第22話 背信する林
犯罪組織アミュ真仙教に捕まり人質となる林と川代たち。
花が組織の仲間であると知り林は絶望する。
彼女と過ごした時が音を立てるように崩れ去った。
そして花は宙吊りになった林にこう語りかける。
組織の仲間にならないかと。
これは彼女の告白の返事でもあった。
組織の勧誘に林の返事は。
花「林さん、あなたの返事を今すぐここで聞かせて!」
林「花さん…」
川代「花てめえ!!」
宙吊りにされ地につかない足を激しくばたつかせる。川代なりの必死の抵抗だ。
林は警察として犯罪組織の勧誘は断固拒否すると思われる。
しかし川代と同じ縄で天井に吊るされて身動きが取れない状態である。
打ちひしがれる林に今このような状況で正常な判断ができるのだろうか。
本人も状況の整理が追い付けていないはずだ。
彼女たちは武器を持っていて銃をちらつかせている。
慎重に言葉を選ばないとその銃で撃ってきて殺されてしまうだろう。
さらに花は追い打ちをかける。
花「家さん!来て!」
家入「え?あっはい」(ああ~そんな~)
家入も犯罪組織の仲間であることは知らせる。
林「家さん!!」
川代「あのやろーー!」
花「家さんも言って!私たちの仲間に入れさせるように」
家入を使って林を組織の仲間に入れさせるよう説得させる。
林「どうして家さんまで!」
家入「えっと…これには深いわけが…」
足が震えてまともに喋れない。
花「ほら早く言いなさい…」
花は家入の背中に銃を突きつけ脅す。
従わなければ躊躇わず引き金を引くはずだ。
林はそのそぶりを見逃さなかった。
家入の怖がっている様子が林に伝わった。
林を組織に勧誘させることしか家入には選択肢がなかった。
家入「林さん…僕たちの仲間になりませんか…」
川代「林!家さんは!」
林「わかってる…」
花「何言ってるの家さんは自らの意志で仲間になったのよ!」
林は惑わされなかった。彼の意志で組織の仲間になったのではないと。
林はすぐに冷静さを取り戻す。
この状況を見て家入が組織の一員になった経緯は考えるまでもない。
警察もしかり一般人も就職や営利団体や法人などに属する場合
契約上、反社会的勢力に対する基本方針にて勧誘またはそれに関連する取引は一切拒否しなければならない。
反社会的勢力の勧誘もそれ引き受けるのも法律上立派な犯罪なのだ。
そんなことを知らなくても家入が犯罪者になることはない。
本人は渋谷事件に巻き込まれそうになったと言っており他の目撃者も彼と同じ証言をしていた。
つまり本人の意思ではなく脅されてやむを得ず従うしかなかったのが妥当だ。
彼女もそういった理由で組織に加担したのだろうか。
しかし目で見てわかるくらい怯えている家入に対し花は肝が据わり冷静だ。
拘束されているが故、警察を前に強気な姿勢でいられるのだろうか。
急に土屋氷魚を殺したと自ら告げたがそれが事実であるかどうかはわからない。
犯罪組織の勧誘に対しその返事はNOであるが拒否すれば川代たちも命の危険に晒される。
家入りも殺されてしまうかもしれない。
家入を強制させたのも川代たちを人質にしたのもおそらくこれが狙いだったのだろう。
要求には応えない断固拒否というスタンスでいきたいがずっと黙っているわけにもいかない。
捕まっている川代をなんとかしたい。
花は林の告白に嬉しく思っていて好意を持っているがこんな形で返事を聞きたくはなかった。
彼を縛り付けている縄は、運命の赤い糸とでも言うのか。
犯罪者である花をすべて受け入れるのが愛なのか優しさなのか。
林「川代…家さん…みんなごめん…」
林「全部俺が悪い!!これは全て俺の責任だ!!」
花「私が組織の仲間なのは知らなかったのは残念ね…」(林さん…)
林「俺のせいでみんな巻き込まれてしまった!」
川代「お前のせいじゃねえよ!自分を責めんなよ!!」
良かれと思ってやったことが裏目に出てしまいみんなに迷惑をかけたことを責める林。
家入のアパートに花を招き入れたのは林で川代を紹介したのも林なのだ。
彼は知らず知らずのうちに情報を彼女に与え組織の方まで伝達していってしまった。
家入の住所を知っているため彼は真っ先に捕まってしまい
そして川代も渋谷事件後の処理をしていると話の中で知られ混乱に乗じて捕まえたのだ。
渋谷襲撃、新宿放火、東京都各地で無差別の刃物襲撃これらの犯行計画が
ここまで思い通りに運んでいったのは林の失態が大きい。
昨日の夜滝川という男が家入の道玄坂のアパートに引っ越してきた。
滝川も花の仲間なのかもしれない。
空きの住居があると彼女は把握している。元は次の引っ越し先の候補であったのだ。
林の大先輩である安田も同僚の熊谷も花が怪しいと感づいていた。
彼女が住んでいたアパートが取り壊れたのも渋谷事件当日だったのだ。
騒動が落ち着くまで彼女の行方が分からなかった。
あそこで気付くべきだったと後悔した。
林(安田巡査部長…熊谷さん…俺は警察失格だ!なんてことをしてしまったんだ!)
