第30話 良樹の宿題奮闘記
お盆休みを経て順子ちゃんは家族の協力で夏休みの工作である熊の貯金箱を完成することができた。
順子ちゃんの夏休みの宿題の進捗だが漢字の練習プリントと計算問題プリントを合わせて約7割程度終わり
絵日記はお盆休みの最終日の16日まで記録している。
残りは漢字と計算のプリント3割、絵日記2週間分、そして読書感想文だけだ。
彼女を夢中にさせてしまう誘惑は多少あったが
友達と一緒に宿題したりお盆休みなどで外泊する時も宿題を持ち出してやったりと
高い意識をもって取り組んでいた。
今の順子ちゃんなら最終日までに宿題を終わらせることができるだろう。
夏休みの宿題の進捗で心配な男子が一人いる。
順子ちゃんと同じクラスメイトの良樹である。
8月17日の午前、夏休みは今日と合わせて2週間しかない。
良樹はちゃんと宿題をやっているのだろうか。
良樹「くそーー!全然勝てねえ!!」
彼は宿題をやらずゲームばかりしているのだった。
ドラゴンアドベンチャーというゲームをやっているのだが例のステージが攻略できずにいるのだ。
以前順子ちゃんたちとそのステージをクリアしたはずだったがなにかしらトラブルがあり
ゲームが進行できなくなりやり直しになってしまったのだ。
最悪なことにセーブもしていなかった。
一人ではクリアできずに足踏みしていたが協力プレイでやっとクリアすることができたのに
それがやりなおしになって彼にとってはたまったものではない。
協力プレイですら簡単にクリアできなかったのだ。
お盆休みでは友達である真木と優は予定がありもちろん順子ちゃんも予定があったので
頼みの協力プレイができず一人で頑張っていた。
なんとか例のステージの挑戦権を獲得することはできた。
それよりも頑張らなくてはいけないことが他にあるのだが。
良樹の家こと高橋家のお盆休みは良樹の父の仕事の休みが2日間しかないため
日替わりでどこかに出かけて外食するぐらいだった。
その後はずっとゲームだった。
良樹「あ~ちくしょ~また負けた~」
またしてもゲームが進まず負けて大声で嘆く。
そんな感じでゲームを続けている良樹だがボス戦までなんとかたどり着くことができそのボスに今苦戦中なのだ。
ボスが強くて勝てず負ければこうして叫んでいる。
もう少しで勝てた場面もありその時は悔しさと興奮でボルテージが上がり大声で叫ぶのだ。
その大声が家の1階まで響き1階にいる母の方にまで響くのだ。
良樹の母「もーー!うるさいわね!!」
我慢できずとうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。
良樹の母は2階の良樹の部屋に入った。
良樹の母「いつまで騒いでいるのよ!!うるさいから!静かにしなさい!!」
良樹「母ちゃん!!だってクリアできないだよ~」
良樹「こいつ強くて勝てないんだ。」
良樹の母「はあ~そんなことで叫んでたの?」
良樹「いいや!これ重要だから!!こいつ倒すの超重要なんだよ!」
良樹の母「あんたそれより大事なのがあるんじゃないの?やるべきことが」
良樹の母「宿題はどうしたの?」
良樹「え?宿題…」
母に言われて思い出した良樹。
良樹(やっやべえ~)
良樹は夏休みの宿題を全然やっていなかったのだ。
良樹「あっ後でやるよ…」
良樹の母「ちゃんとやってるのかしら?」
怪しく思った良樹の母は良樹の机の上に置いてある宿題を見た。
良樹「あ!見ないでよ!!」
良樹の母「何これ!真っ白じゃないの!」
良樹「やべぇ!!」
宿題をやっていないことがバレた。
プリント一枚も書いておらず絵日記も新品同様にまっさらだった。
良樹の母「宿題やらずにずっとゲームばかりして!!」
良樹「あっ後でやるから大丈夫だよ…」
