イエイリ

第37話 薄氷の上の三人

※この小説にはプロモーションが含まれています。

アミュ真仙教のアジトにリーダーの赤城が帰還した。
赤城の隣にいる人物の顔を見てすぐに殺人犯である伊龍だとわかり、
震えながらも毅然に立ち振る舞う彼が警察の林であると赤城は見抜いた。
初対面となり林と赤城が互いに見つめ合い、それぞれの信念と正義がぶつかり合いそうになる。
出会う前まで滝川の連絡でこちら側に寝返ったと聞いていて、そう思っていたがどこか敵対する意思を林の表情や態度でそれを感じる。
結果を見ただけでは林は仲間になっているがどうやら赤城は想像していた筋道とはだいぶ異なっている。
赤城「あれ?滝川殿から聞いた話では彼は仲間になったはずでは?」
滝川「すみません、手短に伝えたかったので…」
赤城と滝川はお互い電話でやり取りしていたが携帯電話の扱いに慣れておらず
ノイズ音で聞き取りずらかったり途中で通話が切れてるなどの不便さがあったり
さらに長時間の通話は警察に電波を追跡されるリスクを考慮していたからだ。
滝川は詳細に長々と伝えず簡潔的に結果だけを述べていた。
実際のところと違う部分はあるがなぜ林がこのアジトにいるのかという理由は家入の姿を見れば想像に難くない。
林「あんたが…ここのリーダーだな」
赤城「そうだよ」
林「聞きたいことが山ほどある!」
伊龍「あ~お腹空いた~」
赤城「私もお腹が空いたので食堂でも行こうか」
林「あ!おい!待て!!」
交渉が始まると思いきや林の言葉は遮られてしまい赤城たちは食堂に向かおうとしている。
赤城の後ろにいる信者たちがまた一斉に行進する。
林たちは人波に紛れて流されないように脇にそれてやり過ごした。
伊龍がお腹が空いたと言い出してから赤城もお腹が空いているからと食堂に向かってしまったが
滝川が赤城は気まぐれ人だと言っていたのは本当なのかもしれない。
事前に話を聞いているだろうから組織の情報が漏れているかもしれないのにあの余裕は一体どこからきているのだろうか。
後を追いかけようとする林は赤城に着いて行くように歩く信者たちを無理やり搔い潜ろうとしている。
林「そこをどいてくれ!」
しかし林の行動は信者たちの列を乱す行為で林の行く手を阻むように信者たちは押さえつけた。
信者たち「何をするんだ!貴様!」
信者たち「アミュ様の前で無礼だぞ!!」
滝川「あらあら困りましたね。」
誰よりも規律を重んじている林が必死に赤城を追いかける姿は滑稽に見える。
警察の使命感なのか林は軽くあしらわれたくないのだろう。
ここで問題を起こして騒ぎになったら交渉どころではなくなってしまう。
かえって林だけでなく家入と川代にまで危険が及ぶ。
不都合な存在でも利用できるからこうして生かしているのにアジト内で問題ばかり起こせば
全てがマイナスになってしまうため信者や他の構成員が痺れを切らし処分されてしまう。
自分だけどうなってもいい精神で動くのは止めて欲しいところだ。
家入「どっどうしよう…川代さん…」
川代「もうほっとけ…」
止めに入っても無駄だと川代は思って放置する姿勢だ。
ほっとけと言うが千葉のアジトで相当暴れ散らかしていたので川代も人のこと言えないが案が川代と林は似た者同士かもしれない。
あの頼もしい林はどこにいったのやら今は使命感と責任感に追われた無神経な人になっている。
その配慮のなさが命取りになりそうだ。
信者の誰かと林が口論し激しく衝突している。
花「やめなさい秀人!」
黙っていられず暴走する林の愛人であるが花が止めに入る始末である。
林の動きを封じようと花は背後で抱いて引き止めようとしている。
