「これでどうでしょうか?」
松葉「まだわかりませんが(爆弾)威力を弱めることはできたかもしれません。」
松葉「すみませんね。自爆するかもしれなかったんで対策しておきました。」
猿江「俺らは爆弾なんか持ってねえよ!」
大隈は松葉と同じ組織犯罪対策課5課である。
渋谷事件後の爆撃と府中刑務所の自爆テロの教訓を受け松葉たちは
いかに被害を最小限に抑えられるか対策を講じていたのだ。
今回は水や冷却ガスを使って爆発の不発化を試みた。
水を使うことによって爆発に必要な酸素を遮断できる可能性が見込まれ着火を防ぐことができる。
また冷却ガスを使うことによって爆発に必要な熱を奪うことができる可能性が見込まれ
爆発反応を抑制することができ水と比べて爆弾の内部構造に到達しやすいため完全に爆弾の機能を停止することも可能だ。
以上の点から爆発の不発化または威力の弱体化をねらって水と冷却ガスを使用した。
しかしこれらが必ずしも水と冷却ガスが爆破テロに有効な手段であるとは限らない。
水が逆に爆発を誘発させる可能性があり
冷却ガスもガスの種類によっては爆発を誘発させてしまう恐れある。
長沼が持ち出してくれた資料にはアミュ真仙教のテロ活動について様々なことが書かれていた。
丸山を始め神泉町消防隊員らが捕まり監禁されている住所が判明したため救出を最優先とした。
様々な試行実験を繰り返しながら有効な対策を取るべきではあったがその余裕はない。
実際にどのような爆薬が使われているかはまだ判断できないので実戦で試すこととなった。
なので現段階で松葉たちはこの爆破対策は不十分であるとみていて爆発するかしないかその不確実性もあり細心の注意を払っていた。
猿江は爆弾を所持していないと言っているため爆発の危険はないようだ。
爆弾を所持しているかしていないかは関わらず大量の冷たい水をかけられ
身が凍えるほどの冷却ガスを浴びせられた猿江と竹原は気の毒だろう。
これが制裁というなら悪事の限りを尽くした猿江たちにとっては生ぬるい。
然るべき制裁とそれ相応の罰を受けるべきだ。
彼らが口を閉ざしても資料から渋谷事件の張本人であることは明らかになる。
渋谷でサリンを放出し銃を使い人々を傷つけ殺傷させた罪は重いため刑は決して軽くない。
今後はアミュ真仙教の内部資料をもとに捜査が進められる。
計画書などテロ活動について詳細が明らかになれば組織の犯行計画は手に取るように分かる。
武器の出所やその種類や性能そして製造工程がわかり
また爆弾で使われる爆薬や材料が分かれば松葉たちにとって確実性がある爆破テロ対策を取ることができる。
猿江と竹原を拘束した後、他のメンバーも全員捕まった。
遅い深夜の時間帯に救出作戦を決行して正解だった。
見張り以外は全員体を休めていたため調子がでずうまく反撃できず警察の急襲に手も足も出なかった。
見張り役も寝ていないため疲れ気味であったこともある。
警察がここには来ないだろうという油断もあった。
彼らが本調子でも武装化した警察官らや一条の正確な早打ちに敵わないだろう。
突入からわずか3分で決着がついた。
一条を筆頭に組織犯罪対策課5課は数多の犯罪組織を壊滅させた。
今回は過去より犯罪の規模や被害は大きいが必ず一条たちがこの極悪組織を根絶やしにしてくれるだろう。
猿江「なんでこの場所がわかった!?」
猿江たちにとっては警察がここの監禁場に来ることは想定しておらず驚きを隠せない。
一条「目撃者から報告があったからな」
猿江「なんだとそんな馬鹿な!
」
竹原「あのルートなら誰にも気づかれないはずなのにどうして?」
一条「ふん残念だったな。」
猿江たちは組織のメンツしか知らない抜け道のようなルートを通っていた。
理由は警察に住所と人質が脱出するときのルートを把握させないため
人質がいて捕まっていることを示唆して誰かに助けを呼ぶ行為
またここの住所教えさせないためそうしたのだ。
丸山(目撃者?)
