第6話 会長の思い
偕楽園で矢崎会長を探す二人だが、突然現れたスズメバチに良樹は慌て反撃したせいか、スズメバチを怒らせてしまった。
スズメバチは攻撃態勢になり、順子ちゃんと良樹を襲う。
スズメバチが大きな羽音たて毒針を良樹に向けて刺しにいく。
良樹「やべえ!!逃げろ!!」
良樹を狙うスズメバチに順子ちゃんは、口から何かを吐き出し、それがスズメバチに直撃した。
良樹「あれ?」
急に羽音が聞こえなくなった。
良樹はあたりを見渡した。
順子ちゃん「もう大丈夫よ。」
スズメバチは順子ちゃんの吐き出したものと一緒に木に張り付いていた。
良樹「これお前がやったのか!?」
順子ちゃん「そうよ。ガム噛んでたの」
スズメバチの体はガムで粘りついて身動きが取れなくなっているのだ。
紛れもなく、これは順子ちゃんがやった。
しかし、スズメバチは羽根を動かし、逃げようとしている。
良樹「コノヤロ!」
彼は逃がすまいと、パンフレット越しに足でスズメバチを押しつぶし絶命させた。
パンフレットは、ガムとスズメバチの体液で汚れてしまった。
良樹「順子お前がガム噛んでいたのか」
順子ちゃん「うん、ずっと、家から出たときからね。」
良樹「それにしては、でかいな」
順子ちゃんの噛んでいたガムの大きさはスズメバチの体を覆いつくすほど。
いったいどれほどの数のガムを口に入れてあのような大きさまで膨らんだのだろうか。
しかし、その噛んでいたガムでスズメバチを命中させる正確さは恐るべきものだ。
順子ちゃん「パンフレットがダメになっちゃったわね。」
良樹「こんなものいくらでも代えはあるからいいよ。注意するべきはあの蜂だ。」
良樹「テレビで見たことあるんだ。あれはスズメバチだ。刺されたら死ぬぞ。」
良樹がテレビで見た通り、順子ちゃんたちを襲ったのはスズメバチである。
刺されたら死ぬというのは大げさではない。
スズメバチの針には毒がある。刺されれば、毒で体が麻痺し、呼吸困難になるなどの重症になる。
2度刺されれば、最悪アナフィラキシーショックで死ぬ危険性がある。
まだ免疫力も体も丈夫でない小学生が一度でも刺されば、イチコロだ。
背中に翼が生え、頭に輪っかが浮かび、合掌して天に召されてしまうだろう。
順子ちゃん「よーし!矢崎会長を探すわよ!」
良樹「マジか!?帰ろうぜ!他のスズメバチが近くで飛んでいるかもしれないんだぞ!」
間違いなく、スズメバチが出現したということはその付近に巣があり集団で生息していると警戒するべきだ。
だがスズメバチは、攻撃を仕掛けられるとその相手を敵とみなし、敵が来たことを知らせるフェロモンを放出し仲間を呼ぶ習性がある。
良樹が、スズメバチを刺激させてしまったのは間違いで、もしスズメバチが数匹飛んでいたら、集団で襲われてしまったであろう。
順子ちゃん「大丈夫よ!また蜂が出てきたらさっきみたいに私がやっつけちゃうんだから!」
良樹「おっおう…そうだな…任せたぞ」
彼は、彼女に引っ張られ茂みの奥へと歩いていく。
スズメバチA「ハチコ!!」フェロモンを嗅ぎつけ、一匹のスズメバチが仲間の安否を確認する。
しかし、その仲間はすでに息絶えていた。
スズメバチA「なんだこの粘液は!?これでハチコはやられたのか?どうして…どうしてハチコが…」
後方にもう1匹、仲間がスズメバチAのもとにやってくる。
スズメバチB「スズバッチ!ハチコがどうした?」
スズメバチA「ブーン!!ハチコがやられた。これをやったのはでかいやつらだ。」
スズメバチA「我々の巣を、住む場所をやつらが幾度も奪い、そして仲間たちも殺された…もう許さない!私のこの毒針で片っ端から成敗してやるわ!」
スズメバチAの名はスズバッチ、スズメバチBの名はブーン、そして順子ちゃんと良樹に殺されたスズメバチはハチコ。
この3匹はどちらも女王蜂に忠誠を誓う働き蜂で、共に苦楽を共にする仲間なのだ。
スズバッチは、ハチコを殺した人間に怒りを覚え、毒針を尖らせる。
ブーン「私も協力する!」
スズバッチとブーンの2匹は、人間を探し茂みの奥へと飛んでいく。
