第34話 すれ違い
※この小説にはプロモーションが含まれています。
二人だけになって情報交換しやすい状況になったが花は林とやり取りするうちに
誰かに見られしまうのではないかと警戒していたため話すことはできなかった。
代わりに組織側に誘い込む話にすり替えたがやはり林には逆効果で結果的に彼を追い詰めてしまった。
銃の製造を通して家入と川代が犯罪に加担するといった事実を滝川に聞かれた時、林はさらに絶望する。
精神的にも追い詰めてしまった林に待ち受けるものとは
銃の製造場から家入と川代を呼び、再び全員でアジト内を見て回るのだが林の様子は穏やかではなかった。
林「考え直せ!家さん!川代!」
銃製造の違法性について少なくとも消防の職に就いている川代ならわかっているはずなのに受け入れてしまっている。
嫌な予感はしていたが銃製造の要求に対し絶対に二人は首を横に振って全力で拒否すると
林は家入と川代のことを信じていたがそれをあっさり裏切られてしまったのだ。
林「こんなことやってはいけないことくらいわかっているだろ!」
林「今からでも遅くない!やめるんだ!」
今からでも遅くないと林は家入と川代に考えを改めるように説得する。
川代「お前に言われたくねえよ!誰のせいでこうなったと思っているんだ!?」
林「川代…」
傷口に塩をまかれるほど林にとっては痛い言葉を川代に返された。
こんなことになってしまったのは林自身の責任であるため何も言い返せずたじろいでしまう。
公的な立場を利用して私的に友人である家入と川代を紹介した挙句、二人が危険に巻き込まれてしまっている。
家入が住んでいる道玄坂のアパートを紹介しなければ少なくとも家入だけはここにはいなかったはずだ。
住所が特定されているため家入のみならず道玄坂のアパートに住む住人まで被害が及ぶ可能性もある。
一人レコードを聴いて家入は明日の新聞配達に向けて穏やかに一夜を過ごしていたと思うし
川代だって何もなければ消防の仕事を終えてゆっくり休んでいただろう。
彼らを助けるための作戦でやむを得なかったが反社と関りを持ち
おまけに思いを寄せていた花が犯罪組織の一員だと知り
百年の恋も一時に冷めるそのような思いを受けたはずなのに
それでも彼女に寄り添い拘束された人質の前で堂々とプロポーズしていた。
人のこと言えないのは林で警察らしからぬ行為した者に言われるような筋合いはない。
川代の気持ちはきっと林のことを警察としての信用していないだろうと林自身そう感じている。
過ぎてしまったことは仕方ないがその過ちが何度も林の頭の中に反芻してしまうほど尾を引いて自分の体を強く締める付けている。
平然を装う家入と強がっている川代の二人の裏には林を信じる気持ちと恨みたい気持ちが混ざり合っている。
しかし川代はこれが全て林のせいではないことは承知だ。
八方塞がりのようなこんな状況の中でも何とかしようと奮闘していることはひしひしと伝わっている。
喧嘩が勃発しそうだが林と川代の両者は拳を握り締め睨み合っている。
いがみ合ってても何も進展しないしそれどころかすれ違いが生まれ増々悪い方向に進んでしまうばかりだ。
今にも喧嘩しそうな林と川代に誰も止めようとせず、家入はただ見ているだけで
花も下手に止めたら状況が悪化する恐れがあるため何もせず林の背後でじっと見つめてた。
意見の食い違いで何度も衝突する二人であり仕事柄事件性のある案件に何の因果か関わることがよくある二人であるが
今回は今までの比じゃないくらいスケールがでかく重たい。
滝川「林さん、川代さん無駄な争いは止めていただきたい。」
仲介に入ったのはまさかの滝川であった。
林「俺を引き離して別行動を取らせたのは二人に銃の製造を加担させるためが狙いだったのか!」
林の怒りは家入と川代のためであり、今後の人生を左右してしまう恐ろしいものであると訴えている。
その言葉が家入と川代の胸に響く。
林「俺は言ったはずだ!二人に何もさせるなと!」
