第2話 林の決断
林は仕事を終え、花を迎えにきた。
そして家入の家を案内する。
道の途中で
林「あの…花さん!」花「はい」
林「いやなんでもありません…」花「そう…ですか…」
彼は彼女に何かを伝えようとしたかったが何も言えなかった。
家入の家に到着した二人。
家入は玄関に二人を出迎える。
家入「いらっしゃい花さん。」花「はいお邪魔します。」
花は荷物を適当なところに置いた。
川代「よう!土屋さんはこの彼女のことか?話は聞いているぞ。」
花「初めまして土屋花です。よろしくお願いいたします。」
川代「よろしくでーす。」
川代は先に家入の家に来ていた様だ。
花「何か私にできることはありませんか?手伝います!」
家入「花さんはお客様なのですから大丈夫ですよ」
花「ええとなんか申し訳ないなと思いまして…」
彼女は下を向いてそわそわしている。
家入「う~んでしたら食材を切ってもらえませんか?まだ食材出したばかりなんです。」
花「わかりました。」
家入は花に食材を切る手伝いをさせる。
少し落ち着かない彼女にとって何もさせないよりも何かやらせたほうがいいと彼は思ったのだろう。
川代「おいお客さん手伝わせるなよ~」
林「川代、ちょうどよかった!お酒を買いに少し付き合わないか?」
川代「ああいいけど…」
林「家さん、ちょっと川代とお酒を買いに行ってくるね。花さんお料理頑張ってね!」
花「はい料理はできますので、任せてください。」
家入「花さんありがとうございます。」
林と川代は外に出た。
林は写真と携帯を出し、写真と携帯に映っている画面を川代に見せた。
土屋氷魚が映っている写真と携帯の画面は電車事故の遺体が映っている。
川代「これは」
川代は気づいた。写真の顔と遺体の顔が一致していたのだ。
電車事故の被害者は土屋氷魚である。
川代「流石だな。もう分かっちまったのか。」林「それが…この人が花さんのお兄さんなんだ…」
川代「なに!?そうなのか!!」
林は川代に花と知り合った経緯を話した。
川代「なるほど。彼女にはそのことについて話せないという訳か」
林「え!なんでわかったの?」川代「わかるだろそれくらい」
川代は林の胸の内を見抜いている。
川代「いいのか?その写真、大事な捜査書類だろ。お前が持ってちゃ捜査が進まないだろ?」
林はすぐに写真をしまった。
林「今は身元不明人になっているけど…もしこれがわかってしまってそして自殺だったら…」
川代「彼女の心配してるのか?それに自殺じゃなくて他殺として捜査しているはずだろ!」
川代「黙ってそれを署に出しておけよ、お前の口から伝えなくてもニュースや新聞が伝えてくれんだからそれでいいだろ。」
林が懸念しているのはもし土屋氷魚が飛び込み自殺した場合、電車の人身事故によって生じる損害賠償が
遺族の花に相続される可能性があるからだ。
林「花さんがもし鉄道会社から訴えられたどうしようと思って…あとそれを知ったらきっとショックになるかなと思って」
林「だからこれを死ぬまで隠し通そうかなって思ってるんだ…」
川代「バカかおめえは!!お前は警察だろ!!真実を隠すんじゃなくてそれを暴いて真犯人を捕まえるのが仕事だろうが!」
川代「そんなの彼女のためにならねえ!それに今の彼女の状況を見ても訴えられるとか責任とれとかそんな筋合いねえよ!」
川代「お前は警察としてすべきことをしろよ!何のために警察になったんだよ!!」
林「……ごめん…、そうだよね!俺!花さんのために犯人捕まえるよ!」
遺体が土屋氷魚で花の兄だとしても、他殺と捜査は進んでいる。
故人の故意による人身事故では争う余地はなく鉄道会社側が訴えられるというケースもないだろう。
また今の花に責任能力も賠償金を支払えるほどの資産はない。
川代に喝を入れられた林は捜査の証拠物となる写真を署に提出することを決心する。
林は警察として花の兄である氷魚を殺した犯人を捕まえるべきだ。
それが彼女のためになるのだ。
しかし今日だけは彼女にはなにも言わず骨休めのひと時を過ごさせたい。
二人は近くのスーパーに寄り缶ビールは2本ずつ買った。
川代「良かったよお前が本当のこと言ってくれて。いろいろ悩んでたんだろ?」
林「うん‥」
川代「でも不思議だ。お前があの女に随分片入れしてるとは。今日会ったばっかだろ」
林「そうなんだけどどうしたのか彼女のことが気になっちゃって」
川代「ふそうかい‥彼女のために頑張れよお巡りさんよ‥。」
川代は鼻で笑って早歩きで林を置いていく。
林「あ!待ってよ!」
二人は家入のアパートに戻った。