一条の発言に丸山は疑問を持っていた。
目撃者がいたとすればもっと早いうちに救出に向かっていたはずである。
タイミング的にもこの場所が分かったのはおそらく長沼が資料を送り届けた後だ。
花が心変わりしたことそして情報が洩れていることを悟らせないためなのか。
しかしもう捕まってしまった彼らにも敢えて言わずに伏せるのか少し疑問ではある。
彼らは刑務所に入り尋問されると思うので情報が漏れていると事実を伝えれば諦めがつくはずだ。
千葉県我孫子市にてアミュ真仙教の猿江と竹原その他数名のメンバーを逮捕。
そして無事丸山たちは救出された。
丸山「助かった…」
丸山たちは今まで生きた以上の幸運だった。それと同時に運を使い果たしたと思ってしまう。
警察の救出がなければ殺されていたのかもしれない。
花とそして彼女を心変わりさせた林の二人には感謝しかない。
もし彼女が捕まって自白するのなら刑を軽くするよう手助けをしたいと思った。
もちろん林は無実であると絶対に証言する。
そして家入も無実の男であり花と共に長沼の脱出を手伝っていた。
だから家入も弁護していきたい。
だがここにはその三人はいないそして川代も。
警察たちには捕まった猿江たちは両腕後ろ追いやり手錠とさらに縄で厳重に縛られた。
猿江「ちくしょー!離せ!」
一条「渋谷事件の犯人はてめえらだな?」
猿江「ああん?だから何なんだ!?」
一条「これも結構派手なことしようとしてたみたいだな。」
一条「躊躇わず打ってきたし他の連中を牛耳っているようだからお前で間違いねえな。」
一条「大人しく罪を認めるなら刑を軽くしてやってもかまわないが」
一条「犠牲者が数名出ている。」
一条「死刑は免れても一生牢で暮らすことになるな。」
銃刀法違反や監禁罪及び殺人未遂罪もあるが
一番重い殺人罪が猿江と竹原に課せられることになる。
一条「死にたくなければ情けをかけてやらなくはない。」
一条「アミュなんちゃらだとか、お前たちがしようとしていたこと洗いざらい話すんだな。」
猿江「アミュ真仙教だ!バ―――カ!アミュ様を舐めるな!」
猿江「アミュ様に歯向かったら災いが起きる!てめえらは終わりだ!」
一条「あ~はいはい。そうですか~」
一条「態度を改めないならこれゃ早死にだな。」
一条「死ぬ時が来たらお神さんでも拝んでるんだな。」
一条「どうだお前らが死刑されるところ映像で流してやろうか?」
一条「お前たちがしていたことそっくりそのままな」
猿江「お巡りさんがそんな悪質なこと言うのかよ!」
猿江「あーあこの国はやっぱ腐ってるな!」
一条「お前らの存在自体がな!」
一条「人を傷つけ殺めたお前たちは人ではなく、人の形をした性根の腐った悪の人形だ!」
一条「この世を生きてれば理不尽なことだってある。」
一条「それを一括りに腐ってるって言っても別に構わない。」
一条「それでも人は這いつくばって必死こいて生きてんだよ!」
一条「だから人は本当に立派な強い神様が味方してくれるんだ!」
猿江「チ!!ぐう……!」竹原「うわ~ん!」
猿江に正論を振りかざす一条。
猿江は何も言い返すことはできず一条の銃で撃たれ負傷した肩から痛みが全身に響いてくる。
竹原は泣き出す。一応彼は反省しているのだろう。
因果応報とはこう言うことだ。
中を調べた結果映像を映す媒体や通信機器のようなものが見つかった。
これらを使って人質を殺害するような映像を東京都各地にもしくは日本全国に流すつもりだったのだろう。
松葉「爆弾を所持していないと言っておりましたが爆薬のようなものがありましたよ。」
猿江「何!?」(滝川の野郎片付けてなかったのかよ!)
