第27話 組織の全貌
花の計らいにより脱出できた長沼。
すぐに目立たないところに隠れて消防服に着替えなおした。
バックの中にはアミュ真仙教の資料と彼女たちがいる拠点の住所が書かれていた。
あの女がメモとして書き残したメモだが読むとここはどうやら千葉県の我孫子市のようだ。
武器の出所は最東端である千葉県の銚子市らしい。
銚子市は海沿いの街であり、漁業が盛んであるのだがその裏で組織は密売が行われて銃などの武器を集めていたようだ。
資料を読むと他にも神奈川県の方で三浦市を初め漁港があるほとんどの場所で武器を密に集めている。
ルートは海外の方らしいが国内でも武器を製造していると書かれている。
蔵冨興業を中心にその子会社が製造していたそうだ。
長沼たちを拘束し収監された施設についてだがあれは何のために建てられたものなのかは渡された資料からではわからず詳細は不明である。
あの施設で密かに武器を製造していたのではないかと長沼は憶測をはかる。
アミュ真仙教のメンバーの名前がわかる名簿のようなものも記されてある。
だが名前だけが羅列してあるだけで顔はわからない。
わかることはアミュ真仙教の首謀者は赤城真弥ということだ。
日本では武器の製造は禁止されているはずだ。
禁忌を犯している上、多くの人々を傷つけている。
東京都内だけでなく日本全国でテロを企てているようだ。
これほどまでの計画を立てていることは相当国や政府に恨みを持っているということだ。
猿江自ら言っていたが冤罪の被害に遭い彼の家庭は崩壊してしまったと。
きっと彼と同じように仲間も国や政府に恨みを持ちそして同じ思想を持つ者たちが集いあのような犯罪組織が結成されたのだろう。
国や政府に恨みを持つ彼らに対しいかなる理由があっても罪のない人々を傷つけてはいけないと毅然と言うしか他にない。
考えは川代と同じで同じようなことを言ってたに違いない。
捕まって閉じ込めたあの時川代が代弁して彼らに怒っていた。
川代たちはまだ捕まったままだ。
一刻も早く証拠物を警察に届けなくてはならない。
資料を読むのは一旦やめて警察署へ向かった。
まずは近くの交番を目指す。
真っすぐ道なりを歩くと先はだんだんと暗くなっていく。
団地のような場所にたどり着くが人が住んでいるのか怪しいほど寂れていて静かだった。
恐る恐る足を踏み入れる。
ここは日本なのかと思うくらいおぞましく感じる。
組織の構成員が潜んでいるかもしれない。
縄張りだったとすればここも危険である。
今何時なのかはわからないが暗いため日が変わる深夜の時間帯ぐらいだろう。
もし構成員らがうろついているならば懐中電灯などの光で己が道を照らすはずだ。
そう言った光は1つも見受けられないため近くにはいない。
追っ手が来ないということは逃げ出したことに気付かれていないということである。
目的地である交番まで安全に辿り着けるかもしれない。
だがゆっくりしている暇はない。
逃げているのがバレていれば人質に危害を加えているか可能性がある。
タイムリミットは午前10時までである。
暗いためどこにいるのかわからずどこに進めば正解なのかわからない。
ただひたすらアジトから反対の方向に突っ走るべきだ。
証拠物が入ったバックをお腹に抱え背を低くし空気抵抗減らすような体制で全速力で走り暗闇の中を突っ切っていく。その先の光を目指して。
長沼にとってこれは最重要任務だ。
だがこの任務は川代が適任なのかもしれない。
彼は組織の連中に身動きが取れない状態にもかかわらず臆せず怒りをぶつけ続けていたからだ。
気持ちはみんな同じだったが勝ち目のない相手に歯向かっても歯が立たないだろう。
花から言われた通り川代は目立ちすぎてしまった結果この証拠物を届ける任務の候補から必然的に落選させられてしまったのだ。
長沼は本当に運が良かったと思われるがこの任務は絶対に失敗してはいけない。
唯一アミュ真仙教の情報を握っているのは長沼だけなのだから。
警察の動向だが林秀人の住居の家宅捜索が完了しその結果が本部に伝達されたところである。
安田「何か見つかったか?」
警察職員「何も見つかりませんでした。」
家宅捜索の結果林の家にはアミュ真仙教に関する資料や組織と関わりを持っていそうな証拠物などは見つからなかった。
