第11話 複雑な気持ち
林の告白に対し花は気持ちの整理がしたいということで一旦保留となった。
だが花は身寄りがないため林の住むマンションにしばらく同居することになった。
勇気を出して花に告白した林本人は手応えありだと感じている。
一緒に暮らしていくうちに彼女が好意を抱いてくれるかもしれない。
そんな浮かれている林の背を見て花は不敵な笑みを浮かべる。
花は犯罪組織のメンバーであることを林は知らない。
警察である彼から動向を探ることが彼女の目的なのだ。
林の告白に対して流した涙だと兄の死を知った悲しみの涙もすべて彼女の演技だった。
このまま彼女らの思い通りになってしまうのだろうか。
林「夕ご飯は何にする?」
林「ちょうど食材を切らしているんだ。買い出しに行かないかい?」
林「外食にしようと思ったんだけど、なんだか花と二人でゆっくり食事がしたいんだ。」
花「そうですか…わかりました。」(それもありね)
夕ご飯は、家でゆっくりしたいと彼は言った。
彼女も警察の仕事や今後の動きについて聞き出しやすいので都合がよいと感じた。
二人は夕ご飯の食材を買いに近所のスーパーに行った。
林「夕ご飯に何にするか決めてなかったね。何にしようか?」
花「そうですね。野菜炒めでどうですか?私が作ります。」
林「花が作ってくれるの?嬉しいな!」
林「昨日のカレーとってもおいしかったよ!」
林「花の料理とても上手いからまた食べられるなんて幸せだ。」
花「ありがとうございます…」(何なのこの感じ?)
林の褒め言葉を素直に受け止めた花。
その言葉に花は胸が熱くなる。
野菜やお肉などを買った後、林の住むマンションに到着した。
夕ご飯は野菜炒めで花が料理する。
炊飯器でご飯を炊きそれと同時に味噌汁も作っていく。
花が料理する後ろ姿を見てこれからこの光景が当たり前になるのではないかと林は思っていた。
調理時間20~30分くらいで野菜炒めが出来上がった。
その野菜炒めをカウンダ―テーブルに置いた。
同時に炊飯器のご飯が炊け、味噌汁もできた。
それもお椀に寄せてカウンターテーブルに置いた。
また小皿も置いた。
その小皿で野菜炒めをよそいながら食べるといった形だ。
椅子は3つあり、林はその真ん中に座っていた。
両端どちらに座っても林の隣に座ることになる。
花は林の左側に座った。
林「う~んこれだとな~」
花「どうしたんですか?」
林「お互い面と向かいながら食べたいかな~」
カウンターテーブルの前はキッチンになっていて
これではお互い顔を合わせながら食べることができないことを自ら林は指摘した。
花「そうですか?私は別に構いませんが」
林「いやいやこれじゃちょっと寂しいじゃない?」
林「なんでこうなっていると言うとね」
林「俺がキッチンに立ってここに家さんと川代が座って飲んでいるんだ。」
林「あ!!家さんは酒飲めないけどね。」
このカウンターテーブルは家入と川代と三人で使うことを想定した造りになっているらしい。
林「川代のやつはここで酒を酔っぱらうまで飲むんだよ。」
林「家さんと一緒に川代を家に運ぶんだよ。」
林「俺と家さんが運んでくれるからあいつはいつもあーするんだよな。」
ジリリリリリンと林の携帯電話が鳴った。
林「あ!川代からだ。先食べてていいよ。」
うわさをすれば川代から電話がかかってきた。
林「もしもし川代?」
川代「よう林、今日は大変だったぜ」
林「うん渋谷のほうであんな事件が起きるなんてね。」
林「俺は現地に行かなかったけど、部長からいろいろ聞いたよ。」
花(これはチャンスね!!)
