第11話 波乱の予感
宮沢家は、父である広武が釣り目的で家族を連れキャンプ場に出かけた。
天気は曇りであり、雨は降らないとの予報であったのだが、予報ははずれ、雨が降り強い風が吹いてきてしまった。
母はバーベキューを中止し、順子ちゃんと保志も遊ぶのをやめた。
川で釣り勝負をした広武と沖野であったが、雨が降り川の流れが強くなってしまい、
釣りができなくなり勝負は保留にすると沖野は言うが、釣った魚は広武よりも多かったため、
広武は沖野に勝ちを譲ることにする。
釣り具を片付け、川から離れる広武と沖野であったが突然大きな揺れが起きた。
川は勢いを増し、濁流となる。そして川の方から悲鳴が聞こえ、広武と沖野が向かうと
濁流に流されている一人の男の子を発見する。
彼は、蹴ったボールが川に落っこちてしまい、それを追いかけていたのだが足を滑らせ川に落ちてしまったのだ。
濁流に流された男の子は助かるのだろうか。
流されている男の子を追って沖野はスマホで消防に連絡する。
沖野「沖野だ。小川やすらぎ里キャンプ場で水難事故だ。男の子が濁流に流されている。」
沖野「川の流れが強い。俺一人で救助に向かうの難しい。大至急小川やすらぎ里キャンプ場へ救助に向かってくれ。」
沖野と消防とのやり取りを聞くに、彼は消防隊員であると気づく広武。
広武「沖野さんってもしかして…」沖野「はい。消防やっているんです。」
広武「すごいですね!」沖野「いえまだまだですよ。そんなことより子供助けねば!」
消防隊員であることから体を鍛えており、足が速い沖野、濁流の速さに食らいつき、
流れていく男の子が見失わないように必死に追いかけていく。広武は沖野についていくのにやっとであった。
男の子「誰か!助けて!」男の子は必死にバタつき助けを呼んでいる。
体は首のほうまで沈んでしまっている。水面も上昇している。
このままだと男の子は溺れてしまう。
沖野「おーーい!聞こえるか!」沖野は大声で叫び、男の子に呼びかける。
男の子「ここだよーーーー!助けて!」男の子は沖野の声が聞こえ返事した。
濁流でおぼれそうになりながらも大声で叫び、大きく手を振っている。
沖野「いいか!俺の言うことをちゃんと聞いてくれ!」
沖野「暴れると余計に体力を消耗して溺れてしまう!」
沖野「川の流れに身を委ね、水面に平行になるようにして大の字になって仰向けにしろ!」
口と鼻を水面からだすことで呼吸がしやすくなり、空気を肺にためることで体を浮かすことができる。
濁流によって流されている男の子に対して沖野の指示は的確である。
しかし…
男の子「え!え!え!耳に水が入っちゃうよ!」耳は顔の横の位置にあるため、水面で仰向けになれば耳に水が入ってしまう。
耳に水が入るのを嫌がる子供もいて、その男の子も水が耳に入るのが怖いそうだ。
このような状況であるため、さらに混乱してしまうのも無理はない。
沖野「絶対に君を助ける!だから落ち着け!」
沖野は男の子を落ち着かせようとしている。
男の子は沖野のことを信じ、指示に従い冷静になった。
だが助けなければ状況は変わらない。
ただ流された男の子を見失わないように追いかけているだけだ。
悪天候の中、雨も勢いを増し、その雨が水面に顔を出している男の子の体力を削らせてしまう。
そのうえ水温も徐々に低くなってきているので低体温症を引き起こし生死にかかわる危険性が伴う。
泳いで直接男の子を助けたい沖野であるが、川の流れは濁流で強くかえってこちらも流されてしまい危険だ。
沖野のような屈強な身体の持ち主でいくら運動神経がよくても自然の力には敵わない。
災害となれば、多くの命が失う惨事になる恐れがある。
広武「助けはあとどれくらいかかりますか?」
広武は消防隊の助けがいつ来るのか沖野に伺った。
沖野「俺の部署が、近くの消防に連絡を入れたはず。早くても到着は20分はかかるといっていた…」
広武「え!20分!間に合うんですか!?」沖野「…………」
沖野は沈黙してしまった。
1秒でも早く救助が必要な緊急事態でも消防隊は準備や移動などで時間がかかってしまう。
救助に向かうのにこのタイムラグは避けられない。
対応が遅くなれば状況は悪化してしまう。
それでも消防隊は、事故や災害から人々の命を守る使命がある。
消防隊員である沖野に迅速で的確な判断力が求められる。
広武「私に何かできることはありませんか?」沖野「宮沢さん…」
広武は沖野に自分に何かできることはないか尋ねた。男の子を助けたいのだ。
救助が来るのを待つよりも今できる限りのことをすることが最善である。
沖野(そうだ!一人で悩んでいる場合ではない!)
