イエイリ

第19話 花の過去と今

新宿の大規模火災事件と日本軍と犯罪組織アミュ真仙教との闘いは日本軍となり事態は収束すると思われたが
アミュ真仙教はまた新たに手を打っていた。
「眠れぬ地に血をささげ今こそ眠れ!」とは、東京都各地の住人たちに無差別に刃物で襲うという恐ろしい計画だったのだ。
国分寺で安田がその被害を目撃したのだが浅草、日本橋、銀座、目黒にも被害が拡大しており
家入たちが住む渋谷区の方にも神泉町と宇田川町で被害が出てしまった。
宇田川町で勤務する警察の林が現場に向かうことになった。
しかしこれは罠だった。
現場付近に行ってみるとそこには花の姿が。
花は神泉町のアミュレットでバイトしているのだがそこにも被害が出てしまっているため
彼女に思いを寄せている林は彼女のことが心配していたのだ。
二人は抱き合い林は花に帰ろうと言おうとするが彼の背後に魔の手が。
花に気を取られてしまい後ろから花の仲間がスタンガンで襲われ林は気絶してしまった。
花は気を失った林をどうするのか。


竹原「ひっかかりましたね。」
花「よくやったわ竹原。」
林の後ろを狙ったのは竹原だった。
竹原は猿江と一緒に渋谷事件を起こした犯人なのだ。
竹原「こいつが姉貴に恋した男っすか」
竹原「この野郎!俺たちの姉貴に抱き着きやがって!」
竹原は倒れている林の背中を踏みつけた。
それを見た花は竹原の林に対する暴力を止めさせた。
花「やめなさい!!竹原」
竹原「え~こんなやつどうでいいでしょう?」
花「いいからやめなさい!」
竹原「は~い。」
花(なんだろう胸がむかむかするこの感じは…どうしてなの?)
林が傷つけれる姿を見ると胸が締め付けられるような感じがする花。
花「動かないように縛ってちょうだい…」
竹原「は~い。姉貴どうしたんですか?暗いですよ?」
花「なんでもない。さっさとやって」
竹原は花の指示で林を気絶したまま縄で拘束した。
花たちの前に車が止まり、車の中から一人が男が降りてその男と竹原が林を運んで車に入れた。
花も車に乗った。
花「この男をアジトに連れていくわよ」
人質にするのだろうか。
警察まで手にかけ拘束し人質にするとは恐ろしい組織である。
その警察が林であり花にとってはほんのわずがだが彼のことが気になっていて心境は複雑なのだ。
花「ん?誰の携帯?」
聞き覚えない着信音が鳴った。
竹原「こいつの携帯から鳴ってますよ。」
鳴ったのは林の携帯である。
仲間「とりあえず無視しておけ。」
仲間「その携帯ぶっ壊してどっかに捨てろ。」
仲間「通信機とかも身に着けているかもしれねえからあったら外せ」
竹原「はいはい。了解」
林が身に着けているもの確認し通信機のようなものはすべて外した。
折りたたみ式の携帯だがそのヒンジ部分の方から思いっきり真っ二つに折って投げ捨てた。
ずらかるときも抜かりない。
熊谷「あれ?林さんでないな」
熊谷は交番で待機しているのだが状況確認のため林の携帯にかけた。
しかし彼は犯罪組織アミュ真仙教らに囚われ気を失ってしまっている。
また通信手段も全て取り除かれてしまっている。
林はアミュ真仙教の手中である。


