第20話 傍若の猿江
花の仕掛けた罠にはまり囚われの身となってしまった林だが
その一方で猿江らは仲間と家入を連れて渋谷にむかった。
昨日事件で渋谷は被害を受けており瓦礫の撤去作業を消防隊員がやっているのだが
東京都各地で刃物襲撃による被害が起きていてこれ以上被害を拡大させないために
Jアラートを鳴らし都民全員を対象に外出禁止命令が出された。
Jアラートによって渋谷にいる消防隊員も作業を中断し撤退していると思われた。
しかし作業は続行されていて最悪なことに川代が所属する神泉町の消防署が担っていたのだ。
もちろん川代もいる。
猿江は家入に黒いアーミーシャツ着させさらに銃まで持たせた。
彼らと同じ格好になってしまえば家入も犯罪組織の一員として捉えられてしまう。
今の姿を川代には見せたくないし犯罪組織の仲間だったのだと誤解されるのが一番最悪だ。
猿江と山本は車から降りる直前にこう言い放った。
「幽界に彷徨うものよ!神域へと還らん!」っと。
家入には耳に新しい犯行計画だ。
犯罪組織アミュ真仙教の計画は新たなフェーズへと移行されるのであった。
なぜJアラートで外出禁止命令が出ているのに川代たちは作業を続けていたのか。
それは政府からの指示で続行することになってしまったのだ。
すでに渋谷は被害を受けていたので再びここを襲撃してこないと判断したのかもしれない。
また瓦礫から捜査に重要そうな証拠物が得られることから
1つでも多く回収してほしいとの思惑があったのだろう。
だがそれが裏目に出る結果となってしまった。
作業を続ける川代たちの前に何台もの貨物車と大型のコンテナを乗せたトラックがやってきた。
見るからに交代の消防隊員でもないしボランティアでもない。
まずこの状況でそれらがくることはあり得ない。
川代「なんだあいつら?こんなところに来て」
丸山「メディアか?それよりなんだあのデカいトラックは?」
川代たちは何が来たのかわからなかったが車両から降りてくる彼らを見て何者かすぐに分かった。
彼らは黒い恰好をしていて銃を持っているのだ。
川代「おい…こいつら!まさか!!」
間違いなく昨日の渋谷を襲い、そして今日の新宿に大規模の火災と
東京都各地に人々を刃物で襲う事件の同一犯もしくはその仲間たちであり犯罪組織だ。
丸山「なんでこんなところに奴らが!?うそだろ…」
猿江とその仲間たちは銃口を川代たちに向けた。
猿江「動くな手を上げろ!!抵抗すれば撃つぞ!!」
川代「ちくしょう!!」
川代と丸山そして神泉町の消防隊員は抵抗せず大人しく手を挙げた。
川代たちは袋の中の鼠だ。
昨日は捜査の為警察も同行していたが今回はいない。
他のことで手いっぱいであり事件がいたるところで起きていてこちらに割く余裕はなかった。
猿江「消防に川代って言う男はいないか?」
猿江は川代を名指しした。
家入「え…」
家入は冷たい氷の中に閉じ込められたかのように全身の震えが止まらなかった。
猿江は家入と川代を会わせる気だ。
丸山「なんでやつが川代を知っているんだ?」
川代「わっわかんないんすけど…」
川代「川代は俺だ」
川代「俺たち消防になんのようだ?」
川代「それになんで俺の名前を知っている?」
猿江「フッお前のことを知っている仲間がいるんだよ」
猿江「もういいぜ!!」
家入(ああ…そんな…)
車両から降りたくないそんな思いが胸いっぱいに膨らみ吐き気を催す。
川代がどんな反応するのか怖くて足が竦み腕が震えてくる。
あってはいけないことが起きようとしてその進行を1秒でも遅らせようとゆっくり車のドアを開けた。
家入は川代たちの前に姿を現した。
川代「そんな…嘘だろ…なんで…」
川代は後退りし家入の姿を見て驚愕してしまった。
家入も彼らと同じ格好をして銃も所持していていた。
家入が犯罪組織の仲間だったと川代は認識してしまったかもしれない。
受け入れない真実に悲しみと怒りが入り混じる。
川代「どういうことだ!!家さん!!裏切ったのかーー!!」