沖野「ありがとうございます!あの子を助けたい!宮沢さんやみんなの力を貸してほしいです。私一人だけの力では、あの子を助けることはできません。」
沖野「この雨の中、お手数おかけしてしまいますが尊い命を見過ごすわけにはいきません!」
沖野「宮沢さんは、キャンプ場にいる人たちに助けを呼んでほしいです。あとできるだけ救助に使えそうな道具を集めてきてください。」
広武「わかりました!」
沖野は継続し、男の子を見失わないように追いかけ、広武はキャンプ場にいる人々に助けを呼びに行った。
その頃順子ちゃんと保志と母である幸の三人はテントの中にいた。
ゴゴゴゴと順子ちゃんのいる場所にも揺れが起きた。
幸「あら地震?でも結構強いわね。」保志「あわわわ!」順子ちゃん「保志怯えすぎ~」
三人とキャンプ場にいる人々は知らなかった。この揺れが恐ろしいことが起きる予兆になるのだ。
保志「飛ばされないかな~」大雨だけでなく風も強いので、テントが飛ばされないかと不安に思う保志だが
順子ちゃん「飛ばされるわけないじゃない!だって私たちが建てたテントよ!大丈夫よ。」
それに対し、自分たちが建てたテントであるから風でも飛ばされないと自信を持つ順子ちゃんである。
幸「他の人々もテントに避難しているみたいだし、もし他の人のテントが飛ばされたらこっちも危ないから。今はテントでじっとしていた方がいいわ」
幸「でもこの雨じゃお父さん、釣りができなくなって戻ってきそうね。」
雨が降ってしまい今頃釣りをやめてこちらに戻ってくるのだろうと父を気の毒に思う母。
バーベキューが中止となってしまい食材は生焼けのままで母はそれを見てため息する。
正直何も楽しくない。
せめて父が一匹でも魚を釣ってくることを願うばかりだ。
三人はテントの中で父が戻ってくるのを待っていた。
すると外から女性の声が聞こえた。「すみません…」
幸「はーい」母は雨水がテントの中に入らないようにテントの入口を少し開け顔を出した。
目の前には緑のレインコートを着た女性が立っていた。
女性「あの…うちの子を見ませんでしたか?」
女性「赤いTシャツを着ていて恐竜の絵が描いてあるのですが…」
女性「名前は優馬。広場でサッカーをしていましたが、雨が降ったときに姿が見えなくて…」
この女性は優馬の母で、夫と手分けして優馬を探している。
キャンプ場にいる人々に、服装や名前などを伝え、できるだけ優馬と同じように広場で遊んでいる家族に声をかけた。
そして宮沢家のほうにまで訪ねてきたのだった。
順子ちゃん「優馬君って保志と一緒にサッカーしてた子じゃない?」保志「うん!赤い服着てた。」
同じく順子ちゃんも保志も広場で遊んでいた。
もっとも保志は優馬という子にサッカーを誘ってもらったのだ。
優馬の母「何か心当たりはないですか?」
保志「えっと…一緒に遊んだけどわからない…」
順子ちゃん「突然雨が降って母に戻ってくるように言われて…だから優馬君についてはわからないです。」
二人も優馬の行方は知らなかった。
幸「すみません。お力添えできずに…」優馬の母「いえ…ありがとうございました…」
どの子供も広場で優馬が遊んでいることは知っているが、雨が降って戻った後、優馬がどこにいったのかは、わからない。
優馬の母が宮沢家のテントを後にした時
「おーい誰か!」っと大きな声が聞こえた。その声は順子ちゃんの父である広武だ。
幸「あなたどうしたの!?」
声を聞き、一人の男が広武に駆け寄った。女性も広武のもとに近寄った。
広武に駆け寄った男は優馬の母と同じ緑のレインコートを着ていた。その男こそが優馬の父である。
優馬の父「どうしたんですか?」広武に話を聞くと
広武「子供が川に流されています。救助を要する危険な状況です!」
優馬の父「その子って…赤い服を着ていませんでしたか?」
川に流された子供が自分の息子ではないかと思った優馬の父。服装について聞いてみると
広武「赤い服?…あっそうだ!その男の子は赤い服を着ていました!」
優馬の父「え……」川に流された子が優馬であったのだ。
優馬の父「その子が赤い服を着ていたなら…私たちの息子の優馬かもしれません!」
広武「なんだって!」広武だけでなく他の三人も驚愕した。
