第5話 お出かけの約束
良樹「なんだあれは!!」
水戸市街地に巨大な怪獣が出現する。
建物は損壊し、町は火の海に。
自衛隊が駆け付け、戦闘機で応戦するも返り討ちにされる。
市民たちは逃げ惑う、良樹もその中に紛れ逃げるのだが、彼は怪獣に捕まってしまう。
良樹「くそ!離せ!!」
しかし必死に藻掻こうとするも怪獣の腕で締め付けられ身動きできない。
彼の体は宙に浮き、怪獣の顔に近づいていく。
良樹「え?喰われるのか?」
彼は死を直感的に感じた。宙に浮いた体がまるで天国へ向かうかのように。
怪獣の顔に近づいていくと同時に彼は死を受け入れた。殺すなら一思いにやってほしいと。
すると彼は、怪獣の顔を見た瞬間、背筋が凍り血の気が引いた。
なんと怪獣の顔が順子ちゃんそっくりだったのである。
良樹「う!嘘だろ!!」
体は、ワニのような緑の硬い皮膚とうろこ、長いしっぽ、顔は順子ちゃんだ。
順子ちゃんの顔をした怪獣は、鋭い目つきで良樹を見つめ、大きな口を開き彼に喰らいつく。
良樹「うああああああ!!」
大きな声を発すると同時にベットから起き上がる。
良樹「夢‥か‥」
そう今のは夢だったのである。
良樹「もうあんな夢二度と見たくねえ」
怪獣が現れ、ましてや顔が順子ちゃんで町を襲う、命の危機すら感じた想像を絶するほどの悪夢のような夢を見たのだ。
良樹の脳裏に焼き付き、順子ちゃんは夢の中までも彼に恐怖を植え付ける。
良樹「あ!!今日、順子とお出かけする約束じゃんか!!」
これだけは彼に突き付けられた現実なのである。
良樹「断ったらどうなるんだ‥」
良樹は見た夢が正夢だと思うと恐怖を感じ、もし断れば怪獣となって襲うだろうと。
彼は、覚悟を決め、ベットから降り支度をしようとした時
「おーーい!!良樹!!」と外から彼を呼ぶ声が
良樹「この声は!あいつか!?」
あの銅間声はまさしく順子ちゃんである。
良樹の部屋は2階で、部屋の窓から外を見渡し、家の玄関に順子ちゃんがいたのだ。
良樹は急いで着替え玄関へ向かった。
「いらっしゃい、あなたはもしかしてうちの良樹のクラスメイトかしら?」
順子ちゃんを出迎えてくれたのは良樹の母である。
順子ちゃん「はい!初めまして宮沢順子と申します。」
順子ちゃん「今日は良樹君に用があってきました。」
良樹の母 「あら~お行儀がいい子ね。用とはなにかしらね。」
順子ちゃん「今日、お出かけの約束をしまして、良樹君いらっしゃいますか?」
良樹 「順子!」良樹の母 「ちょうどきたわね。良樹にこんな良い女の子が友達になってくれて嬉しいわ。」
良樹の母は、良樹に女友達ができたことを喜んでいた。
良樹「なんで俺の家がわかったんだ?」
順子ちゃん「矢崎会長に良樹の家はどこか教えてもらったのよ」
適当に外を出歩いていたら、たまたま矢崎会長にあったらしく良樹の家の住所教えてもらったようだ。
良樹「え?あのじいちゃんと知り合いなのか!」
順子ちゃん「ええ、登校初日にね。ついでに飴も貰ったの」
良樹の母「会長ともお知り合いなんだ~しっかりしてるわね。」
良樹「どうやって矢崎じいちゃんと知り合ったんだ?」
順子ちゃん「矢崎会長が蛇に襲われているところを、私が蛇を退治して助けてあげたのよ!!それで知り合いになった訳」
良樹「はあ?!……そう…かなるほど…」
知り合った経緯はとんでもないが、昨日の順子ちゃんを見て、彼は納得せざるを得なかった。
ちなみに矢崎会長に貰った飴はバレずに家へ持ち帰れたそうだ。
順子ちゃんは甘いもの好きでよくチューイングキャンディーを食べる。
最近は味が長持ちするガムを噛んでいる。
今もガムを噛んでいるが、挨拶のためガムを丸め舌でおさえている。
順子ちゃん「昨日お出かけの約束をしたのはいいけど、待ち合わせ場所どこにするか決めてなかったじゃない!」
良樹「あ!そうだった!」
順子ちゃん「まだここに引っ越したばかりでここは詳しくないから案内してくれるんじゃないの~?」
良樹の母 「もうしっかりして!!ちゃんとエスコートしなさい!!」
良樹「いた!」良樹の背中を叩く母。
順子ちゃん「けど良樹の家がわかったからいいわ。これでいつでも遊びに行けるわ!」
良樹「な!なに」
良樹の母「いろいろご迷惑かけると思うけど、これからよろしくね。宮沢さん。」
順子ちゃん「はい!」
良樹「まじかよ~」