林「花!!なんで止めるんだ!離してくれ!」
花「いい加減にして秀人!」
滝川「そうですよ。林さんいい加減にした方がいいですよ」
なんと滝川を止めに入った。
食堂に向かう赤城一行だが後ろで騒ぎ声が聞こえてちょっとだけ後ろを振り向く。
赤城「なんだが後ろが騒がしいね。」
茂田井「例の警察だろう」
茂田井は騒ぎの犯人が林だとわかっているようだ。
アジト内でいろんな考えや信念を持った者が集まっているが林のように組織全体を否定するものは扱いが難しくなる。
滝川「あなたを生かしてこのアジトにいることにそろそろ気づいた方がいいかもしれませんよ」
滝川「大人しくしないのであれば人質もろともあなたをここで排除します。」
林「くっ!」
滝川の言葉で我に返った林。
人質もろとも排除すると言葉を聞いて流石に危機感を覚えたようだ。
ここは周りは敵だらけで危険なアジトでありその上に人質というハンデを背負っている。
ようやく落ち着いた林と彼の背後からゆっくり離れる花は少し涙目になる。
目が潤んだ花の中には何もできないもどかしさと林たちをこんな目に遭わせたことに彼女は後悔している。
花は涙を流さないように強く目を閉じて髪を撫でながら顔を素手で拭いた。
花「そうよ…ここで私たちは仲良く暮らそう秀人…」
いつでも排除が可能なのにそれができないでいるのは花が林ことが好きで彼女の計らいがあってのことで
さらに滝川も有益な情報と戦力を得られることで最終的には花の意見に同意してこうして作戦に組み込んで作戦を立てているのだ。
また滝川は宣告組のため林が問題を起こし組織内で思うわぬトラブルに発展してしまえば
林を組織の仲間に入れたことへの責任を問われ不利益が生じ滝川の采配ミスとなってしまうため
それではリーダー赤城に面目が立たなくなる。
ずっと反発を続けているままだとリスクになりかねない。
家入と川代が捕まって人質の身になっていなければ思う存分暴れていいだろうが逆に人質がいるからこそ林は生かされているのだ。
作戦が失敗すればただちに林は排除されるが赤城の一存によって排除されることも考えられる。
自分の正義感が通用しない世界にいるのは理解しているが一刻を争う事態に林はじっとしていることができない。
花をコントロールして組織全体を掌握することをひそかに計画していたつもりだったが
千葉のアジトで残された人質たちを救えない罪悪感と銃の製造で犯罪に手を染める家入と川代に理性を保てなくなってしまった。
林が警察であると知っている以上よほどのことがない限り、彼に主導権を握らせることはまずないだろう。
組織の仲間になりすましどんな犠牲でも覚悟して情報を盗み出すスパイ作戦のような発想が果たして林の中にあっただろうか。
そしてそれを実行することができただろうか。
そのような任務を任せられたとしても林には荷が重すぎる。
心変わりしても不自然に思われるだけだ。
花は根っからの犯罪組織のメンバーではあるがどちらかといえば彼女がスパイ作戦を担っているように思われる。



花の携帯に1件のメールが届いた。送り主は竹原である。
このメールが届いているということは現在も千葉のアジトで竹原と猿江とその他のメンバーは監視しているということになる。
花(やっぱりダメだったみたいね…)
組織の内部資料を警察に届ける任務を与えられた長沼は失敗したみたいだ。
長沼の任務は失敗したものだと考え次の手を考えなければいけない。
まずは竹原のメールの内容を読むと午前10時に行われる計画
【幽界に彷徨うものよ!神域へと還らん!】のことで人質の顔を布で覆い隠し盛大に演出して派手に殺害するとの内容であった。
花(うん?どういうこと?)
