イエイリ

第23話 アミュ真仙教

花の愛を受け止め林は警察としてあるまじき背信行為を犯してしまった。
しかしこれも人質となった川代たちに猶予を与え、救出するための策を探るためなのだ。
まだ林は警察として職務を全うしていく姿勢だ。
組織会議が開かれるそうだが林も参加となる。
会議室に入るとそこにミーティングテーブルが置かれ家入と花が着席していた。
そして猿江と竹原。
家入を除いて彼が犯罪組織の幹部と思われたがもう一人会議室に男が現れた。
昨日知り合った滝川もメンバーだったのだ。


林「滝川さんあなたもでしたか…。」
滝川「驚きましたか?土屋さんがこっち側の人間だったことが一番衝撃的だったと思います。」
滝川「しかし内心私も驚いているんですよ。」
滝川「警察であるあなたがこちら側につくことにね。」
当初の計画には警察が組織の仲間になるなんてことは当然なかったのだ。
家入には仲のいい警察がいて大学の先輩でもあり今も交流を続けているのだ。
それが林である。
おまけに川代も消防隊員で有効な関係を築いている。
昨日の道玄坂のアパートでの会話で全て滝川に把握されてしまっている。
花の功績が大きく、計画がスムーズに進んでいる。
まさか警察まで味方になるとは思わなかった。
滝川「苦渋の決断だったでしょう。お気持ち察します。」
詮索はしてこなかったが林が組織の仲間になった理由は大体わかっているそうだ。
林「大勢の人が傷つき苦しんだ。何が目的なんだ?」
滝川「一言二言で我々の目的を全て語り尽くすことはできません。」
滝川「簡単に世界征服が目的と言っておきましょう。」
滝川「それでは改めて、私はアミュ真仙教の幹部の滝川です。ようこそ我々の組織へ!」
林(アミュ?)
「アミュ」という言葉に聞き覚えがあったがすぐには思い出せない。
組織名はアミュ真仙教であることを知ることができた。
世界征服と銘打っただけあって有言実行している。
連日に大規模なテロ事件を起こし今や東京は大混乱に陥っている。
事件が消息しこの組織が解体されたとしてもアミュ真仙教は歴史に名を刻む最悪な犯罪組織として記憶されるだろう。
滝川「渋谷で発生させたあの白い煙はなんだと思いますか?」
林「あれを吸って人々は苦しみ被害を与えた。有害な成分や毒が含まれているのはわかっている。」
滝川「ふふ…もう言いますがあれはサリンなんですよ。」
林「サリンだと!」
滝川「警察ですから当然サリンのことはわかりますよね。」
林はサリンをもとから知っているわけではなかった。
それを聞いて土屋氷魚の日記を思い出した。
あの日記は英語の筆記体で書かれていたが書体が崩れていて読むのが困難であった。
最後のページの文章に赤い文字が書かれていてI'm tired(アイムタイーアド)と最初は思っていたが筆記体の方で訳した結果sarin(サリン)であるとわかったのだ。
最初の綴りもI'm(アイム)でAmu(アミュ)と読むことができる。
土屋氷魚はアミュ真仙教がサリンをばらまく犯行を計画していたことをメッセージとして残していたのだろう。
きっと氷魚の日記には彼らにとって不都合な真実が書き記されているのかもしれない。
ならばなぜ組織側にいる花が遺品として警察側に日記を提出したのだろうか。
解読できる人がいなかったからなのか本当は花もこっち側で警察に渡して解読し真実を明かしてほしいからなのか
もし花がアミュ真仙教という犯罪組織に追従し信頼を置いているのであれば警察にあの日記を渡さないはずだ。
思いを寄せ愛すると誓った林は花のことを信じたいと思った。
花があの時、力になりたいと言ったことを忘れたわけではない。
巡査部長の安田に渡しすでに警視庁にある。
解読し捜査を進めているはずだ。
日記の存在を知っているのは林と花そして家入だけだ。
存在はもちろんその日記が警察側にあるとほのめかすような言動はしないようにするべきだ。
満身創痍だった家入も林がついてくれたおかけで落ち着いている。氷魚の日記のことは忘れているはずだ。
サリンについては科捜研の五十嵐から聞いている。
林「サリンのことは少し知っています。捜査に科学の知識はある程度必要なので」
林「しかしどうやってそれを作ったのですか?」
サリンの出所を聞き出せるか…
滝川「教える気はありませんが知ったところでもうどうでもいいです。」
滝川「サリンを作ったのは私です。あとそのサリンを放出させる装置を開発したのも私です。」
滝川「装置はあと2つあって川代さんを乗せたトラックに1つ、そしてもう1つは」
山本「準備できたぞ」
滝川「ありがとうございます。彼は山本です。」
遮られてしまったが山本という男が機材を運んできた。
滝川「林さんにはこれからやってほしいことがあります。」
林「私になにを?」
滝川「全員集まりましたので会議の中で話します。」
アミュ真仙教の会議が始まったが林に何か役割があるそうだ。