林と川代の電話の内容は事件についてのことだ。
川代の電話の後でも自然に事件について切り出すことができ次の動向を知ることをできるかもしれない。
花は一言一句聞き漏らさず林と川代の電話での会話を耳にした。
川代という男は消防の仕事をしている。
会話からどうやら川代は渋谷事件の後始末をしていたらしいのだ。
交代制で3時間ごとに交代して救助活動をして今日中までに被害者全員救助することを最優先とした。
人命救助が最優先事項ではあるが爆発によって周辺の建物が損壊してしまっている。
救助を円滑に進めるためにも瓦礫の処理も必要になる。
川代はその瓦礫の処理もしていたがその際にあるものを見つけそれを林に言った。
川代「瓦礫とか撤去していた時に変なパイプ管のようなもん見つけたんだ。」
川代「それがなんか焦げてて爆発に巻き来れたものにしてはあんな焦げ方しねえと思ったんだ。」
川代「他のやつもそれを見つけたらしくてな。警察にその変なものだしたんだ。」
林「部長もそれ言ってた」
林「現物は見ていないけどあれがトラックのコンテナの中に入っててそれが白い煙を出していたんじゃないかって」
林「装置らしきものだと思うけど機動隊の中に目撃者がいてその人がくもって言ってたよ。」
花(滝川が作った装置のことね。)
花(念のため爆弾が仕掛けてあるって言ってたけど、その爆発で跡形もなくなっていると思ったのに)
花(それが残って見つけるなんて…)
川代「なるほど。けどそういうのはお前ら警察に任せることにして」
川代「おめえ、家さんと一緒にいたよな。こんな事態だってのにいつものあいつと雑談か?」
川代「まああいつが勝手に顔出してくるからしょうがないか」
林「川代…実は家さん渋谷にいたみたいで巻き込まれそうになったんだ。」
川代「え?なんだって!?」
話は家入のことに切り替わった。
実行犯が乗っているトラックを追いかけていたが彼らは銃を所持していて危険だった。
しかも家入に向けて銃を発砲したのだ。
それだけでなくトラックは渋谷のスクランブル交差点に突っ込み大勢の人々に襲い銃を乱射し
トラックのコンテナの中から白い煙が出たと家入が目撃者となり赤裸々に語ったのだ。
実行犯の顔はガスマスクで隠れていてわからなかったが家入は自分の顔が彼らに知られているのではないかと怖くなり
帰り林が同行することになった。
その道の途中で川代から電話があったということだ。
林「きっと川代は家さんのことが心配でまず俺の方から電話を掛けたんでしょ?」
川代「ああ、そういうことだ。素直にそういいたかったんだけどな。悪いな。でも家さん無事でよかったよ。」
花(これで全部繋がったわ。あいつらが言ってたのは全部本当だったようね。)
花(時間が少しずれてたら、落ち合ったかもしれないわ。でも家さんのおかげでいい情報が入ってきそうだわ)
実行犯の正体は猿江と竹原である。
猿江たちの話で計画を止めようとした男の顔の特徴が家入であることに気付いたのだ。
渋谷の事件の事しか家入は知らないが後々厄介な存在になると考えた花は彼を人質にしようと企んだ。
そして家入をアジトに連れた出したのだ。
しかし家入は殺されるのが嫌で犯罪組織の一員となった。
そう家入も犯罪者なのだ。
家入は渋谷の襲撃事件の真相を知っていることになる。
川代「家さんのとこいかねえか?何しているのか心配じゃん。」
林「う~ん自転車手放したと聞いているし明日も新聞配達なのかな?」
林「少し心配だね。」
川代「じゃあ家さんのとこ行って見るか」
林「ちょっと今夕ご飯の途中なんだ。1時間後くらいでいい?」
川代「おうわかった。来るって家入に電話で伝えておく」
川代「んで、花さんにあの例のことはちゃんと伝えたのか?」
林「うん、やっぱり泣いちゃった…」
川代「そうか…。まあ仕方ねえな。今花さんはどうしてんの?」
林「驚くだろうけど。俺の家でしばらく居候することになったんだ。」
川代「ええ!!まじかそれ!!いや~めでたいな~」
川代「告白したのか!?花さんの返事は?」
林「落ち着いてよ川代、後で詳しく話そう」
川代「そうだな。二人の時間を邪魔しちゃいけねえな。じゃあまた!」
川代と10分以上の長電話が終わった。
林「ごめん花!」花「全然いいですよ。」
林「ではいただきます。」
少し冷めてしまったが花の手料理の野菜炒めを口に入れた。
林「うん!!おいしい!!」
林「これから花のおいしい手料理が食べられるなんて幸せだ!!」
花「あ…ありがとうございます。」
花「あの…お仕事大変ですよね?」
林「うん明日も忙しくなるよ」
花「こんな感じで林さんの支えになれたらって思っています。」
花「林さんのこととか仕事のこととか知りたいです。」
林「花…うんわかった!!いいよ!」