なぜそのような許可を求めるようなことを竹原がわざわざメールで送ってくるのかその意図が花には読めなかった。
なぜなら計画の全てはその当事者に任せているからだ。
しかしこの計画には一応滝川も花も携わっていて花に至ってはその計画の中心にいて牛耳っていた。
計画全体に内容に大きな変更点はないが一部の変更点を伝えを許可を得たいのだろうか。
花(はあ~勝手にすればいいじゃないの)
計画の一部の変更することについて滝川にも共有した花。
花「なんか竹原なんだけど人質殺害の計画、人質の顔を隠して盛り上げながら殺すってメールで書いてあったわよ」
滝川「竹原さんが?しかしメールを使っているんですか?」
滝川「あれほどメールはダメだと言っているのに」
花「もー!いいじゃないの別に!なんでダメなのよ?」
滝川「履歴が残るからです。それを第三者に見られた情報が漏れてしまいます。」
履歴が第三者に見られしまうと情報漏洩になりかねないので滝川はメールを使用するなとよく注意喚起しているようだ。
だから赤城の連絡はメールではなく電話で徹底しているのだ。
また通話履歴も消しているようだ。
滝川にそう言われているのにも関わらず花たちはメールを使い続けているのだろうか。
花「私も竹原も物覚えが悪いからよ」
物覚えが悪いのが理由で花たちはメールを使い続けているそうで履歴も消さずに残しているみたいだ。
滝川「すぐに履歴を消してください」
花「はいはい、わかったわよ」
滝川の指示で花は携帯のメール履歴を全て消去した。
それくらい滝川は情報管理にうるさいようであるが
メールの履歴を残して計画の準備などの取り決めについてのやり取りを記録として残しておけば
計画の進行具合や自分の役割を再確認できるメリットがある。
情報漏洩のリスクだけを気にしてメールの使用の厳禁と履歴の消去まで徹底しなくてもよい気がする。
竹原に「好きなようにやっていい」、「そちらの判断に委ねる」といった文言を書いて変身した。
ちょっと時間を置いて信者たちの動きが落ち着いたところで赤城たちがいる食堂の中を除いた。
食堂の中も多くの信者が赤城たちの食事を見守るように立っていた。
まるで有名人がロケをやっていてファンや通りがかった人たちが立ち止まって群れができたようである。
食堂で赤城はハンバーグ定食で伊龍も同じくそれを食べている。
ハンバーグ定食は富本銭7枚(日本円700円)である。
しかし赤城は特別なので無料で食べられる。
伊龍も茂田井も赤城に奢ってもらうような形で無料で食べている。
茂田井が食べているのは二人とは別で生姜焼き定食であり富本銭8枚(日本円800円)である。
午前5時に赤城が帰還してから約30分が経過している。
この時間帯なら朝食と言ってもいいだろう。
ある信者がお湯を溜めたフットバスボウルを持ってきた。
信者「アミュ様、足湯はいかがですか?」
赤城「ありがとう、早速リラックスしちゃおうかな」
赤城は靴と靴下を脱ぎ信者が用意してくれた足湯に自分の両足を入れた。
家入「やっぱりあったみたいですね」
川代「ああ…例の足湯は本当なんだな…」
足湯には血行促進や疲労回復などの効果があり、信者たちは神として崇める赤城に日々の感謝と癒しを捧げているのだろう。
食堂のお品書きにあったアミュ様の足湯の実態を知った家入と川代。
まさか本当に赤城の足を入れた湯をそのまま出しているとは。
しかしそれをアミュ様の足湯として食堂に出して、あれが本当に万病に効くのか疑わしいレベルだ。
価格上100万円で設定されているが衛生的に体が受け付けず無料でも飲みたくない。



家入は恐る恐る赤城たちの方に近づいて声を掛けた。
家入「あの~お疲れ様です」
赤城「お~家入殿!お腹は空いていないかい?」
家入「いえ大丈夫です。まだお腹いっぱいです」
赤城は食事の誘いをしたがそれに対して家入は断った。
2、3時間くらい前に家入たちは食堂で食事していたのでまだお腹いっぱいである。
ちょっとした会話の一連を川代と林は見て、家入と赤城は以前から面識があったことを改めて知る。
家入がこのアミュ真仙教の傘下に落ちてしまったのもこれでわかる通りだ。
川代も二の足を踏みそうである。
赤城は川代の姿を認識している。
次は川代に視線を向け声を掛けた。
赤城「やあ、見ない顔だね。滝川殿から話を聞いていたけどこの人かな?」
滝川「はい、家入さんと彼には銃の製造を手伝ってもらうことにしました。」
川代「…川代だ。」
