ジュンコチャン

第36話 新学期記念全校生徒ドッチボール大会

夏休みを終えてついに2学期が始まる。
始業式、体育館にて全校生徒が集まる。
井村校長の講話で2学期への期待が高まる最中、井村校長は新学期記念全校生徒ドッチボール大会を開くことを宣言したのだった。
1年生対抗障害物リレーのように恒例の行事なのだろうが一体どのような形式のドッチボールが開催されるのだろうか。


体育館はざわつく。
6年生を始め上の学年は喜ぶ人がいて下の学年になるほど不安がりそわそわする人が増えていく。
体力や運動神経が発達してきている上の学年ほど受けがいいのは納得で
また下の学年にとっては不利になり不安がる反応をするのは当然だ。
新1年生の入学記念の行事は毎年違うらしいが在校生の反応を見るとこのドッチボールは毎年お決まりでやっているそうだ。
井村校長はドッチボール大会の詳細は言わず説明は各担任の先生に任された。
といっても在校生は知っている。
初見の全1年生たちが知らないので各1年生の担任が教えるというだけだ。
こうして始業式が閉会し各クラス教室に戻った。
教室の戻った1年生達は落ち着きがなかった。
そして2年生達も今年もドッチボールをするなんてわからなかったことで彼らも落ち着きがない。
大気「ドッチボール勝てるのか?」
真木「上の連中に勝てるわけないじゃんよ!」
大気こと田中大気は1年生対抗障害物リレーで活躍し3組の勝利に貢献した男子であるが
今回は上の学年相手に弱気である。
ちなみに大気の夏休みの工作はダンボール製のサッカーボールである。
真木と大気そしてみんなも気が進まない様子だ。
どのような形式で進めるのかはわからないがトーナメント形式で行われるのなら
番狂わせ的なことが起きない限りは下の学年はすぐに脱落する。
もし総当りになってしまえばひと学年3組なので全部18クラスつまり17戦することになるので
1年生には地獄が待受ける。
上の学年の速い球に怯えるドッチボールが繰り返されるのだ。
怪我の恐れもあり泣く子も出てくるはずだ。
全学年と交流を深めより良い学年生活を送ることを目的にしているだろうが
その裏に年功序列という厳しい社会の洗礼を受ける試練を与えているようにしか見えなくなる。
清水先生が教室に入り先生からそのドッチボールの内容を説明してくれた。
全学年1組、2組、3組の3チームで総当たり戦を行うらしい。
各クラス五人を選出して1チーム三十人でドッチボールを行い計3試合で1試合勝利すれば勝点1点獲得できる。
勝点に応じて特典があり、2B鉛筆がゲットできる。
獲得できる勝点は最大2点であり全勝すれば2本鉛筆をゲットできるということだ。
反対に全敗すれば1本も鉛筆が貰えないということだ。
つまり全3チーム1勝でもすれば必ず全校生徒に鉛筆がもらえるということにもなるので全校生徒180人分の鉛筆が用意されている。
友ちゃん「私たちの学校って百八十人いるんだね。」
清水先生「多いか少ないか人それぞれだけどこの水戸市の東にある学校は5つあったけど」
清水先生「それが1つになって今のここの学校になったそうよ。」
5つの学校があるという歴史があってそれが統合されて今の水戸東小学校になり
そして全校生徒が百八十人という規模になったのだ。
大気「でも学年単位での総当たり戦じゃなくてよかった〜」
清水先生「そうなったら試合数が多くなっちゃうから大変よ」
清水先生「年上の子を相手するのは厳しいんじゃない?」
大気「そうですね~」
大気「混ざってサッカーやってるけど5年生とか6年生に敵わないよな」
良樹「うん全然ボール取れねえし!」
お昼休みにいろんな学年が混ざってグラウンドを使ってサッカーで遊んでいるが
そこに良樹も大気も参加して一緒にサッカーをしているが上の学年のドリブルやパス回しや
運動能力と体格差に翻弄されている。
5年生と6年生の体格差はそこまでなく張り合えるぐらいだが主導権は6年生にあり
彼らがゲームを作っていくのだ。


