ジュンコチャン

第46話 激しい攻防

3組チーム対2組チームのドッチボールは激しい局面を迎える。
幸助と豪[6、2]たち6年生らはお互い6年間の思いを全力でぶつけ合い、
5年生はそれに食らいつき6年生のピンチを救ったり救われたりして来年のドッチボール大会への布石を残そうとする。
しかし世代間のギャップもあり6年生に追いつけない1年生など下級生たちは次々に外野へ送られてしまい
中にはこのドッチボール大会が退屈であると嘆く子もいる。
井村校長はそんな小さき彼らを見て将来の活躍を期待し思いを馳せる。
1年生3組の順子ちゃんは外野の隅で寝ている。
いつしか眠れる獅子が目覚め活躍という大輪の花を咲き誇らせるのであろう。
本格化する3組チーム対2組チームのドッチボールの試合に
井村校長はなんと2チームにそれぞれボーナスチャンスを与えるようだ。
2チームに与えられるボーナスチャンスが試合にどのような展開をもたらすのだろうか。


薫「幸助お前がボーナスチャンスを引いてこい!」
幸助「俺でいいのか?」
薫「これはリーダーである俺の指示だぜ!」
景子「まあ誰が引いても同じだしいいかな。」
悠太「幸助が引くのありだぜ」
尊「1発すげえの引いてこい!」
幸助「みんな…よし!引いてくる!」
3組チームはリーダー薫が引くのではなく幸助がボーナスチャンスを引くことにした。
進路に対する迷いが払拭して今勢いがある幸助だから薫は彼にボーナスチャンスを引くことを選んだのだろう。
内容によるが幸助の引きに期待し2組チームに差をつけたいところである。
2組チームはリーダーである豪[6、2]が引くようだ。
豪[6、2]の引きはよく、彼の引きによって1組チームとの試合で勝利を収めた。
実力と運も兼ね備える豪[6、2]は勝利の切符をまた手にすることになるのだろうか。
井村校長が手に持つボーナス箱の前に幸助と豪[6、2]が立った。
井村校長「まずは2組チームから引いてください。」
豪[6、2]「はい!」
豪[6、2]がボーナス箱に手を入れる。
包み紙を取り出し広げて内容を確認する。
書かれていた内容は、「1発セーフ!」である。
佳奈[6、2]「流石!いい引きしてるわね!」
遊地[6、2]「でかしたぜ豪[6、2]!」
悠太「うあああ!マジかよ!」
豪[6、2]「じゃあ「1発セーフ!」は俺に付与しといて問題ないよな?」
佳奈[6、2]「全然問題ないわ。」
景子「もう!こっちは大アリよ!」
豪[6、2]の引きは3組チームの反応はあまりよくないが、一方で2組チームは喜びと安堵の表情を浮かべる。
これは勝利の切符を手にしたと言ってもいいかもしれない。
改めて「1発セーフ!」はボールに命中したりボールのキャッチに失敗して床に落ちたりして
アウトになってしまった判定を一度だけセーフにするということである。
つまりは身代わりを一度だけ得たということだ。
前の試合の3組チーム対1組チームで3組チームが使用し
順子ちゃんに「1発セーフ!」を付与され、「1発セーフ!」を囮に油断の隙をついて大吾[6、1]にさせた。
使用タイミングはメンバーの誰かがアウトになった時とあらかじめメンバーの一人に付与するかだが
2組チームは後者の方に使い道を決めてリーダーである豪[6、2]に「1発セーフ!」を付与することにした。
ただでさえ生存率が高い豪[6、2]に「1発セーフ!」を付与されることは3組チームにとって大きなプレッシャーになる。
豪[6、2]本人は、野球をしていて腕を使ったボールの扱いに長けており捕球力がありさらに速いボールも投げられる。
3組チームの前に立ちはだかる壁は二層になって圧をかけてくるだろう。
1回だけアウトになってもいいということなのでより一層強気な攻めをしてくるはずだ。
豪[6、2]は3組チームにとってかなりの強敵であり、ゲームに例えると第二形態を持つラスボスだ。
それに対して3組チームはどんな内容のボーナスチャンスを引くのだろうか。


