第10話 告白
家入は犯罪組織アミュ真仙教のメンバーとなってしまい花と滝川とともに計画遂行のため警察の動向を調べる任務を課せられてしまう。
車で進行していたが花が途中道玄坂の辺りで降り、彼女は林が勤務する宇田川交番へと向かう。
家入の住むアパート付近だからだろうか彼も車から降ろされた。
そのまま滝川は車で去っていた。
兼監視役の滝川は家入の住む道玄坂のアパートに引っ越すことになるため手続きなどの申請のため役所やオーナーと連絡を取りにでも行ったと思われる。
家入は一人でフリーな状況であるため今がチャンスと見た。
林が勤務する交番は花が向かっているので他の交番に行って経緯について警察に知ってもらえば助かるかもしれない。
家入は希望を胸に警察のいる交番へと駆けていった。
しかしその希望は一瞬に終わってしまう。
「何もしない方が身のためだぞ、家入」家入「え?」
後ろを振り向くと灰色のフードを被った男性がいた。
灰色のフードの男「何をする気だったんだ?」
家入「えっと君は?もしかして」
灰色のフードの男「アミュ様に頼まれてな。」
灰色のフードの男もアミュ真仙教のメンバーのようだ。
監視役はどうやら滝川だけではない。
灰色のフードの男「お前の家とは反対方向に走ろうとしていたが、まさか警察に相談しに行こうと考えたんじゃないよな?」
家入(うわやっぱりバレてる!!)
顔だけでなく家入の住所も知られている。
移動中、竹原に携帯で写真を撮られたがもしかしたらあの写真をもとに裏で仲間と情報のやり取りをしていたのだろう。
家入はまさに交番に向かおうとしていた。
もはや言い逃れができないだろう。
家入(本当のことを言ったら殺されるし、嘘をついてもだめだ…。ならこれなら!)
家入「監視役は滝原さんだけじゃないんだね。僕を一人にしたら裏切っちゃうかもしれないよね。」
灰色のフードの男「何が言いたい?」
家入「試したんだよ。うっかり僕を一人にさせて全て計画が台無しになっちゃうポンコツな組織じゃなくてよかったよ。」
家入「この組織はしっかり団結力が取れていて安心したよ。」
家入「僕は裏切ったんじゃないよ。計画が失敗に終わるのを恐れているんだ。」
家入「これで少しはこの組織を信じられるようになったよ。」
というと家入はすんなりと自分の住むアパートの方に歩いていく。
灰色のフードの男「ふっ面白い男だ。アミュ様が気に入っていただけはある。」
灰色のフードの男「俺は山本。実はこの近くに住んでいるんだ。」
フードを上げて顔を見せた。顔から見て30代くらいの顔つきである。
この男は山本と言い、家入と同じ道玄坂に住んでいるようだ。
家入(セーーーーーフ!!セーフ!セーフ!助かった~!)
機転を利かせうまくその場を凌いだ家入であった。
家入は家に戻った。
玄関の鍵は開いたままだった。
花たちに誘拐されてからそのままだったのだ。
空き巣にやられていないか何か盗まれていないか部屋中確認した。
お金や通帳などの貴重品は盗まれていなかった。
濡れてしまったお札を石油ストーブの前に置いて乾かしていたがそのお札も無事であった。
しっかり乾いていて、問題なく使えるようになった。
石油ストーブは止まっていた。燃料切れで止まったのだろう。その部屋はガス臭かった。
ストーブがつけっぱなしのままだったが彼らのアジトに連れ去れて殺さるかもしれなかったので火災の心配をする暇がなかった。
そもそもストーブの灯油は少なかったので多分長くても1時間くらいで止まったはずだ。
お札もストーブの熱風で飛ばされないように固定してあったし燃え移る物が近くに置いてなくてよかった。
自分の置かれている状況は最悪だが家の中は何も変わりはないようだ。
しかしそう思ったのもつかの間家入は家の中にあるものがなくなっているのに気づく。
それは固定電話である。
家入「ここに置いてあった気がするんだけど、これを取られたか…」
家入「やっぱり、これはあいつらの仕業だ。」
すぐにこれが誰の仕業か家入にはすぐに見当がつく。
固定電話はアミュ真仙教のメンバーであの5人以外の誰かが盗んだはずだ。
その5人とは、花、猿江、竹原、滝川、そして赤城だ。
つまり今知っている限りで犯人は山本だろう。
知り合ったばかりであるが彼も組織のメンバーで自ら近所に住んでいると明かしている。
また家入が警察に相談しに行こうとする際に彼が現れてお前の家は反対方向だと言っていた。
山本は家入の住所はどこにあるか知っているような言い方だった。
家入「くう~ここまでするのか!」
家入にとって唯一の連絡手段である固定電話も彼らに没収されてしまった。
家入「もともと持ってなかったけど、携帯電話もきっと取り上げられちゃうんだろうな~」
家入「これじゃあ不便だよ…」
警察以外にも仕事先である新聞屋に連絡することもあるし、プライベートで林と川代ろ電話することだってある。