花に初めてあった時、クラっとした変な感覚はなんだったのか。
彼女は怪しい人であると国と町の治安を守る警察として備わった本能的なセンサー的な何かか
はたまた恋の誘惑と運命的な出会いによって起きた何かなのか。
結局花をかくまい家入と川代、それだけじゃなく川代と同じく勤務されている消防隊員たちまで巻き込んでしまった。
真面目で仕事熱心な林が花に恋い焦がれる。
彼女を守りたいとする使命は単なる花と関係を持ちたいという下心に過ぎなかったのである。
職務を果たさず私情をはさみ彼女を自分のマンションまで連れていき住まわせてしまう始末だ。
林(俺は本当に警察なのか?)
花「ねえ…林さん、私たちの仲間になるの?ならないの?」
無情にも林に犯罪組織の勧誘をしてくる。
今までしたことを悔いてしまっても仕方がない。
林は腐っても警察だ。
川代たちをなんとしてでも解放しなければいけない。
林は賭けに出た。
林「わかったよ!君たちの仲間になるよ!」
川代「林!!!なんでだよ!!」
林の返事に驚愕した。
林の背信行為は警察を裏切るだけじゃない国や政府をも敵に回すことだ。
川代「気は確かか林ーー!」
駄々をこねる子供のように激しく足をばたつかせる。
丸山「落ち着け川代!!」
川代「丸山さん…だって!だって!」
丸山「うるせえ!静かにしろ!!」
落ち着きがない川代に憤慨する丸山。
彼女の要求に応じたのも林なにか考えあってのことなんだと思う。
それが彼らに感づかれないように配慮しどのような結果になっても受け入れる姿勢を見せるべきだ。
川代「うああああ嫌だ嫌だ!!」
林(川代、やっぱり怒ってるよね。)
林(でもこれでいい)
川代が暴れれば暴れるほど仲間を裏切り組織に寝返ったのだと思い知らせることができる。
きっと川代はそれを狙っているかもしれない。彼らしいフォローと言える。
林「1つ条件がある!」花「なに?」
林「川代たちをみんなを解放してやってほしい!」
林は組織の仲間のなることを引き換えに川代たちを解放させることを要求した。
猿江「ふっそうきたか。」
だが彼らも林がそのような要求をすることは想定していた。
花「ありがとう林さん。」
花「けど彼らを解放することはできないわ。」
花「わかっているわよね。」
当然人質を解放するという要求は応えることができない。
人質がいるからこそこの取引は成立しているのだ。
花側には人質の解放はデメリットしかない。
犯罪者の顔が知られているだけでも警察側にとって有益な情報になる。
応えられないにもかかわらずなぜ林は仲間になってまで人質の解放を要求するのか。
全員人質を解放することが望みではあるができるだけ猶予を彼らに与えるのが目的なのだろう。
つまり花たちが妥協案を出してくるのが狙いだ。だがこれも想定済みである。
花「解放は無理だけどしばらく川代さんたちに手を出さないでおいておくわ」
これでしばらく川代たちの命の保証を得ることができた。
花「さあ林さん、もう一度私に好きって言って!!」
花は林に愛の告白もう一度要求した。
花「愛していると言ってちょうだい!!」
もう従うしかない。
林「花!!好きだ!!愛している!!」
一体何を見せられているだろうか。
ただ犯罪組織の仲間になるだけでなく花と愛の誓いを交わすのであった。
花「これから私と愛し合っていきましょう。秀人…」
警察ではなく犯罪者として林こと林秀人は土屋花を愛し組織の仲間として任務の遂行することを誓うのであった。
花は林を下の名前で呼ぶようになった。
花「家さん、秀人の縄を解いてあげて」
家入「はい…」
川代「あああああ!林お前絶対に許さねえぞ!!」
川代「ゴホゴホ!はあ…はあ…」
怒りのあまりに激動したせいか息を切らしむせてしまう。
その後川代は大人しくなった。
梯子を使って林のもとまでのぼり落とさないように縄を解いた。
そして家入は林と小声でで語り掛けた。
家入「林さん、こんなことになるなんて」
林「家さんこれは全部俺の責任だ。」
林「あの女に…俺が家さんの住所を教えたからね…」
家入「林さんは善意でやったんですよね。」
家入「だから私は林さんを責めません。」
林「いいや本当に申し訳ない。警察なのにあるまじき行為をした。」
