ジュンコチャン

第3話 1年生対抗障害物リレー

友ちゃん「おはよう順子ちゃん。」
順子ちゃん「おはよう友ちゃん!!今日もいい天気だね。」
快晴の青空の下、二人はいつも通り学校に登校し、教室に着いた。
男の子「よう!順子に友子!お前たちのおかげでブランコに乗れてるよ。ありがとよ。」
男の子の声とともにクラスの子たちは順子ちゃんと友ちゃんに集まってきた。
二人に話しかけてきたクラスメイトの男の子は高橋良樹(たかはしよしき)。
よくサッカーで遊んでいる陽気な男の子。
「あの時みんなで追いかけて捕まえたときはスカッとしたぜ!!」
彼もブランコに乗りたかったらしく、幸助らにブランコを独占され困っていた。
また彼らにいじめられたこともあったそうだ。
一般的にまず1年生が6年生に勝てるはずがない。
良樹は彼らが卒業するまでブランコを我慢していたというのだ。
あの一件で彼らがブランコを利用しなくなり、下級生たちは国を取り戻したかのように歓喜した。
牛久先生が、彼らにブランコを使用することを禁じたのだ。
良樹「いやーあの二人組相手にスゲー度胸あるよな!!」
「わっ私は、順子ちゃんを止めようとしたんだけど‥でもみんなが助けてくれたおかげで順子ちゃんも怪我がなかったからみんな本当にありがとね。」
友ちゃんは、控えめな上実直な性格であるが故思い上がらず、助けがあったと感謝するなど謙虚な姿勢をみせる。
それとは反対に順子ちゃんはというと
「はは!!どうでしょう!!私をもっと褒めるのよーー!!私は天下のジュンコチャンよ~!!」と雀躍した。
愉悦を感じ、はしゃいでいるのは無理もないが友ちゃんのように少しは落ち着いていてほしいところだ。
しかし上級生の男子に立ち向かう勇気は本物で、もしあそこで引き返していたら今もまたブランコは、金角と銀角の掌の中であろう。
流石は、蛇殺しの順子ちゃんである。
順子ちゃんと友ちゃんはあの活躍を機にクラスの人気者になりそれどころか上の学年にまで広がった。
そして、6年生の桂里奈と友達にもなった。
学校内を案内したりこの前は順子ちゃんたちを助け一緒に下校したり、困ったときは力になるなど桂里奈は上級生の鑑である。
本来下級生の模倣となるべき6年生の幸助と薫は下級生を威圧し、ましてや入学したてで不安を抱く1年生もいる中で怯えさせるような迷惑行為は甚だけしからぬ。
それで不登校に陥ってしまう子もいるというのだ。
お互いに思いやりを持ち、右も左もわからない1年生に、6年生並びに上の学年が導いていかなければならない。
歳の差は5つあり、学校生活を共にするのはこの1年しかないのだ。
だからこそ良い思い出作りをするべきなのである。


キーンコーンカーンコーンと学校のチャイムが鳴る。
先生が教室に入ってくる。
先生「おはようございます!」 クラス全員 「おはようございます!」
挨拶をし、クラス全員席に着く。
これから朝、先生のお話が始まる。
順子ちゃんの担任は、清水先生。
清水先生はいつもお話のネタを考えるのに困っている。
だが今回はネタがあるようだ。
清水先生「みなさんが我が校に入学してから一か月以上が経ちました。友達ができ学校生活に慣れた子もいればそうでない子もいると思います。」
清水先生「まだまだ学校生活に不安を感じる子も少なくないでしょう。」
清水先生「そこで君たちがこれからの学校生活を有意義に送るため我が校には恒例の行事があります。」
清水先生「本日の5時限目にて、1年生対抗障害物リレーを行います!!」
順子ちゃん「1年生対抗障害物リレー?」
順子ちゃんが通う水戸東小学校には、新1年生と全学年が親睦を深め、最高の学校生活を送るためのイベントがあり、しかも毎年違う内容で行われる。
つまり話のネタに苦労する清水先生には鉄板のネタなのである。
今回決まったのが1年生対抗障害物リレーである。
距離は400mと1年生にとっては長い距離を走るのだが、2年生から5年生までが各々50mの区間に制作した出し物を設置し、残り200mは6年生とペアになって手を繋ぎ走るという内容となっており、全学年と交流できる絶好の機会だ。
1年生は全3組で、3チームでリレーを行う。
バトンの代わりにたすきで最終走者にまで繋げる。
順子ちゃんは3組に属している。
1組のたすきの色は赤で、2組は青、そして3組は緑である。
清水先生「企画を考えたのは、私と牛久先生で、あの時、牛久先生と他のクラスたちが6年生の兼岩君たちを追いかけていたのを見て思いついたのよ。」
どうやらあの1件から着想を得て、親睦を深める企画へと昇華させたのだ。
「アンカーは宮沢さんが走っていただきます。」
清水先生が1年3組の最後の走者を順子ちゃんに決定していた。
順子ちゃん「私が最後?」
五十音順でも宮沢は後半になるが順子ちゃんのクラスには、吉岡(よしおか)や和田(わだ)といった苗字を持つ子がいる。
順子ちゃんは女子の中では足が速いほうであるが、男子と比べれば平均ぐらいで、早い子が多く身近でいうと良樹とかがそうである。
競争競技においてアンカーをやる子はより足の速い子がやるべきで順子ちゃん以外に候補は何人かいるはずだが。
その理由を順子ちゃんが清水先生に聞いてみると。
「理由は走ってみたらはわかるは、最後の200mが楽しみね。あと出し物は何なのかも内緒よ。楽しみにしといてね。」清水先生はそう言った。
各学年の出し物についても楽しみとして、伏せておくそうだ。
「わかったわ!!このリレー、最後私が走って3組を勝利に導いてあげるわ!!」
友ちゃん「頑張ってね順子ちゃん!!」
良樹「任せたぞ!!」
クラスメイト全員、順子ちゃんが最後の走者になることに賛成し、応援する。
順子ちゃんのやる気は十分、大トリに選ばれたのは嬉しいがなぜ自分なのかが疑問で、それもあってリレーが始まる5時限目が、待ち遠しかった。


