ジュンコチャン

第55話 挑戦者佐武郎

※この小説にはプロモーションが含まれています。

本番に向けて始まった運動家の練習。
まずは個人競技である50m徒競争からである。
運命のいたずらなのか先生が仕組んだのかは定かではないが
順子ちゃんに宣戦布告した1組の佐武郎も走者の順番が同じで最後だった。
佐武郎は1学期初期の障害物リレーで完敗した過去から
この運動会で雪辱を晴らすことはできるのだろうか。


レーンに右側から男女男女の順に位置に着いた。
「よーいドン!」とスタートの合図を出す審判のことをスターターと呼び
スターターはレーンの右端の方に立っている。
スターターを今回努めるのは1年1組で佐武郎の担任の大野先生である。
大野先生から見て手前のレーンがちょうど佐武郎が走るレーンなので
佐武郎の練習の成果そして順子ちゃんにどこまで食らいついていけるのかを間近で見届けられる。
まだ練習であるが大野先生もこの時を待ちわびていたのかもしれない。
佐武郎が順子ちゃんに勝ちたいと大野先生に志願していた節がありこの組み合わせになったのだろうか。
先生同士との会議では不公平感が出ないようにできるだけ足の速さの子同士になるような
組み合わせになっただけで偶然そうなっただけのことである。
1年1組のクラスの中で一番足が速いのは佐武郎であり
1年3組のクラスの中で一番足が速いのは順子ちゃんなので当然の組み合わせだ。
一番足の速い生徒を最後の走者にするのは運動会を盛り上げてほしいからである。
しかし佐武郎の意向も沿った形にもなったがこれで順子ちゃんと走れるというわけだ。
運動会にもリレーがあるので順子ちゃんも佐武郎はアンカーになる予想が的中しそうだ。
ということはこの徒競走は前哨戦といったところだ。
本番ではスターターピストルでスタートの合図をするが
今回は大野先生が「よーい!ドン!」っと言ってからがスタートとなる。
大野先生「準備はいいですか?」
佐武郎「はい!」
佐武郎の大きな返事は順子ちゃんの耳に響く。
順子ちゃんに勝つという意気込みが十分に伝わっただろう。
そんな佐武郎を横目に順子ちゃんは舌打ちをした。
どうやら佐武郎の気迫が順子ちゃんの怒りを買ってしまったようだ。
順子ちゃんは追われる身なのだが怒り狂った闘牛から逃げるような感じで
佐武郎が追われるような感じがする。
大気「返り討ちにしてやれ」
不機嫌そうな順子ちゃんにそんなことを言う大気。
大気も3組の男子の中で足が速いのだから佐武郎に負けないように1着を目指してほしいところだ。
順子ちゃんの走りで引っ張ってもらって記録を伸ばしいつかは彼女を抜かせるくらいに成長してほしい。
そして佐武郎も。
既に佐武郎は「打倒!宮沢順子!」と目標を掲げ走る練習をしていた。
彼も良樹と大気ら一緒に上の学年の生徒たち休み時間にグラウンドでサッカーをしていて
順子ちゃんを追うようにサッカーボールを追いかけていた。
順子ちゃんを意識して同時に足が速くなる練習をしてきているのだ。
だがそればかりに執着し過ぎてストーカー行為までは発展してほしくないものだ。
強敵と幾度も立ち向かった順子ちゃんだが今は追われる身。
挑戦者佐武郎が順子ちゃんに挑む。
大野先生「位置について!よーい!…」
大野先生「ドンって言ったらいくんですよ!」
順子ちゃん「うわあ!?ちょっと!!」
大野先生がからかい、順子ちゃんたちはフライングしてしまった。
順子ちゃん「もう!大野先生!!」
大気「またかよ〜」
ハラハラドキドキする緊迫した展開が台無しである。
大気が言っているように前の走者にも時折そうしていたのである。
大野先生「本番のような感じで全力で取り組んでほしいですが肩の力を抜くこtも大事ですよ。」
清水先生「怪我しないようにね」
和ませたいのかそれともルールを覚えさせるためなのかいろんな意味が含まれているが
怪我をしないことももちろんではあるが、すぐに急ブレーキをかけた順子ちゃんは転びそうになったため
今のは怪我の元になりそうだった。
もしかすると順子ちゃんをイラつかせ集中力を低下させたところを見計らって佐武郎を勝たせる巧妙な作戦なのだろうか。