それはさておき本題のドッチボールなのだがこのクラスの中で五人を選出しなければならない。
例に挙げると1年1組から五人、2年1組から五人のように
各学年から代表を選び三十人のドッチボール1組チームを結成するということである。
同じように1年3組から五人選びそしてドッチボール3組チームを結成させるのだ。
苗「だったら男子が五人出ればいいんじゃない?」
そう提案するのは女子の川本苗(かわもとなえ)である。
大気「え~なんでだよ!」
苗「ちょうど五人いるからよ!」
1年3組の十人の人数構成は男女ちょうど半々である。
だから苗は男子全員にドッチボール大会に参加させようとしている。
苗「大気と良樹は足が速いし真木は体が大きいからいいんじゃないかしら?」
真木「それ俺が太っていることを軽くディスってねえか?」
苗「あらそれは失礼。そんなつもりはなかったけど謝っておくわ。」
苗は真木に対して体が大きいと言ったがそう言われて真木は太っていると揶揄する発言だと感じている。
真木は自分の体のことに対して少しコンプレックスを感じているようだ。
苗は思っていることを口にしてしまう子で時には誰かを傷つけてしまうこともある。
しかし彼女は別に真木が太っていることを馬鹿にしているつもりはないそうだ。
夏休みの工作で苗は手作りの万華鏡を制作しトイレットペーパーの芯とビーズを材料にしたそうで
クラスから彼女の工作も高評価を得ている。
万華鏡とは英語でカレードスコープと呼ばれ語源はギリシャ語で美しい物を見るという意味で
苗の視界を万華鏡に置き換えてみるなら男子五人の姿が映っていて
彼らがドッチボールで活躍することを期待しているのだろう。
真木「けど俺は運動あまり得意じゃないし…」
勇「僕も…」
蓮「僕も含めてだけど男子だからと言って運動ができる子ばかりじゃないよ」
真木「れっ蓮!」
ドッチボールの参加に消極的な真木と勇の二人をフォローする形で入ったのは蓮こと武藤蓮(むとうれん)である。
苗「何?私たち女子も出ろって言いたいの?」
蓮「う〜んそうだね。女子の柔軟性も必要だけど」
蓮「高橋くんと田中くんは運動神経があるから参加させるのは僕も同意だよ。」
大気「蓮もそう思うのか〜」
蓮「二人は休み時間上の学年と一緒に遊んでいるから」
蓮「上の学年と交流があって慣れている人が出るのがいいと思うんだよね。」
蓮の的を得た分析である。
苗「そうね。わかったわ。」
蓮の意見によって苗は自分の考えを変えるきっかけになる。
万華鏡にはその千変万化する模様が特徴的なことから不合理的な必然性に従って物事が変化する様子を比喩する表現がある。
キャリアでは万華鏡理論というのがあり個人の多様性と柔軟性を重視する考えがある。
苗は男子だから運動ができると思っていたが蓮たちの意見を聞いてそれを改め今度は自分たち女子たちにも目を向け始める。
彼女は上の学年と交流がある女子を指名してみる。
苗「友子ちゃんはどうかしら?」
苗「上の学年に仲の良い人がいるって聞いているから」
苗「確か薫くんだっけ?」
友ちゃん「一緒に出てくれるかわからないけど」
友ちゃん「よかったら私ドッチボールでるよ。」
友ちゃんが上の学年と親しい中にあるのは6年の杉原薫(すぎはらかおる)である。
薫も同じ3組なので代表として出てくれればお互い共闘してドッチボールするという熱い展開が見られる。
良樹「俺たちには順子がいるだろ!」
苗「女子にだって運動が得意な子がいるじゃない!順子ちゃんが適任かもね。」
1年生対抗障害物リレーの功労者順子ちゃんならきっとドッチボール大会でも活躍してくれるに違いない。
また友ちゃんと同じく一応仲の良い6年生がいてその子が3組の兼岩幸助(かねいわこうすけ)である。
クラスメイトのみんなも順子ちゃんに期待を寄せている。
良樹「順子がいれば百人力だぜ!」
順子ちゃん「え?私でるの?」
良樹「あっあれ〜?」
友ちゃん「どうしたの順子ちゃんも一緒にドッチボールやらないの?」
順子ちゃん「だって勝っても貰えるのは鉛筆じゃない」
順子ちゃん「食べ物とかおかしがよかったわ」
良樹「やっぱり順子はそれかーい!」
順子ちゃんがやる気がない理由は勝利報酬が食べ物ではないからだ。
イベント参加の条件は食べ物があるかないかで彼女のやる気は変わるようだ。
前回の1年生対抗障害物リレーは1年生全員参加で強制的であったから仕方がなかったが
あのとき順子ちゃんが本気だったのは5年生の出し物のお菓子が目当てだったかもしれない。
半ば強制ではあるが今回は五人だけなので必ずしも順子ちゃんが参加しなくてもいいのだ。
たかが鉛筆1本や2本どうでもいいことで
順子ちゃんの家には余った鉛筆が何本もある。
どの生徒もどのご家庭も鉛筆に困っていることはないはずだ。
もし急を要して鉛筆を使わなければいけない場合は近くに文房具店がなくても
今はコンビニを見つけさえすればそこに鉛筆が売っているので手に入る。
筆箱を忘れたとしても友達から鉛筆を借りればいいし、先生が鉛筆の1本や2本すぐに出してくれるから問題はない。
清水先生「宮沢さんそういう意味でドッチボールするのではありませんよ。」
報酬がどうとか食べ物がどうとか鉛筆がどうとかは関係なく
本来ドッチボールをする企画は全校生徒たちがドッチボールを通じて触れ合い親睦を深めることに意味があるのだ。
蓮「宮沢さんの意思を尊重しましょう。」
蓮「彼女は前回のリレーで活躍されましたし」
蓮「食べ物だったら彼女は参加していたということでしたので」
蓮「ここは僕が彼女の代わりに参加します。」
苗「お〜かっこいいわね!」
順子ちゃん「じゃあ任せたわ」
真木「え〜蓮!!」
勇「別に無理しなくても」
蓮が順子ちゃんの代わりにドッチボールに参加するそうでその彼の言動に真木と勇は動揺する。
同じく蓮も運動は得意ではないと自己申告したが順子ちゃんを気遣い男気を見せる。
女子たちは蓮の男気に称賛する。
一人の男子が自ら挙手したことで一周回って真木と勇が注目され参加せざるを得ない状況に立たされる。
蓮はこれを狙っていたとのだろうか。