昼休みが終わりついに1年生対抗障害物リレーが始まる。
それと同時に全学年の出し物が公開され全貌が明らかとなった。
各出し物の付近に先生や生徒たちが配置されており、走者がズルをしないための監視係と出し物が途切れないようにするための補充係、行き詰った時に手助けし円滑にリレーを進めるサポート係がそれぞれいる。
出し物の順番は3年生→4年生→5年生→2年生の順である。
まず3年生の出し物は、風船割りである。
50m走るとコース脇に段ボールに山積みされている風船と椅子が用意されている。
走者は風船を割るまで先に進めない。
風船の割り方は問われないが、はさみは怪我する恐れがあるため刃物類などは使用せず、風船の上に座って割るのが主流となるであろう。
椅子を用意したのはそのためである。
3年生各クラスで休み時間などを利用し風船を膨らませた。
1年生は3クラス全部合わせて30人ぐらいだが念のため余分に60個近く風船を用意した。
余った分は、子供会などに提供するそうだ。
次に4年生の出し物は、似顔絵探しである。
100mのコースにブルーシートが敷いてありそこに似顔絵がばら撒いて置いてある。
走者は自分の似顔絵を探し先生にそれを渡す。
4年生全クラス共同で図工の時間に、1年生全クラス分の似顔絵を描いたのだ。
4年生には、絵がうまい子たちが何人かいて、取り沙汰されている順子ちゃんと友ちゃんの似顔絵を描きたいと挙手した子が何人かいたのだ。
自分の似顔絵がわからない子もいると思われるので裏面に苗字と名前が書き記してあるため困らないであろう。
本日の天気は晴れで、風もなく似顔絵が飛ばされることはない。
似顔絵を全部置いてしまうと走者が探すのに時間がかかってしまうため補充係がタイミングを見計らって小分けして似顔絵を出していく。
似顔絵探しを担当する補充係は全走者を把握しているが、走者順に似顔絵が積まれているので上から出していけば間違いはない。
5年生の出し物はお菓子取りである。
150mのコースに物干し竿が設置されており、そこにプラスチックでラッピングされている市販のお菓子が吊るされている。
企画構想では最初手作りのパンを吊るし、走者が口で取ることを案にしていたが、衛生的な観点とコスト上の問題から市販のお菓子となり、口で取るのではなく手で取ることになった。
物干し竿にお菓子がなくならないように、補充係がタイミングを見計らってお菓子を吊るしていく。
担任とその5年生数人とで一緒に下校時間などで、お店に立ち寄りお菓子を買った。
余ってもいいようにお菓子を大量に買ったので、リレーが終わったあと生徒に出し物の制作に協力したご褒美として分け与えるようだ。
なおもらったお菓子は今日だけ特別に学校内で食べてもいいそうだ。
もちろん一年生は走っている途中で食べてもいいができれば水分量を多く含んだお菓子を取りたいところだが、ほとんどせんべいやミニドーナツ、ラムネ菓子といった口の水分を吸い取るようなお菓子で、走って喉が渇いた口には相性が良くない。
最後の2年生の出し物は段ボール小屋で色合わせバトン渡しである。
走者が走る前に全員に色のついたバトンを渡され、最初の200mはバトンを持って走ることとなる。
200mのコースに段ボールと屋根はブルーシートで作られた小屋が5つ設置されている。
走者に渡されるバトンは赤、青、緑、黄色、紫と5種類ある。
小屋の中に鉢巻を頭に巻いた2年生と6年生がいる。
鉢巻もバトンと同じ5種類で色もそれと相当する。
走者にバトンを持ったせて走らせるのは、同じ色の鉢巻をまいた2年生を5つの小屋の中から探すのが目的である。
たすきがバトン代わりとなったのはこの2年生の出し物のためにバトンが使われるからだ。
バトンは各ご家庭から食品用ラップなどの芯を集めて、2年生全クラスで図工の時間でラップの芯に色を塗って作られた。
段ボール小屋の段ボールは子供会やお店などで集めて先生たちが作ったのだ。
鉢巻は100均で購入した。
その購入した鉢巻が5色セットだったことからバトンが5種類となったのだ。
1年生対抗障害物リレーの大目玉は200mを6年生と手を繋いで走りゴールを目指すことだ。
段ボール小屋で2年生にバトンを渡して6年生と一緒に小屋から出て走ることになる。
1年生と6年生が息を合わせ二人三脚でゴールを目指し、共に最高の瞬間を一緒に過ごしてほしい、それが教師たちの願いだ。
説明は以上である。


