イエイリ

第24話 宣戦布告

連日の大規模事件並びに府中刑務所の囚人たちを脱獄させたテロ組織アミュ真仙教をこれ以上看過することができず
国の安寧と秩序の為アミュ真仙教を取り抑えるべく
組織犯罪対策課4課の一条を筆頭に警視庁で犯罪対策会議が開かれる。
アミュ真仙教について捜査するにあたり土屋氷魚の日記が重要な手掛かりになるがそれだけでは期待できない。
新宿を襲った構成員たちを日本軍が捕まえることができ東京拘置所に収監するということで
彼らから聞き出せば組織の全貌が明らかになるのではないかと思われた。
しかし構成員たちは皆自害してしまった。
会議室に駆け込んだ警察職員からの報告だった。


彼らを乗せた軍用のコンテナに白い煙が放出された。
東京拘置所に到着しコンテナを開けた時だった。
中から突然白い煙が放出したのだ。
刑務官が数人いて、捕まった構成員たちを拘置所内に連行するため待機していた。
刑務官たちは全員無事であり、対処が早かったため拘置所の入り口をすぐ閉鎖しすべて戸締りを行ったので被害はなかった。
その白い煙はコンテナ内に充満するぐらいの量ではあったが昨日の渋谷と比べ遥かに少なく周辺による被害もない。
今のところ周辺住民に健康被害の訴えはない。
あの白い煙は渋谷で使われた毒物と同じであるものだと考えられる。
氷魚が書き残した日記と鑑定の結果から成分的にサリンであると断言された。
捕まった構成員の誰かだが、サリンを隠し持っていたとは思われなかった。
一条「武器は全て没収したはずだ!」
一条「怪しものがないか隅々にまで検査しただろう!」
拘束した際全て武器を取り上げまだ何か持っていないか持ち物検査もやったはずだ。
厳重にやっていたのにも関わらずサリンを隠し持っていたことを見抜けなかったのだ。
警察職員「ですが…コンテナの中に腹部を開けられ内臓が切断された遺体が…」
一条「え…まさか体内にサリンを隠し持っていたというか!?」
警察職員「はい…中に1つ怪しげなものがありまして蜘蛛のような形をした鉄製品でした。」
安田「蜘蛛?」吉永「先ほど蜘蛛って言いましたよね?」
警察職員「はい!」
一条「知っているのか!安田巡査」
安田「ああ、最初に起きた渋谷事件で機動隊がトラックのコンテナの中を調べていたやつが言っていた。蜘蛛ってな。」
一条「そうか…他には?」
吉永「彼が見た装置には爆弾が仕掛けられていたみたいで深い傷を負ってしまいました。」
吉永「当時の状況を流暢に話せる状態ではありませんでした。彼が言ったのは「くも」の2文字だけです。」
一条「なるほど。じゃあ今回のとそれと同一の物てあると見ていいんだな。」
安田「消防らに瓦礫撤去の依頼をしているがその装置の破片と思わしきものが出てきている。」
安田「それが体内に入っていたってことは多分そいつのは小型サイズ版のようなもんだろうな。」
コンテナの中にはもう一つ血の付いたナイフがあった。
それを使って体内からサリンを出す装置を取り除いたのだろう。
ナイフは即席で作られたもので検査ではわからないように服の中にパーツなどを忍ばせていた。
今回構成員を拘束させたのは手錠だけであった。
良くなかったのは後ろ腰に回して拘束したのではなく前で両手首を手錠させて拘束させるしかなかった。 東京都各地の刃物襲撃の対応に回らないといけなかったのが起因し厳重に拘束することを怠ってしまった。
結果指など繊細に手が動かせることができたためあのような犯行ができるようになってしまったのだろう。
だとしても組織の情報を与えないがために自らの命を絶つようなまねができるのだろうか。
アミュ真宣教はあり得ないほどに狂った恐ろしい犯罪組織であることを思い知らされた。
一条「くそこれで組織の情報得る機会を失ってしまった。」
松葉「遺体を解剖して身元を特定するしかありませんね。」
松葉「きっとサリンと同じ成分が検出されるでしょう。」