机の引き出しや棚の中には業務内容が書いてあったり警察の仕事をする上での心得など自分を鼓舞するようなことが書かれたノートが何冊かあった。
機密情報など知られて不都合になるようなものは一切書かれていなかった。
彼が大学時代だった頃の思い出の品が残っていてその頃から警察を志していたらしくそのための勉強や努力をしていたのだとうかがえる。
それだけに飽き足らず漢検や英検など資格検定のための勉強もしていたようだ。
家計簿もしているらしくプライベートではごく普通の一般人のような暮らしをしている。
林が勤務する宇田川交番のロッカーの中には携帯や財布などの貴重品は置いたままである。
林が個人で使っている携帯の連絡先を見ても組織の繋がりはなかった。
財布の中も金額は3万円程度しか入っていない。
財布のレシート見ると英和辞典を買ったものがでてきた。机に置いてある英和辞典がそれだろう。
これで氷魚の日記を解読しようとしていたのであろう。
財産や所有物は全て没収または差し押さえとなった。
勤勉で真面目に仕事をしている彼にこんな重い処罰を与えてよいのだろうか。
安田や同じく所属している熊谷達には疑問しか湧かなかった。
上が決定したことなのでこれを覆すことはもうできない。
土屋花と一緒に暮らしていたのは本当だったようで
お風呂場に女性の髪の毛らしきものが何本か落ちていた。
林の髪の毛は短いため花であると断言できそうだ。
林と花の二人はここの住居でどのような暮らしをしていたのかはプライバシーの観点か詮索はしないが
犯罪やテロ関連の話はしていなかったと思われる。
林は花に対して好意を抱いていたのも本当であった。
結婚生活のことや恋愛に関する雑誌も買い込んでいたそうだ。
彼なりに彼女に対しプロポーズや贈る言葉を考えていたみたいだ。
仕事以外は女とは無縁の生活だったために女と話す機会に恵まれ浮かれていたに違いないだろう。
それを知った安田は頭を抱えて呆れていた。
熊谷達も見なかったことにしようとしていた。
だがそのメッセージには事件に関係した話が一緒に取り入られていた。
花の兄は蔵冨興業の殺害事件に関係していて花も被害が及ぶかもしれないと林は考えていたようで
彼女のこと守りたいと告白したかったそうだ。
この文章を読み解くに林は初めから犯罪組織に加担していなかったことが明らかとなる。
日記から花はアミュ真仙教と繋がりを持っていたことがわかっていたが林は別の視点を持っていたようだ。
花がアミュ真仙教に加担しているということは最初から知らなかったはずだ。
渋谷で消息を絶たれた神泉町の消防隊員たちは犯罪組織アミュ真仙教に囚われの身となり人質とされている。
安田「熊谷どう思う?お前らも」
井上「弱みを握られていたとしか思えません!」
熊谷「宇田川の方で被害が出た時に様子を見に行ったのは林さんでした。」
熊谷「そこで林さんは組織の誰かによって捕まってしまったのかと思います。」
神泉町消防署の隊員名簿に林の友達である川代の名前があった。
林の性格から見て人質を取られてしまい組織の言いなりになってしまわれたのではないかと思いつく。
時間は日付け変わって深夜の1時である。
午前10時の取引をどうするのかについての議論が続けられていた。
結論は午前10時までに50兆円の身代金を用意することは不可能であるがあちらが人質を簡単に返してくれるとは到底思えない。
つまりこの取引は罠であるということだ。
どのような罠を仕掛けてくるかはわからない。
一条が言うには林に爆弾を持たせて自爆するかまたはサリンをばら撒くかのどちらかになると予想している。
取引が成立する云々より林の身柄を拘束しなければいけないので組織側はそのように読んでいる。
お互い譲れないものがあるが故この取引は絶対に成立しないはずだ。
一条「長官も言っていたが安田だけで行くのは荷が重いかもしれん。」
安田「う~ん…」
安田は腕を組んで目をつむり下を向いた。
安田「条件を吞まなきゃ人質は殺される。映像も流す気がするぞ。」
一条「だがそれを(取引)を受けるメリットはないだろ。」
安田「人質には家族がいるんだぞ!」
一条「わかっているさ。彼らを見捨てるつもりはない。」
一条「他の手段を考えるべきだ。奴らの居場所を突き止めて救出した方がいいだろ。」
アミュ真仙教のアジトを突き止めるべく今でも警察たちは大掛かりで捜査をしているのだ。