また新たな計画に向けて会議が始まったが東京都内は大規模なテロ活動により混乱状態になっている。
府中刑務所に自爆テロを起こし凶悪犯を脱獄させそれに合わせ各地で刃物襲撃が起きてしまった。
脱獄を許してしまった囚人の中には恐ろしい人物がいて彼の名は伊龍である。
伊龍は日本各地で連続殺人事件を起こしている凶悪犯で趣味が人の血というほど精神異常者である。
そんな彼は昭和のスプラッターという悪名を持つ。
指名手配犯として警察に追われる身となり行方をくらましながら逃げるが警察が地獄の底まで追い詰めるのかの如く死力を尽くし捜査を続けようやく捕まった。
東京の府中刑務所に収監され裁判所で死刑判決となり昭和のスプラッターの終焉をむかえていた。
だがアミュ真仙教の構成員によって刑務所を爆撃し伊龍含み囚人たちは脱獄されてしまった。
テロ活動に参加と組織の加入を条件に脱獄させ、今回の刃物襲撃を手伝うことになり伊龍も一役買ったというわけだ。
現在伊龍はバイクを盗み府中から約6kmぐらい離れ、川崎街道を経由して東京都多摩市にある桜ヶ丘公園付近にいた。
そこで落ち合うことを約束している。
11月下旬公園のイロハモミジが赤く鮮やかに紅葉している。
血を好みし昭和のスプラッターを歓迎しているかのようだった。
死刑が下されわずかな命の灯が再び大きく燃え上がる。
死刑を免れまたとない機会に恵まれた伊龍は組織に忠誠を誓うだろう。
しかし好機を得た伊龍であるがナイフを忍ばせ警戒しながら木陰に潜み移動していた。
注意すべきは警察で血眼になって脱走した囚人たちを追っているはずだ。
伊龍も例外ではないが彼が要注意人物として追跡しているだろう。
捕まれば間髪入れずに死刑もしくはその場で殺されることもある。
刃物襲撃の手伝いに喜んで協力しこの日何人か刺し殺している。
殺しには一切の迷いのない彼も自分の命は大事のようだ。
パトカーのサイレンは今のところ聞こえない。
サイレンを鳴らせば近くに警察がいると知らせてしまうのでサイレンは鳴らさないはずだ。
伊龍「ここであってるのかな?」
車の走る音も聞こえない。
桜ヶ丘公園に来るように言われたので組織の構成員の誰かはここに来ると思われる。
伊龍「誰かいる!」
人の気配を感じ刃物をみえないように構えた。
「そこにいるのは伊龍か?」目の前に伊龍かどうか尋ねる男が現れた。
ロカビリーファッションでボンパドールヘアーである。
ボンパドールヘアーとは前髪を後ろに流しボリュームと丸みを持たせたスタイルだがこの男の髪型は若干リーゼントにも見える。
年齢は40代前半ぐらい強面で目で見てわかりやすいく悪者そうだ。
見た目に反しこの男が警察かもしれない。
伊龍「いえ、人違いです。」
男「とぼけても無駄だ。お前のことは知っている。」
伊龍「やっぱり警察だったか」
刃物をむき出し思いっきり男に襲い掛かる。
しかし男は伊龍のナイフ攻撃をひらりとかわし手首を掴んだ。
伊龍(ゲ!強い!!もうダメか~)
男「落ち着け!俺は警察じゃない、その名の通りお前は乱暴な奴だな。」
男「俺は茂田井だ。アミュ真仙教の幹部だ。」
茂田井「政府が外出禁止命令が出されている。ここに来るのはお前しかいないはずだろ。」
伊龍「えそうなの!早く行ってよ!」
伊龍「え~とアミなんとかだっけ?」
茂田井「アミュ真仙教だ。」
伊龍「そうそれ。いや~助かったよ。逃がしてくれてありがとう」
茂田井「お礼はいらん。その代わり俺たちの計画に尽力してくれればいい。」
茂田井「お前のナイフ裁きよかったぞ。伊達に人殺ししていたわけではないな。」
伊龍「馬鹿にしてる?」
茂田井「いやいや俺の見てきた中ではな。」
伊龍「ちぇやっぱり馬鹿にしてる。」
殺す気で攻撃したがこの男にはまったく歯が立たなかった。相当な手練れだ。
手首にしびれと痛みを感じた。
犯罪組織の幹部と言っただけのことはある。
茂田井は伊龍を公園の西口の方に誘導した。
そこには黒いワゴン車があり、その車の所有者が茂田井だ。伊龍を乗せてアジトに戻る。
茂田井「これからお前をアジトへ連れていく。」
茂田井「お前は即戦力になる。かなり人員が減ったからな。」
いくら凶悪な犯罪集団でも人員に限りがありアミュ真仙教も同じく頭を悩ましている。
伊龍たちを脱獄させた目的は人員補充するために過ぎないだろう。