警察職員「大変です!」一条「今度は何だ!?」
また一人会議室に息を切らして駆け込む警察職員がいた。
警察職員Bとする。
警察職員B「渋谷にて消防隊員が消息不明とのことです!」
安田「何!?どういうことだ!?」
一条「そこで隊員たちが作業してるって聞いたがそいつらがいないってことか?」
安田「今は神泉町の消防が担当しているはずだが」
警察職員B「はい!それがですね…」
聞いてみると神泉町消防署で待機している隊員からの報告で発覚されたのだが渋谷で作業中の消防隊員たちが戻ってこないらしく
現場を確認すると隊員が一人もいないみたいで消防車も1台もなかった。
終了時間は16時と予定されていたが1時間以上過ぎたため異変に気付き警察に連絡したそうだ。
吉永「そんな、誘拐されたのですか?」
安田「あり得ねえ!Jアラートが出されていたんじゃねえのか」
Jアラートで隊員たちは撤退されていたと思われたがそうではなかったのだ。
警察職員B「上からの意向で作業は予定通り続行するとのことでしたが…」
吉永「というと犯罪組織がまた渋谷を攻めてきたということでしょうか?」
安田「あの場所はしばらく関係者以外は立ち入りを禁じられているはずだぞ!」
安田「二度もそんなとこ来ると思うのか?」
一条「そういうことか!奴らはそこを狙ったんだ!」
一条は察した。
渋谷を二度も攻めることはないと警察側が判断し守備が手薄になると組織側は目論んでいたと。
安田「誘拐したってことか?ちゃんと事実確認は出来ているのか?」
信憑性は高いが誘拐されたのかはまだ考えられない。
同じ場所で同じ事件が起こらなくもないが今回のケースでは珍しいことだ。
昨日の時点では組織による犯行であるとは判断できなかったが本来再発防止のため事件が起きたその周辺地区に警護を強化するはずだ。
組織側もその点を考慮していると思われ二度も同じ渋谷を攻撃するとは考えれない。
一条「これは飽くまであり得そうな話だ。」
一条「渋谷以外の東京各地でテロが起こっている。」
安田「だから渋谷には警察がいないってことでまたあそこを狙ったってことか?」
安田「なんで消防の連中を誘拐するんだよ!おかしいだろ!誘拐するなら一般人でもいいだろ!」
一条「ああ、そうだな。変だな、あえて消防隊を誘拐するとは思えんな。」
確かに不可解な点はある。
東京各地で刃物襲撃ができるのならそれに紛れて一般人などを誘拐できたはずだ。
しかしなぜ渋谷で作業する消防隊員をターゲットにしたのかは謎だ。
また渋谷に消防隊員が作業していることがわかっているのも謎だ。
吉永「内通者がいるんでしょうか?」
安田「そんなバカな!」
吉永はこの一連の事件に関わっている内通者がいるのではないかと疑った。
土屋氷魚の日記の解読により蔵冨工業の殺害事件の犯人らが今回の事件に深く関与しているとわかり彼らを連行させ事情を聞こうとした。
その時に府中刑務所で自爆テロが起き脱獄されてしまったのだ。
タイミング的にも意図してやったのではないかと思い最初解読班の誰かが内通者だと吉永は邪推してしまったそうだ。
解読班の中には内通者はいなかったようだがあと一歩のところで鼠のようにすばしっこく犯人は逃げられてしまった。
一条「奴らの思うようにされている上にこちらが情報を得られそうなタイミングで仕掛けてくる。」
一条「誰かがこちらの情報を漏らしていないか、吉永が言うように内通者がいると疑うのも自然だが」
一条「今それで揉めて内部でいざこざになって機能しなくなったら終わりだ。国の信用にかかわる。」
内通者がいるというのは早計だ。
警察内部で内通者がいると疑い合えば捜査に支障が出るだけでなく警察そのものが機能しなくなる。
安田「俺達はみんな仲間だろ。国家と国民の平和を守る為にいるんだ。」
安田「仲間を疑うような真似はしちゃいけねえ!」
一条「そうだな。疑ってる暇があったらこの事件を早く終わらせないとな。」
安田と吉永は一緒に警察学校も通って切磋琢磨して強くなってきた。
周りには優秀な人材もいて志を持つ後輩がたくさんいる。
特に安田は後輩の林がお気に入りだ。
安田は巡査部長に昇級する前は宇田川交番で勤務していたがその林もそこで勤務していて彼の意思を継いでいる。