良樹の母「後でってもう今日17日よ!2週間しかないのよ!間に合うの?」
もう夏休みは2週間しかないのだ。
そんな彼の宿題は手付かずのまま。
2週間で宿題を0から100まで終わらせることができるのか心配になる良樹の母。
順子ちゃんのように宿題をコツコツやって半分以上終わらせて
友達の勇はすでに宿題を全て終わらせているのだ。
良樹「だっ大丈夫だってば…このステージをクリアしてからやるって…」
良樹の母「だめよ!!今すぐ宿題しなさい!!」
良樹の母「勉強をちゃんとするって約束でゲーム買ったんでしょ忘れたの?」
欲しかったゲーム機を買ってもらう条件はちゃんと勉強するという約束だった。
それなのにゲームに没頭しやるべき宿題を怠ってしまっているのだ。
良樹「あっあれ~そうだったけな?」
とぼける良樹。
良樹の母「ゲームぶっ壊すわよ!!」
良樹「わわわわわ!わかりました!!やりますーー」
親から言われる言葉の中でゲーム機を壊すという言葉は子供にとって一番響くパワーワードである。
ゲーム機は安くないし、一般的にほとんどの子供はお金を持っていないので親に買ってもらうしかない。
親からゲーム機を壊すと言われたらもう従うしかない。
また新しくゲーム機を買って貰えなくなるからだ。
良樹も同じくお金を持っていないし高橋家の家計的にゲーム機を買ってもらえるほどの余裕はない。
それなのにゲームばかりしていて碌に宿題をやっていない良樹に母は物凄く腹を立てているのだ。
ゲーム機を壊されてほしくない良樹は母に従い宿題をすることになった。
良樹の母「宿題は下でやりなさい!」
良樹「え~ここでいいじゃん~」
良樹の母「ダメよ。どうせまたゲームするきでしょ」
良樹は1階に降りて母のいるリビングのテーブルで宿題することになった。
これも良樹をちゃんと宿題しているのか監視するためなのだ。
では改めて小学一年の良樹の夏休みの宿題は以下の通りだ。
ひらがなと漢字の練習プリントと計算問題のプリント合わせて50枚
絵日記と工作、そして読書感想文原稿用最低1枚以上である。
良樹の母「今日は算数の方を全て終わらせるのよ」
良樹「ええ全部!!」
算数は計算問題のプリントのことでそれが25枚あるのだ。
つまりひらがなと漢字の練習プリントも25枚である。
良樹の母「明日はひらがなと漢字の練習プリントを全部終わらせるのよ」
今回は計算問題のプリントをやることになるのだがこの25枚全て終わらせることがノルマとなった。
良樹の母「終わるまで食事以外は休憩なしよ!!」
良樹の母「夜の11時まで、明日は8時から続きをやるのよ」
ということで宿題が終わるまでゲーム禁止で食事以外の休憩はなし、朝8時から夜23時までやらされることになった。
良樹「え~まじかよ~」
良樹の母「そうでもしないと間に合わないでしょ!」
良樹の母「他の子はとっくに終わっているかもしれないのよ。」
コツコツやってきた子たちよりも良樹は10倍以上頑張らなければいけない。
良樹には焦りや危機感というのが欠如している。
夏休みの宿題は1日で終わらない。計画的にやるべきなのだ。
おそらく良樹は最終日にまとめて全部やろうとしていただろう。
最終日に夏休みを全部負わせようとする考えはやめたほうがいいだろう。
良樹「午後友達が来るんだけど…」
良樹の母「宿題で忙しいからキャンセルね。電話しとく」
良樹「え~」
良樹の母「え~じゃない。真木君と勇君でしょ。あと順子ちゃん」
良樹「順子は来ないだろ。あいつだけは連絡しなくていいよ。」
良樹の母「この前一緒にゲームやってたじゃない」
良樹「あ!そうだった!!あいつがあのボス倒したんだっけ」
現在例のステージのボスに苦戦中の良樹だがそのボスを順子ちゃんが倒した経験がある。
良樹(あいつにやらせようかな~いやいやそれだとなんか悔しい!!)