余計なことは喋らず川代は自分の名前を言うだけにした。
この段取りは滝川の既定路線だが生き延びるためには黙って従うことにした。
林の件は仕方ないにしろさらにここで反発すれば機嫌を損ねて引き金を引くかもしれない。
だが家入が人質に戻ったことはなかったことになりそうなのでホッと一安心である。
だけど林がここでそうはさせないと抗議するかもしれないが珍しく何もせずに静かにしていた。
二人とも学習したのか二度と同じ過ちを繰り返さないところが二人のいいところであり伊達に警察や消防をやっているわけではない。
もしかしたら赤城を目の前に恐れをなし立ち尽くしてしまっていることもあり得なくはない。
家入「食堂のごはんとてもおいしかったです!」
ちょっとでも和ますために家入は食堂の感想を言った。
赤城「家入殿もここの食堂を食べたんだね!!」
赤城「いろんな人が食堂当番をしているから当たりはずれはあるけど今回はおいしく食べられてよかったね」
家入「花さんも滝川さんもお料理されているんですね。」
赤城「そうだよ、滝川殿も土屋殿の料理はとても上手いんだよ」
滝川「ありがたき幸せでございます。」
花「アミュ様…リクエストいただければいつでもお好きな料理をお作りいたします。」
川代(なんかうまくいってるな…)
何気ないただの普通にここの食堂の話をしているだけというのに家入はうまく赤城と通じ合えている。
家入が新しい職場を見つけてその社員食堂で社長含めて社員と和気あいあいしてるかのように見える。
赤城「家入殿も料理できるのかな?」
家入「はい!私もよく自炊しているので」
赤城「へえ~家入殿の料理も食べたいな~」
滝川「よかったら家入さんもここの食堂で料理しませんか?」
家入「え?いいんですか?」
滝川「はい、富本銭も稼げますし余ったものは召し上がっても構いません」
料理の話をしていたら滝川から思わぬ提案を出してきた。
それは食堂当番である。
銃の製造と同じく富本銭つまりお金を稼ぐことができ余った食材の処分の仕方は自由とのことで食べることができる。
まさに一般的な飲食店の仕事や食堂スタッフのアルバイトやパートのそれである。
川代「俺もやる!料理できるしなんなら家さんよりもうまいの作れるぜ!」
銃の製造よりも100倍魅力的な提案なので川代も食いついてきた。
家入よりも料理が得意であると言い張る川代。
彼も自炊をしていてそれなりに自信がありそうだ。
消防で鍛え上げられた精神と肉体そして体力がある川代なら家入と食堂当番をやり切れるはずだ。
赤城「川代殿も料理できるのか期待しているよ」
こうして家入と川代は食堂当番をやることが決定した。
立場上の理由であるが赤城は誰とでも分け隔てなく気さくに話すことができる。
そんなところに赤城から妙な魅力を感じてしまう。
言及していなったからだが銃製造以外にも他にやれることがあるならそちらを先に紹介してほしかったところだ。
無難な交渉だが家入と川代を生かす道としては最適解なのかもしれない。
食堂当番だけなら家入と川代は犯罪に手を染めることはなかったと思われる。
しかしそれだけでは二人を生かすための交渉の材料には乏しく銃の製造がメインで食堂当番はおまけとして考えたほうがいいだろう。
ひとまず家入と川代の処遇について林にとっては望ましくない結果ではあったが
ある程度は解決しこれ以上の交渉はないはずだ。
だがこれで話は終わらない。
まだ林の処遇についてはまだで一定の条件を満たしておらず話も進んでいない。
赤城と林は再び視線を合わせた。
赤城「さて林殿をどうするかだね」
花は林の腕を両腕で掴みおしどり夫婦のように寄り添いながらこう述べる。
花「アミュ様、秀人は私のことを愛しております。」
花「秀人は私のために愛し、そしてアミュ様のため、組織のため彼は尽力することを誓います。」
花「アミュ様…どうかご加護を…」
赤城を神として扱いお祈りをしている花。
赤城「なるほど、林殿がここにいる理由が大体わかった気がするよ」
赤城は家入と川代、そして林と花を交互に見つめながらそう言った。
林「彼女がこっち側の人間だったことは知らず不意に捕まってしまって今ここにいる」
林「けど俺は今でも花を一人の女性として愛し続けたい」
林「この二人に何も危害を加えないならお前たちの計画に協力してやる」
林「もし約束を守らなければお前を死んでも道連れにする!」
川代(おい何言ってんだよ!林!!)
家入(あわわわわわわわ!)