是が非でも「一人外野へ!」を引きたい。
「一人外野へ!」を引けば無条件に相手チームの内野を一人を外野送りにできる。
裁定では「1発セーフ!」を付与されていても関係なく外野へ送ることができるようになっている。
「1発セーフ!」を付与されたチームメンバーに「一人外野へ!」が使用されそれに対して抗議が行われた事例があった。
争点になったのは「一人外野へ!」はアウト扱いになるかどうかである。
結果は「一人外野へ!」はアウト扱いにはならないということで決着がついた。
「一人外野へ!」はこの無条件に外野へ送るというのが決め手となった。
ボールに当たったプレイヤーがアウトになって外野に行くのがドッチボールの基本ルールである。
ボールに当たったりキャッチに失敗してボールを床に落としてしまうのがアウトの条件となるため
その条件を無視して外野へ送り込む「一人外野へ!」の方が効力が大きいと見える。
しかし「1発セーフ!」を付与されたプレイヤーは試合が終了するまで有効のため
なんらかの形で内野に復帰すれば普通に「1発セーフ!」を使用することができる。
それこそ「外野一人復活!」というボーナスチャンスが返し札になるだろう。
とにかく今は「一人外野へ!」を引きたい3組チームであり豪[6、2]をまずはアウトにさせてやりたい。
全ては幸助の引きにかかっている。
幸助はボーナス箱に手を入れた。
包み紙を広げてボーナスチャンスの内容を確認する。
3組チームのボーナスチャンスの内容は「内パス1回OK」である。
悠太「おいーーーーーーー!」
薫「あ~~」
またも3組チームの反応が良くない。
幸助「俺も引きの運ねえな~」
薫「ああ~幸助に引くの良くなかったかもしれないな」
幸助「ええ~俺のせいか~」
景子「薫の引きの悪るさが幸助にうつったんじゃない?」
尊「それ有り得そうだな。」
薫自身幸助にボーナスチャンスを引かせたのを内心後悔しているようだが
1組チームとの試合では2回とも引きは微妙だったためそろって引きの運がないようだ。
「内パス1回OK」とは内野でのパスを1回OKとすることである。
ドッチボールのルール上内野同士でのパスは原則禁止とされている。
それを1回だけ許すのが「内パス1回OK」である。
使い道はほぼなくはっきり言うとハズレである。
一応使いどころを説明すると投球に自信がないメンバーがボールを持った際に他のメンバーにパスできるぐらいだ。
しかしそれも外野にパスしていけば済む話であるためあまり意味はないだろう。
一先ずボーナスチャンスがないよりはマシと見ていいかもしれない。
きっとこれが逆転のカギを握るかもしれない。
ボーナスチャンスがどうこうではなく、悔いが残らないように全力でドッチボールに取り組むべきである。


試合は2組チームの攻撃から再開である。
ボールは豪[6、2]が持っている。
豪[6、2]「遠慮なく行かせてもらうぜ!」
お得意の速球が3組チーム陣営目掛けて砲撃される。
3組チーム内野は全員必死に避ける。
しかし次の外野の攻撃に備えようとしたが一人足を滑らせ態勢を崩してしまう。
景子「あっやばい!」
遊地[6、2]「もらった!」
遊地[6、2]はバランスを崩してふらついている景子を標的にボールを投げた。
景子は避けることができずボールに当たってしまう。
6年生メンバーの一人がアウトになってしまったのは痛い。
景子「うわあ~やられたわ~」
薫「景子!」
景子「ごめん!」
薫「こっちは俺たちに任せろ、外野のほうは頼んだ」
景子「うん…」
そそくさと景子は外野に行った。
前回の1組チームの試合で景子は攻撃に参加することはあまりなかったが最後まで生き残って6年生としての意地を見せた。
仕方なかったとはいえ最後のドッチボールの試合がこんな形で幕引きとは腑に落ちないはずだ。
景子「任せたわよ…みんな。」
しかしまだチームは負けたわけではない。
くよくよしていても仕方がないので内野の薫たちに任せ、外野としての役割に徹するべきである。
遊地[6、2]「よっしゃ!」
賢人[6、2]「遊地[6、2]もノッてきたな!」
幸助をライバル視していることもあって遊地[6、2]も勢いが乗ってきている。
豪[6、2]「よし!遊地[6、2]もっと3組を追い詰めてやろうぜ!」
悠太「そうはさせるか!こっちも反撃だ!」
ボールは悠太が持ち、2組チームに反撃する。
悠太のシュートから幸助にボールに届き、幸助のスピードシュートで愛華[3、2]をアウトにさせた。
愛華[3、2]の近くに年明[5、2]がいたため彼がボールを拾う。
年明[5、2]「もう一度いくぜ!」
年明[5、2]のカーブボールが飛んでくる。
斜め上に飛んでいきボールの軌道は3組チーム内野のど真ん中に向かっていき急降下していく。
薫「うあ!あぶね!」
一人も当たらなかったが床に落ちて高くバウンドする。
そして高く弾んだボールを学がジャンプしてボールをキャッチしてそのままシュートする。
学「えい!コノヤロー!」
鋭くて速いボールが豪[6、2]の顔面に真っすぐ飛んでくる。
豪[6、2]「おわ!」
豪[6、2]は慌てて避けたが彼の後ろにいた須春[3、2]の肩に命中する。
「オオオオ!」
体育館内に驚きと歓声が響く。
井村校長「ちょっと危なっかしかったですが5年生も頑張っていますね。」
井村校長「来年も期待できますね。」
板倉先生「はい。きっと彼らが来年の大会の主役となるでしょう。」
薫「惜しかったな学!今のいいシュートだったぞ!」
豪[6、2]「いやあ~危なかった!よくもやってくれたな~太平!顔面はダメだろ!」
豪[6、2]は冷や汗をかいた。
学「去年のお返しっすよ!」
去年の豪[6、2]の猛威に敵わなかった時のお返しなのだろうか。
顔面の当たりそうだったが当たってしまってもセーフではあった。
避けた結果後ろにいたメンバーに命中し点を取ることができたため学は豪[6、2]に一矢報いることができた。
井村校長と板倉先生が言うように年明[5、2]や学をはじめ彼らが来年のドッチボール大会の主役となるだろう。
全体の試合を通して5年生メンバーの生存率も高いため今回の大会でも十分活躍できている。
総太郎「ああ~惜しかったな~」
尊「ああ惜しかったよね~顔面に当たって豪[6、2]が鼻血出しているとこ見たかったな。」
尊と総太郎の二人は豪[6、2]が鼻血を出して泣いている姿を思い浮かべながら猫口のようなにやつき顔でクスクス笑っている。
豪[6、2]「てめえら~許さんぞ~!」
豪[6、2]「だけどあのシュートは素晴らしかった!学も野球やってみたらどうだ?」
板倉先生「あいつの野球の勧誘は尽きねえな。」
怒りの矛先を学にぶつけるも彼のシュートについては褒めていて幸助だけでなく学にも勧誘する豪[6、2]。
学「考えておきまっおっと!」
学の返事は待たず豪[6、2]は彼にボールを投げてきた。
学は横にサッと避けた。
ボールは壁に当たって遊地[6、2]がすぐにボールを取りに行く。
外野にいる他のメンバーを取りに行ったがボールは激しく転がり追いつかず3組チームのコート内に入っていった。
遊地[6、2]「すまねえ豪[6、2]!」
豪[6、2]「こっちも悪い!力みすぎた!」
力が入りすぎた豪[6、2]の速球は壁に当たり強い衝撃でボールは予測不能な動きになってしまった。
これでまた3組チームの攻撃である。