やはりその言葉が叫ばれた。
家入(う…ごめん…)
どうすることもできない家入。
猿江「最初から裏切るつもりで俺たちの計画に協力してんのさ」
猿江「こんな腐った世の中糞食らえってな」
あることないこと言い散らす猿江。
川代「嘘だ…噓だ噓だ噓だ!!」
川代「家さん…違うよな…おい…こんな笑えない冗談よせよ!!」
猿江「受け入れろ!馬鹿め!」
川代「家さんお前に何があったんだよ!!」
川代「どんなことがあっても俺と林がお前を見捨てねえ!!」
川代「なあ…嘘だよな…こいつらに操られてるんだよな?」
丸山「川代…」
川代は心から家入に訴えかけている。
操られていると言ったのは察しがいい。
家入の目頭が熱くなる。
川代は家入のことを思い気持ちを推し量ってくれた。
川代の思いは家入に十分届いている。
こちらも訴えたいけれども遮られている。
山本が家入の後ろにいて銃を構えている。
銃口は川代たちの方に向けられているが家入も射程にあるのだ。
ここで正直に言えば猿江たちを裏切ることになり殺されてしまうし
彼らの仲間云わば犯罪組織の構成員として演じれば川代を裏切ってしまう。
林いやそれだけじゃない政府の敵にまでなってしまう。
どちらを選択しても報われないジレンマに彼は陥ってしまった。
家入「ごめん…川代さん…」
家入はどちら側もとれる返答をするにとどめた。
だが猿江は
猿江「んな訳ねえだろ!」
猿江「こいつは、お前のことが大っ嫌いだったんだよ!憎かったんだよ!」
家入(やっやめてくれ!!)
猿江は自分勝手に言いたい放題言ってくる。
川代「家さん、俺たちのことを…」
家入(違う!違うんだ!!)
猿江「ははははは!!やっと気づいたか馬鹿め!!」
家入(くそ!!猿江えええええ!!)
家入は人もなげに振る舞う猿江に血がのぼる。
あの男の脳天に持っている銃で撃ちこんでやりたいくらいだ。
全握力で銃の握把を握りしめていた。
丸山「家入…お前だけは許さない!」
川代の同僚なのか先輩なのかわからないが彼から強い殺意を感じた。
川代の先輩として怒りを隠しきれない丸山。
猿江「ここじゃあれだ。別の場所へ移すぞ。」
猿江「お前らは人質だ。都合によっては殺す。」
猿江と彼が率いている集団は川代たちを縄で腕を拘束した。
大型トラックのコンテナの中に閉じ込められた。
猿江「さあアジトへ出発だ。」
全員車に乗りアミュ真仙教のアジトに向かうようだ。
ここで家入はまた目隠しをされるのだった。
丸山「川代大丈夫か?」
コンテナの中は真っ暗であるが丸山の隣には川代がいるのがわかっている。
家入に裏切られて相当ショックだろう。
彼の表情はわからないが暗いはずだ。
丸山「こんなことになってしまうなんてな。」
丸山「お前のダチが…」
川代「家さんはずっとそばにいたんだ。」
川代「家さんがあんなことするやつじゃない」
川代「あいつは弱みを握られて操られているんです!きっと…」
川代「俺は家さんを信じる!」
丸山「川代お前いいやつだな…俺も信じる。」
家入は犯罪組織に何らかの弱みを握られていいように操られていると川代は思っている。
長年一緒にいたからこそ家入のことを知っているのだ。
彼はあんなことをする人ではないと。
家入が裏切ったのだと思い憤っていた丸山だったが川代の懐の深さに感動し家入は裏切っていないと信じた。
丸山「弱みを握られてああなっているのが筋だな…」
丸山「覚悟した方がいいぞ…どうなるかわからない」
川代「そうっすね…」
冷静になって考えてみると家入が犯罪組織に加担した経緯は何なのか想像に難くない。
囚われの身となってしまった川代たち。
人質として彼らのアジトに連れ去らてしまう。
必然と組織の情報が耳に入ってくると思うので脱出するのは容易ではないはず。
殺されるか従属するかの二択を迫れるかもしれない。
きっと家入もそうされたのだ。
コンテナの中に閉じ込められた川代たちだがようやく明かりがついて中が見えるようになった。
川代「なんだ!?これは…」