玄関の扉が開く音が聞こえてすぐに花は入ってくる二人を玄関で出迎えた。
花「お帰りなさい。もうすぐご飯ができます。」
彼女はエプロン姿であった。
まるで夕飯の支度をして夫の帰りを待っていた妻のようだ。
家入「二人ともおかえり~」
家入も玄関に来た。
台所からカレーのにおいがする。
川代「いいにおいだ。今夜はカレーか。」林「うん。いいにおい」
食卓にカレーとサラダや漬物とお茶が入っているであろう急須が置かれた。
川代はこれを見て
川代「においだけじゃない。家さんのカレーはその辺のレストランにも負けないくらいうまいよな!」
ごちそうしてもらえるからだろうか家入のカレーを褒める。
家入「ありがとやす~。でも花さんがほとんどやってくれました。」
家入「私は野菜を切るぐらいでした。」
家入から聞くと彼女は自炊をしており手際がよかった。
メインであるカレーも花が調理するようになり家入は野菜を切る担当に換わった。
カレーとサラダと漬物だけで終わらずメンチカツやコンソメスープ、次々とそしてフルーツポンチまで運ばれた。
林「おや今日はいつもより豪華だね。」
サラダを見るとツナが入っていてドレッシングも加えられていた。
そのドレッシングはスーパーなどで売っているものではなく花が作ったという。
川代「なんだよ~家さんのカレーじゃないってことか~」
林「花さんありがとう。花さんの料理おいしくいただくね。」
花「はい。お口に合うといいのですが…」
テーブルに四人全員座りお手を合わせて一斉にいただきますした。
川代「このいただきますと言うのはいいよな。食物に感謝するって感じで。さて早速このカレー」
試しに一口カレーを食べた川代。
川代「うっうまい!うまい!」
うまいと言わせる毒でも薬でも入れたのかうまいと連呼する。
林も一口食べたらうまかった。
二日目のカレーを食べているかのようにコクが出ている。
林「とてもおいしいよ!花さんのカレー!」
飲食店でバイトをしているのもあって料理が上手いというのはうなづける。
川代「へへ見直したよ。土屋さん。家さんの飯よりうまいよ。」
花「ありがとうございます。恐縮です。」
川代「もう家さんの飯は卒業かな。」
家入「ありゃりゃ川代さん。それゃないっすよ~」
あまりのうまさに急に手のひらを返した。
川代(見る目があるじゃねえか林。この女に俺も惚れちまったじゃねえか。)
彼女の料理に胃袋を掴まれた川代は、彼女に心を奪われてしまった林の気持ちを理解したのである。
彼と同じく独身である川代は先手を取る。
川代「土屋さん今度よろしければプライべードでお食事しませんか?」
メモ帳の白紙のページを切り離し連絡先を書いて花に渡し、さらにバックから消防手帳を見せた。
川代「手料理をごちそうになったそのお礼がしたいです。わたくし消防をやっています。」
林「なっ!川代!!」
カチンときたのだろうか林も負けじと、食事の誘いをする。
林「川代より私の方がいいですよ!!!後日私と食事へ行きましょう!」
花「え!えっと…」家入「二人ともどうしたんですか!?」
二人の猛アタックに困惑する花と驚く家入。
苦楽を共にした仲の良い二人が互いに恋敵となる。
林は怖い顔をして川代の肩を強く握る。
手の圧力から彼女の思いを抱いている本気度が伝わった。
そして耳を近づけ小言で
林「どういうつもりだ川代?」
川代「悪いな俺もこの女にちょっと惚れたのさ。これでお前も仕事に熱が入るな。」林「川代…お前…」
花「あの…ご厚意ありがとうございます。時間を下さい…後日検討いたします。」
花「まだ…いろいろ気持ちの整理が…」
彼女自身今は気持ちの整理が必要らしく返事は後日となる。
川代「土屋さん、食事の件はいいです。今のなしです。」
川代「今渡した連絡先は何かあった時に使ってください。」
花「え?いいんですか?」川代「はい。男に二言はありません。仕事が忙しいんで。んで林は?」
林「は!はめたな川代!あ!えーーーと‥」
あっさり彼女を譲った川代に意表を突かれた林は彼女を見て顔を赤くした。
これが川代の策略であった。
本人も彼女の手料理に胃袋を掴まれ惚れてしまうが林のためを思い少しでも距離を短くしようと大胆な行動に出たのだ。
林「あっあーーーーう~~」
しかし彼は戸惑っている。彼の出した答えは
林「あの~さっきっの話は~え~となしで~」川代「なんでやねん!」林「いてっ」
せっかくチャンスを与えたというのにそれをものにできない林、そんな彼に川代は背中を強くたたいてツッコミを入れた。
川代「林が土屋さんと一緒に食事しましょうだって!」林「ええ!」