そのボスを順子ちゃんに頼んで倒してもらうのもありだがそれだと悔しいし
ゲームが下手と思われるのは男としてのプライドが許さない。
今は順子ちゃんに宿題をやっていないことがバレるのがいやだ。
順子ちゃんも一緒にゲームすることになってしまったが
来た目的は宿題しているのが気になったからこちらに来たのだ。
良樹の母は真木の家族と勇の家族に電話して宿題が終わるまで遊ぶのはなしとなった。
真木と勇の二人も納得したようだ。
やはり宿題が最優先なのだ。
良樹本人は順子ちゃんこと宮沢家の方には電話しなくてよいと言ったが一応電話を一本いれることにした。
順子ちゃんが高橋家に来た時連絡先を教えてもらっている。
宮沢家に電話をかけた良樹の母。
幸「もしもし」
良樹の母「いつも息子がお世話になっています。高橋です。」
幸「はい。うちの順子もお世話になっております。」
良樹の母「うちの良樹が宿題を全然やってなくて宿題に専念したくてですね」
良樹の母「順子ちゃんに聞きたいけど遊びに行く予定はないか聞きたいんです。」
このような感じで良樹の母は良樹の友達の家に電話して
宿題に専念したい旨を言って遊ぶに行く予定があるのか聞いて
その都度宿題が終わるまで遊ぶ予定をキャンセルするか変更しているのだ。
幸「そうですか。わかりました。」
幸「順子~」順子ちゃん「なに~」
幸「高橋さんから電話で遊びに行く予定あるのか聞かれたの」
順子ちゃん「なんで?」
幸「宿題に専念したいってことよ」
順子ちゃん「あ~なるほど。そういうことね。電話貸して」
幸「わかったわ」
幸「娘に変わります」
幸は電話を順子ちゃんに渡した。
順子ちゃん「もしもし」
良樹の母「もしもし順子ちゃんごめんね。良樹全然宿題やってないの」
良樹の母「それで宿題に専念したいんだけど遊ぶに行く予定とかあったら」
良樹の母「悪いんだけどなしにさせてもらえるかしら?」
順子ちゃん「そうだったんですか。予定はないですがよろしかったら私も手伝いましょうか?」
順子ちゃん「私も宿題を終わらせたいので」
良樹の母「それはいい考えね。」
順子ちゃんが高橋家に来て宿題を一緒にすることに賛成した良樹の母。
これならきっと宿題が捗るはずだ。
順子ちゃんは午後の14時に来るそうだ。
良樹の母「良樹~あんたにいい話があるわよ」
良樹「ん?なに?」
良樹の母「あんたの彼女が午後こっちに来て一緒にやってくれるそうよ!!」
良樹の母「はあ?彼女??あ!!」
順子ちゃんが来るのだ。良樹はすぐに気づいた。
良樹「え??順子が来るのか?」
良樹の母「その通り!!」
良樹の母「いや~しっかりものの彼女ができて嬉しいわ」
良樹「あいつは違うって~」
良樹は嫌そうだが母は嬉しく思っている。
順子ちゃんはお転婆だが料理もできて世話好きなのだ。
良樹の母「あんたのことを面倒見てくれる人がいいと思うの。」
宿題のことも心配しているみたいで順子ちゃんのことを良樹の母は気に入っている。
母の中で良樹の嫁候補に順子ちゃんが入り現在1位である。
それはさておき宿題をやらねば終わらない。
良樹の母「1週間で終わらせるのが目標よ!!わかったわね?」
良樹「1週間?!!」
良樹の母「今日算数を終わらせて明日は国語を終わらせばいけるわよ」
良樹「そんな無茶だよ~」
良樹の母「文句言わずにやる!!」
今日と明日の2日間で算数と国語を終わらせられるかが肝になる。
1週間で夏休みの宿題を終わらせるのが目標になった。
1週間で夏休みの宿題を完遂できるかは量と難易度によって変わってくるだろう。
難易度は小学校1年生の1学期程度で算数は簡単な四則演算で国語はひらがなと画数の少ない漢字で
難しくはないがその分、量がかなりある。
最初に取り組む計算プリントは国語と同じくA4サイズの紙の大きさで
余白を限りなく埋め尽くすほど計算式が羅列していて1枚に100問ぐらいある。
ひらがなと漢字の練習プリントだが指定された文字をただひたすら書けばいいが
その見た目は方眼紙のようでこの小さなコマに書いていくのだ。