家入と川代の身に危険が及ぶことを警戒してたがまたにしても林は自分の選択が間違っていたのではないかと
思い返しどんどん自ら自分を責めドツボにはまっていく。
滝川「私は何も彼らにしていませんよ。」
林「とぼけるな!」
滝川「お~怖い怖い。」
滝川「しかしこれは家入さんと川代さんが自ら決めたことなのです。」
林「なに…なぜだ!家さん!川代!」
川代「約束してくれたんだよ。生かしてくれるって。あと飯も食わしてくれるってな」
滝川「ふふそういうことです。」
滝川「正確には銃の製造の対価として富本銭を彼らに支払ってあげるのです。つまり労働ですよ」
命と保証と収入源の二つの理由で家入と川代は銃の製造を引き受けたそうでそれを聞いた花は納得している様子だ。
花「へえ~それならよかったじゃん。」
花「滝川もいい提案考えるじゃない!」
林「良い分けないじゃないか!」
花「え?なんで?」
なぜ林は反対するのかわからず花は首を傾げる。
滝川「まあそちらの言い分はわかりますよ。私もバカじゃないので」
滝川「国が勝手に決めた法律で禁止されているのですよ。」
花「法律?」
花は法律の勉強もまともに学校も行っていなかったため法律のことも銃製造の違法性について知らない。
林「なんだと!!」
人権や人々の平和と秩序を守るために作られた法律は国が勝手に作ったものだと言う滝川に林は怒りを覚える。
滝川「なぜこの国は銃を所持したり製造するのはいけないのですか?」
自分はバカではないと言った滝川がすっとぼけた表情で林に火に油を注ぐように追い打ちをかける。
林「人を傷つける凶器になるからに決まっているだろ!」
林「銃が犯行や殺人の目的として悪用されるのを防ぐためだからだ!」
滝川「悪用ですか…。では銃が禁止されているのに殺人事件がなくならないのですか?」
滝川「なぜ罪を犯す人が社会に生まれてしまうのですか?」
林「う…」
滝川「料理に使われている包丁だって使い方によっては人を殺めることはできますよね」
滝川「結局何も変わらないのではありませんか」
銃が禁止されている日本社会でもなぜ殺人事件はなくならないのかの問いに林は何も答えることができなかった。
例として挙げられた料理で使われている包丁だが銃が禁止されていてもそれと置き換わる凶器がいくらでもあるということである。
殺人含めなぜ事件が絶えないのかはひとまず置いていて
少なくともよほどのことがない限りは日本では銃で怯えることはまずないだろう。
銃の所持も製造も認められてしまえば犯罪者が犯行の目的で使われることになり
警察も使用せざるを得ない状況または必然に銃を使うようなことになってしまい治安がより悪くなってしまう。
滝川がそのようなことを言って自分たちが銃を使用することに正当性を主張しているだけである。
彼らが掲げる理想郷は銃の使用が認められた誰も望まない無法地帯だろう。
滝川「禁止しているとか言っているのにあなたがた警察は銃を所持していますよね。」
滝川「それとは何が違うのですか?」
林「これはただの護身用に過ぎない…」
林「法の下に従って特別な許可がない限り使用することはできない。そう容易く発砲していいものじゃない」
滝川のなぜ警察が銃の所持を認めているかの問いに対して
林は法律に従って特別な許可がない限り使用することができないと扱いの難しさについて述べた。
滝川「ふ~んそう言って法律を盾にして自分たちが有利な立場に立とうとしているなんてずる賢いですね~」
怒りを心で抑え林は腕を組んで滝川の視線を反らした。
滝川「どうしたんですか?反論できないのですか?」
そんな滝川の言うことを聞いてはいけないしこれ以上何を言っても意味がない。
林は再び家入と川代の方に振り向きもう一度家入と川代に銃の製造の協力を止めさせるように説得する。
林「家さん!川代!まだ間に合う銃なんて作っちゃいけない!」
川代「だけどよ…」
川代(どっちなんだよ林!)
