第9話 保育園児誘拐事件
刃物を持った怪しい男が保志のいる保育園に侵入した。
保志は怪しい男に捕まり人質となってしまった。
怪しい男が持っている刃物は天井のライトに反射し銀色に光る。
その刃物を保志の首に近づける。
保志は恐怖に怯え体が震える。
怪しい男は黒いフードをかぶり、黒いマスクとサングラスで顔も容姿もわからないが
声と体格から、身長は170cmぐらいで年齢は30代ぐらいの男性であるとわかる。
怪しい男「抵抗してみろ!抵抗したらこいつの首を切るぞ!」
保志は絶体絶命の窮地に立たされる。
抵抗すれば保志の首が切られてしまうため保育士たちは何もできない。
園児たちも怖くて立ちすくみ何もすることができない。
怪しい男の要求に答えることしかできず警察も誰の助けも呼ぶことができない。
園児たちは「うわああああああああん」と泣き叫ぶ。
怪しい男は「泣くな!」とがなり立てる。
しかしその騒ぎが近所に聞こえたのではないのかと感じ、怪しい男は保志を連れ保育園を出ようとした。
園児たちの叫び声はしっかり近所の方にまで届いていた。
怪しい男「おい!車をよこせ!」
保育士の一人が率先して挙手し、怪しい男に従い自分のキーレスキーをその男に渡した。
保志「うわああああああああん」
怪しい男は保志を連れ保育士の車で逃走した。
保志は怪しい男に連れていかれてしまった。
保育士A「ごめんね保志君…」
保育士B「でもこれで警察を呼ぶことができるわ。他の子には怪我がなくてよかった。」
保育士A「しかし田邉さん腕に怪我を…大丈夫ですか?」
保育士B「これくらい平気です!」
保育士Aは兼木で保育士Bは田邊である。
田邊は怪しい男に刃物で切られ腕を怪我してしまったが浅かったため出血はしたものの重傷には至らなかった。
兼木は怪しい男の命令に従い自分の車のキーレスキーを渡してしまいその車を逃走のために使われてしまった。
だが怪しい男が去ったことで警察に連絡することができ、また他の園児たちに被害が及ばずに済んだのである。
連れ去れた保志は気の毒ではあるが。
兼木はすぐに怪しい男に保志が連れ去られたことを警察に連絡した。
怪しい男の詳細については不明だが、兼木の車で奪って逃走したので、兼木本人がその車の車種とナンバープレートを把握しているため、それを警察に伝えた。
警察は誘拐事件として兼木の証言を基に誘拐犯を追跡する。
誘拐犯の名前は藤居、35歳無職だ。
藤居は保志を連れ去り逃走中。
藤居は栗崎町の道路に兼木の車を走らせている。
交通量が少ない道路で法定速度20km~30km以上超えた速度で走りさらには信号無視もする。
保志は車内でパパ、ママ、お姉ちゃん助けてと声を発してずっと泣け叫ぶ。
保志「うわああああああああん、パパ!ママ!お姉ちゃん!助けて!!うあああああああああん!」
藤居「あーもう!うるさい!」保志の泣き声がうるさく苛立つ藤居。
十字路で正面に藤居から見て左側から車が飛び出してきた。
その車は右折するようだ。
信号が赤のため、こちらがブレーキをして右折車を通すべきであるが、それを無視しさらにスピードをあげ走る。
右折車はぶつかりそうになりクラクションを鳴らした。
運転手は腹が立ち、今の事故になりかねない乱暴な運転を見過ごすことはできず、藤居の車を追う。
しかし、その先の道路の信号は赤になっていた。
あの車を追ってまでして信号無視をしたくはなかったので止まり、我に返り交通規則を守って安全運転に徹した。
藤居の車は走っていき、やがて姿が見えなくなってしまった。
ちょうど近くにコンビニがあったため、その駐車場に車を止め、警察に通報した。
運転手の通報からも兼木の車の車種と色が一致していた。
誘拐犯は栗崎町の道路を逃走中であることがわかった。
急いで警察は栗崎町へ向かった。
保育士である田邊は、保志のことを心配しつつも、兼木になぜすぐに車を差し出したのか聞いた。
自分の車が取られたというのに妙に冷静でいたので不思議に思っていたのだ。
田邊「兼木さん、車が取られてしまったのに落ち着いていられますね?」
兼木「ガソリンがほとんどなくて帰りにガソリンを入れる予定だったんです。」
兼木「ガス欠になれば車を降りて足でにげないといけませんから。」
兼木「そしたら、そんなに遠くへ逃げられないと思います。」
兼木「田邊さんもお手を怪我されましたしこちらもなにか一矢報いたいと思いまして。」
