第54話 運動会の準備
※この小説にはプロモーションが含まれています。
桂里奈が退院し2学期の学校生活に馴染んてきたがこの秋は6年生にとっては最後の運動会が控えている。
一方で順子ちゃんたち1年生は運動会が初めてである。
2学期初日に行われたドッチボールもあったため競い合うイメージの運動会に対して不安を抱く子も少なくない。
順子ちゃんが通う水戸東小学校の運動会時期は10月上旬であり
いきなり本番をするのではなく練習してルールの理解やチームワークの育成のためまずは練習が必要でそれが9月下旬から行われる。
今回は運動会練習前日の順子ちゃんの心境やみんなの練習風景を見ていこう。
果たして今回の運動会はどのような展開となるのだろうか。
現代の運動会は開催時期を春にする学校が多くなってきている。
夏の残暑による熱中症の配慮や秋は学校行事が集中しやすいため生徒の負担を軽減するためが目的で
春に運動会を開催する学校が増えてきているのである。
そうありながら水戸東小学校は運動会の開催は秋としているが
現在の学校同様に午前中のみとなっている。
小学校からのお知らせのプリントにもそういった説明がされており
その日の夜、過去と現在の運動会の扱い方や違いに順子ちゃんの父の広武と母の幸は物足りなさを感じつつ受け入れるしかなかった。
広武「午前中ってのはなんか物足りないって感じだよな〜」
幸「弁当を作らなくていいのかしらね?」
幸「でも結局お昼は食べないといけないでしょ?」
広武「やっぱり必要なんじゃないのか?」
午前中のみにして弁当を作るなどの家族の負担を軽減するための配慮なのかもしれないが
少なくとも子供がいる家庭ではお昼ご飯をなしにすることはできないはずだから結局は弁当が必要だと思っている。
これは広武と幸の予想ではあるが片付けがあると考えれば
運動会の閉会式のあと、お弁当ないし食事などの休憩後、片付けという流れになると予想している。
もしくは片付けは後日というのも有り得そうだが一体どこまで生徒や家庭の負担を軽減させるつもりなのだろうか。
広武が現代の運動会に対して物足りなさを感じている理由は
彼は41歳で昭和の運動会を体験をしているからであり、
従来の運動会はエキシビジョンも兼ねて午後もあり騎馬戦もあったのだ。
怪我のリスクがあるためか騎馬戦は運動会の競技から外されているのである。
ちょっとした過激さも当時はあったのかもしれないがそれがないことに物足りなさを感じているのかもしれない。
順子ちゃんは運動会に関心はあるが父の広武の昔の運動には関心がなく「へえ〜そうなんだ〜」と言って聞き流していた。
父として娘である順子ちゃんが運動会で活躍する姿を目に焼き付けたいのであり午前のみでだけにするのは勿体ないのだ。
順子ちゃん「ねえお父さん、運動会頑張るからGVDもう1個買って!」
広武「なんでそうなるんだよ!」
順子ちゃん「私が頑張ってるところとか活躍しているところとか見たいんでしょ?」
広武「それとこれとは別なんだけどな~」
順子ちゃんはもう1台のGVDが欲しいようで運動会に頑張ったご褒美にしたいそうだ。
広武「う~ん俺は運動会頑張っても1度もご褒美なんてもらったことないんだけどな」
順子ちゃん「それとこれとは別でしょ!」
順子ちゃん「じゃあ私頑張らない!」
広武「あのな~順子そんなことでものをねだっているとろくな大人になれないぞ!」
娘の順子ちゃんが報酬ありきで頑張ってほしくないのが父の広武の思いなのである。
順子ちゃん「お父さんだってお給料もらっているじゃん!」
広武「これは家族を支えるためにやっているんだぞ!」
ここで順子ちゃんは父の給料を引き合いに出してきた。
小学1年生でまだ幼いのに順子ちゃんはかなりの曲者だ。
幸「順子が頑張って言うなら買ってあげたら?」
幸「実は保志とゲームでいろいろ揉めてるのよ」
広武「そうなのか、幸が言うなら」
弟の保志とGVDを巡るトラブルがよくあるそうでそうならないようにもう1台欲しいということなのである。