闇雲ではあるが何もしないよりできる限りのことをするべきだ。
東京都内のみならず全国の警察にも協力し捜査を進めている。
松葉「組織の行動を大きく制限させることができますし」
松葉「武器の出所などが分かれば規制することも可能です。」
一条「そう言えば例の工場は見つかったか?」
例の工場とは蔵冨興業の工場で神奈川県の厚木市にある。
氷魚の日記にそこで借金の返済のため働いていたが裏で組織と繋がっていた。
金属製品などの部品を製造していたらしいがそれが武器を製造するための部品ではないかと推測している。
またサリンを作っていたのではないかと疑われるものがいくつか散見された。
それがバナジウムと硫黄だ。
化合すれば硫化バナジウムになりこれを触媒して硫酸を製造することができる。
神奈川県の水道水の水源は玄武岩の地盤がある富士山からでバナジウムが含まれている。
またその箱根で組織らは硫黄を採取していたらしいがそれが大涌谷で採取していたことがわかった。
大涌谷は約3000万年前に箱根火山で水蒸気爆発を起こしその影響で山が崩壊してできた地形である。
火山ガスには硫黄の成分が含まれていてそれが冷えて結晶化した。
その結晶化したものを採取していたのだ。
過去にそれを採取する者が集団で来ていたらしい。
採取は原則禁止なのだが許可を得ていると言われて許可証明書みたいなものを見せたそうだ。
管理事務所に許可証明書のコピーが保存されている。
だが今になって神奈川県はそれを許可した覚えはないそうだ。
神奈川県警に調査を依頼した末にそれが発覚した。
5年前からすでにサリンを生成する基盤は整っていたのだ。
肝心の工場だが厚木市で蔵冨興業と思われる製造所が発見された。
南平台町と同じくもぬけの殻であった。
中の様子の写真を取り捜査書類がまとめられた。
本部にその資料が届き一読はしたが特にめぼしいものはなかった。
得られた成果はなかったものの氷魚が書いていたことは本当だったようだでそこの工場で彼は働いていたのだ。
吉永と解読を進めているが終盤まで差し迫っている。
だがこれ以上新しい情報が出てくることはないだろう。
これだけの証拠が出てきてもまだ組織の全貌は明らかになっていない。
組織のアジトもメンバーの名前も林と花だけで何もわからないのだ。
林にいたっては警察であり彼は弱みを握られ組織のお面を被らされてしまったのだ。
首謀者である赤城については苗字しか語られていない。
取引の待ち合わせ場所は東京タワーである。
林がくるだろう。
その間に何か手がかりをつかめればいいのだが。
田所「一条さん!組織に関する情報が千葉県の方で入手されました!」
駆け付けたのは一条と同じく組織犯罪対策課4課の田所だ。
千葉県の方で何やら進展があったようで長沼と言う男が組織のアミュ真仙教の証拠物を持ち出していたのだ。
我孫子市の交番に長沼は訪れていた。
そして証拠物は千葉県警に渡っていった。
一条「それは本当か!しかしなぜその男が?」
田所「彼は神泉町消防署の隊員でして人質として囚われの身となっていました。」
一条「なんだと!どうやって抜け出したんだ?」
田所「花という女性メンバーに解放されたのだと言っておられました。」
安田「あの女がだと!?どういうことだ!?」
田所「わかりません…。急に心変わりされたそうで…」
1時間後に証拠物が本部に届いた。
現在長沼は千葉県警で保護された。
早速、証拠物を確認する。
そこにはアミュ真仙教の概要が事細かに記載されていた。
アミュ神を中心とする組織の集まりで目的は世界平和と安寧をもたらすために活動するらしい。
だがその実態は毒物や違法銃器売買などを裏で行い凶悪犯罪を起こす計画を企てていたのだ。
田所「これを見てください。」
アミュ真仙教の構成員の名前がリスト化された名簿表のようなものだ。
アミュ真仙教の首謀者は日記の通り赤城であり下の名前が真弥である。
一条「赤城真弥が親玉か。田所この男について調べてくれ!」
田所「わかりました。」
安田「俺にも見せてくれ!」
安田はその名簿をくまなく読んだ。
安田「やっぱり女は組織と繋がっていたのか!」
リストには土屋花の名前があった。
そして安田は安堵した。
リストに林英人の名前がないことに。
林は組織に最初から加担してはいないことが判明された。