なぜここまでするのかは、猿江が家入は裏切るかもしれないといったからなのだろうか。
いや、赤城はそうなることを想定し事前に滝川を監視として入れる策を取っていた。
これは全てはリーダー赤城の一存なのだろう。
監視の目は家中にまで行きわたっている。
家入「なんで僕ばっかり…林さんが花さんを連れてこなければこんなことには!」
当初は林のことを恨んでいなかったが住所を知られたことで苦しい立場になり徐々に心が黒く染まりそうになる。
家入「いけない!林さんは悪くない!」
心が闇に染まっては彼らの思う壺である。
家入は思い踏みとどまった。
命を預けられ、犯罪組織の一員になってしまったものの、彼の心はまだ光が消えたわけではない。
命を狙われながらも、逃げることも困難とされていた彼らのアジトからも出れてこうして家にいることができたから
きっと何とかなる家入はそう思った。
お腹が減ったので気を紛らわし冷蔵庫を開けた。
あり合わせの食材で料理し一夜を過ごすのであった。
宇田川交番にて、林と熊谷は巡回パトロールのあと戻っては渋谷の件で対応に追われて過去一辛い仕事になり疲れ果てていた。
熊谷「今日は疲れましたね…林さん。」
林「明日も大変になるんでしょうね。」
林「パトロールしたけど犯人の足取りは全然掴めませんでしたね。」
熊谷「犯人が都内に潜伏しているかもしれませんしね。当然住民も平然としていらないでしょう。」
安田「なんだお前ら疲れた顔しやがって」
熊谷「安田巡査部長!お疲れ様です!」林「お疲れ様です。」
交番に安田がやってきた。
林と熊谷は敬礼した。
安田は過去に宇田川交番で勤務していた。
巡査部長に昇任し現在警視庁で活躍中である。
そんな安田は二人にとって大先輩なのだ。
安田はたまに宇田川交番に来ては林らに顔を出している。
安田「パトロールお疲れ、まあ犯人の手掛かりもまだ何も掴めていない状況だな。」
安田「渋谷の方は救助が入り時間がかかったが何とか落ち着いたみたいだ。」
熊谷「何か見つかりましたか?」
安田「パイプのような破片が見つかった。」
安田「あれは白い煙を出した装置の一部かもしれん。」
安田「起爆して機動隊らに負傷者が出たんだ。んで目撃した輩が「くも」っ言っていた。」
林「くも?」
安田「ああ、だがそれだけじゃわからん。回復次第また聞き出すことにする。」
安田「白い煙の成分も明日になれば解析結果が出る。」
その後も安田は渋谷襲撃事件の捜査の話をした。
そして安田は、数日前の殺人事件の話をした。土屋氷魚のことである。
安田「そういえば林、土屋氷魚の遺族にはもう連絡したのか?」
林「あ!実はまだなんです!午前中行ったんですが遺族がお住いのアパートは建て壊しが今日行われていまして…」
安田「はあ!?なんだと?引っ越し先とかどこ行くとか聞いてなかったのか?」
林「昨日の時点では引っ越し先がまだ決まっていないらしいんです。」
林「でも私言ったんです!土屋氷魚の身元は今日の午前中には判明すると。だから判明次第そちらのお宅に向かいますと」
安田「だが、彼女が住むアパートは建て壊しが行われていて本人に会えなかったっと。」
安田「熊谷…怪しくないか?その女。名前は?」
熊谷「土屋花です。確かに怪しいですね。一刻も早く兄の消息を知りたいはずです。」
安田と熊谷は花が怪しいと睨んだ。
安田「タイミングもそうだな。この日に行方が分からなくなったんだろう。」
林「まっまさか花さんが事件に関与していると?」
林「けっけど、もしそうだとしても失踪届出しますかね?」
林は花自ら申請した失踪届を安田に見せた。
安田「うむ…そうだな~普通出さないよな~共犯者だったら。」
熊谷「もしかして事件に巻き込まれたんじゃ?…」
林「そんな縁起でもないこと言わないでくださいよ!」
安田「あの女の事については一旦保留でいい。やるべきことをやるのが先決だ。」
安田「今後の事についてだが…」
今後の事について話をした後、安田は警視庁へと戻っていった。
安田「じゃあそういうことでお疲れさん」
熊谷「はい、お疲れさまでした。」林「お疲れさまでした。」
残りの事務作業を終えた頃であった。
「すみません…」
交番に一人の若い女性がやってきた。
来たのは花でだった。
林「花さん!!」
林「探したんですよ!アパートも建て壊しが行われてて、どこに行ったのか分からなくなって」
林「心配したんですよ!渋谷の事件に巻き込まれちゃったんじゃないかって思っていました。」
花「ごめんなさい…」
熊谷(林さんが珍しく熱い)
いつも優しく情に厚く林だが仕事の時はどんな人でも毅然と接し対応する。
しかし今の林は普通ではなかった。
彼は花の事を心配していてまるで大切な人みたいに扱っているようだ。
林「どうしてアパートを退去されたんですか?」