優馬の父「姿が見えなく探しているんですが…もしかしたら…」
優馬の母「うううどうしよう!私の優馬が!」優馬の父「急いで助けなけきゃ!」
自分たちの息子が川に流されていると聞き血相を変える二人。
広武「落ち着いてください!たまたま私と一緒にいた人が消防隊員みたいでその人が助けに向かっています。」
広武「他の消防隊員に協力要請を出したのですが、来るのに20分はかかり優馬君の体力的にも間に合いません!」
広武「ですので優馬君を助けるために力を貸してください!」
消防隊員の沖野の気持ちを代弁し優馬の救出を求めた。
広武の勇敢な姿に順子ちゃんと保志は誇らしく思い、そして妻である幸は、夫である広武に惚れ直す。
幸「あなた、わかったわ!」保志「僕も優馬君を助けたい!」順子ちゃん「私たちもできることをやろう!」
優馬の父「はい!私の息子のために本当にありがとうございます。ご協力いたします!」
宮沢家と優馬の両親は助けを求め、キャンプ場の人々に声をかけた。
声をかけた結果、キャンプ場からたくさんの人が集まってきてくれた。
優馬救出に役立ちそうな道具も揃い準備が整う。
いざ優馬救出に向かおうとしたら‥
ゴゴゴっとまた大きな揺れが
保志「うわあまた揺れた!」幸「また地震!?今度はさっきよりも大きな揺れよ!」
前の揺れに比べさらに大きくなる。
親たちが子供抱きかかえ支えるが、大人が膝をついてしまう激しい揺れだった。
その揺れと同時に、川の水が一気に順子ちゃんたちのいるキャンプ場に入り込んでしまった。
広武「なんで川の水がここまで!」保志「え!?水が入ってきた!」
大雨により、川が増水しさらに大きな揺れで地面が割れてしまい、そこからキャンプ場の方にまで流れてきてしまった。
ただしこれだけでは、キャンプ場の人たちにまで被害は及ばない。
小川やすらぎ里キャンプ場にはダムがあるのだが、そのダムが決壊してしまったのだ。
ダムは有効貯水量を上回る洪水があると決壊してしまう。
大雨で想定された量より上回り、そして経年の劣化と合わせ大きな地震が襲い決壊した。
ダムに貯水された水が下流に流れていき、川は勢いが強くなり濁流へと変貌した。
「うわあああ逃げろ!!」とキャンプ場の人々や助けに協力しようとした人が一斉に避難を始めた。
順子ちゃん「あ!靴の中にまで水が!」広武「このままじゃここも危険だ!逃げるぞ!」
川の水がこちらに迫ってきて、人々は身の危険を感じた。
もはや優馬救出どころではなくなった。
優馬の母「優馬はどうするの?」優馬の父「消防隊員が助けに行っている。彼を信じて一旦避難しよう。」
本当は息子を助けたいのだが、優馬の両親はここを離れるしかなかった。そして助けにいっている消防隊員の沖野を信じて避難する。
その沖野だが、沖野「くそこれじゃ埒が明かない!」
彼は泳いで男の子を助けようか考えていた。
自分も流されるリスクはあるが男の子を捕まえることができれば状況は好転する。
沖野が川に飛び込もうとした時だ。
ゴゴゴゴ 沖野「うわあ!」
突然の揺れで動きを止めてしまう。揺れの衝撃で地面が割れ、川の水位が上がり水が溢れ出した。
沖野は巻き込まれそうになったがなんとか避けることができた。
しかし男の子を見失ってしまったのだ。
沖野「しまった!!くそ!!!!救助はまだか!!」
沖野「あ!川がキャンプ場の方にまで!」
沖野はキャンプ場の方にまで川の水が入り込んでいるのに気付いた。
沖野「これは!まずい!」
水の流れは強さと勢いが増し、避難しようと必死に逃げようとしている人々に追いついてしまう。
無情にも優馬の救出するために集めた道具は流されしまった。
水位が大人たちのお腹のあたりまで上がってきた。当然背の低い子供たちは肩の方にまで水が来てしまう。
子供たちが流されないように大人たちが抱きかかえるが、大人たちも一緒に流されてしまう。
順子ちゃん「きゃああああ!助けて!」広武「順子!」幸「順子!いやああああ!」保志「姉ちゃああああああん!!!!」
なんと順子ちゃんは孤立し流されてしまった。
順子ちゃん大ピンチ、彼女はどうなってしまうのか‥そして優馬の行方は‥
続く‥
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