兄弟、姉妹もしくは子どもが二人いる家庭ではこのような問題が起きることは不思議ではない。
解決策はやはり2台目を買うしかない。
それを順子ちゃんは運動会で頑張ったご褒美としている。
家計を管理する母がGVDをもう1台買うことを許しているなら従うしかない。
広武「わかった!じゃあ運動会はちゃんと頑張るんだぞ!」
順子ちゃん「うん!!任せておいて!!」
保志「やったーー!」
2台目のGVDを買うことが決まり保志も喜んでいるようだ。
これでしばらくGVDで順子ちゃんと保志が喧嘩することはないだろう。
父の広武はそんな娘の順子ちゃんに溜息してしまうが
ご褒美があることで頑張れるところは自分に似ていて
それだけで原動力になるのならきっと仕事ができて社会に貢献できるような人になるはずだ。
物足りなさもあるそんな令和の運動会で順子ちゃんはどのような活躍をするのだろうか。
学校のお知らせプリントに記されている通り、9月下旬の21日から30日は練習期間で本番は10月1日となる。
そして9月21日の朝、最近のトレンドばかりが織りなす順子ちゃんの1年3組教室でも練習初日は運動会の話題ばかりであった。
学校内の広間で大きなビニールの大きな玉を電動ブロワーで膨らませていた。
あれは運動会の出し物で大玉転がしに使うものだとすぐに分かった。
運動会に向けて期待を膨らませる子もいれば不安を膨らませている子もいるだろう。
良樹「とうとう来ちまったか運動会」
勇「今回は出ないとダメかな?」
清水先生「そうです。運動会は全校生徒で行います。」
運動神経がない勇にとっては死刑宣告に等しく、清水先生の毅然とした発言はどこか冷徹さを秘めていた。
ドッチボール大会の時みたいに出場枠の都合による不参加または誰かが代わりに出てもらうことはできない。
病気やよほどのことがない限りは運動会は全員参加なのだ。
熱でも出して風邪でも引いて休みたいところだがそんなときに限って体調が良いのもあるあるなのである。
しかし清水先生の眼差しには運動会を通じて生徒たちが成長して欲しいという熱い願いが込められていた。
苗「上の学年とも競うことになるんですか?」
志音「そうそうそれが一番気になる!」
運動会が初めて1年生の不安材料は体格差や身体能力に差がある上の学年と競うことに対してである。
ドッチボール大会の件でそれを痛いほど経験しており上の学年との力関係に悩まされていた。
例外に順子ちゃんは活躍していたがやっぱりスポーツをしている男子には全然敵わなかった。
今回も最高学年の6年生が主役級の活躍をすると思われる。
それがより色濃くなりそうでそれが桂里奈の存在であり、彼女にとって学校生活を彩る最高の舞台となるはずだ。
桂里奈と仲良しの順子ちゃんと友ちゃんにとっては喜ばしいことではあるが
他の子たちにとっては彼女は雲の上のような存在である。
だがあの事件がきっかけで桂里奈は注目されるだろうし彼女が活躍する姿にきっとみんな胸を打たれるのかもしれない。
そして1年生たちはそんな桂里奈の姿を
または6年生たちの活躍に拍手喝采しながら置いてけぼりにならないように全力で取り組んでほしい。
競技の内容によって1年生が運動会に取り組むモチベーションに繋がってくるだろう。
清水先生「基本は学年対抗で行われます。」
清水先生「競技によってはチームプレーもありますが」
清水先生「1年生対抗障害物リレーの最後の6年生と手を繋いで走ったような感じでペアになってやるの」
同じ学年で競うのが基本であり上の学年と競技する場合もあるそうだがそれはチームプレーが主流となるようだ。
1学期初期で行われた1年生対抗障害物リレーはサプライズを意識していたため出し物については本番まで何も明かさなかったが
運動会は重要な学校行事であるため事前に練習がありそれが必須となっている。
まずはどんな種目があるのか事前に知って、それを実戦して本番では全力を出し切れるように望みたい。
今日の1時間目の体育の授業から練習が始まり、1年生全員グラウンドに集まった。
先生たちが来るまで運動会でどんな競技が出るのかみんなで予想していた。
