イエイリ

第21話 人質

川代とその消防隊員たちは犯罪組織アミュ真仙教に捕まりアジトへ連れていかれてしまう。
家入も同行しているが最初に連れていかれたアジトとは別の場所で廃墟のような施設だった。
ここで何をするのかわからないが専ら酷いことをさせるはずだ。
家入のように組織の手先になるか、人質になるか最悪殺されるのか。
家入が犯罪組織の仲間であると知り裏切ったと絶望する川代と猿江にいいようにされて従うしかない家入。
だが家入は裏切っていないと川代は信じている。
猿江は二人の関係を断ち切らせどん底に突き落とそうとしているが
家入と川代の絆の糸は断ち切れない。
光が届かぬほど奈落へ突き落される家入と川代、そして一緒に捕まってしまった消防隊員たち。
この先の不安や拭えないがそれでも希望を持ち続けている。
しかしここで悲劇は終わらない。
家入と川代はまた新たに衝撃を受ける。
捕まったのは川代たちだけではなかったのだ。
なんと林も捕まってしまったのだ。


川代「林!!!!!!!!」
後から来た貨物車には花と竹原が乗っていて竹原が台車で林を運んでいるのだ。
林も縄で縛られていて身動きが取れない。
また気を失っている。
不意を突かれてしまったのだろう。
川代「花さん!なんで!」
花も一緒にいたことでさらに驚く。
花(なんで川代さんも捕まってるの?)
川代も捕まっていることに花も驚く。
川代「花さん!あんたもか!」
川代「林をやったのか?」
花「そうよ。まんまと罠に引っかかったわ」
花「私が組織の一員とは知らずにね」
花「まあ私が魅力的でかわいいからね。きっと体目当てだったのよ」
花「私のことが好きって告白したのよ。この男ホント馬鹿ね」
川代「花!!てめえ!!」
あのおしとやかで物静かだった花が豹変する姿に驚きはしたが
林を侮辱する彼女に川代は怒りを覚える。
化けの皮が剝がれ本性をあらわしたが人を見下す態度が強く印象に残り
その不敵な笑みが不細工に見える。
一昨日林と家入の宅で四人で食事したが彼女の手料理の上手さとかわいさに林と同じように惚れたことが馬鹿らしく思えた。
川代「花!林はな!てめえのことが心配だったんだよ!」
川代「あいつは困っている人を放っておけねえやつなんだよ!」
川代「俺たちと一晩過ごしたあの時点であんたの兄の死は確定していた。」
川代「兄の死を伝えたらきっと悲しむと思ってよ」
川代「あいつは少しでも、1秒でも猶予を与えていたんだぞ!」
花「フッあのクズは私が殺した。」
川代「はあ!?…なに!?……うそだろ…」
兄の死の真相を川代にも告げた。
全て花の自作自演だったのだ。
川代は花の兄である土屋氷魚の遺体の回収をしていたのでわかっている。林も一緒だった。
遺体はバラバラで目を覆い隠したくなるほど惨たらしかった。
さらに生首は陸橋に捨てられてあった。
殺したいほど恨みがあったのかもしれないが自分の家族にあそこまでするとは思えない。
川代「てめえ!!自分が何してんのかわかってんのか!」
鬼のような形相で花を睨みつける。
怒りに身を任せ川代は縛りつけている縄を力尽くで解こうとした。
しかしそう簡単には解けずきつく縛られている。
丸山「おい無茶するな!」
川代「ぐぬぬぬぬ!」
無理に解こうとすると皮膚が剥けて怪我する恐れがある。
もし解けたなら花に二度と美しい顔を武器にできないぐらいに骨格を歪ませるほど殴ろうとしていただろう。
猿江「コノヤロー!!」川代「うお!ぐは!」
丸山「川代!!」
その代わりに猿江が川代を殴り突き倒した。
猿江「姉貴に怒鳴り散らすな!大人しくしていろ!」
猿江「今度はただじゃおかねえ!」
丸山「おい川代、いい加減にしろ!」
丸山「気持ちは痛いほどわかるが今はぐっとこらえろ!」
丸山「奴らが武器を持っていることを忘れるな。」
花も武器を持っているはずだ。
これ以上引き金を引かせるほどの刺激を与えてはいけない。
丸山「おいあの女も知り合いなのか?どういう関係なんだ?」
川代「一昨日ぐらいに知り合ったばかりです。」
川代「あの女が林の交番に来て兄の失踪届を出したんですよ。」
丸山「そうか。てかなんでこうなるんだよ」
川代「早い話が林はあの女に騙されたってことっすよ!」