いよいよ準備が整った。
勝ち負けにこだわらず1年生全員が力を出し尽くし思い出の1ページを描いてほしい。
1年生全員にバトンが渡され、リレーがいざ始まる。
よーい!パーーン!!
号砲がなり、走者たちが駆け出した。
順子ちゃんが所属する1年3組の最初の走者は、良樹だ。
持っているバトンの色は青だ。
足の速い子を先頭にリードし逃げ切るのが清水先生の作戦だ。
良樹は、清水先生の期待通り2チームからぐんぐん差をつけ、50mの風船割りにたどり着く。
風船を椅子に置き、風船に向って勢いよく飛び込んで座る。
風船が大きな音を立て割れる。
これで良樹は、大きく2チームに差をつけハナにたった。
2チームも風船割りに挑む。
良樹と同じように風船を椅子に置き、座り込んで風船を割ろうとしたがなかなか割れず、椅子から風船が転がり落ちるなど苦戦する。
清水先生「やったわ。良樹を一番手にもってきて正解だったわ。これで3組が優勝ね!!」
清水先生の作戦は成功し、勝ち誇っているが1組の担任はそれを否定する。
「それはどうでしょうか?清水先生。まだリレーは序盤。これは障害物競争ですよ。単純なレースとは違うのです。高橋君が途中で行き詰る可能性もあります。」
1年1組の担任の大野先生は、良樹が障害物を突破できずに失速すると予想する。
足の速さも重要だが障害物競争は、最短で仕掛けを突破できるかがカギである。
連続で足止めを食らえば大きなタイムロスとなってしまう。
大野先生が言っていたことが的中した。
なんと良樹が100mで足を止めてしまったのだ。
良樹が止まった100mの地点は、4年生の似顔絵探しである。
ブルーシートの上に置いてある似顔絵は20枚で、その中から自分の似顔絵を探し当てねばならない。
複数枚纏めて似顔絵をとってしまうと併走者の妨害となってしまうので原則1枚ずつ確認しなければいけない。
終盤になっていくにつれ走者が減ってくるので似顔絵が減り、探しやすくなると思われるが、補充係がブルーシートに置かれる似顔絵が20枚になるよう補充して保つ上、全走者の似顔絵を出し尽くした後は、ダミーとして4年生の似顔絵を置くことになっているため難易度は変わらずだ。
「あれ?あれ?俺の似顔絵どこだよ~」
良樹は自分の似顔絵を探すのに苦戦している。
順子ちゃん「良樹何してんのよも~」
しかも自分の似顔絵をとっていたのだがそれがわからず置いてしまった。
焦ってしまい裏面に名前が記されているのを忘れてしまったのだ。
また確認したのと同じ似顔絵を取ってしまうなど時間がかかってしまっている。
そうこうしている内に、後方の走者が上がっていき、良樹よりも早く自分の似顔絵を探し当て、とうとう2チームに抜かされてしまった。
「あちゃ~」清水先生は頭に手を置き、少しへこみ、3組の勝利に陰りが。
「どうやら、高橋君は行き詰ってしまいましたね。フフフ」
似顔絵探しの案は、大野先生であり、好調だった3組の走者がまんまと策略に沿った成り行きとなり失速したさまをみて、彼は今、爽快な気持ちである。
大野先生「勝利するのは私たち1組ですね~」
「う~」清水先生も勢いを失ってしまった。
「まだまだ勝負はこれからですよ清水先生!!」
清水先生に鼓舞したのは、1年2組の担任の近江先生。
清水先生「ええ負けませんよ!!頑張れ良樹!!」
先生はただ生徒を信じて応援するしかない。
先生の応援に呼応するかのように、生徒たちも走者を応援した。
「頑張れー良樹~」
良樹は、先生やクラスからの応援を受け、何としてでも遅れを取り戻し次の走者に繋げたいと奮闘するが
「ぐう~俺の似顔絵どこなんだ~」
いまだ似顔絵探しに苦戦している。
そんな良樹に見かね、サポート係が助けに入り、彼の似顔絵を探してくれた。
良樹「え~これが俺の似顔絵!?」
不幸なことに良樹の似顔絵を描いた子は絵が下手で顔の特徴をつかめておらず自分の似顔絵であるとわからなかったのだ。
サポート係が裏面を見せるとそこに「たかはしよしき」と自分の書き記してあった。