鬼頭「安田、林の今後の処遇について見直しをしようと思う。」
安田「上官!」
長沼の証言を聞きそれを受け鬼頭は林の処分について見直すと安田に告げる。
長沼の代わりに鬼頭が捕まった時の状況を話した。
渋谷で黒い格好をした男たちがやってきて彼らに捕まってしまったそうだ。
武器を持っていたため何もできず縄で拘束されコンテナの中に閉じ込められてしまったががその中に蜘蛛のような形をした機械が入っていたらしい。
蜘蛛型の機械はサリンを放出すると言われた。
捕まった彼らは死の瀬戸際にいたのだ。
その後どこかの施設に連れていかれ作業場のようなところで宙吊りとなって人質になってしまったそうだ。
捕まったのは神泉町消防署の隊員だけでなく一人の警察官も違うところで捕まっていたのだ。
その警察官の名前は林で長沼と同じく神泉町に所属する川代がその男と知り合いであった。
林も同じように拘束され宙吊りとなり人質になってしまったのだ。
しかし組織のメンバーの中に林に好意を持つ女性がいたらしく、その女性が林に組織の勧誘をしてきた。
林はその勧誘に乗り人質から解放された。
なぜ林は女性の勧誘を受け入れた理由については彼自身にしかわからないが
長沼が思うに自分たちを助けるためまたはその時間稼ぎのために組織の仲間になったのではないかと言う。
川代もその女性と知り合いのようで花と呼んでいた。
宙吊りにされたのだがしばらくして降ろされた。
だが縄で手と足は縛られたままでだった。
その夜構成員たちは休憩のため食事をとっていたのだが長沼たちの目の前でしていた。
彼らはこちらに近寄り組織の勧誘をさせてくる。
組織の仲間になれば食事を与えると度々言ってきてもし断れば明日の午前10時がタイムリミットだとも言われた。
銃口をこめかみに突き付け脅されることもあった。
それでも長沼たちはそれを断り続けた。
空腹に耐え今後の未来と自分たちの人生を守るために固い信念を持ち続けていた。
警察官の林がいたからこそ長沼たちの心の支えになったのだ。
そして夜遅く組織の連中が休憩し落ち着いている時だった。
花が組織の内部情報を渡し長沼を解放させたのだ。
長沼は花が無作為に選ばれただけのようだった。
だが長沼は最重要任務をやり遂げたのだ。
急に花が心変わりしたのは驚きであるがこれで長沼が持ち出した情報をもとに、組織のアジトを突き止め、救出作戦を開始することができる。
捜査は事件解決に向けて大きく前進したと言える。
鬼頭「納得のいかない部分もあるがあの男のおかげで捜査が捗りそうだ。」
鬼頭「安田、林と言う男は何者だ?」
林の功績を鑑みた上で安田に問いかける。
安田「私の後輩です。彼は真面目に働く警察としてふさわしい男であると思います。」
鬼頭「フッ今回は例外だ。林秀人の懲戒処分は保留とする。」
安田「鬼頭上官!ありがとうございます!」
安田は満面の笑みを浮かべ鬼頭に深くお辞儀した。
鬼頭「ただし今後のあの男の行動次第だ。」
鬼頭「違反したことについては無視することはできんからな。」
鬼頭「然るべき処置は取らせてもらうぞ。」
林がしてきたことはなかったことにすることはできない。
懲戒処分は保留となったが林の今後の行動次第によって変わってくるだろう。
取り残された人質の居場所はわかっている。
場所は千葉県の我孫子市にある。
そこに林含め組織のメンバーたちもいる。
一人だけだったが長沼が脱出できたということは守備が手薄であると判断できる。
今が人質を救出するベストなタイミングである。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
千葉県警が人質救出のため動き出したようだ。
鬼頭「警察の誇りにかけ救出に迎え!」
鬼頭「アミュ真仙教のメンバー全員の身柄拘束する!一人残らずだ!
」
鬼頭「これ以上奴らの好きにはさせない。」
鬼頭警視庁長官の指揮により警察全体の士気が高まった。
組織犯罪対策課を初め本部の警察官も人質救出に向かう。
安田(待っていろよ!林!)
人質救出作戦が今始まろうとしていた。
アミュ真仙教によって人質となった川代たちを救出できるのか。
続く
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