心の中でどっちなんだと叫びたくなるほど林の言葉の真意を読み取ることができない。
家入も川代のそばで身震いしていて中々口が開けない。
林の言っているまだ間に合うとは助け来るまで持ちこたえろの意味なのか
犯罪に手を染めてはいけないの意味なのかわからない。
花が林と情報の共有に成功していれば意味は100%前者だができなかった場合前者を含んだ後者になる。
どっちにしても花の行動によって意味が変わってくる。
今からでも踏みとどまって滝川の提案を断って銃の製造に協力しないとはっきり明言したい。
真剣な眼差しと心に訴えかける林の口調はどうも本気であり
これが滝川を欺くための演技なら見事である。
林の言うことに従えば彼も落ち着きを取り戻すだろうがそうなると命の保証も生きるための富本銭(食糧)も破棄されてしまう。
芝居に付き合うなら怪しまれない様に滝川に従って生への執着を示した方がいいのかもしれない。
自分はどうなっても構わない自己犠牲的な発言は最悪なことがあっても家入と川代を守り抜くという強い信念なのだろうが
果たしてそのような最悪な状況になった場合家入と川代を守り抜くことができるのだろうか。
花との交渉は成立したのだと思って林の怒りは演技であると信じ
話の流れをつかんで滝川の意向に従うことにした。
川代「林、もうあきらめろ。お前が敵う相手じゃない。」
林「なんでだよ!川代!!家さん!!お前らのしていることは立派な犯罪なんだぞ!!」
林は川代の胸ぐらを掴んだ。
服のしわが林の腕に集約するように向かっていく。
川代(おいおい結構本気で掴んでくるな)
川代もあるドラマや映画の主演俳優になりきって林の腕を強く握る腕を振り払おうとした。
川代「離せ!!林!!」
なんだか本当に喧嘩が始まってしまいそうである。
家入「林さん!!川代さん!!喧嘩はやめてください!!」
家入も加わって二人の喧嘩を止めようとするがわざとらしくなりそうなので
距離を保ちながら慌てているような口調でただやめてくださいと言うだけにとどめた。
滝川「ふっ醜い争いだ。」
滝川は二人の喧嘩を嘲笑うかのように眼鏡をクイっとあげてニヤリと笑っている。
収拾がつかなくなるところに花が介入し喧嘩を止めようと林の背中を抱きながら引き離す。
花「ダメよ!秀人!あなたの大事な友達でしょ!!」
林「ああそうさ!!俺の大事な友達だからな!!」
家入(林さん…)
川代(くそ…いいこと言うじゃねえか!)
大事な友達と言われて胸を締め付け涙もろくなる家入と川代。
花もとても悲しい表情をしていて彼女もまた滝川を騙すために演技として
ある舞台のヒロインを演じているのだろう。
完璧な演技の裏で二人を絶対に守り抜くという強い意志を感じた。
自分たちの選択は間違っていたのだと悔い改めすぐさま林に寄り添いたい気持ちだが敢えて破滅の道を突き進むことを選択する。
川代「俺らをそう思ってくれるのは嬉しいよ。林、俺もお前は大事な友達だ。」
川代「けどよこれは俺たちが生きるために決めたことなんだ!」
滝川「言ったでしょ、二人が決めたことであると」
花「懸命な判断よ二人とも、あなたたちを生かすための交渉の材料となるわ」
滝川「友達を大切に思うなら彼らの選択を尊重するべきです。」
林「くそ!!」
林は悔しくなりながら川代と距離を置いた。
だが林は諦めの色は見せておらず納得していない様子だ。
なんとなく花も林の発言で銃の製造はいけないことであることはわかったが
それでも家入と川代が生きるための手段そして赤城との交渉で受け入れやすくなる。
林を裏切ってしまうが家入と川代は正しい選択であると花は意見する。
しかしその言葉より花が暗い顔をして首を横に振ってまるであきらめているかのような表情だった。
その表情から林と十分にやり取りができなかったと示唆するものであった。
もしそうだった場合は林の怒りと銃の製造をやめさせようとする声は演技ではなく本気の林自身の訴えだったかもしれない。
あの怒りは家入は川代そして滝川に対して向けたものだけじゃなく林のことだから
家入と川代をこのような危険な状況に巻き込ませてしまったと自分自身を強く責めているに違いない。
情報共有できなかったのもそれができるタイミングがなかったのか
そのやり取りをする前に滝川に遮れてしまったのが理由として挙げられる。
滝川が銃の製造場から出て一旦家入と川代の二人の時間を与えたのは林と花の様子を見に行ってたのだろう。