花「すみません…。私何を血迷ったのか野宿にしようかなって考えててそのままふらッとアパートを出てしまいました。」
花「今日兄の身元がわかると聞いていましたが…それを聞くのが怖くなってしまい…」
林「花さん…」
林は彼女の心中を察した。
それでも真実を伝えるべきと林は思い、花の兄である土屋氷魚は死亡したことを彼女に伝えた。
花「そう…でしたか…うう…ぐすん」
花は涙を流してしまった。
熊谷(彼女ではなそうだな)
事件に関係していると思われた花だが泣いている表情を見てその疑いは晴れた。
泣く花に熊谷はお茶を淹れた。
熊谷「召し上がってください。」
花「ありがとうございます」
熊谷「これからどうするんですか?」
花「まだわかりません、しばらく野宿を考えています。」
林「う~ん今の状況を考えると、野宿はおすすめできません。」
熊谷「そうです。泊まれる施設があるか調べてみますね。」
林「熊谷さん待ってください!」
熊谷「はい?」
林「彼女の事は私に任せてください!」
熊谷「わかりました…」(林さん花という女性にだけ特別に扱っているような気がする。)
林「もうすぐ終わりますので待っていてください。」
花「はい…」
身寄りのない花の対応は、すべて林に任せることになった。
林「では仕事終わりましたので失礼します。お疲れさまでした。」
熊谷「はい。お疲れ様です。」
林「花さん行きましょう。」花「はい…」
林は自転車を押して花と一緒に交番を出て行った。
熊谷は二人を見送った。
道の途中で林は花に話しかける。
林「あの…花さん…今日も私の家で寝泊まりしませんか?」
案の定、林は花を自分の家に連れ込む気であった。
花「え?いいんですか?泊まれる施設を案内するんじゃなくて?」
花「連日泊りはさすがに申し訳ないかなと…」
林「安心してください!私があなたを守ります!」
花「え??」
林は花の両手を握った。まさか告白か…。
林「あっ!」しかし林は顔を赤くしすぐに花の手を離した。
花も顔を赤らめ両手で表情を隠した。
花「どうして私なんかのために…もっと私なんかより困っている人はいるのに…」
花「うう…どうしてそんなに私に優しくしてくれるのですか?」
泣きながらどうして親切に優しく接してくれるのかと林に問う。
林(……言うんだ!今しかない!)
ここまで来たら言うしかない。
覚悟を決めて林は花に告白する。
林「花さん…私…いや俺はあなたのことが好きだ!」ついに言った。
花「え?!」彼女は顔を赤くし困惑する。
花「林さん…ううう…うあああああん」そして大泣きした。
林「あ!花さん!」
林と花は公園のベンチに座った。
林は自販機で飲み物を買って花にあげた。
林「ごめんね。急に好きだなんて言っちゃって…。俺ずっと緊張してたんだ。」
林「花さんが初めて交番に来て、出会ったとき俺はなんかあの時不思議な感じがしたんだ。」
林「きっとこれが恋なのかな、運命なのかなって…」
林は胸の内をすべて花にさらけ出した。
林の告白に花の返事は。
花「そういってくれてなんだか嬉しいです。」
花「兄がいなくなって私に一人になってどうしようもなくてこれからどうしたらいいかわからなくてなって」
花「勇気をもって交番に行きました。本当に不安でした。」
花「けどこんなに優しい林さんと出会えてよかったです。」
林(もしやこれは本当にもしかして!)彼はドキドキした。
告白の返事はOKと来るのではないかと、成功したのではないかと。
花「今は気持ちを整理したいです。兄の死は事実みたいですがそれでも受け入れられなくて」
彼女はまだ兄の死を受け入れられないらしい。
おそらく彼女の涙の中に林の愛の告白に対する涙だけでなく、兄の死に対する涙も含まれている。
彼女の気持ちの配慮もするべきだろう。
花「林さんの気持ちにできる限り答えていきたいと思います。しばらく居候させてください。」
林「はい!喜んで!」
林の所に居候することになった花。
気持ちの整理がしたいと言うことで告白の返事は保留となった。
林としては脈ありだと思っている。
これでまた二人の距離は一歩前進しただろう。
林「さあ帰りましょう!花さん、いや…花!うふふ」
花「はい!」
だいぶ距離が縮まったのか林は花に対しさん付けせず呼び捨てするようになった。
嬉しそうに歩く林についていくように歩く花。
彼の後姿を見て彼女は不敵な笑みを浮かべる。
花(ふふバカな男…ちょろいわね。)
花の正体を林は知らない。
彼女は犯罪組織のメンバーなのだ。
花にとって林の優しさも兄の死もどうでもよく、あの涙は全て彼女の演技だったのだ。
花の思惑通りになってしまった。
恋は盲目か、それとも林は花の正体に気付くことができるのだろうか。
続く
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