上の学年の速い球を受けるのが怖い、それが本音だ。
しかし女子に身代わりになってもらうのは男子としては情けないし友ちゃんが可愛そうだ。
真木「ドッチボール、勇は出たくないよな?」
勇「うん、上の学年についていけない」
真木「順子が出てくれればな〜」
真木「お!!そうだ!いい考えがあるぞ!」
勇「え?なに?」
真木はいい考えを思いつき勇と相談して順子ちゃんを説得する。
勇「やっぱり僕たちは宮沢さんがドッチボールに参加するべきだと思うんだ。」
真木「俺たち実は鉛筆に困っているからさあ」
真木「買って1本ぐらいでも持って帰ってきてくれねえか?」
順子ちゃん「買えばいいじゃない、親に買ってもらいなさい」
順子ちゃん「つーかそういうんだったらあんたたちが出ればいいじゃない」
順子ちゃんをドッチボールの参加を促すため真木と勇にお願いするが彼女は動じず更にはごもっともらしいことを言う。
真木「ラーメンご馳走してやるよ」
順子ちゃん「ラーメン!」
苗「え!?ラーメン!?」
なぜか苗も反応する。
勇「もちろん僕がお金を払うよ。」
勇「全勝して鉛筆2本獲得したらお代わりしていいし自由にトッピングを追加していいよ。」
ラーメンおごる作戦こそが真木の伝家の宝刀であり勇の切り札である。
全部で2階勝てばラーメンお代わりに自由に贅沢にトッピングも可能ということだ。
ラーメン屋を営む真木こと北岡家の商売上がったりで裕福な暮らしをしている勇こと橘家はラーメン2杯とトッピングぐらい容易いことだ。
順子ちゃん「よっしゃ!OK!勝ったらラーメン!燃えてきたわ!」
順子ちゃんのやる気メーターはマックスになった。
みごと順子ちゃんをラーメンで釣ることができた。
作戦は成功である。
良樹「よっしゃ!そうこなくちゃな」
真木「任せたぞ、順子」
蓮「鉛筆に困っている人がなんでラーメンを奢るとか意味わからないよ。」
これには蓮も理解できず首を傾げてしまう。
清水先生「やれやれ、でもポテンシャルがある子が出るのはいいと思うわね。」
清水先生「宮沢さんの参加は私も賛成よ。」
これで五人揃ったと思いきや
苗「あの、武藤くん。私があんたの代わりに出るわよ。」
蓮「え?一体なんの風の吹き回しだい?」
苗「私も真木のラーメンが食べたくなったのよ。一度食べてみたいと思ったのよ。」
苗「だから私出るから真木私にもラーメン作って」
真木「おう、いいぜ!勇それでいいか?」
勇「うん、いいよ」
苗「決まりね。私にうまいラーメン作っていいところみせてちょうだい。」
蓮「まあそういうことなら。川本さんに任せるよ。」
北岡家のラーメンがうまいという噂を耳にしているが苗はまだ北岡家のラーメンを食べたことがない。
この機会にドッチボールに参加して奢って貰おうとしていたのだ。
勇「宮沢さんと川本さんには申し訳ないから勝っても負けてもラーメンを奢ってあげようかなと思っているんだけど」
勇「いいかな?お金は出すよ。」
真木「ああもちろんそのつもりだぜ。」
ひとまず真木と勇はドッチボール大会に参加しなくてもよくなったが苗にもラーメンを奢ることになった。
けど代わりに参加してくれたので真木と勇は勝敗に関係なくラーメンを奢るそうだ。
大気「なあ、俺もラーメン食わせてくれねえか?」
良樹「俺も頼むよ!なあ友子もラーメン食べないか?」
友ちゃん「うん、真木くんと勇くんがいいなら」
真木「結局全員か、いいぜ腕によりをかけてやるぜ」
勇「いいよ全然、遠慮しないでいっぱい食べてね。」
1年3組のドッチボール参加者全員ラーメンを奢ることになった真木と勇。
真木にとっては嬉しい悲鳴だし勇もこれくらいでは痛い出費でもかすり傷すらつかない。
ドッチボールに参加する1年3組五人のメンバーは男子二人、女子三人。
良樹、大気、苗、友ちゃん、そして我らが順子ちゃんだ。