結局川代が林の背中を押した。
川代「まったく肝心な時に言えなきゃ警察なんか勤まらねえぞ!」
花「はい‥先程申しましたように後日返事いたします。」
そして林の耳元で
川代「土屋さんに写真の件言ったほうがいいんじゃねえのか?今は言わなくてもいいけどさ」
川代「新聞とかテレビとかで知るよりもお前の口から言うべきだ。」
川代「しっかりしねえと俺が土屋さんと結婚すっぞ」
川代はじれったいことが嫌いでいつもこうやって三人の間で先陣に立って物事を動かしてきたのは川代なのだ。
そしていつも助けられている。
林「川代お前は本当に‥心臓に悪いんだよな~」
川代「へへ今回ばかりは頑張れよお巡りさんよ。事件的に多分俺は力になれねえと思うからな。」
林「そうだね‥すまない川代‥」
真面目な話をしている二人とは違い家入と花は違う話をしている。
花「すみません。こんなに材料使ってしまって。」
家入「いいんですよ。しかもこれほとんどお金かかっていませんから。」
家入「ここのアパートの庭が草ボーボーだったんで草刈りしてそんでそこにじゃがいもとにんじん植えたんです。」
花「え!怒られますよ?」
家入「いえいえうちのオーナーはズボラなんで。いいよって言ってあっさり許可もらっちゃいました。」
家入「たくさんできたんでオーナーに分けたら玉ねぎと調味料とかいただきました。」
家入「このアパートを出た人が置いていった残置物みたいで処分に困っていたんでそれを貰ったんです。」
家入「賞味期限切れが近かったんでよかったです。お金にかかったのは肉だけです。」
家入(カツは一人で食べたかったな~)
カツは残った2日目のカレーにトッピングしたかったが心の中で留めた。
仕入れにかかったお金はお肉だけで千円ほどで済んでいる。
川代「てえ~ことは豪華だけど食材はそんなにお金はかかってねえってことか」
林「家さんが安く仕入れた食材を花さんが料理したってことだね。」
話に入ってきた二人。
林「花さんは料理得意なんだね。」
花「飲食店のバイトで最初は食器洗いしかできませんでしたが注文など接客をやっていくうちに、認められて調理まで任せられるようになったんです。」
林「偉いですね。すごいです」花の頑張りに心惹かれる林。
花「そんなことはありません。お三方と比べれば大したことはありません。」
林「何かあったら力になるよ。」
川代「林は警察だから本当に頼りになりますよ。それに土屋さんは俺たちと同じ釜の飯を食ったもの同士でもう仲間です。」
林「同じ釜とか言うけどこれ花さんが作ったんだぞ。」
家入「いや~今日は助かりましたよ。」
花「私こそありがとうございます。ずっと一人で食事していたので久しぶりに賑やかな食事ができました。」
花「でも今私が住んでいるアパートはもうすぐ立ち退かないといけません。」
川代「引っ越し先は決まったんですか?」
花「まだです。私の兄の行方が分からないので、兄が戻ってきたらにしようかと思っているんです。」
彼女は今のアパートを立ち退かないといけないが兄の行方がわからず、戻ってからではないと引っ越し先の見通しがつかない。
これが花の置かれている現状なのだ。
家入「お兄さんのことはともかく引っ越し先の方を先に決めたほうがいいかもですね。」
川代「家さんの言う通りだな。」花「そうですね…」
家入「そうだうちのアパートに引っ越してみてはどうですか?部屋空いてるんで。」
家入「若い女性の方が来てくれたらきっとオーナーさん喜ぶと思いますよ。」
川代「それゃいい提案だな。」
川代の目は林の方を向きにやりと微笑む。
家入は自分が住んでいるアパートを花に紹介する。
荷物を運ぶ手伝いもすると言い川代も手伝うらしい。
花「ありがとうございます。林さんのお誘いの件を含め検討させてください。」
林「う~ん…」彼は腕を組み首を傾げた。
林(どうしよう…)彼女のことが心配になった。
家入が花に引っ越し先を紹介してくれたことこれについては良い提案ではあるが、
兄が失踪していてなかなか引っ越しに踏み切れないという彼女の気持ちはわかる。
しかし兄はもう戻っては来れない。
花の兄である土屋氷魚は死んでいる。
土屋氷魚の死を知っているのは林自身と川代だけなのだ。
手元にある写真を署に提出すれば、兄の死は公になり彼女自身知ることになる。
引っ越しの事もそうだし今後の事も考えるなら兄の死を彼女に告げなければいけない。
このままテレビや新聞などで公開されるまで彼女に不安を抱えさせたくはない。
彼女の為にならないし引っ越しに一歩踏み出すことができない。
林は花に明日真実を伝えることを決意する。