車の窓から景色を眺める花。
拘束され気を失っている林の隣に花が座っている。
林を捕まえる作戦は滝川であった。
花は乗り気ではなかったが計画を成功するために仕方がなかった。
近寄ってこちらに気を取らせるだけであったが林と抱き合ったのは思いもしなかった。
彼は花のことが本当に心配だったのだ。
彼の優しさと温もりを肌で感じた時からそれが拭えない。
林の熱い思いすべて踏みにじった。
始めから彼の手の平で踊らせ裏切るつもりだったが逆に自分が翻弄されてしまった。
命令されなければ自ら彼を手にかけることはできなかった。
なぜここまで林は花に肩入れするのだろうか。
容姿が良いからなのか、それとも料理がうまかったからなのかわからない。
昨日と一昨日と身近い間だったが彼と過ごした情景が頭から浮かんでくる。
自分が作った料理をおいしく食べる林の表情まで花の頭の中に浮かんできた。
あんな生活も悪くなかった。
家入たちとカレーを食べた時からどこか懐かしい感じがした。
その懐かしい思いとは花が家族と過ごした思い出だった。
だがその思い出は偽りでできたものだった。
花の前で見せた両親の笑顔と優しさの裏で借金という闇が潜んでいたのだ。
学校では友達ができず兄も仕事が忙しく相談できず完全に彼女は孤立した。
借金の返済に追われ疲れ果てる兄を見て心配になるが
花も年齢をだまして風俗店で働くことになってしまった。
借金によって給料から差し引かれて兄妹の手取りを合わせても満足に暮らすことができず
朝、昼、晩三食カップラーメンだった日は最悪だった。
学校に居場所がない花だがおいしい給食の時間だけが唯一の幸福だった。
給食の時間だけが癒しとは惨めに思えた。
彼女は自分を変えたかった。
風俗店で男を誘惑する女性スタッフを見ていた彼女はまねしてクラスメイトの男子を誘惑してみた。
それがうまくいって男子の中で人気者になった。
何も取り柄がなかった彼女はこれが成功体験となり優越感に浸り自信を持てるようになってきた。
学校でやっと自分の居場所を見つけたがそれも長くは続かなかった。
クラスメイトの女子からいじめを受けるようになってしまったのだ。
上履きに画鋲を入れられたり、バケツの水を頭上にかけてくるなど酷いいじめを受けた。
花のいない教室でコソコソと彼女の悪口を言う女子たちがいた。
いじめの主犯格が誰なのかわかった。
女子たちは嫉妬していて悔しんでいると思い我慢していたが
いじめはどんどんエスカレートしていき我慢が限界に達していた。
給食の時間に先生が教室を離れた時だったいじめの主犯格の子が彼女の給食に消しカスをかけ大声で笑われた。
唯一幸福だった給食すらも滅茶苦茶にされ花の溜まった我慢は爆発し怒髪冠を衝く。
花はいじめの主犯格を襲い暴力を振るう。
またいじめの共犯も襲い、男子たちも止めに入るが花の暴走は止まらなかった。
いじめの共犯と止めに入った男子は軽傷だったがいじめの主犯格は大怪我をした。
彼女の暴力が問題となり兄が学校に呼ばれたのだが兄は味方せず強く𠮟り付けたのだ。
いじめが発覚していて花はその被害者であったのにその点については何も兄は擁護してくれなかった。
それから彼女は兄を殺したくなるほど恨むようになった。


絶望の淵に落とされた花だったが赤城がそんな彼女の前に現れた。
中学3年生から風俗店の仕事を任され接客した男が赤城なのだ。
花は金持ちで自部のことを理解してくれる男が欲しかった。
赤城は会社の社長をやっていて多くの人脈を持っているそうだ。
まさに赤城は正真正銘の金持ちで人望も厚い。
赤城に近づきたかった花は彼に気に入ってもらおうと必死に喜ばせた。
頑張りが伝わったのかなんとか彼に気に入ってもらえた。
花は自分の生い立ちや過去にあった辛い出来事などいろいろ赤城に話した。
赤城は花の話を真摯に受け止め理解してくれた。
苦しんでいる花を助けたい赤城は彼女に手を差し伸べた。
赤城は自分が作った宗教団体であるアミュ真仙教の一員になることを提案した。
花はすぐにその提案を受け入れた。
赤城に尽力してあわよくば玉の輿に乗ることも考えていた。
兄とは離れることにはなるが絶縁したかった身としては有り難かった。
赤城からも兄を遠ざけてくれるそうで蔵冨興業で働かせる手立てをすると言ってくれた。
花は赤城と出会いアミュ真仙教に入ったことで彼女の人生は大きく変化した。
アミュ真仙教に入った者たちは皆、花と同じ境遇かそれ以上に悲惨な過去を背負った者たちがいた。
同じように借金の返済に追われ一生払い切れず苦しんでいる人や
社会から見放され孤独になった人もいた。
共に行動している竹原は親から虐待を受けて育ち赤城と会うまで誰も一人も味方がいなかったそうだ。
アミュ真仙教は苦しむ花たちに憩いの場を設け社会復帰することを目的に支援する団体だと思っていた。
だが実態は違った。
赤城の意向の基、殉教者たちが犯罪計画を実行し日本社会を脅かすことを目的とした恐ろしい組織だったのだ。
ここまでに至るまで相当な準備と訓練をした。
どこで集めたかわからないが銃や爆弾などの危険物が有り余るほどあった。
訓練は本格的だった。
指導者は元自衛官で理由については聞かなかったが政府に強い恨みを持っていた。
赤城の目的は社会を一度破壊し自分が神となって正しい社会を創造すること。
花たちのように奈落に突き落とした社会は間違っている赤城は言った。
赤城の思想により殉教者は胸を打たれたのだ。
殉教者はこの社会こそが自分たちを陥れた元凶なのだと理解した。
花は赤城の意見を尊重し尽力していく所存ではあるがこの社会は間違っているのだろうか。
花の場合は両親の死が避けられなかったとしても借金さえなければましな生活はできたかもしれない。
赤城のことを信じていた彼女だったが林と出会いで変わっていた。
林と出会うまでは計画を邪魔する者は誰であろうと排除するマインドを持っていた。
邪魔する者が現れたのだがそれが兄だったのだ。
兄だけではなく蔵冨興業で働いている何人かも異変に気付いて声を上げてきたのだ。
蔵冨興業はアミュ真仙教と裏で繋がっているためきっとどこかで情報が漏れてしまったのだろう。
赤城と殉教者にとって彼らの存在は都合が悪いものとされ殺害された。
兄である土屋氷魚を殺したのは花自身であったが赤城の命令で行われたものだった。
殺せば借金を全額支払えるほどの額を報酬として与えると言われ
花はためらわず兄である土屋氷魚を殺した。
借金を返せても兄を殺してしまったためもう後戻りはできない。
警察に近づいて情報を得ることを目的に兄の失踪届を出し不憫な遺族を装っていたが
宇田川交番で出会ったのが林だった。
林が優しく接してくれたことで社会は理不尽なことがあっても
それだけじゃなくいいこともたくさんある気付かされた。
だが花はもう手遅れだ。
犯罪に手に染めてしまった以上赤城の計画のため任務を遂行しなければいけない。
林を殺すかもしれない。
花はそれを覚悟しアジトへと向かっていった。