ドッチボール大会が始まるのは午後13時からである。
午前中は夏休みの宿題の回収と2学期の新しい教科書国語と算数の下巻とそれに併せての漢字と算数のドリル、
2学期の時間割の配布とそれに向けたこれからの学校生活の抱負のような決める時間にあてられる。
給食と昼休憩の後にドッチボール大会が開かれるそうで参加しなかった生徒は通常の清掃の時間と掛け合わせて大掃除となる。
大掃除を5、6時間目に行い1年3組はまず教室を掃除した後1年生全クラスと2年生全クラスと一緒に校庭の花壇の手入れをする。
それと並行してドッチボール大会を開くという井村校長が発案したユニークな企画でありこの学校ならではである。
食べ物じゃなくて順子ちゃんには不評だが、勝てば鉛筆が手に入るのでこれから2学期を充実させてくれるもので
ちょうどいい戦利品として捉えるのが妥当だ。
また全敗して結果がよくなくても鉛筆が貰えないだけなので勝ったチームを羨むことはないはずだ。
真木「頑張れよな!」
勇「ご武運を祈るよ。」
蓮「僕も勝利を祈っているよ。」
清水先生「あなたたちならきっとやれると思うわ。」
順子ちゃん「勝ってくるからね!」
順子ちゃんたちは清水先生と残りのクラスメイトから見送られ体育館へと向かっていった。
順子ちゃんはリーダーシップを発揮するかのように先頭に立って良樹たちをエスコートする。
最初全然やる気がなかった順子ちゃんを奮い立たせたのは真木のラーメンなのだ。
苗「宮沢さんってホント単純よね」
良樹「それお前も同じだろ」
大気「けど苗が言ってくれたおかげで真木のラーメンが食えるわけだしな。」
苗「そうよ〜だから結果を残していくわよ。」
みんなドッチボールを怖がっていたが真木と勇がラーメンを奢ってくれることで勇気を持つことが出きたが
なによりも順子ちゃんが参加してくれたのが心強い。
体育館でドッチボール大会に選ばれた90人の生徒が集まり6年2組の板倉先生と井村校長が進行を務める。
体育館ステージの壇上にはダンボールが置いてある。
ダンボールの中に鉛筆が入っているはずだ。
井村校長のあいさつが始まった。
井村校長「さあいよいよ新学期記念全校生徒ドッチボール大会が始まります。」
井村校長「1組対2組、1組対3組、2組対3組の全3試合。」
井村校長「勝ったチームには鉛筆をそして2勝したら2本差し上げます。」
井村校長「お互いしのぎを削り全力を尽くし最高の2学期を送りましょう!」
井村校長のあいさつにより体育館内は盛り上がる。
新学期記念全校生徒ドッチボール大会の幕が開かれる。

続く

戻る