川代たちが見たのは蜘蛛の形をした装置だった。
蜘蛛の跗節をパイプ管で再現されているようだ。
今にでも動くかのような不気味さ感じる。
まさにその姿は毒蜘蛛である。
その蜘蛛型の装置のお尻の部分にランプがついていてそこからアンテナの中を照らしている。
ランプがついているせいで角度と見え方によっては蜘蛛ではなく蛍にも見えてしまう。
また装置にはスピーカーとマイクが付属されていた。
猿江「あっあっあっあ、聞こえてるか?」
スピーカーから猿江の声が聞こえる。
川代「しっかり、聞こえてるぞ!」
猿江「よし!」
マイクから川代の声を拾って猿江の方に聞こえている。
猿江「お前らが見ているその機械なんだと思う?」
猿江「これですげえことしたんだぜ」
丸山「もうわかっている!!」
丸山「これで渋谷をメチャクチャにしたんだろ!!」
猿江「そうだぜ。これを作れる優秀な仲間がいるんでな。」
猿江「この際だからはっきり言うがあの渋谷を襲撃したのは俺だ!!」
丸山「なんだと!!」
猿江は自ら渋谷襲撃事件の実行犯であると言った。
この蜘蛛型の装置を見て瓦礫撤去作業で見つけた破片の物と一致していた。
だから丸山はこれが何に使われたのかわかったのだ。
警察側ないし政府にとって重要な証拠物が目の前にあるが身動きが取れない状態だ。
この装置から放出された白い煙が渋谷にいた人々を苦しませた。
そして機動隊を怪我を負わせた爆弾も仕掛けられている。
爆弾は周辺の建物を損壊するほどの威力がある。
そのせいで川代たちは瓦礫撤去の作業を強いられてしまったのだ。
川代「これが中にあるってことは相当まずいっすよ…」
これがあるということは渋谷と同じような事件が起きるという懸念がある。
丸山「だが、今は俺たちが一番まずい状況だ…」
川代「これが何かの拍子で作動したら…」
丸山「人聞きの悪いこと言うな…」
コンテナの中にいる川代たちは、白い煙が放出するのを恐れていた。
下手に触らないほうがいいがそもそも縄で腕を縛られているため触ろうなんてことはしないだろう。
仮にこれが偽物だったとしても彼らの行動を制限するものとして十分すぎる代物だ。
猿江がこの装置を起動させる何かしらのスイッチやトリガーを持っているはずだ。
今はじっとしているしかない。
だが猿江は川代たちを煽られせようと罵倒してくる。
猿江「消防ねえ~」
猿江「俺らの不始末の片付けご苦労さんだが」
猿江「わざわざ危険なことに首突っ込んで人助けするとか頭おかしいんじゃねえか?」
川代「なんだとーーーー!」
丸山「落ち着けよ川代!」
消防の仕事を馬鹿にする猿江に川代は激怒する。
川代を落ち着かせる丸山では内心気持ちは川代と一緒だ。
他の消防隊員も誇りをもって仕事しているため怒りを堪えきれない思いだ。
猿江「悪い悪い言い過ぎたかな?」
猿江「百歩譲ってお前たちは素晴らしいことしてると思うぞ」
川代「ぐぬぬぬぬこの~!!」
からかわれているようでその物言いが気に食わない。
猿江「お前たちも結局奴らの駒に過ぎなかった訳だ。」
丸山「どういうことだ?何が言いたい?」
猿江「俺たちのせいではあるが外は危険だから避難命令が出されているはずだ。」
猿江「なぜまだ渋谷にいた?」
丸山「政府の指示だ。作業を続けろってな。」
猿江「ふっそういうことだよ。」
猿江「奴らは渋谷は二度も襲ってこないとか手掛かりになるような物を1つでも探してほしいとか思っていたんじゃねえのか?」
猿江「結局思慮が浅い政府の言いなりになってそのせいで危険な目に遭っちまったんだぜ。」
猿江「どうだ政府に恨みでも持ったか?」
川代「あんたの言うように政府はそういう考えだったかもしれねえがよ」
川代「俺たちはもう一度あの渋谷の街に元気や笑顔を取り戻したいんだよ!」
川代「お前たちの身勝手でこうなったんだろ!政府の批判するんじゃねえ!」
度重なる惨事と例外が起き猿江たちの行動が読めない状況でも政府は最善の手を尽くしているはずだ。