5年生メンバーのシュートも取り入れながら幸助との連携攻撃で2組チームを追い詰め
制限時間25分経過し2組チームは桜子[2、2]、朋世[2、2]、奈菜[3、2]、郷子[4、2]、修[4、2]がアウトになり
そして若葉[1、2]になって2組チームの1年生メンバーは全滅した。
2組チームの2年生メンバーは残り拓海[2、2]だけになった。
だが3組チームも3年生の卓と4年生の由美と優司がアウトになり2年生では聖次がアウトになってしまったため
3組チームの2年生メンバーも残るも総太郎だけになった。
豪[6、2]の速球に怯えながらも避けている総太郎。
臆病な人ほどすばしっこかったりするのでドッチボールでは案外生存率が高いのかもしれない。
拓海[2、2]は豪[6、2]の背後から同じ学年の総太郎に視線を向け笑顔で見つめている。
総太郎「くう~拓海[2、2]め~」
拓海[2、2]を恨む総太郎。
総太郎の2年生メンバーは豪[6、2]の速球の餌食となってしまった。
恨むなら豪[6、2]かもしれないが豪[6、2]と同じチームに所属している拓海[2、2]が羨ましいのだ。
3組チームの6年生メンバーも頼もしいがやはり豪[6、2]の速球を相手にしなければいけないのが厳しいところである。
メンバーが減ってくれば自然と総太郎も狙われる。
何度か総太郎をターゲットにボールが投げられたが逃げ回りなんとか内野に留まっている。
現在2チームの状況だが2組チームは内野の人数は復帰権を持っている遊地[6、2]を含めて十六人
3組チームは同じく復帰権を持っている幸助合わせて内野は十六人とほぼ互角と激しい攻防を繰り広げている。
既に2組チームの1年生メンバーは全滅していて2年生メンバーは両チームほぼ壊滅状態である中、友ちゃんは生き残って薫たちと共に戦っている。
友ちゃんは、序盤豪[6、2]に倒され外野の隅で寝ている順子ちゃんを見つめていた。
友ちゃん(順子ちゃんの分まで私頑張るよ!)
友ちゃんは順子ちゃんの意思を受け継ぎ彼女の分まで戦い抜く覚悟である。
おそろく豪[6、2]の速球の標的は友ちゃんになるかもしれない。
豪[6、2](まだ1年が一人残っていたな。あいつだな)
豪[6、2]はボールを持っていて、ボールの標準を友ちゃんに定めた。
1年生を一人残らず狩り取るつもりである。
友ちゃん(来る!)
次の標的は自分だと察し友ちゃんは身構える。
豪[6、2]は容赦なく友ちゃんに向かってボールを投げる。
薫「友ちゃん!」
飛んでくるボールの方向が友ちゃんだと知る薫。
友ちゃんは豪[6、2]の速球を避けるのか。
友ちゃん「止める!!!!う!」
豪[6、2]「なに!!」
なんと友ちゃんは豪[6、2]の速球を止めた。
オオオオオオオ!
またも体育館内に驚きと歓声が鳴り響く。
井村校長「ほあ〜今年はすごいですね!」
6年生の本気のシュートを1年生で二人も止めるというのは快挙である。
薫「友ちゃん!よくやった!」
豪[6、2]「くそ!なんだよ!今年の1年は!?」
総太郎(あの子もすごいな〜)
友ちゃん「行くよ!」
豪[6、2]「チッ!!」
1年生である友ちゃんが2組チームに攻撃を仕掛けるようだ。
体が未発達の小学1年生だから威力もスピードもたかがしれていると思って豪[6、2]はこっちに向かって投げてくるなら軽々とキャッチしてやると余裕を見せる。
友ちゃんがボールを投げる。
しかしボールの方向は違うところに飛んでいく。
豪[6、2]「フッどこ投げているんだ?」
友ちゃん「順子ちゃーーーーーん!」
友ちゃんの呼ぶ声に眠れる獅子は目を覚ます。
友ちゃんが投げたボール先は順子ちゃんがいる外野のほうだ。
順子ちゃんは目を開きすぐに立ち上がってダイナミックに動いてボールをキャッチしてそこからシュートした。
順子ちゃん「おりゃーーーーー!」
ボールは明日香[5、2]に命中する。
良樹「やった!順子復活だ!」
順子ちゃん「絶対勝つわよ!」
豪[6、2]「またあの1年め!でしゃばりやがって!」
一人アウトにしたことで3組チームが一歩リードした。