順子ちゃんに住所まで特定されてしまった良樹。
良樹の母「順子ちゃんとどこ行くか決めたの?」
良樹の母は、良樹と順子ちゃんに何かあった時のことを考慮し、二人がどこに行くか確認した。
良樹「どこ行くかも決めてなかった。」
「はあ~それも決めてなかったの」良樹の母は眉をひそめ呆れてしまう。
良樹「仕方ないだろ~。予定がいきなり今日になって、いろいろばたばたしちゃったんだからよ~」
順子ちゃん「何よその言い草!!ていうか、お出かけ今日にしたの良樹でしょ!!」
良樹の母「こら!良樹!とぼけんじゃないわよ!」良樹「いた!」
頭を叩かれる良樹。
お出かけの誘いをしたのは順子ちゃんであるが、それに首を縦に振ったのは良樹自身だ。
しかも予定をこの日にしたのも彼なのだ。
黄金比とまではいかないが、彼女はそれなりに顔がよく、可愛いいほうだ。
第一印象はしっかり者と思われたが、昨日のリレーで本性を知り戦慄が走ったのだ。
思わぬことが起きないか心配で順子ちゃんとお出かけしたくない。
それが良樹の本心だ。
当時、彼女のお出かけの誘いは、ほぼ冗談であったのもあり、あの時断っておけば良かったのだ。
良樹は人を見た目だけで判断してはいけないと学んだ。
自業自得だ、後悔しても遅い。
言い逃れはできない、母に喝を入れられ、もう一度気を引き締めなおす。
良樹「あーもうわかったよ!ちょっと待っててくれ」
良樹は朝食を早めに済ませた。玄関を出たとき、母にこう言った。
良樹「俺絶対に生きて帰ってくるから!」
良樹の母「何言ってんのあんた?」
まるで戦争に向かうかのような気迫であった。
良樹「行きたい場所はあるのか?」
順子ちゃん「うーんとそうね~矢崎会長が偕楽園行くって言ってたし、偕楽園にしましょう。」
こうして二人のお出かけ先は偕楽園に決まった。
順子ちゃん「じゃあ行くわよ!」良樹「おう!う!」
順子ちゃんは腕で良樹の首を回し、連れていく。
それを見た良樹の母は、何かを察した。
良樹の母「がっガンバリナサイ…」手を振り見送った。
とにかく面倒事に巻き込まれなければよいのだが。
順子ちゃん「ねえ良樹金ある?いくら持てる?」良樹「はあ!?」
順子ちゃんは、良樹の懐を確かめる。
デート代など、男がおごるべきという考えを持った女性は一定数いる。
男性としてそういった考えを持つ女性は、できるだけ付き合いたくはないだろう。
順子ちゃんが奢ってもらおうと考えているのではないかと感づき
良樹は、「まさかお前…」
順子ちゃん「そうなの~財布忘れたのよ。それにあまり親がお小遣いくれないの~私ね金遣い荒いのよ」
この流れは間違いなく奢ってもらおうという節がある。
その上、金遣いが荒いなら、自分の財布に大きなダメージが生じてしまうだろう。
親からお小遣いをくれないかはさておき財布を忘れたのは事実、ほぼ奢ってもらおうとする気だ。
財布を忘れてしまえば、おのずと男性側が泣く泣くお勘定しなければいけなくなる。
この方法は男女問わず、無一文でひもじい時の常套手段だ。
しかし後でお金を返さなければいけないというリスクがある。
そんなとき、優しい男性なら返金はいいと言ってくれるのだ。
彼の脳内には、順子ちゃんに飯を奢り、会計するところまでのビジョンが移っている。
そして自分が「お金は返さなくてもいい」という言葉を彼女は待っていると、彼は深入りした。
そうわいかない、彼にも譲れないものがある。
彼は新作のゲームソフトを買うためにお金を貯めているのだ。
良樹「そうかお前もか、俺も小遣いくれないんだよな。」
良樹は賭けに出た。自分も順子ちゃん同様、親がお小遣いをくれないと。
そういえば財布の中のお金に期待が持てないと順子ちゃんは考えてくれるはず。
たとえ、奢ることになっても少額で済ましてくれるだろう。
もちろんお金も返してもらうつもりだ。
さて順子ちゃんは良樹に奢ってもらう気だったのか
順子ちゃん「今日は午前中までにしときましょう。良樹嫌そうだし」
順子ちゃんが感づいたのはそっちだった。
良樹「あんなの見たら誰だって引くわ!昨日のリレーのやつ!」
順子ちゃん「何のこと?」彼女は自覚がなかった。
良樹「上の6年生相手に強気じゃん?あれすげーけど、この前のリレーとか見て思ったんだけど、なんか女の子らしくねえつーか、」