その頃、矢崎会長を探す二人だが、良樹はスズメバチを恐れ順子ちゃんの腕を組み歩いている。
普通は女性側が男性の腕を組み、仲睦まじく歩くさまを、おしどり夫婦と見て取れるが、
この二人のから見えるのは鬼嫁に言われるがまま、連れられる頭が上がらない旦那様だ。
良樹の瞳は少し赤く涙目だ。
早くここからでて家に帰りたい、矢崎会長に会いたいという二つの思いが彼の胸の奥にぶつかり合う。
ブーーーーーーン
後ろからスズメバチの羽音が
良樹「うわあああ!!またでた!!」
順子ちゃんと良樹に2匹のスズメバチが襲ってくる。
彼の涙腺は崩壊する。
一秒でも早く矢崎会長に会いたいというのに、来るのは会いたくもないスズメバチなのだ。
スズメバチは激昂してこちらに飛び掛かってくる。
良樹はスズメバチが怒っているように感じた。
察するにスズメバチは仲間を殺されて怒っているのだろうと。
そうスズメバチは怒っている。
そしてその2匹は、スズバッチとブーンだ。
スズバッチ「見つけたぞ!!よくもハチコを!!」
スズバッチ「私はこっちをやる!!ブーンはそっちをお願い!!」
ブーン「わかったわ!!」
スズバッチは順子ちゃんを、ブーンは良樹を狙う。
良樹「来るな!!」
彼は腕を振り回し、スズメバチにまたも刺激を与えてしまう。
ブーン「こいつ!!」
ブーンは、良樹の背後に回り込んだ。
順子ちゃん「きたわね!!ハチ!!」
順子ちゃんはブーンに靴を投げつけ、ブーンの羽根を掠った。
ブーン「しまった羽根が!!」
掠ってしまったが驚異の命中率だ。ブーンの動きが鈍った。
スズバッチ「ブーン!!貴様よくも!!」
順子ちゃんの正面にスズバッチが迫りくる。
順子ちゃんはスズバッチを両手で挟み込もうとした。
バチン!!
スズバッチ「危ない!!」スズバッチは順子ちゃんの攻撃を避ける。
良樹「蚊じゃないんだからそれはやめろ!!」と突っ込みを入れる。
順子ちゃんは、スズメバチの怖さを知らず、蚊と同じ扱いをする。
毒針を持っているので大変危険だ。
しかし、彼女はお構いなしだ。
右手と左手を素早く交互に素手でスズバッチを捕まえようとする。
スズバッチ「こんなに動くバクバクは初めてだ!!くそ!喰われてたまるか!」
スズバッチは恐らく、順子ちゃんの手の動きが食虫植物に見えているのだろう。
しかし、スズバッチはあっけなく順子ちゃんの右手に体半分捕まり、思いっきり握り潰される。
スズバッチ「く!負けて…たまるか…」負けじとお尻を上げ、順子ちゃんの指に毒針を刺そうとするが力尽きてしまった。
ブーン「スズバッチまでも!己許さん!!」スズバッチも殺され、ブーンはさらに憤怒をするが
ブーン「う…うまく飛べない…」羽根を怪我してしまい心と体が追い付かない。
ブーン「ここは…撤退だ…すまない、ハチコ…スズバッチ…」仲間の死に何もできずむなしく、巣へ戻っていく。
良樹「おい順子手大丈夫か?」順子ちゃん「うん。」
彼女の手のひらに、スズバッチが上半身を潰され死んでいる。
良樹「よかったぜ」順子ちゃんが毒針に刺されていないことが分かり安心する。
彼は、スズメバチの毒針がどこにあるか教える。
良樹「ほらここ、このお尻についているこれが毒針だ。」
順子ちゃん「へえ~これが」良樹「こら触っちゃだめだ!!」スズバッチの死骸をぶん投げた。
順子ちゃん「なによ~」良樹「刺さったらどうするんだ!!まったく!!」
危機管理力が欠如している彼女に注意する彼だが、恐れずスズメバチに立ち向かう、その無謀さに助けられていることもある。
毒針をむき出しにするスズメバチに2回も遭遇するも、こうして怪我もなく無事であるから。
順子ちゃん「さあ、矢崎会長を探すわよ!!」良樹「おい!スズメバチを殺した手で触るなよ!!」
再び二人は、矢崎会長を探すため、手をつなぎ茂みの奥へと歩いていく。
矢崎会長はどこにいるかだが、順子ちゃんが話していたように、偕楽園にいるようだ。
彼が偕楽園に来た目的は、単なる観光ではなく、近隣住民がスズメバチによる被害を受けたとの報告があり、
そのスズメバチの巣がこの偕楽園にあると聞き、ここを訪れたのだ。