しかし井村校長は予想外の企画やサプライズを提案することもあるので
もしかしたらこの水戸東小学校の運動会は一味ちがうのかもしれない。
友ちゃん「何が出ると思う?」
大気「玉入れとか綱引きとかは外せないだろう」
真木「でかい玉があったから大玉転がしは確定だな。」
良樹「リレーするなら順子がアンカーだな」
もう良樹は男としてのプライドを捨て順子ちゃんに頼ろうとしている。
それくらい順子ちゃんの実力を認めている証拠なのだ。
上の学年の実力は侮れないが清水先生が言っていたように同じ学年で競うのが基本だから
順子ちゃんがいるチームなら有利になりそうである。
個人プレーがあってもチームの総合点で決めるものであれば順子ちゃんがいくら頑張っても勝利に直結しないこともある。
ドッチボール大会でも個人が強くてもチームの団結力が重要なカギとなる。
どのような方針なのかで勝敗も左右されるはずだ。
佐武郎「順子!運動会は俺が勝つ!」
1年1組の佐武郎は順子ちゃんの前に立って宣戦布告した。
彼もドッチボール大会で活躍を見せ順子ちゃんの速球をキャッチして反撃するなど将来は良きライバルになりつつある。
今回の運動会でそれを証明させるのだろう。
きっと二人の戦いはこの運動会で面白い展開を見せてくれるに違いない。
チームについては事前に説明を受けておりクラスごとに1組チーム、2組チーム、3組チームの3チームに分かれ全員参加である。
つまり順子ちゃんと佐武郎の宿命の対決も全然あり得るのだ。
順子ちゃんはただじっと腕を組んで「かかってこい!」と言わんばかりの態度で佐武郎を見ているが
彼女は先のことを見据えているようだ。
佐武郎は持ち場へ戻っていった。
佐武郎が離れていったのを確認し友ちゃんは順子ちゃんの傍によって来る。
順子ちゃん「友ちゃん、桂里奈お姉ちゃんのために花を持たせてやらないとね」
友ちゃん「勝ち負けなんかよりいい思い出を作ることが大切じゃない?」
順子ちゃん「いいこと言うわね~」
佐武郎のように勝ち負けにこだわる男子たちとは対照的に
友ちゃんは勝ち負けにこだわらず最高の思い出を作ることが大事だと意見していてなんだが友ちゃんは大人びていた。
男子よりも女子のほうが3年ほど精神年齢が高いという話もあるが
友ちゃんは自分が成長するきっかけを生んだ貴重な体験をしてきているのだ。
それは順子ちゃんも然りである。
桂里奈も3組なので同じチームメンバーとして是非ともペアになって有終の美を飾りたい。
順子ちゃん「けどやるからには全力でやって勝ちたいんじゃない?」
友ちゃん「案外やる気だね順子ちゃん」
友ちゃん「もしかして優勝の景品目当て?」
順子ちゃん「その通り!!」
順子ちゃん「お父さんに頑張ったらご褒美約束したからね!」
やっぱり順子ちゃんはご褒美目当てであった。
昨日の夜、順子ちゃんは父に運動会で頑張ったら2台目のGVDを買ってもらうことを約束したのである。
順子ちゃんの瞳の奥で見据えたのはGVDで新しいゲームをプレイしている自分を思い描いていたのだ。
まさに等身大の少女そのものだ。
桂里奈に対する思いももちろんあるがみんなそれぞれの思いがあって譲れないものもあるのである。
運動会はみんなのためにあるものだ。
ドッチボール大会の景品は鉛筆であったが今回の運動会はどんな景品が出てくるのか気になるところ。
だから景品のために勝ち負けにはこだわりたい。
清水先生「は~いみんな並んで~」
先生が来たことで5時間目の授業の体育兼運動会の練習が始まる。
大野先生「初めての運動会でみんなワクワクしていると思いますが、くれぐれも怪我だけはしないように」
怪我はしないことはもちろん大事だがワクワクしているよりかは不安でドキドキだろう。
大野先生が運動会に対して子どもたちが楽しみに待っているではないのかと発言しているが
勇と真木は首を小刻みに横に振り、体を震え上がらせた。
大野先生「ルールがわからず、右も左もわからないままで本番を望んでしまうと」
大野先生「全力で取り組むことができないばかりか怪我をするリスクも高まります。」