それはさておき気を取り直して全員位置についた。
いよいよ本気モードである。
大野先生「位置について!よーい!…ドン!」
大野先生の合図と共に順子ちゃんたちは走り出した。
順子ちゃん「うおおおおおおおお!」
スタートした時の順子ちゃんは翼をパタパタを羽ばたかせて宙に浮いて途中で飛ぶのをやめた鳥小屋の鶏のようだが
地面に着地した瞬間虎のように猛スピードで走りだした。
障害物リレーの時のように両腕をグルグル振り回しながら走っている。
とにかく今の順子ちゃんは暴走する特急列車なのだ。
大気「うあ!危ねえよ!順子!」
順子ちゃんの振り回したが腕が大気にぶつかりそうになる。
清水先生「こら!宮沢さん!危ない!」
順子ちゃんの走り方に清水先生は注意する。
注意するよりかは怒っているのだろう。
現在3組の中で一番速いのは順子ちゃんだから清水先生も大気は彼女の実力に委ね期待しており
順子ちゃん本人もその期待に応えているのだろうが
大気も同じチームメイトであり思うように前に走らせないといけないし妨げになってはいけない。
そして何よりも怪我をさせてはいけない。
順子ちゃん「うおおおおおおおお!」
順子ちゃんは清水先生の注意を聞かず叫びながらゴールへ突っ走ている。
これでは手に負えない暴れまわる猛獣でゴールするまで彼女は止まることはないだろう。
後で順子ちゃんは清水先生に怒られてしまうだろう。
一方で佐武郎は前傾姿勢で槍のように鋭く走っている。
前のめりになりすぎず足の付け根から体全体に前に倒し綺麗なフォームで走っている。
順子ちゃんのほどのインパクトはないが成長ぶりを感じる。
その姿はまさに陸上選手のそれであり、練習の成果を遺憾なく発揮し順子ちゃんに食らいつく。
大気「はっ速いな!佐武郎」
後方を走っている大気だが佐武郎の走りに驚いている。
しかし50mはあっという間でありすぐに決着がついた。
1着でゴールしたのは順子ちゃんだった。
そして佐武郎は2着だった。
順子ちゃん「へへー!1着!!」
佐武郎「くそー!負けた!」
順子ちゃんに負けて悔しそうになる佐武郎だが大健闘である。
最初の勢いが佐武郎との距離を開かせたのでそのまま逃げ切ることができたのである。
佐武郎はだんだんと距離を詰めて追い上げていたのでもし50mではなく
もう少し距離があったら順子ちゃんを抜かせたのかもしれない。
清水先生「宮沢さん!!今の走り方は危ないです!」
順子ちゃん「え~勝ったじゃん!!」
勝ったからと言ってそれとこれとは別であり危険なプレーはご法度なのだ。
しかも順子ちゃんは反省するしていない。
清水先生「大気君が思うように走れなかったし怪我するところだったじゃない!」
大気「まあ確かに…」
良樹「あれはいくらなんでも怖いよな~」
順子ちゃんの足の速さについては頼りにしているが清水先生の怒りもごもっともでそれについては良樹と大気は頷くしかなかった。
順子ちゃんは大気に謝ることになったが彼女本人は納得しない様子であった。
練習でいつも腕を振り回して乱暴な走り方をしていつかは大気がそれで怪我させてしまうし
他の生徒にも迷惑を及ぼしかねない。
清水先生「腕を振り回して走るのは禁止です!」
清水先生「そんな全然スピードが出借り人と借り物の競争ませんし疲れやすくなってしまいます!」
清水先生「腕を上下に振って走るのですよ!」
順子ちゃん「でもちゃんと1位になったのに~」
順子ちゃんの腕を振り回して走るようなやり方は推奨されておらずスピードが出ない上に疲れやすい。
清水先生の指摘は的を射ているがなぜかそれでも順子ちゃんは1着を取れるほどのスピードもありまだ息を切らしていないので
やっぱり彼女はみんなとは違うのかもしれない。
本人も1位取ったと言っているが順子ちゃんが得たものは「勝利」ではなく「反則」と「反省」ではないだろうか。
だが元から順子ちゃんは足が速いので正しい走り方を覚えればさらに速くなるはずだ。
正しい走り方で極めれば鬼に金棒であり虎に例えて四字熟語にすれば為虎傅翼(いこふよく)の勢いで新記録を叩き出せるはずだ。
小学1年生の50m走の平均タイムは男女共に約11秒か12秒である。
順子ちゃんの記録は8秒30で佐武郎は8秒56である。