警察側に内通者がいるのは考えられないと安田は信じていたが、その考えは甘かった。
安田の期待どころかそれを大きく覆してしまうほどの出来事が起きてしまったのだ。
突如会議室モニターの画面が切り替えられそこには黒いフードを被っている男性が映っていた。画面越しでは表情がわからない。
警視庁本部の会議室のモニターだけはなく電波ジャックされ都内全体にも放送されておりその映像が見れるのは警視庁だけではなかった。
Jアラートで都内の人々は建物中で事態が収束を待ち、テレビを見て状況を確認していたのだ。
黒いフードを被った男性はこう告げた。
「我々は『アミュ真仙教』である!」
安田「アミュ真仙教だと!」
テレビに映る男はアミュ真仙教と名乗った。
やはり氷魚の日記の通りであり全会一致でアミュ真仙教を犯罪組織として特定された。
男は淡々と話を続けた。だがその声に安田は震えてしまった。
「我々はアミュ神を信仰し、代弁者としてこの世に集いし者である!」
「この腐った世の中を正すため、我々は行動を起こす!」
アミュ真仙教と名乗る男は国に宣戦布告した。
そして男はフードを下ろして顔を見せた。
安田「なんだと……そんなバカな…」
その顔を見た安田は開いた口が塞がらなかった。
声だけ聞いて安田は感づいてしまったがまさか彼とは思わなかった。
テレビのモニターに映っていたのは林だったのだ。
安田「林お前だったのか…」
安田「なんでだよ!ちくしょーーー!」
テーブルを強く殴り床に膝をついた。
一条「安田どうした!?あの男を知っているのか!?」
吉永「彼は宇田川交番に所属する林秀人、安田巡査の後輩なんです!」
一条「まっ!まさかあの男が内通者だったわけか!」
安田「くう…!」
疑いは持ちつつも平和を志す同胞たちの中に内通者は絶対にいないと誰もが思っていたがそれは裏切られた。
アミュ真仙教の一人は林だったのだ。
林「アミュ様はお怒りだ。これ以上犠牲者を出したくなければ50兆円を我々に捧げよ!」
一条「50兆円だと!ふざけるな!」
連続で起きたテロのように犠牲者を増やしたくなければその代わりとして金を要求した。
だがその金額は国家予算の規模に匹敵するものだった。
それほどの大金を手にすれば国のインフラ設備や科学技術の発展や投資など様々な用途に使うことができ、国そのものだって動かすことができる。
当然の戦争のための武器や戦車その他の軍事利用などにもちろん充てることだってできる。
つまり彼らは軍事利用と併せて国を動かせるほどの大金を得てこの国を支配することが目的なのだ。
一条「奴らは国を乗っ取る気でいるのか!」
安田「林!!てめえええ!」
吉永「どうしますか?要求を呑みますか?」
安田「冗談じゃねえぞ!そんな額!」
林「もしもアミュ様の怒りを鎮めることができなければ…」
画面が切り替わり映ったのは縄で天井に吊るされた消防隊員たちだった。
消防隊員たちは生きてはいるが全員が吊るされているため身動きが取れない。
彼らを人質にして金を無理やりにでも要求する気なのだ。
応じなければ人質となった彼らは殺されてしまうだろう。
一条「なんて卑怯な!汚いぞ!」
林「アミュ様の神饌は東京タワーで行なう。50兆円を用意しておけ。さすれば人質を解放してやろう!」
林「ただし来るのは一人だけだ。」
神饌とは神様に供物や食事をお供え物をすることである。
林「警視庁巡査、安田和朝だけ来い。他の誰かを連れてくれば彼らの命はない。」
安田「なに!?俺だと!?」
林「約束は明日の10時だ!」
その後モニターから林の姿が消え元の映像に戻った。
こちらの同意なしの一方的な要求であった。


