第17話 連日の大規模事件
吉永と解読班が氷魚の日記を解読したことで蔵冨興業が渋谷事件で使われた危険物を製造していたという線は濃厚になった。
吉永は受刑者から詳しい情報を聞き出そうと刑務官に彼らを取調室に連行されるように指示を出そうとしたがそこで安田から電話が入ってきた。
なんと蔵冨興業の受刑者が脱獄したのだ。
吉永「刑務所で何があったんですが?」
受刑者が脱獄しないように、また侵入できないように
刑務官による厳重な監視と、受刑者の暴走や暴行にも対応するための護身訓練、セキュリティ対策も万全で
高い塀や建物内の強固な壁などあらゆる想定をして築き上げた要塞と言えるほどの刑務所から数十人もの受刑者が脱獄してしまったのだ。
なぜ受刑者は脱獄したのか、どのように脱獄したのか安田に言及する吉永。
安田「刑務所で襲撃があったんだ。」
安田「入口!正面から爆撃があった!」
安田「一人の男が襲ってきて銃を持っていた。」
安田「刑務官その他大勢で取り押さえることができたがその男は自爆したんだよ!こんなことあり得るか!?」
吉永「え…そんな馬鹿な!!」
安田「そこから数十人ぐらいで刑務所を襲ってきて男同様銃を所持していた。」
安田「初めに襲ってきた男は囮だったんだ!自爆覚悟で!」
自分の命を引き換えに自爆し仲間に突破口を開かせたというのか。
刑務所内を襲撃され蔵冨興業の受刑者を脱獄させられた。
犯罪を犯した者を救うために自分の身を投げ出す覚悟あるのか。
常軌を逸しているとしか思えない。
とんでもなく恐ろしい犯罪集団である。
安田「蔵冨興業の受刑者が脱獄しただけじゃねえ。他の受刑者も脱獄しやがった!」
脱獄したのは蔵冨興業の受刑者だけではなかったようだ。
何らかの犯罪集団のメンバーになることを条件にさせて脱獄させたのだろう。
受刑者の中には一筋縄ではいかない凶悪犯もいる。
これはかなり厄介だ。
安田「ここまでするとはな!これは組織ぐるみの犯行だ!」
安田「蔵冨興業が怪しいと読んだがこれで完全に黒だ!」
吉永「土屋氷魚の日記からも明らかです。」
吉永「事件に使われたと思われる危険物の製造を示唆するようなものが書かれていました。」
安田「サリンか!」
安田「くそ!昨日から一体何が起きている!」
安田「蔵冨興業は何がしたいんだ!?」
吉永「彼の日記から気になるワードが出てきました。」
吉永「アミュ真仙教というワードです。」
安田「アミュ真仙教?なんだその宗教じみた名前は?」
安田「それが蔵冨興業と関係があるということか?」
吉永「はい。赤城という男がその組織のリーダーで土屋氷魚本人も犯罪組織なのかもしれないと怪しんでおりました。」
アミュ真仙教、いかにも怪しいワードである。安田の言うように宗教じみた名前だ。
氷魚の日記からでしか読み解くことはできないが
蔵冨興業は表向きは製造と建設を営む会社であるが
裏では犯罪組織と繋がりを持ち恐ろしい計画を企てていたのだろう。
その会社の裏で牛耳っているのがアミュ真仙教と呼ばれる組織ということだ。
吉永「脱獄したものはどこへ?」
安田「わからねえ、だから追っている!総動員でだ!」
蔵冨興業の受刑者が収容された刑務所は府中である。
府中は東京のほぼ中央に位置している。
脱獄犯らが四方八方に広がって逃走すれば一大事だ。
彼らは白い貨物車のような車や大型のトラックに乗り逃げていった。
その貨物車とトラックにはナンバープレートが付いておらず、車デザインもシンプルで特徴が掴みづらい。
また雲隠れする気だ。
猛スピードで逃げているため、交通妨害になりかねない。
一刻も早く捕まえなければならない。
渋谷事件の件で東京都全域で巡回パトロールや警備を強化し、多くの警察官を各地で配置している。
警視庁からの指示で脱獄犯を追えとの命令が下された。
安田「吉永は引き続き解読を頼む。」
安田「俺は脱獄犯を追う!」
安田「何かわかったことがあったら連絡してくれ。」
吉永「わかりました。何か進展がありましたらこちらに情報提供をお願いします。」
安田「おうわかった。」
安田は警察官らとともに脱獄犯の追跡を、吉永は引き続き氷魚の日記の解読を行った。
この騒動はニュースにも報道された。
府中刑務所で爆撃があり蔵冨興業とその他数名の受刑者が脱獄したとのこと。
それを見た視聴者は恐れおののいた。
脱獄した受験者の中には、凶悪犯もいるはず。
再び犯罪を起こし、もしかすると自分も巻き込まれてしまうかも知れない。
今後とも事件が起きることが確定したという不安と恐怖を植え付けられてしまった。
昨日の事件の恐怖が冷めやらぬままさらに恐ろしい事件が起きようとしていた。
家入もその騒動をニュースを見ていた。
家入は現在、猿江と山本と一緒にいた。
猿江「ついに始まったか!」
家入「な…なにが始まるんだ!?」
猿江と山本「神宿るは、地獄の業火燃え盛らん」
家入「え?あ!!」
家入には聞き覚えのあるフレーズであった。
家入「まさか!!」
家入はすぐに思い出した。
彼らのアジトで赤城が言っていた誓文を。
彼らの恐ろしい計画がまた動き出した。
ニュースで緊急速報が流れた。
東京都新宿区で歌舞伎町で火災が発生したと。
発生した時刻は16時である。
家入「あ!そんな!」
この火災は事故ではなく人為的なもので何者かが放火したものであると報道された。
誰がやったのかは家入はすぐに見当がついてしまう。