竹原「ああ滝川だ~!」
松葉「後で詳しく聞かせてくださいね。」
竹原「はいぃぃぃ!何でも言いますぅうう!!」
猿江「バカ野郎!何も言うんじゃねえ!」
爆弾の製造に使われた疑いのある爆薬などが見つかった。
林に持たせるための爆弾を滝原が作っていておそらくその爆弾は完成させたと思うが
作業場はそのままで材料や工具など片付けていなかったのだ。
さらにあの取引はなくなり白紙になったのだからそれと合わせてたちが悪い。
滝川にとってはあそこはどうでもいい予備の作業場という位置付けなのだろう。
その材料や道具を残しておいたままにした結果
現在はアミュ真仙教の予備の拠点として使われているが
建てられた目的が不明の千葉県の我孫子市にある錆びれた施設は
この組織が武器を製造する目的で建てられたものであると扱われてしまう。
こんな人里離れた森の奥にこの建物があるとは思わなかった。
だからここを彼らのテロ活動の拠点の1つにしていたのだ。
そしてここから少し離れたところに団地のようなところがあったため
テロ目的以外で過去にちゃんとした目的があって建てられたのだと思われる。
住所も番地もそれなりに特定できているため沿革を調べれば分かってくるはずだ。
年代的に昭和の初期ぐらいから建てられていたもので
戦争のために軍事利用の目的としていたのが妥当か。
だとすればここで武器の製造していたという考えも間違いではない。
証拠となる物が見つかったことから今後の捜査に行かせる上に
松葉たちはこれを元に有効なテロ対策を講じることができる。
猿江たちが持っていた荷物も回収した。
この中に携帯などの通信機器が入っていると思われ仲間と情報のやり取りをしていたはずだ。
上手くこれを活用すれば、長沼が届けてくれた資料にはない情報も能動的に得られるかもしれない。
猿江がパトカーに乗せられる直前で安田が声をかけてきた。
安田「おい!林はどこにいる?あの女もだ?」
捕まえたメンバーの中に林と花はいなかった。
長沼の証言から二人がいることは明らかである。
二人は別の場所に移動したことになる。
猿江「あの女?」
安田「土屋花だ。」
猿江「なんで姉貴のこと知ってんだよ?」
安田「うちの林がその女と同居していると聞いたからだ。」
安田「なるほどな。土屋花も組織に関わりあるってことだな。」
猿江「ああん?なんだてめえは?」
安田「俺は安田。巡査部長だ。」
猿江「ああお前があの林の上司か!」
猿江「林はなお前のことが嫌いらしいぜ。」
猿江「クソ上司だの死ねだの暴言吐きまくってたぜ!ハハハ!」
安田「林がそんなこと言うやつじゃねえ!!!」
他の警察官「落ち着いてください巡査部長!」
猿江に殴りかかろうとする安田を他の警察官が止めに入る。
猿江「部長のくせして沸点が低いな~いいゴ・ミ・分だぜハハハ!」
安田「うるせえ!俺の後輩を仲間を侮辱する奴は許せねえ!」
安田「あの二人はどこにいる?言え!!」
猿江「教えるか!バーカ!ぺッ!」
あの二人の行方を聞いてもこの有り様である。
さらに猿江は唾を安田の前で吐き出す。
安田「もういい!こいつ連れてけ!刑務所に着くまでの間に」
安田「こいつが暴れだして収拾がつかなくなったらボコボコにしても構わないから!」
パトカーに乗車している警察官「うぃーす!」
話にならないのでパトカーに乗せて刑務所に送り出した。
猿江を乗せるパトカーには体が大きくてガタイが良く力強い警察官が乗っている。
この警察官は大学時代にレスリングをやっていて筋トレが趣味だと言う。
現行犯にナイフで切りつけられるも軽傷で済み
動物園から脱走したライオンをほぼ素手で捕まえるなどの功績があるので
鍛えられた肉体を遺憾なく発揮している。
彼こそが猿江の暴走を止める者として適任である。
安田「彼らに聞いてみるしかないか…」
安田が向かったのは丸山たちのところだ。
二人がどこへ行ったのかわかるかもしれない。
しかし彼らは人質として命の危険に晒されていたため心身ともに疲弊している状態である。
だから可能な範囲で聞き出せればそれでいいと安田は考えている。
丸山たちがいる方へ向かったところ助手の吉永がそこにいて丸山含め救出された人たちの安否を確認していた。
安田「みんな無事か怪我はないか?」
吉永「それが救出された人員の人数が一人足りていないことが確認されました。」
安田「その一人って長沼さんのことじゃないのか?」