花(ふふ…ちょろいわね。いろいろ聞き出せそうね。)
手料理で林の胃袋と心を掴んだようだ。
これで自然と警察の動向を聞き出すことができる。
花(けど…なんか…変な感じ…私何やってるのかな…)
手料理をおいしそうに食べる林を見て心にほんの少しだけ複雑な気持ちを持った花である。
夕ご飯を食べ終えて少しした後再び川代から電話がかかってきた。
川代「すまん林、また電話してきて」
林「川代どうした?」
川代「何度やっても家さんが電話に出ないんだ。外出してんのか?」
林「いやあの状態だと今日は外に出ないと思うだけどな。」
花(ちょっと勘がいいわね。この二人…)
家入の身を案じる林と川代。
家入は渋谷の事件に巻き込まれそうになり本人の状態から外出は控えると思われる。
また家入は携帯電話はないが固定電話が彼の家に置いてある。
家にいるなら電話に出るはずだ。
家入が電話に出ない理由は固定電話が組織のメンバーによって取り除かれているからだ。
アミュ真仙教の仲間になったとはいえ裏切ることも否定できない。
滝川を監視として入れたが、近所に住むメンバーも協力している。
おそらく現在家入は滝川と一緒にいて家入が住む道玄坂のアパートに滝川が入居した頃だろう。
林「どうする川代?」
川代「電話なしでも家入んとこ行ったことあるし。なんで電話に出ないんだって叱ればいいし」
川代「心配してたんだって強く言えばあいつも納得するだろう。」
林「じゃあ行くか。家入のところに」
家入のことが心配な二人は彼のところに行くことにした。
花(やっぱり行くのね。家さんには心強い味方がいるのね。これはちょっとまずいわ)
林らが家入の方に来るのは少し都合が悪くなるかもしれない。
林「花も一緒に行こう。家さんのところに。」
花「私もですか?」
林「花の顔を見たら喜ぶだろうし」
林「花の手料理を食べたらきっと元気になると思う!」
花「そうですか…わかりました。」
花「ちょっとお手洗いしに行っていいですか?」
林「いいよ全然。構わない、自由に使って」
花は携帯電話を隠しながらトイレに行った。
そして滝川に電話した。
花「もしもし滝川?」
滝川「どうしました?なぜ小声なんですか?」
花「いいから、家さんの例の知り合いがそっちに来るって…」
滝川「理由は何ですか?」
花「電話に繋がらないってことで心配で行くって…」
滝川「わかりました。」
花「お願いよ…私も行くから」
花は電話を切り、トイレの水を流した。
携帯電話をすぐに隠して洗面所で手を洗った。
リビングに戻るとキッチンで林が食器を洗っていた。
花「私が食器洗いますよ」
林「いいよ、今日はやっておく」
林「それにさん付けや敬語はもういいよ。」
林「のぶゆきって呼んで、信じると幸せと書いて信幸。」
彼の本名は林信幸である。
林は告白した後すっかり彼女のことを呼び捨てやタメ口するようになった。
花「私は気の小さい人です。」
花「まだ林さんを下の名前で呼ぶのは難しいです。敬語です…今は…」
林「そうか。でも今は仕方ないね。花の心が開けるように安心させたい!」
林「何があっても君は俺が絶対守るからね!」
花「林さん…」
花(やめてよ…そんなこと…そう言われると胸が熱くなるのよ…)
彼の優しさに気が狂う彼女は犯罪組織のメンバーの一人なのだ。
彼の目の前ではか弱い女性を演じなければならない。
彼女の中にさらに複雑な気持ちが渦を巻いた。
家入の道玄坂のアパートに川代の車で行くことにした。
彼の家に行く目的は本人の安否確認とちょっとの飲み会と少しの雑談だ。
川代は明日も瓦礫撤去の仕事があるため、酒を飲むのを控えたいそうで
強制的に飲めないように彼が運転していくことにしたのだった。
川代は林の住むマンションの付近に停車して電話で林を呼んだ。
林と花は戸締りをして外に出て川代の車に乗った。
川代「よお!新婚夫婦さん!」
林「からかうなよ川代。まだそこまでいってないよ。」
川代「はは悪い悪い。もしそうなったら俺が盛大に祝ってやるよ。」
林「ごめんな花、あいつ悪気はないんだ。」
川代「な!おい!呼び捨てかよ!!」
そんな感じで三人で会話し川代が車を運転して家入のアパートに向かっていった。
家入の方では引っ越してきた滝川と一緒にいた。
計画通り滝川が新しく入居してきたことのあいさつをして、自転車をなくした家入に自分の自転車を貸し
それがきっかけで知り合い仲良くなったという関係で演じることになっている。
滝川「土屋さんから伝言です。」
滝川「家入さんのお知り合いがお二人来られるそうです。」
家入「林さんと川代さんが!?」滝川「土屋さんも来ます。」
滝川「電話が繋がらないとのことで心配されているそうです。」
家入(流石林さん!!痒い所に手が届く!いや!掻いてほしい所に手を差し伸べて掻いてくれる!)