二人はとても足が速い部類にはいる。
佐武郎はこの差を縮められるかが今後の練習次第になる。




気を取り直して次は障害物競争の練習だ。
今度は男女の2ペアで走るのではなく一人ずつ走る。
走者の順番だがやっぱり順子ちゃんは最後であった。佐武郎も。
佐武郎「今度こそは負けないぞ!」
無邪気に順子ちゃんに立ち向かう佐武郎の姿を大野先生は見守っていた。
今度こそはあのわんぱく娘に勝ってほしいと切に願っていた。
段取りは50m徒競走と似ているが障害物競争は100mで縄潜りと麻袋を履いてジャンプして進む競技である。
走るだけではなくギミックの対応力も試さられるので思ったように走れないかもしれない。
だから練習を重ねて慣れていく必要がある。
縄潜りは2つのカラーコーンを縄で結んでレーンの両端に置いてその縄を潜るのが目的である。
これが50m内に等間隔で5セット置いてある。
走者は5回その縄を潜らないといけない。
カラーコーンの高さは約70cmで、体の小さい子どもでも上半身分の高さしかないため
地面に肘や膝をついて進まなければいけないから服ないし体操服が汚れるのは覚悟しないといけないだろう。
縄潜りは難なく潜ることはできたが次の麻袋を履いて進むところは苦戦する子が何人もいて中には転ぶ子もいた。
3組では友ちゃんと良樹が転んでいた。
しかし友ちゃんは転んで少し肘を擦りむいたが泣かなかったので彼女は精神面については成長している。
良樹はしょんぼり涙目で合った。
周りを見て焦って無理に跳躍距離を伸ばそうと高くジャンプするとバランスを崩して転んでしまう恐れがある。
自分のペースで無理のない飛び幅で見つけることが大事で、練習の意義をこれで見出せるはずだ。
障害物競争のスターターを務めるのは2組の担任の近江先生である。
みんなの走る様子を見てきた順子ちゃんと佐武郎。
障害物競争ではどんな走りを見せてくれるのだろうか。
もちろん2組チームの走者を忘れてはいけない。
2組チームの最後の走者は野口賢季である。
近江先生「位置について!よーい!…ドン!」
近江先生のスタートの合図と共に三人は走り出した。
腕を振り回す危ない走り方を清水先生から禁止された順子ちゃんは
清水先生の言われた通り腕を上下に振って走っている。
正しいフォームで走っていそうだが前のめりになって走っている。
それでも相変わらず速く刃物のように鋭く走っている。
順子ちゃんの1着は約束されこれでよしと思いきや縄潜りで裏切られることになる。
佐武郎と賢季は四つん這いになって縄潜りのに対し順子ちゃんは翼を羽ばたかせたかのように縄を飛び超えていく。
賢季「え!?反則じゃん!それ!!」
賢季は驚きながらも順子ちゃんの反則プレーを指摘する。
さっきまで前の走者たちの練習を見て学ばなかったのか完全にルールを無視して走っている。
勝つためなら手段を選ばないということなのだろうか。
清水先生「こら!宮沢さん!それは反則よ!」
順子ちゃん「こっちのほうが簡単じゃない!!」
順子ちゃん「服も汚れるし!」
友ちゃん「なんだか順子ちゃんらしいね」
順子ちゃんの言い分もわかりそっちのほうが走りやすいし服も汚れずに済む。
これが順子ちゃんでありこの破天荒ぶりがいつもの彼女なので友ちゃんは呆れながらもどこかで安堵している。
もし本番で雨になればグラウンドは泥濘み、泥で体操服が悲惨なことになってしまう懸念もあるがそのときは運動会は延期だ。
田舎育ちの順子ちゃんは高いところを登ったり狭いところを潜って昆虫採集をしてきた野性的な子なのである。
順子ちゃんの幼少時代のことは家族から聞いてそのことは清水先生は知っている。
大袈裟だけどジャングルを生き抜いた順子ちゃんなら縄潜りなど公園の低木の間にできた隙間を通るに等しい。
それに順子ちゃんは正々堂々と立ち向かう誠実な子だと思っていた。
夏休みの宿題だってズルせずちゃんとやってきた。
まさか運動会の練習で乱暴で反則的なプレーを見て期待を裏切られた。
自分の足で山に登るストイックな登山家と思われたが実はロープウェイを利用して山頂に着いた卑怯者だ。