食事が終わり全員両手を合わせごちそうさました。
川代「ふう~食った食った~今日はありがとう土屋さん」
林「おいしかったよ」
川代「少なくとも家さんよりうまかったです。もっと自信もっていいですよ。」
家入「花さんの料理うまいです。ありがとうございます。」
家入「これでやっと川代さんの分の料理は作らなくて済みます!」
川代「悪かったよ家さん冗談だって!」
少しした後
林「花さんちょっといいですか?」花「はい…」
川代「家さん、食器洗おうぜ!」家入「ええ~」
川代「空気読め家さん…」家入「あっはい…」
家入と川代は食器を運んで洗面所に行った。
林(川代ありがとう…)
林と花の二人きりになった。
洗面所の方から家入と川代の話声と水の音そしてカタカタと食器の音がする。
林「花さんは明日空いている時間はりませんか?」
花「あいえ…あの食事の件はまだ…」
林「いいえそれとは別の件です。公務として仕事としてあなたのお宅に訪問します。」
花「あっそうですか。あの私の兄の件ですか。なにか」
やはり彼女自身感づいていた。
林は兄の件であると正直に言う。
林「抱いた写真の結果が明日の朝に決まる予定です。」
林「結果が決まったら直接花さんに伝えようと思いますので…」
花「え結果とは?身元が分かるということですね。」
林「そっそいうことです…」
写真を署に提出したからと言ってすぐに行方が分かるわけではない。
写真の顔と遺体の顔が一致しているのですぐに花の兄であることがわかってしまうのだ。
すでに林自身は知っているが署に提出して照合した後でも遅くはないはずである。
もしかしたら見間違いであの遺体が土屋氷魚本人ではなく全くの別物の可能性もあり得る。
急ぐ必要はない。
もし写真とその遺体が一致しなかった場合結果についてはまだ時間がかかると言えばいい話である。
解決には至らないがひとまず彼女にとっては安心であろう。
しかし彼女の話から土屋氷魚という男が勤務しているのは蔵冨興業である。
蔵冨興業で殺害事件があったのだ。
氷魚が被害者かもしくは犯罪者ということもある。
そう考えると花の身に危険が及ぶことが考えられる。
林は蔵冨興業について話をした。
林「先日蔵冨興業で殺害事件が起きたことを知っていますか?」
花「いえ知りません…テレビないので。」
林「そうでしたね…」
一度の花の部屋を確認していてテレビが置いていないことは知っている。
結局直接口で彼女に告げなきゃいけない。
花「まさか兄がその事件に巻き込まれたというのですか?」
林「それはまだわかりません…。結果次第ではありますが」
林「あまりよろしくない知らせが来るかと思いますのでそこは覚悟してください。」
林「殺害事件の首謀者と共犯者がいればあなたの身に危険が及ぶかもしれません。」
林「帰りは送り迎えしますので、身の危険を感じたらすぐに連絡ください。」
花「わかりました…」
兄が勤務している蔵冨興業で殺害事件があったことを知り彼女は暗い顔になった。
不安を持ち帰らせてしまった。
夜暗いアパートで一人怖い思いをしながら過ごすことになってしまう。
彼女がかわいそうに思う林である。
花「明日も今日と同じようにバイトが午後からなので午前中空いてます…」
彼女は明日の予定は午前中空いているそうだが
林「あ!あの花さん!」花「あ…はい…」
林「心配なので今日私の家に泊りませんか?」花「え!いいんですか?」
川代「いいとも!」林「あ!川代!」
林が自分の家に花を泊らせるという言葉が川代の耳に入り急に入ってきた。
川代「蔵冨興業で殺害事件のことは知っている。女ひとりにさせたくはないんだよ林は」
川代「頼もしき守護者がいれば土屋さんは安心だ。俺は賛成だ。」
家入「いっそのこと二人一緒に住んでもいいのでは?」
家入も入ってきた。
からかっているのかフォローしているのかわからないが恐らく後者だ。
恋心を抱く林に対し家入と川代は恋のキューピットである。
やましいことがないと言えば嘘になるがそれでも警察として男として花を守りたいのだ。
川代「いけ林!男を見せろ!」家入「頑張って~」
恋のキューピットの矢が林の背中に突き刺さる。
もう後には引けない、意を決して
林「土屋花さん!私!この漢、林があなたをお守りいたします!どうか私にあなたを守らせてください!」
林は正座し畳に手をついて頭を下げた。
まさにプロポーズだ。
花「ええええええ!えっと……」
花の返事はいかに…。
続く
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