ガス欠寸前の車ならそう遠くへは、いけないと兼木は考えた。
警察にもそのことを伝えている。
子供たちの安全も確保することができたのでよい考えだと言える。
もうすぐガス欠する頃だ。
藤居「なんだよ!この車!ガソリンないじゃねえか!」
ガソリンメーターのメモリが1になっていて警告灯が点灯している。
藤居「くそ!どうすればいいんだ!」
とにかく遠くへ逃げようと、アクセルを思いっきり踏み、車のスピードをさらに加速させていくが、車は力尽きるかのように止まってしまった。
ガソリン切れになった。
藤居「くそ!降りろ!」保志「うわあああああああああん」
保志を引っ張り、藤居は車を捨てて、歩き回りどこか身を隠せる場所がないかあたりを見渡す。
その後、警察が兼木の車を見つけた。
車の中には、誘拐犯はいなかった。
警察たちは誘拐犯がまだ近くにいないか周辺を捜索した。
近くの住民が子供の叫び声が聞こえたので見に行くと、刃物を持った黒い恰好の男が子供を連れ
廃墟となった温泉施設に入っていくところを見た。
不審に思いその住民は警察に連絡した。
藤居はそこで身を隠すそうだ。
しかし、それも目撃した住民によって特定されてしまっている。
保志「僕をどうする気なの?」藤居「お前は人質だ!」
保志「ひとじち?僕を殺す気なの?」藤居「ああ!大人しくしねえとな!」
保志「うわあああん!姉ちゃんのにんじん食べなかったから罰が当たったんだ!うわあああん」
藤居「そんなもん!知るか!」
昨日のにんじんを食べなかったことで自分に罰があったのだと思い込む保志。
にんじんの残すのも良くないが、子供たちに恐怖を与え、保志を誘拐した藤居の方が応報を被るべきだ。
連絡も警察の方に届き、じきに警察たちが藤井を捕まえに来るだろう。
時計の針は10を指し、時を同じくして順子ちゃんは2時間目の授業を受けていた。
本日担任の清水先生は出張で研修に行っており不在である。
代わりに教頭先生が順子ちゃんのクラスの1年3組の面倒を見ることになった。
1年3組の2時間目の授業は国語であるが今回は漢字練習である。
教頭先生は教室のテレビの電源を入れニュースを見ている。
子供たちはテレビで流れている内容を気にしながら漢字練習をしている。
良樹「おい友子、順子のやつなんか暗くないか?」
暗い顔をしている順子ちゃんを珍しく思う良樹。
良樹「知ってるか?」友ちゃん「うん‥」
友ちゃん「順子ちゃんに弟がいるみたいなんだけど、喧嘩しちゃったみたいで」
良樹「ふーんそれで落ち込んでるのか」
登校中友ちゃんに弟の件について話をしていたので理由がわかっている。
母に励まされたがそれでも、弟をさらににんじん嫌いにさせてしまったことを深く落ち込んでいる順子ちゃん、ノートはほとんど真っ白だ。
漢字を習い始めたばかりだが画数が少なくこれをひたすら書くのが退屈であるのも拍車をかけ
ますます弟のことを思ってしまうのだ。
良樹「なんか調子狂うな~おい元気出せよ順子」順子ちゃん「はあ~」
良樹「今日の給食プリンだったな!順子やるよ」
良樹は順子ちゃんの機嫌を取り戻すため給食のデザートで釣ってみたが
順子ちゃん「はあ~」暗いままだ。
一人だけ負のオーラが漂っている。
するとテレビの映像から流れるニュースで
【ニュースキャスター「今日の午前9時、黒いフードの男が刃物を持って水戸梅緑保育園に侵入し、宮沢保志君4歳を連れ去り、
保育士の兼木誠司の車を奪い逃走中。
栗崎町の住民から通報があり、警察は栗崎町に向かい、奪われた兼木誠司の車とみられるものが発見されました。
その後、住民が刃物を持った黒い恰好の男が子供を連れ廃墟された温泉施設に入っていくのを目撃したとの通報があり
証言により誘拐犯と同一人物あると判明する。警察は誘拐犯のいる廃墟された温泉施設を包囲する。
誘拐犯は捕まる気配がなく、刃物で保志君を脅し、警察とのにらみ合いが続いております。」】
と公開された。
教頭先生「そこわしの家の近く!」現場は教頭先生の住宅の近くらしい。
テレビの映像から保志の怯えている顔が映っている。
順子ちゃん「保志!!!!!」それを見た順子ちゃんが思わず叫んだ。
友ちゃん「どうしたの順子ちゃん!?」順子ちゃん「保志は私の弟なの!!」
良樹「テレビに映っているのって?」順子ちゃん「そうよ!私の弟!」
「ええええーーーーーーーーーーーー!?」