吉永「いいえ彼を除いてです。」
吉永「二十二名のはずが二十一名しかおりません。」
長沼を除き二十二名全員救出されるはずだったのが人数が一人足りていない。
これが林と花がいないことと何か関係があるのかもしれない。
丸山「あの!俺の後輩なんですが川代が連れ去れてしまいました。」
丸山から先に声をかけてきてくれた。
彼が言うには川代という男が連れ去れてしまったようだ。
そして林と花共にあの場から去ったのだろう。
安田「うちの林がそちらの消防署にダチがいると聞いている。」
丸山「はい。彼が林さんにとって大事な友達なんです。」
丸山「実は私も林さんと知り合いでして仕事の関係上彼と関わることがありました。」
安田「まあ同じ東京都内なんだから知り合うのも不思議じゃないよな。」
丸山「お互いがよく相方のことを私に話してくるんですよ。」
安田「そうか…」
丸山「あの女が引っ張り出して林さんと一緒に川代をどこかへ」
安田「あの女って!」吉永「土屋花のことですね。」
女と聞けば花しかいない。
捕まえたメンバーの中には一人も女性はいない。
丸山「だけど不思議です彼女が長沼に資料を渡して逃がすだなんて」
吉永「ですがおかげであなたたちを助けることができ」
吉永「アミュ真仙教のメンバーを捕まえることができました。」
吉永「お仲間の長沼さんには本当に感謝しております。」
吉永「彼は今千葉県警で保護されて体を休めています。」
丸山「あいつならやってくれる信じてしました。」
丸山「そして私たちを助けていただきありがとうございました!」
安田「まあこれが俺たちの仕事だから当然さ。」
安田「んでこっちはちょっと聞きたいことがあるんだが、あの女は何者だ?」
安田「どんな奴だった?」
氷魚の日記から彼女の生い立ちが書いてあり、
また新たに資料によってアミュ真仙教のメンバーであることが判明した。
だが急に心変わりするなど何かと掴みきれないところがあり謎が残る。
そのため第一印象だけでもいいから花について言及した。
丸山「若いのにあんな屈強な男どもを牛耳る男勝りな女でした。」
丸山「渋谷で捕まった私たちとは違う場所で林さんは捕まったのだと思います。」
丸山「あの場所に到着した後、また別の車両が来てその車両の中から女と気を失って拘束されている林さんが出てきました。」
安田「何!?あっ!ということは熊谷が言っていたことと辻褄が合う。」
東京都各地で刃物襲撃があり例外なく宇田川町にも被害が出てしまったので林が対応することになった。
どこかで花と遭い、彼女に気を取られている隙を狙ったということだ。
やはり熊谷が言っていたことと辻褄が合い、あの時点から林と通信が取れなくなり行方が分からなくなってしまったのだ。
丸山「林さんが目覚めたときはもうすでに私たちと同じように天井で吊るされ動けない状態にされていました。」
丸山「目覚めた林さんに女が勧誘してきました。しかしどうやらあの二人愛し合ってような雰囲気でした。」
安田「あーもう全くあいつは!それであいつは組織の仲間になったんだな。」
吉永「この流れ的に、林さんは組織の仲間のフリをしたと言うのが妥当でしょうね。」
丸山「きっと私たちを助けるための策を考えていたのだと思います。彼女を味方につけて…」
安田「それが花が心変わりしたことと繋がるってことか。他には?」
丸山「そうですね…えっと話の中で林さんが女に兄がいるとかどうの言ってました。」
吉永「兄とは土屋氷魚ですね。」
彼女自ら兄の失踪届を提出している。
提出した交番が宇田川町で対応したのが林だった。
そこから二人は知り合うことになる。
数日前に電車事故がありバラバラの遺体に見つかったのだが解剖の結果土屋氷魚本人であることが判明する。
アルコール依存による中毒で線路に落ちてしまっての事故だと当初はそう判断されたが
生首だけは陸橋にありナイフで綺麗切られたような跡があったため他殺として捜査するようになり
後に蔵冨興業殺人事件と関連性があることにも気づく。
丸山「それであの女が殺したって言ってました。」
安田「なんだと!?」吉永「え…」
丸山の証言により土屋氷魚殺害の真相は安田たちにも知られることになった。
花の謎がより一掃深まるばかりではあるが林と川代どこへ連れて行ったのだろうか。あと家入も…
続く
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