アミュ真仙教の構成員がやったのだ。
新宿で放火事件が起きたという情報は安田の耳にも入った。
脱獄犯を追っている最中であった。
安田「なに!?新宿で放火だと!!」
助手の警察官「なぜこのタイミングに!?」
助手の警察官「脱獄犯を追っているところなのに」
安田「まさかそういうことか」
安田「こっちに気を取らせて犯行を行ったに違いねえ!」
助手の警察官「だとしたらこれは計画的な犯罪です!」
助手の警察官「昨日に引き続きですよ!」
助手の警察官「裏で反社か何かが動き出そうとしているんですか?」
安田「吉永がアミュ真仙教って言っていた。」
助手の警察官「アミュ真仙教?」
安田「吉永が土屋氷魚の日記を解読しているんだ。」
安田「その日記から宗教じみたワードが出てきたんだとよ。」
安田「そいつらがこの事件の黒幕と見た。」
助手の警察官「しかしどうしますか?このまま追いますか?それとも新宿に向かいますか?」
時間的に考えて新宿で放火した者はついさっき刑務所を脱獄した受刑者ではないだろう。
安田「くう…」
巡査部長である安田に重要な選択を迫られた。
その時警視庁のトップから電話が入り安田に指示を出した。
脱獄犯を追えとの命令であった。
この事態に政府も黙ってはいられないだろう。
連日の大規模事件、これ以上被害が拡大すれば国の平和と平穏が脅かしかねない。
陸上自衛隊及び機動隊を含め軍隊を百人以上出動させた。
機動隊は実行犯の取り押さえ陸上自衛隊は火災による災害救助及び機動隊とともに戦闘補助を政府は命令した。
彼らを総称して日本軍として名づけよう。
まだ新宿区に実行犯が潜伏しているかもしれない。
実行犯が昨日の事件の同一人物である可能性も大いに有り得る。
人命救助が最優先事項だがそれだけでは終わらせない。
渋谷事件の二の舞にならぬよう今度こそ犯人を捕まえたい。
新宿の様子だが放火があったのは西部新宿駅の方からであった。
そこから火が歌舞伎町一番街の方まで広がったのだ。
この大火事はかつての江戸時代の明暦の大火を彷彿とさせるものだった。
明暦の大火は江戸時代1657年3月2日から4日まで江戸の大半を焼いた大火災のことである。
歌舞伎町は燃え盛る業火にのまれ黒い煙が空へと舞い上がる。
新宿にいた人々は炎に巻き込まれ火傷して負傷する人や
煙を吸い過ぎて一酸化炭素中毒を引き起こしてしまった人もいる。
新宿の歌舞伎町では多くの人々がいた。
歌舞伎町は特に飲食店が盛んであるがその他にも風俗やパチンコなど遊戯施設も並んでいる。
火が激しく燃え移り広がった要因の1つとして飲食店で扱っている大量の油が原因になったとされている。
さらに消火を試みようとした人もいたがかえって火に油を注ぐ結果になってしまった。
西部新宿駅から大勢の人が流動してくるのだがそこを狙って放火したのだ。
昨日の事件で白い煙に含まれる危険物が空気中で飛散しているかもしれないので
不要不急の外出しないように人々に勧告してきたつもりであった。
新宿に来た人々のほとんどは仕事帰りで娯楽をたしなむために来たのだ。
大勢の人が集まる地域で事件が起きたことからここも襲われるのではないかという予想されていた。
厳戒態勢が敷かれ警察があちらこちらに配置されパトロールも怠らなかった。
危機感ももちろんあったが警察がいてくれる、守ってくれるという期待と安心と信頼そして思い込みがあった。
抑止力にも繋がりパトカーが走っていれば同じ道路を走る車は安全運転を意識するようになる。
だが彼らは警察を前にしても危険運転を犯すケダモノであったのだ。
決して歌舞伎町に警察がいなかった訳ではない。
15時府中刑務所から受刑者が脱獄してしまい混乱が生じ対応が遅れてしまったのだ。
火災によって大勢の人が逃げまどい、大きな悲鳴が飛び交っていた。
住民の安全確保と避難、実行犯の取り押さえの両立は難しい。
脱獄犯の追跡に人員を割いたのも要因の1つとされている。
その警備していた警察官が五人ほどしかいなかった。
また歌舞伎町に配置されていた警察官も火傷を負ってしまった。
実行犯は昨日と同様ガスマスクをつけていて防火服を着用している。
あちらは対策も準備も万全ということだ。
無防備である住民はもちろんだが警察も襲った。
混乱に乗じて狙ったのだろう。また数的に有利と感じたのだろう。
新宿も襲われるだろうと予測は立てていたもののそれを未然に防ぐことはできなかった。
どのタイミングでどのような手段で仕掛けてくるのか見当がつかなかった。
警察側は犯人の顔がわからない。
顔を知られていないことから彼らの計画の実効性を高めることに繋がってしまった。
犯人を捕まえるための闇雲の捜査、住民を守るためのパトロールがかえってこちらの行動を把握させやすくさせてしまったのだ。
犯罪者側は有利に警察側には不利に働く盤面が築かれてしまった。
警察の動きを見計らってあちらは絶好の機会、タイミングを逃すことなく好き放題やれるのだ。
吉永「どうしてこのタイミングで…」
事件の真相に一歩近づけるところであった。
蔵冨興業の受刑者らが脱獄したということは事件の鍵を握っていたのかもしれない。
彼らにとっては知られたくない情報が仮にあったとして気づかれるのを知って彼らを脱獄させたのだろうか。
解読班の様子を見て周りを見渡す吉永。
長時間集中してやっているため、休憩を取ったり席を外して一服する人もいたりした。
吉永(まさか…この中に?)