林「あの日、渋谷事件が起きた日、家に送った後に捕まったんだよね。」
家入「はい…」
林「やっぱりそうか…」
思った通り家入は渋谷事件が起きた日、林が家入を家に送った後花たちに捕まってしまったのだ。
林「家さんはまだ人を殺していないよね?」
家入「はい…」
林「ならまだ助かる」
林「俺がみんなを助けるから絶対に!」
家入「ありがとうございます。」
家入は涙を拭いた。
家入にとっては林は心強い味方だ。
そばにいてくれて本当にありがたい。やっぱり林は立派な警察だ。
林「家さんが組織に加担していたことは死んでも隠し通すよ。墓場までね。」
林「家さんは悪くないから。きっと川代もみんなも許してくれると思うよ。」
わずかな希望の光が眩しいほど大きくなり勇気が湧いてくる気がした。
この林の人柄に花も惹かれたのだろうか。
責任感が強く世話焼きなところがあってこのような結果を招いてしまったが
林に一生ついていこうと家入は思うのであった。
また林と川代と三人で食卓を囲んでいたいと強く願った。
川代(林…お前ってやつは)
林の背信行為には意味があると友人である川代なりにわかっている。
今すぐにでも殺されるかもしれない絶望的な状況だったが林のおかげで猶予を与えられた。
それなのに彼に怒りをぶつけたのはこのやり場のない気持ちを晴らしたかったのだ。
林には申し訳ないと川代は深く反省した。
先輩の丸山やみんなにも迷惑をかけたことも申し訳ないと思っている。
これから大人しくしていないとまずいことになる。
林に何かしてあげたいが何もできない。
今は林にすべて任せるしかない。
林は家入の手によって拘束を外された。
持っていた拳銃も身に着けていた通信機器もすべて取り除かれていた。
今この状況を打開する手立てはない。
複数人相手に敵えるはずがない。
花の一存で川代たちは生かされたので彼女が組織の中心なのだろう。
恋仲ではあるが組織の決定権はまだ委ねられていない。
多少リスクを負ってでも強い信頼関係を築くことができればこの組織をコントロールできるかもしれない。
林はそのような方針で固めるのである。
犯罪者に染まらず常に打開策を考えるのが警察の務めなのだ。
猿江「こっちへこい」
猿江に案内され着いて行った。
川代たちは宙吊りにされたままで他の仲間が彼らを見張っている。
猿江「これに着替えろ。」
更衣室のところに連れて来られて猿江が持ってきた服を着るようにと命令される。
猿江「俺は猿江だ。」
猿江「お前のことは姉貴と家入から聞いている。あの川代って男もな。」
猿江「川代って男はしつけえ奴だな。」
林「あいつは正義感が強くて曲がったことが嫌いなんだよ。」
猿江「それはお前も同じだろう。」
猿江「すぐに俺たちの仲間になるなんてな。なんか企んでいるんだろ?」
林「いやなにもないよ。俺は花を愛しているだけだ。」
猿江「姉貴を呼びつけしやがって、だが姉貴に好かれているのは事実だ。」
竹原「おっとても似合うじゃないですか。俺は竹原よろしくです。」
林が着た服は彼らの同じフード付きの黒いコンバットシャツである。
竹原「ミーティングが始まるんで林さんも来てください。」
組織内の会議が始まるそうだが林も参加である。
竹原についていき会議室のような場所に入室した。
そこにはミーティングテーブルが設置されていて家入と花が着席していた。
花は立ち上がり林に抱き着いてきた。
花「秀人!とっても似合うわ!!」
組織の一員になったことが彼女にとって嬉しいのだろう。
だが林は全然嬉しくなかった。
こんなに大胆でももし犯罪者ではない純真無垢な彼女だったら百歩譲って受け入れていた。
「まったく土屋さんの男たらしには目を見張ります。」
「ですがよく林さんを説得できましたね。」
もう一人男が会議室に入ってきた。
その男に見覚えがある。
滝川「昨夜はどうも、改めて滝川です。」
林「やはりあなたも…」
林の前に現れたのは滝川である。
犯罪組織アミュ真仙教の仲間になってしまった林は彼らとどのようになやり取りをしていくのだろうか。
続く…
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