みんなが口をそろえて声を出した。
順子ちゃん「保志ーーーーーーーーーー!」
順子ちゃんは教室を出た。
どうやら保志を助けに行くらしい。
教頭先生「こら待ちなさい!」順子ちゃん「先生通して保志が!」
保志を助けようと飛び出す順子ちゃんに教頭先生が立ち塞がる。
良樹「順子の弟が悪い奴に捕まってるんだ!じっとなんかしてられないだろ!」
友ちゃん「そうです!お願いします!」
順子ちゃんに続いて良樹と友ちゃんも彼女を後押しし加勢する。
いくら家族を助けたいとは言え、相手は刃物を持っていて危険であり、現場は学校から10kmも離れている。
一教員として子供たちだけでいかせる訳にはいかないと思いきや教頭先生は
「学校からだと遠いぞ!わしが車で連れてってやる!乗りな!」と協力的であった。
教頭先生の名は寺宇治、矢崎会長の後輩で同じく暴走族もやっていた。
なので矢崎会長から順子ちゃんのことについて話をしており、
寺宇治は教員としてではなく元暴走族として順子ちゃんの力になるそうだ。
順子ちゃん「ありがとう先生!」良樹「やったぜ!」友ちゃん「良かったね順子ちゃん」
寺宇治は、職員室に行き保健の先生に、子供たちの面倒を頼むようお願いし
順子ちゃんら三人を車に乗せ、栗崎町へ保志を助けに行った。
現場では警察と誘拐犯のにらみ合いが続いている。一秒でも早く保志を怪我なく救出せねばならない。
交渉人「君の要件はなんだ?私と話をしないか?君の話を聞こう!」
交渉人は相手に寄り添うような発言をする。
これは交渉人が扱う交渉術だ。
人質がいる引きこもり犯などは刺激を与えると人質に被害を与える可能性があるため慎重にならなければならない。
そのため、お互い傷つけることなく平和的に解決し、犯人を刺激せず気をそらせ、人質を救出する大事な役割があり今、その局面に迫っている。
藤居「うるせえ!どうせ俺を捕まえる気なんだろ!」
保志「うわあああん!お巡りさん助けて~」
泣き止まない保志であるが警察が助けに来てくれたことで彼の赤い瞳に光明が差す。
警察がこちらに迫っていることから焦りと不安があり聞く耳を持たない。
本人も最終的には捕まってしまうことがわかっている。
絶えやまない交渉により、ようやく誘拐犯は口を開いた。
藤居「金だ!5000万円だ!5000万円ここに持って来い!」
交渉人「わかった。その子を開放するなら5000万円用意しよう」
保志君を助けるための交渉材料となるならば身代金5000万円の大金でも用意すると誘拐犯の要求を聞き入れる。
そうやすやすと現行犯に大金を渡すわけではない。
警察でもすぐに5000万円という大金をすぐに用意することはできない。
交渉人が誘拐犯の高額な身代金をためらいもなく応じるのは単なる時間稼ぎに過ぎないのだ。
その間に警察が裏から侵入し、誘拐犯を捕まえる準備を整わせている。
高額な身代金を入手し、さらに逃亡まで成功させた例はほとんどなく
このような類の要求はほぼ手詰まりであると確信できるからだ。偽札で十分事足りる。
警察に包囲され、誘拐犯は完全に逃げ道を塞がれてしまっている。
誘拐犯は人質を盾にすることしかできない。
しかし誘拐犯が肌身離さず羽交い絞めにしているので迂闊に手が出せない状況だ。
寺宇治教頭の車に乗り、保志の助けに向かう順子ちゃんとその御一行は、現場にたどり着く。
良樹「うわああ!警察やパトカーがいっぱい!」
正面には何台ものパトカーが止まっている。
寺宇治「あんだけ警察がいるのにまだ犯人捕まらんのか!まったくじれったいのう!だが保志君は無事であるはずだ。」
慎重すぎる警察たちに寺宇治は辛口な発言をするが、保志は無事であると断言する。
寺宇治は暴走族時代に警察によくお世話になっていたため信頼を寄せている。
弟を助けたい順子ちゃんに力を貸そうとする寺宇治であるが
現場まで順子ちゃんを連れて行かせた動機の約6割は、家の近くでもあったので心配で様子を見に行くためである。
良樹「くそどうやって入るんだ!」友ちゃん「これだと警察に防がれちゃうね」
寺宇治「裏口へいくぞ」
寺宇治は廃墟の温泉施設に裏口へ車を走らせる。
裏口にも何人か警察はいるが正面と比べかなり数が少ない。これならいけそうだ。
寺宇治「よしお前らいけ!絶対に保志君を助けるんだ!」
順子ちゃん「ありがとう先生!保志は絶対助ける!」良樹「行こう!」友ちゃん「うん!」