伊龍「あんたらの組織にはおかしな人とかいそうだな。」
伊龍「刑務所で自爆する人がいた。」
茂田井「そうでもしなければお前たちは刑務所から脱出することはできなかった。」
伊龍「いくらなんでも俺じゃまねできないよ。」
府中刑務所で行われた自爆テロについて言及する伊龍。
本来テロや何かを攻撃するにしても実行側は逃げることを計算にいれ生き残ることを念頭に置くことが常識だが、その常識は自爆テロにはあてはまらず
自らの命を引き換えに相手をも巻き込み起爆するのだ。
常識が通じないため対策の余地がなく非常に危険な行為だ。
精神異常でもある伊龍でも理解に苦しんでいる。
しかしそれに助けられてはいるので一応感謝はしている。
茂田井「檻に閉ざされし地獄の番犬解き放つ者よ神風とならん。」
伊龍「なにいってんの?」
茂田井「アミュ様の名のもとに俺たちが計画を遂行するための合図みたいなものだ。アミュ様がこの組織のリーダーだ。」
伊龍「ふ~ん変わってるね。んで俺を助けるのが計画だったの?」
茂田井「お前だけ助けたわけじゃないけどな。この計画は他の計画と同時進行でやった。」
茂田井「警察らを混乱させるために強引にやった。」
茂田井「神宿るは、地獄の業火燃え盛らん」
茂田井「そしてお前らにやらせた計画は眠れぬ地に血をささげ今こそ眠れ!っだ。」
新宿の大規模火災と伊龍たちにもやらせたのが東京都各地による無差別刃物襲撃である。
では最初に茂田井が言った檻に閉ざされし地獄の番犬解き放つ者よ神風とならんとはなにか。
檻に閉ざされし地獄の番犬は伊龍たち囚人なのであろう。
神風は府中刑務所で自爆テロを起こした男であり神風特別攻撃隊になぞられたものであろう。 神風特別攻撃隊とは第二次世界大戦を最後まで戦った部隊で爆装航空機による体当たり、いわば自爆特攻を用いた戦法でアメリカ海軍に攻撃し多大な損害を与えた。
命を引き換えに特攻する戦法は評価に値せず今日においても批判の的になりがちで人が人にしていいものではない。
太平洋戦争で日本軍は大きく劣勢し戦う力はほとんどなくなってしまい苦難の末編み出したのがこの戦法であった。
この作戦に強いられた日本兵の中には若者もいた。
当時国のために戦い散っていくのが名誉とされる価値観であったが死ぬことへの恐怖や迷いがでてくるのも当然である。
国のために戦った兵士たちの覚悟は計り知れない。
だが今国に反旗を翻す組織が現れ皮肉にもそれと似たテロが起きてしまった。
一寸の狂いもなく成功させることを目標としているだろうが計画を立てる中で自爆テロすることに反対するものや疑問を持つ者はいなかったのだろうか。
そこまでする覚悟があったのか。
茂田井「始めは俺も刑務所に自爆攻撃する計画は反対だった。」
茂田井「だがその作戦に自ら志願する男がいてな」
茂田井「そいつは重い病気を抱えていていつか死ぬかわからないくらい危険な状態だった。」
伊龍「なんでそんなのがいるの?」
茂田井「ホームレスだったんだよ。事情があってまともに支援を受けられなかったらしい」
伊龍「それで国に恨みを持ったの?」
茂田井「さあな仲間になった頃にはすでに手遅れだった。」
茂田井「俺は軍隊にいたからな。戦闘訓練の指導は俺が担っていた。」
茂田井「そいつにも教えたが立っているだけでもやっとだった。」
茂田井「組織にいてほしくないのが本音だったがあいつは自らからの意思でこっちにとどまっていた。」
茂田井「だがあいつはよくやってくれたと思うぜ。あの作戦はあいつにしかできなかった。」
茂田井「名誉ある散りざまだと思わないか?」
伊龍「いや知らないって…けど助けられたのは本当だし感謝はしておくね。」
伊龍「軍人だったんだね。強いわけだ納得。」
茂田井は元軍人だった。
なぜ彼が犯罪組織の幹部になってしまった理由は猿江たち同様だが
組織の同胞たちに戦闘訓練をさせるほどまでしているということは国により強い恨みを持っているに違いない。
刑務所に収監されている犯罪者たちを解放させ組織の仲間に入れさせようとしているのだ。
組織側は人員集めが目的ではあるがその一方歯車になることが条件となったが脱獄できた伊龍たちは言うことを聞いて任務を遂行するだろう。