花(家さんあんたも一緒ね)
川代に気を取られてわからなかったが家入の存在に花は気づいた。
自分たちと同じ装いをしているが家入にはあまり似合わない。
猿江に命令されてここに連れてこられたのだろう。
林と川代に家入は犯罪組織の仲間だと思い知らせるのが狙いのはずだ。
猿江らしい強引なやり方ではあるが腰が引けている家入には有効な手段だと思われる。
だが花の心のうちに猿江のやり方に気に食わない自分がいる。
これで正しかったのかと思う葛藤を抱えながら林を捕まえた自分を差し置いて
今更猿江のやり方を批判することはできない。
花「なんで家さん連れてきたの?同じ格好までさせて」
聞かずともわかってはいるが家入をなぜ連れてきたのか猿江に問う。
猿江「俺たちの仲間になったか確かめるためっすよ。」
猿江「警察一人捕まえるなんて姉貴は流石っすね。」
花を慕う猿江は当然彼女の行いを絶賛している。
一応林は警察である。
警察を人質にすれば政府や警察の捜査を大きく牽制できる。
できれば林を組織の一員として招き入れたいのが彼女の本音である。
だが正義感の強い林が受け入れてくれるかわからない。
花「こいつらを中に入れさせるわよ」
花「車も中に入れておきなさい。」
猿江とその他の仲間たち「了解!!」
川代「なんで…花があいつらを…」
丸山「あの女が親玉なのか?」
彼らを花が指揮っているのを見て彼女こそが犯罪組織のリーダーと川代たちは思ってしまった。
花が来るまで牛耳っていた男が言ったあの方とは彼女のことなのだろうか。
彼女はそこまでの力があるということのなのか。
ガレージが開かれ彼らを乗せた車は次々とその中に入っていく。
林は気を失ったまま台車で運ばれ
丸山も他の消防隊員もなすすべなくアジトへ連行されていく。
まるでヤギの群れを小屋に入れるかのような光景だ。
猿江「オラ!!歩けてめえ!!」
川代「ぐぬぬぬぬ!嫌だ!!!」
川代は必死の抵抗を見せる。
お地蔵さんのようにこの場を一歩も動こうとしない。
こちらはまるで首輪付けた犬が散歩を嫌がり飼い主が手を焼いているような光景だ。
丸山(あの馬鹿、もう知らねえぞ)
抵抗すれば危険な目に合うので何度もやめさせるように警告したがやめようとしない川代に呆れてしまう。
猿江「ああーーもうてめえ!めんどくせえなあ!!」
川代「ぐう!!絶対に行かねえ!!」
猿江が川代を連れて行こうと引っ張ろうとするが足に釘でも打ったのかというくらい一歩も動かない。
埒が明かないので猿江は銃口を川代のこめかみに突き付けた。
猿江「お前から先に殺してやろうか?」
川代「……くそ……」
流石に殺されるのはいやであった。
川代は大人しくなり彼らの後を追いかけるようにアジトへ入っていく。
猿江「今すぐにでもお前を殺したいが」
猿江「人質は多い方がいいからな」
やはり川代たちは人質のようだ。