捕まってしまったがそれは結果論であって政府を批判するものではない。
丸山「何が目的でこんなことを!」
猿江「チッ!思い出したくもない…」
猿江「どいつもこいつも俺らを腫れ物扱いしやがって」
猿江「なんで親父は悪いことしてねえのに捕まらなきゃいけねえんだ!」
猿江「そのせいで俺の家族は崩壊した。」
猿江「全部権力や金で酔いしれた泥臭った政府らがそしてこの国が悪いんだ!」
猿江「あんな連中の下で働いているお前たちの神経はどうかしてるぜ!」
猿江の家庭は冤罪の被害を受けたのだ。
冤罪とは無実の人が罪に陥られる人権侵害のことで刑事事件で起訴された場合判決で無罪とされるのは非常に難しいとされている。
この冤罪が猿江の人生を狂わせ政府や国に大きな恨みを持つようになったのだ。
川代「だからって罪のない人を」丸山「よせ!」
川代「うわあ」
縄で縛られて動けない体を無理やり動かして川代に体当たりした丸山。
そして丸山は川代の耳元で
丸山「これ以上刺激するな殺されるぞ」
そう言って蜘蛛型の装置に視点を合わせた。
あれを起動させるようなものがあちらで持っていたら危険である。
猿江に気に食わないこと言い続け機嫌を悪くしたらあの装置を起動させてしまうかもしれない。
彼の心の中の憎悪があの装置が具象化したものだと言ってもいい。
猿江「あの方に会って俺は救われ導かれた」
猿江「あの方のためなら死んでもこの計画を成功させてみせる。」
川代「あの方?」
丸山「奴がリーダーと思っていたが違うようだ。」
あの方とはアミュ真仙教のリーダーの赤城である。川代たちには名前を伏せたようだ。
父の冤罪で家庭が崩壊した辛い過去と赤城の思想が今の猿江を形成させたのだ。
丸山「目的はこの国を乗っ取ることか?」
猿江「最終的にはそうだがまずは破壊することだ。」
猿江「もう二度と俺なんか生まれてこないようにな…」
自分みたいに不幸になり強い憎しみを持った人が生まれないでほしいと訴える猿江だが彼がしていることは許容できるものではない。
川代(あいつだったらあの男になんて言葉をかけるんだろうな…)
猿江の辛い過去そして冤罪事件の結末はわからないが納得のいく最後ではなかったはずだ。
相手の気持ちを推し量れる林だったらあの男にかける正解言葉をかけるのではない川代は林になった気持ちで考えていた。
川代(あ~わかっんねえ~)
しかしここは黙ってあの男の話を聞いているしかない。
下手に言ってさらに刺激を与えるかもしれない。
生かすも殺すもあの男の匙加減なのだ。
猿江と同じ車に家入は乗っているが猿江の話をずっと大人しく話を聞いていた。
あの危険な白い煙を放出した装置がコンテナの中にあり川代たちがその中に閉じ込められていることを知っている。
家入は目隠され前が見えず何もできずにいた。
猿江「よーし到着だ。」
アジトに到着したのだろうか
目隠しの布が外れて見えるようなった家入はあたりを見渡した。
そこには廃墟のような施設が建てられていた。
前は地下の駐車場に止められていた。
この前来たアジトとはまた別のアジトである。
猿江と山本の二人と一緒に車から降りた家入。
仲間も続々と車から降りてきた。
最後にトラックのコンテナが開いた。
中にいた川代たちは無事である。だが安心はできない。
彼らに何をするのだろうか。
家入と同じように殺されるか操られるのかどっちかを選ばされるはずだ。
そして後ろからもう一台の車が到着した。
川代「え?花さん…?なんで…」
家入(どうして花さんが…)
その車から花が降りてきた。
竹原も乗っていて台車を出して何かを乗せて運んできた。
運んできたのは…
川代「林!!!!!!!!」
家入(そんな!!)
台車に運ばれてきたものとは林だった。
同じく縄で縛られしかも気を失っているのではないか。
林も捕まえられていると知った家入と川代。
彼らの運命はいかに…
続く…
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