警察たちは府中刑務所を脱獄した犯罪者を追いかけていたが、刃物襲撃に被害を受けた人たちに気を取られてしまい見失ってしまった。
目の前で被害を受けた人たちを無視するわけにはいかない。
取り逃してしまったが次は絶対に捕まえなければいけない。
これからまた同じようなテロが起きるはずだ。
これ以上は看過できないため警視庁で犯罪対策会議が開かれた。
安田の吉永、その他の警察職員らも会議に参加した。
組織犯罪対策課4課の一条がこの会議を仕切る。
組織犯罪対策課4課はマル棒ろ呼ばれているが暴力団などの反社会勢力を取り締まる。
一条「吉永が土屋氷魚の遺品の日記からアミュ真仙教という組織名が浮かび上がった。」
一条「今回の事件と深いかかわりがあるとみてこの組織を反社とみなし捜査を進めることになった。」
一条「この事件は昨日の渋谷から始まったものではない。」
一条「土屋氷魚が殺害されたあの日、蔵冨工業の殺害事件が布石だったと言わざるを得ない。」
一条「吉永が解読を進めているが土屋氷魚が遺した日記が事件の鍵を握っている。」
松葉「科捜研の方から聞きましたが渋谷の放出された毒はサリンであると考えます。成分もほぼ一致していました。」
松葉「日記の内容からサリンを製造すると思わしき文章がありました。」
松葉は組織犯罪対策課5課に属する。
4課と同じく犯罪組織を取り締まるが特に銃器や薬物を担当している。
吉永「神奈川県厚木市を拠点に製造されたと思われますので神奈川県警に調査を依頼しました。」
一条「サリンの出所と製造は5課に任せるとして今日もえらくやばいことが起きたな。」
一条「府中刑務所に自爆攻撃した男は誰かはわからない。身元が分からないほど損傷してしまった。」
一条「相当威力が高い爆弾を忍ばせやがって!こんな時代に自爆攻撃とはやってくれるな!」
一条「アミュ真仙教の構成員だろうが蔵冨工業とグルだったとはな。」
安田「奴らが情報を隠し持っていたのかもしれん。」
アミュ真仙教の全貌は明らかになっていないが府中刑務所の脱獄者は把握している。
蔵冨工業の殺害事件の受刑者ほぼ全員、そして過去に恐ろしい犯罪を起こした凶悪犯も何人かいる。
その中で一番警戒しなければいけないのが伊龍という男だ。
今後起きる組織のテロ活動に彼らが関与することは必然だ。
安田「伊龍か…今日が執行日だったはずだが。くそ!またあいつが暴れるのか!」
一条「国民の平和だけじゃない、国力に甚大な損害と経済損失も与えかねない」
一条「未然に防ぐことは可能か?東京のどこを狙う気だ?奴らは俺たちの意表を突いてくる。」
次に東京のどこを狙ってくるか見当がつかない。もしくは他県を狙うことも考えられる。
氷魚の日記だけでは期待できない。
核心には迫りつつも内容はあくまで彼が謝金の関わる話がほとんどだ。
安田「新宿の戦いで自衛隊が勝って放火のテロ集団を捕獲した。」
安田「東京拘置所に収監して全部吐かせる。どんな手段を使ってでもな。」
東京拘置所は葛飾区の小管にある。
そこで事情聴取しアミュ真宣教の犯行計画の全て洗いざらい聞かせるということだ。
だが
「大変です!」
一人の警察職員が会議室に息を切らし駆け込んだ。
安田「何事だ!?」
「拘置所に収監されたテロ集団全員自害しました!」
一条「なんだと!」
軍用のコンテナから白い煙が放出されたそうだ。
その中にアミュ真仙教の構成員らが中にいて拘束されていたのだ。


恐るべきアミュ真仙教、彼らを止める術はあるのだろうか。

続く…

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