大野先生「だから練習は必要なのです。」
練習の必要性を語りだしここからようやく、どんな種目が出るのか説明してくれた。
大野先生「最初の種目は50m徒競走です。」
50m徒競走は学年別で行われる定番種目である。
6つ白線のレーンに1チームから男子と女子一人ずつ計六人で一斉に走る。
そして着順に応じて得点が追加され1着を取れば6点、2着は5点と得点は順を追って1点ずつ少なくなる。
この50m徒競走は3チームの中でいかに得点が多かったのかを競うのが目的となっている。
50m徒競走はリレーのようにバトンを走者に繋いでゴールするものではなく
スタート地点からゴール地点まで一人で走る個人競技になっている。
1年生対抗障害物リレーは400mもあり障害物もあったためこちらのほうが楽なのかもしれない。
しかし障害物はないので足の速い子が有利になるのは間違いない。
50m徒競走の他に障害物競争や借り人と借り物の競争がある。
障害物競争は1年生対抗障害物リレーよりも規模が小さく400mから100mと距離が短くなったが
ギミックは焼き回しではなく、縄潜りと残りの約50mを麻袋をはいてジャンプする競技になっている。
借り人借り物の競争は指定されたお題の物や人物を探し出して一緒に走る競技になっている。
家族ないし観戦客も参加型の競技なので盛り上がりそうである。
水戸東小学校の借り人借り物の競争は200mでお題が2つあり
50m地点と100m地点にブルーシートがあり敷かれていてその上にお題が書かれている画用紙を拾って
指定された物や人物を探し出すことを目的とした競技となる。
物はハンカチ、タオル、ティッシュ、ボールペンなど普段みんなが持っているものに限定している。
この世に数個しかないレアアイテムような貴重なものは要求しないので安心である。
人物については「頑張り屋のお父さん」や「優しいお母さん」など特定の人物を指名するのではなく抽象的にしているが
「カッコいいお兄さん」や「綺麗なお姉さん」もあるので我こそはという人も参加してほしい。
他にも大玉転がし、玉入れ、台風の目、綱引きなど定番の競技もありこちらについては説明不要だ。
そして運動会の花形とも言えるクラス対抗リレーもあり午前中でも十分盛り上がるはずだ。
それだけでなく井村校長考案のエキシビションも用意されている。
このエキシビションも得点を獲得されるのでこちらも手を抜くことはできない。
本番までシークレットのようである。
練習もないということは体を動かすものではなく
ドッチボール大会のボーナスチャンスのような運試しや頭を使うものなのかもしれない。
これから50m徒競走の練習が始まる。
近江先生「みなさん本番みたいに全力で出して記録を塗り替える勢いで頑張ってください。」
先生たちが事前にクラスで走る順番を決めているようだが実際に走ってみないとわからない。
今までの体育の時間で純粋に足の速さを競うことはなかった。
練習の結果次第では走る順番が変更される可能性もあるということだ。
だから公平な判断や生徒たちの身体能力を明確にしたいので
近江先生が言っているように練習でも手を抜かず本番のように取り組んでほしいのである。
順子ちゃん「よし練習頑張るわよ!」
先生の指示で並ぶと順子ちゃんは最後の走者のようで男子では大気とペアである。
佐武郎「よし!順子と走れるぜ!」
順子ちゃん「フン!望むところよ!」
1年1組の最後の男子走者は佐武郎であった。
これは運命のいたずらかそれとも先生がそう仕向けたかはわからない。
1年生対抗障害物リレーのリベンジでも佐武郎にさせようということなのだろうか。
しかし佐武郎はクラスの中でも足の速さはトップクラスである。
売られた喧嘩は買って返り討ちにするのが順子ちゃんなのだ。
次々と50m徒競走を行い本番に向けて全力に走っていく。
そして順子ちゃんが走る番がやってきた。
佐武郎「勝負だ!順子!」
順子ちゃん「かかってきなさい!」
2台目のGVDのために順子ちゃんは運動会の練習に取り組むのであった。