三人は寺宇治教頭の車から下り、裏口から入ろうと走っていく。
寺宇治は自宅へ向う。妻は他界しており一人暮らしである。
そのため、自宅に物が盗まれていないか確認しに行くのであった。
子供だけおいて、自分の心配をするとは本当に寺宇治は先生なのだろうか。
これも警察に信頼を寄せているからだろう。
警察「こら!ここは危険だ!戻りなさい!!」良樹「げっ警察が来た!」
裏口の見張りしていた警察が気付き、順子ちゃんたちを追いかけ呼び止める。
だが三人は足を止めなかった。
順子ちゃんは大声で叫んだ「保志!」と。
その声が保志に届く。保志も「お姉ちゃん」と大声で叫ぶ。
保志の声が届き、声が届いた場所に順子ちゃんが走っていく、後ろから友ちゃんも良樹も警察も走っていく。
ついに順子ちゃんは保志を見つけた。だが保志は誘拐犯に首を刃物で向けられ動けない状態だ。
藤居「なんだ!小僧!」順子ちゃん「私は保志の姉のジュンコチャンよ!弟を離しなさい!」
保志「お姉ちゃん!!」順子ちゃん「保志!助けに来たよ!」
藤居「てめえ!!」誘拐犯の藤居は順子ちゃんに刃物を向けるが彼女はまったく動じない。
順子ちゃんの背後から警察が来て、拳銃を藤居に向ける。
警察「動くな!」藤居「くそ!」
窓からも警察がいて、藤居は背を向けたことで窓からも拳銃を向けられる。
友ちゃんと良樹は警察に制止されてしまう。
警察「危ないよ!ここから離れて!」
良樹「保志は順子の弟なんだ!助けてやってくれ!」友ちゃん「お願いします!」
警察「君たち‥なんていい子なんだ‥」子供ながら、友達の家族を助けるため危険な場所に自ら飛び込んで助けに行く彼らに警察は感銘を受けてしまう。
藤居「へ!撃つ気か!お巡りさんよ!こいつがどうなってもいいのか!撃てるもんなら撃ってみろ!」
と警察を挑発する。
順子ちゃんと保志を目を合わせ、相槌を打つ。
順子ちゃん「撃て!」藤居「な!」
順子ちゃんは発砲の掛け声をした。藤居はその声で怯んだ。
その隙に順子ちゃんが仕掛けた。藤居「くそ!はったりか!てめえ!」警察「危ない!」
藤居は順子ちゃんを刃物で刺しに行くが、そこで保志が藤居の腕を思いっきり噛んだ。
藤居「いたああああ!このクソガキ!」順子ちゃん「くらえ!!!!」
順子ちゃんは藤居の股間を蹴り上げ急所をついた。藤居「あ!ううううう!」
藤居の顔は青ざめ、刃物を落とし股間に手を押さえ悶絶した。
保志は誘拐犯から解放され順子ちゃんに抱き付いた。居合わせた警察もその姉弟に抱き付いた。
警察「よくやったな‥」
動かなくなった藤居は警察に捕まった。
順子ちゃん「保志怪我はなかった?」保志「うん‥お姉ちゃん!ありがとう‥悪い人の腕噛んじゃったけどにんじんより全然硬くなかったよ‥」
順子ちゃん「うん‥よく頑張ったわね」
また姉弟抱き合い保志の背中をさする順子ちゃん。友ちゃん「よかったね‥」良樹「うんうん‥」
その姿を見て友ちゃんと良樹が涙し、警察たちも涙を流していた。
保志「姉ちゃんにんじん残してごめんね‥」順子ちゃん「いいわ‥もう気にしてないわ‥」
保志「にんじん残したから悪い人に捕まって罰があったってしまったのかな?」
順子ちゃん「かもしれないわね!」そこは否定する順子ちゃんであった。
友ちゃんと良樹、警察ともどもズッコケた。
折角の感動のシーンが台無しである。
その後両親が仕事を早退し駆けつけた。
宮沢家家族全員抱きしめあった。保志「パパ!ママ!うわああああああん」
父「良樹!ごめんなあの時怪しいと思った男がまさか良樹を襲うなんて!」
母「怪我がなくて本当に無事でよかった!」
この後、順子ちゃんも学校を早退し家族全員お家へ帰った。
良樹と友ちゃんは寺宇治の車で学校に戻り、授業の続きを受けた。
保志「ねえママ‥今日の夕ご飯‥にんじん食べるからにんじんだして」
保志はにんじんを食べるので母ににんじんを出すようにお願いした。
父「お!いいね!昨日のリベンジか!」
母「フフ!じゃあ今日の夕ご飯またハンバーグにしましょう!一緒ににんじんも出してあげる」
保志「やった!ハンバーグ!」順子ちゃん「フフ!ちゃんとにんじん食べるんだよ」
今日の夕ご飯はまた保志の大好きなハンバーグである。
にんじんを頑張って食べ、保志はにんじん嫌いを克服するのであった。
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