豪[6、2]「あ〜くそ!!」
下級生に追い詰められ豪[6、2]は穏やかではいられず少し焦り気味である。
頭をかいていてなんだが落ち着きがなくなってきている。
賢人[6、2]「落ち着け豪[6、2]!」
佳奈[6、2]「ここはボーナスチャンスをいただきましょう。」
賢人[6、2]「それがいいかもな。」
豪[6、2]「はは、悪いな。俺のシュートが下の子に止められるのは面白くねえんだよね。」
佳奈[6、2]「うん、共感しちょうわ。まさかあんな子がいるなんて」
豪[6、2]「あいつ名前なんつーんだ?」
沙織[6、2]「豪[6、2]のボール止めた子?」
沙織[6、2]「萱場友子よ。」
豪[6、2]「そいつの名前も知ってるのか。」
沙織[6、2]「宮沢順子と一緒にいて同じくらい話題に上がっている子で、いやあの事件もあってそれ以上かもしれないわ」
豪[6、2]「あ〜そっか、もっと早く出会いたかったな。」
沙織[6、2]「そうね。だけどだからこそこの時間が大事だと思うのよ。」
豪[6、2]「うん…。よし!じゃあボーナスチャンス引いてくるか!」
賢人[6、2]「いいの引いてこいよ!」
まずは一旦立て直しを図るべく、佳奈[6、2]の提案を聞きボーナスチャンスを引くことに賛同する2組チーム。
6年生メンバーが全員が挙手して豪[6、2]がボーナスチャンスを引きにいく。
薫と尊「ハズレ引け!ハズレ引け!ハズレ引け!」
薫と尊は「ハズレ引け!」っと言って手拍子している。
つられて3組チームのメンバーも「ハズレ引け!」と豪[6、2]に念をかけている。
2組チームは豪[6、2]がまた良い引きをするように応援している。
豪[6、2]「へへ!お前らのチームには魅力的なのがいて羨ましいぜ。」
薫「へ!こっちは崖っぷちなんだよ!さっさとハズレくじ引いてこい!」
井村校長が手に持つボーナス箱の前に立つ豪[6、2]。
すると板倉先生が近寄ってきた。
板倉先生「楽しそうだな豪[6、2]。」
豪[6、2]「へへそう見えますか?先生。」
豪[6、2]「俺たちは3組チームに勝ちたい!」
井村校長「ではボーナスチャンスを引いてください。」
豪[6、2]はボーナス箱に手を突っ込んだ。


豪[6、2]の3組チームに勝ちたい思いが形としてボーナスチャンスに現れるのだろうか。
いよいよ新学期記念全校生徒ドッチボール大会はクライマックスを迎える。
勝つのは3組チームか2組チームか…

続く

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