もちろん目撃者から実物の写真を受け取り、証拠がある。
目撃者が撮った場所は好文亭でそこにスズメバチの巣があるらしい。
写真に写っているスズメバチの巣だが、かなり大きく、大きさは50cm以上あるといっていい。
矢崎会長は現在、害虫駆除業者と一緒で、子規の句碑付近にいる。
彼らは好文亭から距離が近い、南門から入園した。
スズメバチの巣が発見されたのは、つい先日で制限がかけられていない。
できれば今日中に、入園者が増えないうちに駆除しておきたい。
矢崎会長「酒田さん目黒さん、これ以上市民たちに被害が拡大しないよう、早急にご対応お願いたします。」
酒田「かしこまりました。写真を拝見しましたが、巣の大きさは大体60cm以上ほどあります。」
酒田「その巣の中にはスズメバチが1000匹以上生息しています。」
矢崎会長「なんとそんなに!!」
害虫駆除業者の酒田とその相方目黒が矢崎会長にスズメバチの生態や危険性について説明する。
目黒「ですので、元を絶たねば、スズメバチは増えてきてしまいます。」
目黒「スズメバチは女王蜂を守るため大量に襲ってきます。」
目黒「矢崎さんは、安全な場所へ避難してください。建物の中であれば安心でしょう。」
矢崎会長「そうですね…わかりました。」
スズメバチの恐ろしさを聞いて腰が引けた矢崎会長。
矢崎会長は少しでも力になりたいと高値で強力な殺虫スプレーを買ったが、後は無防備だ。
これでは、犠牲覚悟で飛び込む歩兵かいいとこ諸刃の特攻隊だ。
ここは専門的な知識と装備も万全な害虫駆除業者に任せたほうがいいと会長はそう思った。
会長は前に蛇に狙われていたこともあり今年は注意するべき年であり、無理はしないほうがいいとつくづく感じているのだ。
矢崎会長「蛇が出たときわしを守ってくれたのは小さな女の子じゃったな~」
矢崎会長「昔は、暴走族なんかやっていろいろ馬鹿もしたもんじゃな~蛇なんて怖くもなかったのに」
順子ちゃんのことを思いながら、過去のことを思い耽る。
会長は、過去暴走族をするなど血気盛んで横暴な男であったが、仲間に何かあれば助ける仲間思いで熱血漢のある人でもあった。
今は自治会長で地域行事の中心を担う者となったが、体は年老いた非力な老人と変わらない。
矢崎会長「順子ちゃん良樹くんとデートするとか言ってたのう…まだ幼いのにあの年でデートか、あやつらが羨ましいのう」
矢崎会長「ん?デート?あやつらがここにきていなきればいいのだが…」
スズメバチの危険が潜むこの偕楽園にあの二人が入園していないのか心配であった。
その悪い予感が的中するもので、何故なら二人はここに来ており、しかもスズメバチに2回も遭遇しているのである。
矢崎会長を探している順子ちゃんと良樹は、西門から入園していて、二人は現在太郎杉の付近を歩いている。
良樹が持っていたパンフレットは、スズメバチを駆除するときに使って汚れ捨てしまい、
散策マップがないため現在地を確認できない状況ではあるが、道なりをまっすぐ歩けば、好文亭に着き、矢崎会長が害虫駆除業者と同行していれば落ち合うだろう。
しかし、会長では二人が偕楽園に来ていることは知らない。
二人が偕楽園に来ていなくても、他に入園者はいる。
矢崎会長「あ!そうだ!」
そこで、矢崎会長は、一人でも多くスズメバチの被害にあわないように入園者に注意を促していこうと思った。
矢崎会長「酒田さん、目黒さん私は、入園者に注意を呼びかけます。」
酒田「それは大変助かります。ご協力感謝いたします。」
目黒「お願いします。」
会長としてできることを精一杯やりたい、体が衰えていても、人を思う心は衰えていない。
ここで、会長は、害虫駆除業者の二人と別行動を取り、入園者を探し出した。
矢崎会長「一応念のため高橋さんに連絡をしておこう。」
二人にもしものことがあったらと心配になり、良樹の家族に連絡をした。
二人の動向も把握することができれば胸のつかえが落ちるだろう。
矢崎会長「もしもし、お世話になっております矢崎です。」良樹の母「あら会長、こちらこそいつもお世話になっております。休日ですがどうなさいましたか?