言葉を選んで話しているつもりだろうが林の発言は強気すぎて赤城の機嫌を損ねてしまえば一巻の終わりだ。
崩れそうで不安定な橋の上を家入と川代は慎重に歩いているのに後ろから林が猛ダッシュしているかのようだ。
林は赤城の前で花を愛すると決意表明した上で家入と川代に危害を加えた場合はリーダーの赤城を打ち取ると堂々と言った。
赤城「ふふいいよ…」
林の発言に対し赤城は素直に受け入れ不敵な笑みを浮かべた。
その表情が不気味でどこかつかみどころがなく冷徹な思考が隠されているように見える。
茂田井「いい心意気だ。流石は警察だな」
赤城「ふふ茂田井殿はね、元軍人なんだ」
林「なに!?軍人だと!?なぜそんな人がここに?」
茂田井「驚いたか?元軍人の俺がこんなところにいるのは不相応だよな。」
茂田井「ここにはいろんなやつ信念を持って集まってきている。そして国や政府に恨みを持った奴もな」
茂田井「俺もその中の一人だ。」
茂田井「お前がまだ警察の意思を持っているなら、復讐者をどう説得するか見物だな。」
茂田井「薄っぺらな正義感や綺麗事は一切あいつらには通じないからな…」
この組織内で国や政府に恨みを持っているメンバーを挙げるとすれば山本だが軍人である茂田井も国に同じく何かしら恨みがありそうだ。
詳しい理由を聞かなかったが軍人がいるのは脅威であり
赤城の側近にいることからも相当頼りにされているということだ。
林が警察らしからぬ発言をして約束を守らなければ死んでも赤城を道連れにするといった直後に
寡黙そうな茂田井が喋り出したところを見るにやれるもんならやってみろという返しの返事としても捉えられる。
赤城「こちらも休憩しよう。続きは10時からにしよう」
話し合いは中断され次回は約5時間後の午前10時になった。


食堂で行われた交渉で林自身の主張を通すことができ結果として家入と川代そして林の存在を認めてもらうことができた。
しかし午前10時は東京タワーの林と安田の身代金50兆円の取引が行われるはずだったがそれはなしになったため
そのまま犯行計画の【幽界に彷徨うものよ!神域へと還らん!】が実行されることになる。
安田ないし警察側は身代金と自爆テロの計画が白紙に戻されたことを知らないだろう。
約束を守り安田は身代金を持って東京タワーを訪れるはずだ。
それを無視してアミュ真仙教は計画を実行するなんて下衆の極みだ。
林の存在はこの組織の毒でもあり薬にもなる。
家入と林の存在そして花がその副作用を抑える役割を担っている。
次回の交渉の予想では林をどのように扱っていくかが論点になるだろう。
交渉と同時に計画が進んでしまうためもうこれは避けられない運命なのだろうか。
休憩室で家入と川代と林の三人は布団で横になっていた。
タイムリミットは残り5時間を切っている。
その間に警察が救出に来てほしいがその望みはかなり薄い。
花の携帯のメールに滝原のメッセージが送られてきているのがそれを物語っている。
川代(何やってんだよ!!長沼!!)
長沼が作戦に成功していれば少なくとも千葉のアジトの住所の情報が警察の方に届いているはずである。
川代は何度も寝返りを打ちながら長沼の失態を恨んでいる。
なぜ長沼は作戦に失敗してしまったのだろうか。
道に迷って遭難してしまったのかそれとも組織のメンバーに見つかって長沼は捕まってしまったのか
そんなことばかりが頭をよぎる。
休憩室は三人しかいなかったが沈黙が続いたままだった。
林(家さんと川代だけでも絶対に守る!)
心の中で林は家入と川代を守ることを決意した。
それが林が導き出した答えで目の前の守るべきものだけを守り抜くと命の取捨選択を覚悟をした。
まだあきらめきれないが計画は予定通り進んでいて敷かれたレールは自動的に動き戻ることを許されない。
そして時間は午前10時になってしまった。
時間が無常に過ぎていく残酷さをこれまで以上に味わってしまった。
滝川に呼びかけられ家入たちはあるロビーに案内された。
そこには赤城と信者たちが大型のテレビの前に集まっていた。
赤城「そろそろ始まるよ!見たまえ!」
犯行計画【幽界に彷徨うものよ!神域へと還らん!】がついに始まってしまう。
電波ジャックを行い全てのテレビがこの映像が流れるようになり、もうその手筈は整っている。
これで視聴者にアミュ真仙教の恐ろしいさを知らしめるための絶好な機会となる。
映像には人質たちが顔を布で覆われていて宙づりのなった状態でさなぎのように体を縄で縛られて逃げることができない。
そして組織の計画の執行人たちが銃を持って黒い恰好をして顔がマスクで顔で表情が見えない。
川代「ちくしょーーーーー!」
川代は丸山たちの最後を見届けてしまうのだろうか。

続く

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