家入は一緒にいた猿江たちに引っ張られ貨物車に乗せられどこかへ連れていかれた。
猿江たちは家入を連れてどこへ向かう気のなのか?
猿江「おいこれを着ろ!」
家入「え?これって」
猿江から渡されたものは彼らが着ているフード付きの黒いコンバットシャツだった。
猿江はこれに着替えろというのだ。
家入「これ…着るの?…」
家入はこの服を着るのを躊躇った。
これを着てしまうと自分も犯罪組織の仲間だと100%思われてしまうからだ。
猿江「いいからさっさと着ろ!」
家入「ひい!!わかりました!」
家入は猿江に渡されたコンバットシャツに着替えた。
銃口を向けられ脅されてしまい家入は従うしかなかった。
猿江「よーし。んじゃこれもやるよ。」
そして猿江は家入にある物を渡した。
それは銃だった。
家入「え!えええ…」
生まれてから死ぬまで本物の銃を持つことは絶対にないと思っていた。
そもそも日本で一般人が銃を所持することは禁止され法律で決まっているのだ。
無理やり持たされたが所持してしまったことには変わりない。
トリガーを引けば本当に弾が出るのだろうか。
服はともかくすぐにでもこの銃を手放したかった。
二人の後ろに座っている家入。
今彼らは無防備である。渡された銃で撃ってしまおうか。
自分がやれば殺人犯となり警察の敵に本当になってしまう。
しかし銃を持ったのは初めてで猿江と運転している山本を仕留めきることができるのだろうか。
そんなことを考える自分が愚かに思える。
この銃を撃てばと思ってしまう自分がいたことで危険な考えが思い浮かんでしまった。
しかしなぜ猿江は家入に銃を持たせたのか。
度が付くほどの素人に凶器を持たせてよいものか。
裏切るのではないかとまだ猿江は家入のことを疑っている。
これも命令か指示なのかわからないが
そんな家入に銃を持たせるのは険呑だと猿江ならそう思うはずだ。
しかしいったい家入をどこへ連れていくのだろうか。
同じような貨物車が何台か集まりそして大型のトラックも後ろからついてきた。
窓からそれらの車の運転席を見てみると全員黒い恰好をしていたのを確認できだ。
猿江らと同じ犯罪組織の仲間だ。
東京都各地で襲撃があり都内に勤務する警察が総動員で犯人を追っていると思うが
彼らが走る車の道路には警察が来る気配を感じなかった。
見つからないように裏道を通っているわけでもない。
堂々と徒党を組んで国道を走っているのだ。
家入「あれ?ここって…」
彼らがどこへ向かっているのかがわかった。
渋谷方面を走っているのだ。
渋谷で昨日事件が起き大きな被害を受けた場所である。
現在消防が瓦礫を撤去している。
確か川代が瓦礫撤去作業をしていると言っていた。
あそこへ行って何をするかわからないが今の状態で川代と会いたくない。
交代制で瓦礫撤去作業をやっていると聞いたが神泉町の消防署がやっていなければいいのだが。
だがJアラートにより東京都民全員を対象に外出禁止命令が出されている。
つまり瓦礫の撤去作業は中断されてあそこには誰もいないはずだ。
家入(きっと大丈夫だ。)
そう思った家入だったが
家入(そ…そんな…)
渋谷に着いてみるとそこには消防隊員が作業を続けていた。
どうしてJアラートが鳴ったのに彼らは作業を続けているのか。
最悪なことに川代もいて、作業は神泉町の消防署が担っていた。
山本「さて開始だ!」
猿江と山本「幽界に彷徨うものよ!神域へと還らん!」
そう言って猿江と山本は武器を持って車から降りた。
そして加勢してきた仲間も出てきた。
家入「やめろ…やめてくれ!!」
彼らが言い放った言葉は一体何なのか
嫌な予感しかしない。

続く…

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