滝川の落ち着き具合を見るに例の作戦は悟られていないようなのでひとまず安心だ。
このまま滝川のペースにのまれて絶好のタイミングが来た時後ろから足を引っ掛けてやりたいところだ。
しかしいいことばかりだけでなく林との間に大きな溝ができすれ違いが生じてしまい関係は悪化してしまっただろう。
いつか助けが来てこれは全て演技であり作戦だったのだと林に伝えみんなで笑い会える日が来るまで待ち続けるしかない。
家入「滝川さん次の場所案内してください…」
滝川「わかりました。」
家入は終わらない口論を一旦終わらせるため滝川に他の場所を案内するように促した。
滝川が次に案内した場所は監視部屋である。
中はモニターがいくつか設置していて今まで見てきた場所などが映し出されていた。
また監視部屋には山本がいた。
花「なんでこんなところに山本がいるのよ!」
山本「見ればわかるだろう、不審な動きがないか監視しているのさ。」
監視部屋で山本は何か不審な動きがないか監視していたようでおそらく林たちの行動を中心に見ていたはずだ。
花「ねえ!一体どこから見てたのよ!!」
山本「ふっいいもの見せてもらったよ。」
食堂を出てから山本と離れたので彼はすぐに監視部屋に入ったと思われ銃の製造を紹介するところから始まって
林と花の別行動しているところや銃の製造に加担する家入と川代を巡ってのやり取りまで見ていたはずだ。
家入「え?カメラなんてあったの?」
いろいろ見渡したがカメラらしきものは見当たらなかったので家入は疑問に思っていた。
川代「多分火災探知機についてたんじゃねえのか?」
家入「火災探知機?」
川代「火災が起きて煙から感知してそこから大きな音を立てて知らせるのさ」
軽く火災探知機について家入に説明する川代であり消防隊員としてそれなりの知識がある。
そしてその火災探知機にカメラが仕組まれていると考えている。
林「なるほど、火災探知機の警報音を利用して侵入者を知らせるんだな…」
さらに林は侵入者が来た時に監視部屋で手動で警報を発して知らせるものだと警察としての知識を交えて付け加えた。
山本「わかっているじゃないか元警察さん…」
川代「元警察だと!!」
山本は林が警察の職を失ったとみなすように「元警察さん」と発言をした。
山本「お前らが喧嘩しているところはとても滑稽だった。」
山本「だが滝川の提案に素直に聞くなんてな、まあお前らにとっては苦渋の選択だが生きる道はそれしかねえよね」
家入「どうして知っているの?」
川代「なんで映像だけで細かいとこまでわかるんだよ?」
林「音声付きのカメラなのか?」
映像だけでも喧嘩している様子は動きでだいたいのことは視認することはできるが
音声付きのカメラでもやり取りの詳細まで聞くことができたのか疑問である。
山本「お前らの服にあらかじめ盗聴器を忍ばせておいたのさ」
川代「何!?いつの間に!!」
盗聴器が仕込まれていることを明かされ着ている服のどこに隠していたのか探した。
川代「くそ!こんなもの仕込みやがって!」
家入「でもどうやって?」
林「多分もうはじめからこの服に盗聴器がつけられていたんだ…」
心当たりがあれば林の言ったことが間違いない。
更衣室で白い布地の服に着た時からすで盗聴器が仕組まれていたのだ。
しかも林たちがその服を着るのであろうと想定していたかのように。
つまり今までの話が盗聴器を通して山本の耳に届いていた。
川代(おいこれやばいんじゃねえのか?)
家入(花さん、本当に何も言ってないよね?)
家入と川代の二人は顔を合わせて自分たちの作戦がバレていないか懸念していた。
花(あ〜どこまで気持ち悪い連中なのよ!)
山本「滝川、こいつらの話ではどうやら土屋氷魚の遺体は警察の手元にあるらしい」
山本「あとやつの遺体に富本銭が入っていたようだ。」
滝川「へえ〜そうですか〜」
家入「あ!!」
川代(しまった!!)
花(何やってんのよ!家さん!川代!!)
林「くそ!!別行動を取らせたのはそういうことだったのか!!」
滝川「はは、たまたまですよ」
隙きがない監視体制に舌を巻く林。
林「いったいどこまで話していたんだ!?家さん!川代!!」
盗聴器が仕込まれていたことで当然家入と川代の会話は筒抜けである。
滝川「まだ隠し事ありましたら教えてください。家入さん…」
家入「えっと…」
全身は震え背筋が凍りつく家入と川代と林、そして花も。
作戦は全てお見通しか、情報の開示を求められた家入たちはこれをどう乗り切るのか。
続く