良樹は順子ちゃんの言動に疑問を持ち、それを本人に言った。
順子ちゃん「私は自由にありのままを生きてるだけよ。男も女も関係ないと思うけど。なんか変なの?」
良樹「いや~変ではないかな。女の子って友子みたいにおとなしい子が多いってイメージだったからかな」
良樹「アニメでよく強い女の子みるけど、それより順子ちゃんは強いというか、怖いというか。何かやばいことに巻き込めれないか心配で…あ!」
良樹はつい本音までさらけ出してしまった。
順子ちゃん「はは大丈夫よ!何かあったときは私が守ってあげるから。」
良樹「お!おう…」順子ちゃんの「守ってあげる」という言葉にどこか説得力があると感じる彼であった。
いろいろやり取りしているうちに、二人は偕楽園に着いた。
偕楽園は、石川県の兼六園、岡山県の後楽園と並ぶ日本三名園で、伸びしろ日本一の茨城県の観光スポットである。
偕楽園の入園料は大人300円、子供150円だ。
子供料金は大人の半分ではあるが、良樹は、お金を持っていない順子ちゃんの代わりに入園料を支払わないといけない。
今回のお出かけは午前中までだが、入園料以外でお金が発生する可能性があり奢るか奢らないかまだ決まっていない。
入園料は払うとして、小学生にとって300円の出費は侮れない。
お金については、後で考えるとして問題は、ここで何をするかだ。
順子ちゃん「結構広いわね。」良樹「うん‥‥‥」
順子ちゃん「ん?どうしたのよ良樹?」良樹「はは俺ここ来るの初めてなんだよな~」
良樹は、偕楽園に行ったことがなく今回が初めてであった。
水戸市民でも、偕楽園に行ったことがない人もいるのも珍しくはない。
茨城県の観光地としても有名なので、魅力を伝える候補の1つとなる、校外学習などで偕楽園に行くこともあるはずなので行ってみて損はないであろう。
しかし春が過ぎ、桜はとっくに散っている、また梅の実落としもちょうど終わりを迎えたばかりだ。
梅は来園者に販売するので今が買い時である。
奢ることになるが、彼女とお出かけをした記念に一緒に梅を買えば、クラスや家族に好ましく思われるし、食卓も華やぐだろう。
だが、良樹は梅を買うよりゲームソフトである。
パンフレットを片手に、園内を歩き回りながら歴史や自然を堪能するのが無難だろう。
良樹はパンフレットを広げ、偕楽園の地図を眺めていると
順子ちゃん「なんか食べるとこないかしら、あ!あったわここ行きましょう!」
偕楽園には憩いの場としてもちろん喫茶店がある。
順子ちゃんは真っ先にパンフレットに記載されている喫茶店を指さした。
花より団子な彼女である。
これで、良樹は順子ちゃんに奢らなければいけなくなった。
良樹「後で金返せよ!お前金ないんだからよ!」
順子ちゃん「わかったわ~後で返すわ~」
しかし、これだけは信用できない。
お金を返すにしても、それがいつ頃なのかわからない。もしかしたら一生返してくれないかもしれない。
少なくとも新しいゲームソフトの発売日までには間に合わないだろう。
良樹の財布にピンチが訪れる。紙幣と硬貨に羽根を生やし始めてきている。
良樹はふと思いだす、なぜ偕楽園に来たのかを。
矢崎会長が偕楽園に向かうと言っていたからだ。
まだ矢崎会長は偕楽園にいるかもしれない。彼は名案を思い付いた。
良樹「そうだ!矢崎おじいちゃん探さないか?」
順子ちゃん「え?なんで?矢崎会長を探すの?」
良樹「奢ってもらおうぜ!!」
良樹は、矢崎会長に奢ってもらえば自分はお金を出さずに済むし、大食いの順子ちゃんも満足に食事をすることもできるだろう。
それに子供好きの矢崎会長なら喜んで順子ちゃんのおなかを満たしてくれるだろう。
順子ちゃん「賛成!それがいいわね!」
二人は矢崎会長を探すことになった。
ブーーーーーーン
良樹「ん?なんだ?」
急に大きな虫の羽音が聞こえる。
ブーーーーーーン
良樹「うわあ蜂!!」
彼に目の前に飛んできたのは大きなススメバチである。
良樹「やめろ!!」彼は、手で払い除けようとした。
しかし、彼のしたことがスズメバチに刺激を与えることとなってしまう。
スズメバチは、怒り出し順子ちゃんと良樹にを襲い掛かる。
良樹「来るなあああ!!」
二人の身に危険が‥どうする!?
続く
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