林の気遣いに称賛する家入である。
家入「固定電話取っちゃったでしょ?どうするの?」
すると山本が家の中に勝手に入って固定電話を持ってきた。
家入(あ!やっぱりこの人が僕の固定電話を取っていたんだ!)
山本「わざわざこれ取る必要はなかったな。」
滝川「仕方ありません。一旦戻しておきましょう。」
山本は家入の固定電話を置いた後すぐに出て行った。
固定電話の配線は切られたままだ。
配線を繋げようとした家入だったが滝川に止められた。
滝川「繋げない方がいいですよ。いろいろ不都合が生じます。」
家入「え?でもこれしないと…」
滝川「それが繋がらない理由だからです。」
家入「あ…なるほど」
家入「で滝川さんは出て行かないんですか?」
滝川「私はこちらに引っ越したので問題はないと思いますが。」
滝川「なんなら、私のところに家入さんがご一緒してたことにしてもいいかもしれません。」
滝川「仕事に必要な自転車を貸すと言うことになっているのでそのお礼として」
滝川「私の荷物の整理の手伝いをしていたということにしてもいいでしょう。」
滝川「それなら、電話に出なかった理由を考えなくて済みますので」
家入「え?それあり~」
滝川「私の住居に来てください。」家入「は…はあ~」
滝川の都合がいいように事が運びそうだ。
家入の住居は1階にあるが滝川の住居は3階にある。
滝川の指示で家入は3階に上がり、滝川の住居に入った。
中はテレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電が揃っている。
机にはキーボードとそのパソコンモニターが置いてある。
その中にアミュ真仙教の何かしらの資料や情報などのデータが保存されているのだろう。
しかし家入はパソコンに詳しくなく操作も全然できない。
パスワードなども設定されていると思われるのでデータを盗み取ることもできないし
今の家入ではパソコンの起動すらできないであろう。
家入は滝川と知り合い、仲が良いという役を演じなければならない。
猿江と竹原と同様手慣れているかもしれない。
怪しまれれば林たちに危険が及ぶ。
おそらく林は丸腰の状態でくると思われる。
平常心を保ちいつも通りの自分で振る舞えば問題ないと思った家入だが心拍数が上がり緊張していた。
家入(いつもの僕だ…僕で行けばいい…落ち着け…落ち着け…)
そして林たちが家入の住む道玄坂のアパートに到着した。
川代「おーーい家さーーん!!」
家入「あ!来た!」
1階の方から川代の声が聞こえた。
家入の住居の呼び出しボタンを押したが彼が応答する気配がなかった。
林「どうしたんだろう家さん…」
川代「まさかあいつ外出してんのか?こんな時間に?」
花(何やってるのよ滝川!!)
家入の住居の玄関前に林と川代と花の三人、家入本人が住居にいないことに心配している。
今家入は3階の滝川の住居にいるのだ。
家入(三人を呼ばなきゃ!)
外に出て家入は1階にいる林たちを呼びに行った。
次回へ家入は、バレずにうまく立ち回ることができるのだろうか…
続く…
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