中に入っていくとここは何かの研究施設なのかそれか何かを製造する工場だったのかわからない。
体を振るえながら家入は辺りを見渡す。
怖いもの見たさで廃墟になった施設に侵入するような足取りで家入は彼らの後をついて進んでいく。
肝試し以上の怖さだ。
ところどころ錆びれいていて金具が床に散らばっていた。
また割けて綿が出ているソファや家具なども置いてある。
埃かぶっているテーブルなども散見された。
何かの目的で建てられた施設だと思うがそれが使われなくなり
こうして犯罪者の巣窟と化してしまっている。
ここも彼らのアジトなのだろうか。
衛生面とセキュリティ面を考えると多分ここはアジトではなく一時的に人質を収監する場所であると見た。
川代たちは作業場のような広いところに連行された。
重量物を運ぶクレーンのようなものが複数台ある。
川代たちをどうする気なのか。
猿江「よーし今からお前らをこれで吊るし上げる。全員人質だ!」
丸山「なに!?」
クレーンを使って川代たちを吊るす気だ。
捕まった丸山とそのほかの隊員たちは縄にクレーンを通し持ち上げられそのまま天井まで上げられ
組織の仲間たちが天井の方まで梯子などで上がり彼らを落ちないようにクレーンから天井に付いているフックに縄を移し固く縛った。
猿江「家入お前も手伝え」
家入は猿江に従うしかなかった。
川代を吊るすのを家入にやらせ酷いことをさせられた。
川代「家さん!!くそ!!」
川代はクレーンでどんどん上に持ち上げられていく。
足をばたつかせるが体が浮き地面に足がつかなくなる。
宙に浮いていく川代を見届けながら家入は梯子を使って登る。
家さん「川代さん…ごめんなさい。」
家入は川代に顔を合わせジェスチャーし謝罪の念を表情で伝えようとする。
家入の表情はとても暗く悲しい顔をしていた。
家入の目から一滴の涙が。
川代「家さん…よかった。」
家入は裏切ってなどいなかった。
それがわかっただけでよかった。
川代(家入にこんなことさせるのか!許さねえ!!)
これで本当の敵は花たちであると確信した。
そして川代は丸山たちと同じように宙吊り状態になってしまった。
一連の犯行計画に過ぎないと思われるが
猿江と山本が川代たちを捕まえる直前に言い放った
「幽界に彷徨うものよ!神域へと還らん!」とは何なのだろうか。
渋谷で瓦礫撤去作業をしている川代たちが捕まってしまったが
その渋谷で事件が起き何人もの人が犠牲になった。
事件の残骸を整理するに伴い操作に必要そうな証拠物を探す川代たちが「幽界に彷徨うもの」ということなのか。
「神域へと還らん」は人質として縄で天井に吊るすことなのだろうか。
だが神域は死後の世界いわゆる天国としても捉えきれる。
それならば天に召されるまでが計画ということになる。
このままでは林と川代たちは殺されてしまう。
人質となって最終的に殺されるか組織の傘下となり犯罪者になるか
家入と同様に究極の選択を迫られることになる。
できれば全員後者を選んでほしいが
少なくとも難色を示す川代は犯罪者の色には染まらないだろう。
林も警察として組織の傘下になるような選択は絶対にしないはずだ。


林「うう…ここは!!どこだ!!」
ようやく彼は目を覚ました。
家入(林さん…)
今の姿を林には見せられない。
家入にとってはまだ眠っていてほしかった。
今すぐにこの場から立ち去りたい。
恩義がある林と川代が生死にかかわるこの事態に逃げるわけにはいかない。
他に捕まっている人もいるのにだ。
川代「林!!!」
林「あ!川代!!」
川代の大きな声が聞こえた。
林「これはいったい!どうなっているんだ!」
状況がつかめず困惑する林。
縄で縛られ宙吊りになっているこの状態では冷静になれない。
川代「林!!お前はあいつに騙されたんだ!!」
林「あいつって?」
花「お目覚めのようね。」
この時が来てしまった。
林「花さんなの?本当に…」
宙吊りにされた林を見上げる花は彼に語り掛ける。
林は花の姿を見下ろす。
花「フフ…いい気味ね。」
林「どういうことなの…どうして…」
花「林さん。私犯罪組織の仲間なのよ」
林「え?なんだって…」
林「じゃあ君のお兄さんは?」
花「私が殺したのよ…」
林「そんな…嘘だよね…」
林にも土屋氷魚殺害の真実が告げられた。
彼にとってあまりにも信じがたい事実だ。
彼女は彼の務める交番へ赴き兄の失踪届を出したのだ。
兄のことを思い悲しむ表情何だったのか。
死を告げたあの日の涙は嘘だったというのか。
花と過ごした時間が音を立てガラスのように割れていく。
林「うああああああ嘘だ嘘だあああああ!!」
林は叫ぶ。
犯罪組織の一員であることを林に見せつけた。
花の手のひらに踊らされ人質となってしまった。
兄殺しの真相がわかり花自身が殺めたことが非常に悲しかった。
林「騙したのか…」
計画のために林をも嵌めたのだ。
彼の叫びはあまりにも悲痛だ。
花は林に銃を向けた。
川代「おいやめろ!!」
林を打つ気なのか。
家入(どっどうしよう…)
花「まだ打たないわよ…」
花「ねえ林さん…」
林「花…」
花「私あなたに告白されて嬉しかったの…」
花「違う形であなたとは出会いたかったわ。」
花「けど!私はもう後戻りはできないの」
花「私たち組織の仲間にならない?林さん」
花「私のことが好きなら!」
林「え?」
これが花の告白の返事であった。
花の要望に応え林は組織の傘下になってしまうのか。
身動きができないこの状況で他の選択肢はあるのだろうか。
銃口を向けられた林。
林の応えはいかに…。


続く…

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