」
良樹の母と電話が繋がり、良樹はどこに行かれるか聞いた。
矢崎会長「先日知り合った宮沢さん、えーあなたの息子さんと同じ学校の子と思われますが、その子とデートをするそうで、えー息子さんどちらに行かれるかご存じでしょうか?」
良樹の母「偕楽園に行くと言ってましたよ。会長が偕楽園に行くということでして」
良樹の母からの返事は、順子ちゃんと良樹は偕楽園に行くとのことであった。
矢崎会長「な!なんとーーーーーー!!」
会長の萎れた白髪は真っ直ぐに逆立った。
良樹の母「会長どうしたのですか?」
矢崎会長「宮沢さんに偕楽園に行くとは告げましたがまさかこっちに来るとは思いませんでした。」
良樹の母「会長にあいたいと思うんですよ!きっと。まだご一緒ではないのですね。」
偕楽園に行く目的が、自分に会いに行くということなら、子供好きの会長にとってはうれしいことではある。
だが今回ばかりは来てほしくなかった。
矢崎会長「あのですね‥」
会長は良樹の母に昨今スズメバチの被害が市内の方であり、蜂房が偕楽園にあることを伝えた。
良樹の母「そうなんですか…それで良樹とあの子のことを」
矢崎会長「はい。それで心配でお電話させていただいた次第でございます。」
矢崎会長「急いで、お二人を探します。」良樹の母「はいありがとうございます。私もそちらに向かいます。」
矢崎会長「わかりました。お二人を見つけたら安全なところに避難させます。」
良樹の母「お願いします。到着しましたら連絡します。」
良樹の母も車で偕楽園に向かうこととなった。
矢崎会長は二人を探すため、茂みの奥へ走っていった。
ところで、順子ちゃんから逃げてきたブーンだが、巣に戻り女王蜂に凶報する。
ブーン「女王様!ハチコとスズバッチが敵にやられました。」
女王蜂「なんだと!ブーン!その羽根の怪我は、その敵にやられたのか。」
ブーン「はい!申し訳ございません!」
女王蜂「またしても奴らが!ハチコとスズバッチを…!許さん!」
ハチコとスズバッチは優秀な働き蜂であっただけに、女王蜂はその彼女たちの死に悲憤する。
女王蜂の側近「奴らはどこにいる?」
ブーン「奴らが向かっている方角からするとこちらに向かっております!」
女王蜂の側近「なるほど…おそらく、この巣と、そして女王様を狙うのが目的でしょう。女王様!どうなさいますか?ご決断を!」
女王蜂の決断は。「全下部たちよ!!聞け!我が寵愛する下部たちが殺された。そして奴らの目的は我とこの巣の崩落だ。」
女王蜂「もう何度目だ!!我々の根城を奪われたのは!奴らを見過ごすわけにはいかん!」
女王蜂は怒りを力に変え、働き蜂たちに士気を鼓舞する。
害虫駆除業者の酒田と目黒は、スズメバチの巣がある好文亭にたどり着いた。
スズメバチの巣は、好文亭の3階の楽寿楼の屋根にあるのだが、そこで二人は異様な光景を目にする。
女王蜂「全員出動だ!反撃を開始する!奴らを刺殺せよ!」
働き蜂たち「おおおおおおおおおおおおおお!」
スズメバチたちは巣から一斉に飛び出していった。
女王蜂「ブーン、我も行こう。ハチコとスズバッチを殺したものを許すわけにはいかない。奴らのもとに案内しろ!」
ブーン「は!!女王様!」
1200匹近くのスズメバチたちが四方八方に飛び散っていく。
酒田「どういうことだ!危険を察知したとでもいうのか?」
目黒「大量のスズメバチが園内全域で暴れれば危険だ!」
偕楽園に放たれた大量のスズメバチ、そして女王蜂率いるスズメバチの大群が順子ちゃんたちに押し寄せる。
順子ちゃんと良樹、そして矢崎会長の三人の運命はいかに‥
続く‥
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