良樹は再び走り出した。
追いかけるが2チームは、お菓子取りを突破し、1組の走者は段ボール小屋を出て6年生とペアとなり走っていく。
そのあとに2組の走者も持っているバトンの色と同じ2年生を見つけ、6年生とペアとなり走り始めた。
1組が現在リードである。
良樹は150mコーナーのお菓子取りへ物干し竿にむかっていった。
細い毛糸と先端に軽くセロハンテープでつけてお菓子が落ちやすいように吊るしているので、指先でも触れさえすれば簡単に落ちるであろう。
しかし良樹はまたも苦戦する。
吊るされているお菓子は良樹の身長より頭2つぐらい上にあり、手が届かない。
良樹「くそ~」
その間に1組と2組は次の走者にたすきが渡される。
友ちゃん「わあ~もうやばい、ダメだ‥」
清水先生「あきらめちゃだめよ良樹頑張りなさい!!」
クラスみんな「頑張れー!!」
先生もクラスみんなも応援する。
良樹「う~みんな‥」
クラスみんなが良樹を応援するが、かえって彼にはプレッシャーになってしまい弱気になる。
サポート係の助けがくるまで、立ち止まってしまうのか。
良樹がサポート係の助けを望んでいるその時、順子ちゃんが
「最後まで走り切ったらデートしてあげるから頑張りなさーい!!」
なんと順子ちゃんは良樹にデートの誘いをした。
「でっデーーーート!!!?」
良樹は驚き、順子ちゃんのデートの誘いに赤面する。
先生もクラスだけじゃなくみんなも驚いた。
順子ちゃん「お望みならチューもしてあげるわ~」
友ちゃん「じゅっじゅじゅじゅ順子ちゃーーーん?!!」
友ちゃんは順子ちゃんの大胆さに、顔が熱くなって口を両手で覆う。
良樹「そっそこまでしなくていいって!!」
しかし、良樹は体中に力がわき助走をつけ飛び込み、なんとかお菓子を取ることができた。
「ありがとう順子ちゃん‥俺順子ちゃんとデートか‥フフ」良樹は順子ちゃんのデートの誘いにはまんざらでもないようだ。
良樹の足が速くなった。
良樹の持っているバトンの色と同じ青の鉢巻を頭に巻いている2年生を見つけ、6年生と一緒に走り出した。
「良樹まだまだ他の2チームに追いつける!!行くぞ!!」
良樹と一緒に手を繋いで走る彼は、6年2組の森田遊地(もりたゆうじ)。
彼も、斎藤と同じサッカー仲間であるが、中学は野球をしたいそうだ。
スポーツができる子なので、良樹を引っ張り、2チームの差を縮めてくれるだろう。
残り200mを遊地と共に走り、良樹は400m走り切った。
たすきを次の走者に渡した。
清水先生「お疲れ!!良樹」
良樹「ごめん、先生、みんな、俺‥」
良樹は涙を流した。
「気にするなって。泣くなよ男だろ?まだ負けた訳じゃない。今度はチームの勝利のために応援するんだ。」
遊地は良樹の肩をそっと手を置き、励ました。
清水先生「ありがとう森田君。そうね、応援しましょう!!絶対勝つわよ!!」
良樹「うん!!」彼は、涙を拭き、応援に入る。
3組は、現在最下位になってしまったが2チームの差は遊地の助けで縮めることができ、まだ勝機はある。
果たして、順子ちゃんたち3組は勝利することができるのか?

続く‥

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