明日の10時、東京タワーで身代金50兆円を持っていくことが取引となった。
人質がいるため断ることはできない。
犯罪組織に屈するわけにはいかないが今は人質となっている消防隊員たちの命の方が大事だ。
国家予算規模の金を支払ってしまえば日本という国は機能しなくなり犯罪組織がのさばり続ける。
国家予算規模の金は国民全員から徴収した税金で成り立っているため、その金を支払えば国民の怒りを買うだろう。
そうなってしまうと治安が悪化するばかりか国の存亡まで危ぶまれる。
それよりも林が犯罪組織だったことに皆驚きを隠せない。
一番ショックを受けたのは安田であろう。
一条「安田を名指して身代金の取引をしてくるなんてな。」
一条「おい!安田!落ち込んでる場合じゃねえぞ!」
一条「奴を必ず捕まえてちゃんと落とし前をつけねえとな。」
安田「わかってるさ!そんなこと!ん?」
安田の携帯が鳴った。
林と同じく宇田川交番で勤務する熊谷だった。
熊谷「安田巡査部長!大変です!林さんが!」
安田「ああ!もう知ってる!こっちも聞きてえことがある!」
安田「そっちに何があった?あいつ今日出勤日だろ!どうしてこうなってる?」
熊谷「林さんはいつもどおり出勤していましたがこちらの宇田川町にも被害があって彼が対応に行ったんです。」
熊谷「そこから音沙汰なしなんです」
安田「そうなのか…」
林は今日もいつもどおり交番に出勤していたらしいが宇田川町にも刃物襲撃被害があったので林が現場に向かったそうなのだ。
そこから林との連絡が途切れしまい、出勤している職員と一緒に彼の行方を探したのだが見つからなかった。
しかし林のものであろう通信機や携帯が見つかったが真っ二つに割れ破損されてあった。
熊谷「現場を確認したところ負傷者が数人見つかりまして病院に搬送しましたがその中に林はいませんでした。」
安田「ということは奴はそこから行方をくらまして実行に移したってことか?」
安田「今日林に何か不可解な点とかなかったか?」
熊谷「いえ、いつもの正義感溢れる優しい林さんでしたよ。」
安田「ああそうか…そういう奴ほど裏で何企んでいるかわからないもんだな…」
熊谷「林さんが裏切ったと思いますか?」
安田「正直信じられねえよ。でも見ただろあの映像を!」
熊谷「はい見ました。けど林さんは本当に裏切ったのでしょうか?」
熊谷「映っていた人質に林さんの知り合いの顔が映っていました。」
安田「何?!あっ!」
あの映像に映った人質は渋谷で瓦礫撤去作業をしていた神泉町消防署の隊員たちであることが分かった。
行方が分からなくなっていたので間違いなく人質は彼らだ。
安田「そうか!あいつには神泉町の消防にダチがいるって聞いていた。」
熊谷「林さんは人質を守るために!」
安田「そうかもしれん!俺はあいつを信じたい!」
安田「あの林が元からテロ組織の一員だったんじゃねえ!」
安田「きっと弱みを握られてあーなったんだ!」
一条「だからどうしたと言う!今のあの男がやっていることは犯罪なんだぞ!」
一条「必ず林秀人を捕まえるぞ!」
林のことを理解する安田と熊谷だが、他は彼を容認することはできない。
同情の余地はあるものの如何なる理由があれ犯罪組織に加担すること自体違法なのだ。
まだアミュ真宣教の実態が分からないうえ今一つ知れたのは林が裏切りアミュ真宣教のメンバーだったということだけだ。
内通者がいるのではないかという議論は一度保留にしたものの林が裏切り者だとわかり一条は手のひらを反すように林に批判の的を絞り捕まえることに決意を固める。


放送終了後あの映像を見た視聴者たちに恐怖を与えたに違いないだろう。
その裏で組織の言いなりにならなければいけない林の心の中には大きな葛藤があったはすだ。
林は泣く泣く淡々と滝川が考えた原稿を都内の視聴者に読み聞かせたのだ。もちろん警察側に知れ渡っている。
組織内で警察である林を利用して東京都内の電波をジャックして国に宣戦布告する放送を流すという話し合いが決まりそれを実行した後である。
林「これで文句はないな…」
滝川「上出来です。」
花「秀人これであなたも私たちの仲間ね。」(本当にこれでよかったんだよね…)
花はとても嬉しそうであったが心のどこかで複雑な自分が紛れていた。
家入は涙を流してしまった。
滝川たちがアミュ真宣教のメンバーであることはまだ警察側には判明されていない。
だがあちらに与えた情報は組織名と林がメンバーであることだけである。
正真正銘の犯罪者としてみなされることになり、もう林は逃げ場を失ってしまったのだ。
川代たちが人質となってしまったことで何もできず滝川たちの都合のいい駒と化した。
林「これで家さんとみんなを解放してくれるんですよね?」
やはり林自身こうなることは覚悟していたようで、自分を犠牲にし家入たちを解放するという条件で彼らの作戦に加担したということだ。
滝川「ええ、取引が成功したら約束しましょう。」
山本「人質を持っているとはいえ本当に奴らは50兆円を持ってくるかわからないぞ。」
山本「こいつが指名した男が来るかどうかもわからない…」
滝川「さあどうでしょうね~」
滝川「林さん、あなたが指名した安田という男は巡査部長という高い役職に就いておりますが」
滝川「彼はあなたにとってなんですか?」
林「私の先輩です!師匠です!」
林「安田巡査部長は最後まで私を信じてくれるはずです!みんなもきっと同じ考えだ!」
組織前にして林は堂々と自分の師を仲間を信じた。
滝川「ふふそうですか。あなた自身裏切っても決してあなたのお仲間は最後まで裏切らないでしょう。」
林「く…なんてことを!!」
滝川のひねくれた発言が林の心に刺さるのであった。

人質の解放を条件に明日の10時に東京タワーで身代金50兆円を譲渡するという取引が組織と警察の間で行われることになったが
この取引に安田は応じるだろうか…

続く

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