明日予定される国語の方が気がおかしくなってしまいそうだ。
夏休みの宿題で漢字練習ノート一冊分書くという課題があるのだが下手するとそれよりも量が多いかもしれない。
良樹の母「わからないとこがあったら聞きなさい。算数ぐらいならなんとかなると思うわ。」
良樹の母「さっさとやりなさい。11時になったらお昼ご飯作るから。」
良樹「はいはい」
やっと良樹がゲームのコントローラーではなく鉛筆を握った。
今日から良樹の宿題奮闘記が始まるのであった。
計算プリントをやるということで1問ずつ計算していく。
20分程度で1枚終わらせることができた。
1桁や2桁の足し算のため苦戦することはなかったが量が多くて途中でだれてしまう。
電卓を使いたいと心の中で呟いていた。
しかし電卓を使うのは反則である。自分の頭で計算しなくては。
まずは1枚終わらせることができたので大きな1歩である。
その積み重ねで課題を終わらせていくのだ。
量があり過ぎるせいかまだ1枚しか終わっていないがもの凄くやり切った感がでた。
今日はこのくらいでいいじゃないかと思わせるくらいであった。
良樹の母「おい止まっているぞ」
腕が止まっていると母に指摘される良樹。
良樹「1枚終わったから休憩で…」
良樹の母「言ったでしょ休憩はなしって。そんな暇なんてない、次やる!」
良樹の母「宿題を終わるまではトイレと寝る以外はリビングからでちゃダメよ!」
良樹「そんな~鬼だ~」
母から宿題が終わるまでの期間はトイレと夜寝る以外は1階のリビングから出られなくなった。
きつい束縛ではあるがこれも良樹の怠惰によって起きてしまったことだ。
母としてちゃんと良樹が宿題をしているか目の届く範囲で監視するためだ。
宿題を終わらせてしまえばゲームも再開して遅くても夜の23時には寝かしてくれるので母もそこまで鬼ではないだろう。
1日でも早く終わらせたいのならペースをあげるべきである。
良樹は2枚目の計算プリントに取り組んだ。
午前中は計算プリント4枚終わらせることができた。
計算プリント1枚に約100問以上出題されている。
ということは午前中で約400問解いたことになる。
しかしまだプリント20枚以上残っている。
夕ご飯前までに10枚、寝る前の23時までに10枚終わらせるのが理想か。
計算プリント25枚を1日で終わらせることができれば2500問以上の計算問題を解いたことになるので
その達成感はかなりのものになるだろう。
見事それを成し遂げることができれば自信がついて宿題に対して強い意識を持てるようになるはずだ。
午後14時に順子ちゃんが来る。
彼女が来るまである程度進ませておきたい。
お昼ご飯の後、食器を片付けテーブルを拭きすぐに宿題に取り組んだ。
ようやく良樹に危機感と焦りが芽生えてきた。
やり始めたことでその大変さがわかってきたのだ。
コツコツ計画的にやっておけばよかったと後悔しているのだ。
母の指導が入り強制的に宿題をやるはめになったがおかげで宿題に取り組むことができた。
まだ間に合うはずだ。
冷静さを保ちながら計算問題を一問一問解いた。
集中して取り組んでいる良樹を母は見守っていた。
雑音や誘惑が入ってこないようにリビングのテレビを消している。
良樹の母は雑誌を読んだりスマホを眺めたりして邪魔しないようにした。
リビングは静かでエアコンの音とテーブルからコン、カン、トン、サササと鉛筆の音がする。
もうすぐ順子ちゃんが来る。
静かになったリビングもまた賑やかになるであろう。
14時ちょっと過ぎに順子ちゃんが良樹の家にやってきた。
順子ちゃんが来るまでの午後2枚終わらせることができた。
順子ちゃん「お邪魔します。」
良樹の母「順子ちゃんいらっしゃい」
順子ちゃんがやってきて監視が二人になった。
順子ちゃんも宿題しに来たが良樹はペースを保って宿題に取り組むことができるだろうが。
続く
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