組織に情報提供している内通者がいるのか吉永は疑った。
しかし2日間に渡って連続でこのような大規模な犯行が行われている。
こちらが捜査に重要な手掛かりを持っているか持っていないかに関わらず計画通りに進めていると考えられる。
受刑者の脱獄も計画に入っていたのかもしれない。
吉永(彼らを疑っている場合ではないな)
脱獄犯を捕まえ、歌舞伎町を放火した実行犯も捕まえることができれば事態は好転するはずだ。
今起きている事件は安田と出動した日本軍に任せて吉永は自分の持ち場に戻った。
放火の実行犯は十人以上いると確認された。
大量の火薬や武器を貨物車に積んでいたそうだ。
数分後ようやく日本軍が歌舞伎町に到着した。
数は圧倒的日本軍が上である。
前衛はバリスティックシールドを立て後衛は銃を構え、攻撃に備えた。
バリスティックシールドとは防弾盾の英訳である。言わずもがな銃弾を防ぐ盾である。
実行犯の彼らが銃を所持しているのが確認されているが渋谷事件の白い煙を所持している可能性もある。
日本軍は装備も怠らずガスマスクも装備している。
煙が蔓延している状況であるためガスマスク装備は合理的である。
ついに実行犯らと日本軍が対峙した。
日本軍「武器を捨てていますぐ投降しろ!!」
日本軍は実行犯らに武器を捨て投降するよう促す。
だが実行犯らは聞く耳を持たず攻撃してきた。
やむを得ず日本軍も戦闘態勢に入った。
日本軍と実行犯らと攻防が始まった。もはや戦争である。
新宿方面から湧き上がる煙をバックにテレビ中継が行われた。
日本軍が放火事件の犯人らと戦闘が始まったと報道された。
チャンネルを変えても上記と同じ内容で放送された。
家入の予想は的中し、新宿で火災が起きてしまった。
彼にとっては嬉しくもないだろう。
猿江「はははいいぞ!大成功だ!」山本「計画は順調だな。」
起きてはならないことが立て続けに起こってしまっている。
一番不幸なのは事件に巻き込まれた被害者たちだ。
一刻も早く犯人を捕まえてほしいが家入の隣には渋谷事件の張本人の一人がいるのだ。
猿江たちは計画が予定通り行われ成功していることを喜んでいる。
家入「くう…」(だけど軍隊が来てくれた。きっと何とかしてくれるはずだ!)
ニュースの情報では日本軍は百人以上も出動している。
実行犯十数人対し日本軍は百人以上である。数で圧倒できるだろう。
政府は本気なのだ。
実行犯を数名拘束したとの速報が入った。
家入(よし!!)彼は心の内で喜んだ。
あちらは生死にかかわる戦いをしているのにテレビのスポーツ中継で
応援しているチームに得点が入ったような感覚だった。
数分足らずで鎮静化するだろう。
もう彼らの好きにはいかない。
だが猿江たちは余裕な表情だった。
猿江「さあここからだぜえ!」
猿江と松本「眠れぬ地に血をささげ今こそ眠れ!」
家入「え!?」
この状況で赤城率いるアミュ真仙教はさらにもう一手計画を進めていたのだ。
一体何が起きるのだろうか。
赤城は六本木の高層ビルの上層で同じようにテレビを見ていた。
窓ガラスから微かに新宿方面から煙が上がっているのが見える。
赤城こそがアミュ真仙教のリーダーなのだ。
赤城「戦いの火蓋は切って落とされた。」
赤城「だが我々はまだ準備の段階に過ぎない。」
赤城「そろそろ動き出す時が近づいてきたようだ。」
赤城「我々の目的の為に……」
続く…
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