ルールを守って競技に全力で取り組み自分の実力を出し切ることこそがスポーツマンシップとして大事なことであり
ルールの抜け穴を見つけて難解な仕掛けを突破するようなことはこの障害物競争には求めていないのである。
またしても順子ちゃんは清水先生に怒られてしまうのだろう。
しかし走り出した順子ちゃんは止めることができない暴走特急列車、ゴールという名の駅まで止まらない。
佐武郎「順子め!待て!」
なんと佐武郎も順子ちゃんのまねをして縄を飛び越えてしまった。
順子ちゃんのプレーは反則だがこのままでは負けると思ってしまったのだろうか佐武郎も手段を選ばなくなった。
これでは縄潜りではなく縄飛び込みだ。
70cmはかなり高さがあるので危険で転んでしまう可能性がある。
賢季「えーい!俺も!」
賢季もつられて縄潜らず飛び越えた。
いまいち1年2組チームは目立っていなかったが賢季の行為は悪目立ちである。
清水先生と近江先生は大きなため息をした。
清水先生「はあ〜」
近江先生「最下位でもいいからせめて賢季君だけでもルールを守ってほしかった」
近江先生は最下位でもいいから賢季だけはルールを守ってほしかったと言っているが
順子ちゃんと佐武郎は反則負けとすれば賢季が実質1位だったのである。
大野先生「これはまずいことになりましたね〜」
ついにみんなが苦戦した麻袋を履いての進行になる。
順子ちゃんが先に麻袋を履いてその後に佐武郎と賢季も麻袋を履いて進みだした。
これだけはルールを守ってやってくれているようだ。
順子ちゃん「うおおおおおおおおお!」
佐武郎「待て順子!!」
何度も待てと言っている佐武郎だが、これは競争なので待てというのはおかしい気がする。
流石身体能力が高い順子ちゃん、カンガルーのようにアキレス腱をバネに驚異的な跳躍を見せる。
その後ろを佐武郎と賢季が進むが思うように進まず小刻みに飛ぶことしかできない。
男子二人はうさぎのようにぴょんぴょん飛んで前に進んでいるがその光景はとても可愛らしかった。
佐武郎「くそ〜」
うさぎも跳躍力に優れているがカンガルーのほうがそれを遥かに超えている。
まさに対戦相手を間違えたうさぎのようだ。
しかし童話の「うさぎとかめ」のうさぎのように佐武郎は油断していたわけではないのだ。
順子ちゃんに勝ちたいだろうが相手が悪かったようだ。
佐武郎「俺だって!とう!」
佐武郎「うわあ!痛ああ!」
佐武郎は順子ちゃんの跳躍力に翻弄され自分も負けず少しでも距離を詰めようと
大きくジャンプして跳躍距離を伸ばそうとしたが地面に着地した瞬間にバランスを崩して転んでしまった。
そのまま順子ちゃんは進んでいきゴールして次に賢季がゴールし佐武郎は最下位が確定した。
ルールを破ってまで追いかけたのに転んで怪我までしまうとはなんだる屈辱か。
佐武郎は転んでできた擦り傷の痛みで涙目になる。
彼が得たものは「敗北」と「反則」そして「怪我」である。
体勢を立て直したが既に順子ちゃんはゴールしてしまったため立ち直れず進むことができない。
大野先生「最後まで走れ!!佐武郎!!」
1組のクラスメイトたち「頑張れ!佐武郎!」
佐武郎「大野先生!みんな!」
大野先生の鼓舞とクラスメイトの応援で佐武郎は立ち上がり麻袋を履いてゴールまで進んでいたのだった。
しかしこれは練習である。
いくらなんでも熱くなり過ぎではないだろうか。
1着でゴールした順子ちゃんであったがルール違反したためまた清水先生に再び叱れてしまい
それを巻き添えに賢季もルール違反したので怒られてしまった。
やっとゴールした佐武郎は大野先生の元に寄りルール違反をしたことへの反省のため怒られることを覚悟していた。
大野先生「宮沢さんに勝ちたい気持ちはわかりますが」
大野先生「ルールはちゃんと待ってくださいね」
佐武郎「はい…」
大きく怒鳴りはせず注意するだけにとどめてくれた。
今の佐武郎を見ていたた同情の余地があるのである。
化け物ような彼女に挑む彼をなんだか応援したくなるのである。
次は借り人と借り物の競争の練習である。
波乱の予感がする運動会の練習はまだ始まったばかりだ。



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