駄菓子屋じいちゃんエビス

第9話 エビスじいちゃんと翔吉たちの苦悩

※この小説にはプロモーションが含まれています。

翔吉が午後エビスじいちゃんの駄菓子屋エビスに友達を連れてお菓子を買う予定であり
エビスじいちゃんはその準備をしていたがそろそろ翔吉たちが来店する頃合いで重大な問題に気づく。
売ろうとしているお菓子がなんとグミしかないのだ。
焦り始める中でも打開策を模索しようとするが足しになるお菓子は見つからず
この現状を受け入れることに決めたエビスじいちゃん。
この前と同様に例の三人だけが来ることを願っていたが
いざ出迎えるとまさかの翔吉たちを含め十人の子供のお客さんが来てしまった。
エビスじいちゃんはこのグミオンリーの駄菓子屋の状態をどう乗り切るのだろうか。
そして翔吉の所持金は1000円しかない。
慎吾と和河也の分を抜きにしても朝日と隼人たち七人分のお菓子を買ってあげることはできるのだろうか。


こんにちわとあいさつをしてから始まったがその後静かになりそわそわしだす。
店内を見渡す隼人たち1年生と2年生の朝日とそれを見守る慎吾と和河也は背負っているランドセルを少し持ち上げながら両腕を後ろに回していた。
翔吉は懐にある1000円札を気にしているが
エビスじいちゃんは子どもたちの様子をうかがいながらこのグミしかないお菓子をどう売るか考えている。
会話が途切れてしまったので先にエビスじいちゃんが翔吉に声をかける。
名前と顔は翔吉なら覚えている。
エビスじいちゃん「翔吉!結構たくさんの友達を連れてきてわしは嬉しいぞ!」
嬉しいぞと言ったが言葉の中には複雑さをも含まれていて事情もあってか純粋なものではなかった。
慎吾「え〜とこいつら俺たちの学校の下の子の1年生と2年生なんです。」
慎吾「自己紹介するとこの人がエビスじいちゃんだぞ。」
朝日はぎこちなくエビスじいちゃんにお辞儀して自己紹介する。
朝日「僕、吉村朝日です。」
そして朝日につられて1年生たちも自ら自己紹介する。
なんだか校外学習するような厳かな雰囲気になってきた。
1年生が一人一人フルネームを言ってくるが名前が覚え切れず頭が混乱してくる。
エビスじいちゃん「あ〜ちょっとたんま〜」
エビスじいちゃん「え〜と紙〜紙」
紙に子どもたちの名前を書いて記憶しようと思ったが手元に書くものも紙もない。
家に戻ろうとしたが慌てるエビスじいちゃんを和河也は見兼ねランドセルの中から自由帳を出して白いページを1枚破いて鉛筆を渡した。
和河也「はいこれ」
エビスじいちゃん「ありがとう」
和河也が出した紙に名前を書くようにしてもらった。
1年生たちはひらがなで2年生の朝日から翔吉たち三人の漢字フルネームで書いて。
男の子が書く字はちょっと荒っぽくてカクカクした字だが読める字である。
1年生六人の名前を漢字に置き換えて読むと
浜田隼人(はまだはやと)、沢村秀木(さわむらひでき)、押高聖太(おしたかせいた)、
真壁友也(まかべともや)、椎名茂(しいなしげる)、月島和(つきしまかず)である。
翔吉たち三人は省略。(エビスじいちゃん2話で確認)
名前は確認できたが顔は一致していない。
しかし顧客名簿に名前が増えてエビスじいちゃんはにっこり笑顔である。
翔吉たちの助けではあるが理貴にも自慢できる。
和河也の自由帳にはアニメのキャラクターの絵が描かれている。
朝日「わあ〜絵上手いね」
和河也「えへへそれほどでもあるけど〜」
隼人「え?見せて見せて!すげえうめえ!」
1年生たちは和河也の描いている自由帳をペラペラ捲っている。
お菓子を無視されるのは少し寂しいがこのグミしかないこの状況にとっては味方してくれていると感じた。
有り難く思い話の輪を広げようとエビスじいちゃんも会話に入っていく。
エビスじいちゃん「どれどれふむふむうまいのう〜」
和河也の自由帳の絵を見て確かにうまいが最近のアニメのキャラクターを描いていてわからない。
子どもたちよりも年齢が一回り二回りいや十回りも年齢に差がジェネレーションギャップという壁が生まれてしまう。
ただ絵が上手いというだけで関心はなく自由帳のページを捲るだけだったが
エビスじいちゃんもわかるキャラクターの絵が見つかってようやく心から関心して深く頷いた。
エビスじいちゃん「ほほう~これはよく描けてるな~」
この前最初に来てくれた客が眼鏡をかけていたこともありその子だと気づいたエビスじいちゃんは。
エビスじいちゃん(そうじゃそうじゃこの子じゃ。最初に来てくれた子は)
エビスじいちゃん(面白いものを描くのう~)
エビスじいちゃんはこの前のことを話し出す。
エビスじいちゃん「お前さんとは桃太郎の話をしたのう」
和河也「桃太郎?浦島太郎じゃなかったっけ?」
エビスじいちゃん「浦島太郎?はて?」
和河也「そうだ!僕が浦島太郎の夢見ていた時にショウとシンに起こされたんだっけ!」
慎吾「あ~それで俺たちを追いかけてはぐれた時に俺たちを探す過程でこの駄菓子屋を見つけたのか」
和河也「その話をしてエビスじいちゃんがここは竜宮城じゃ!って言ってたんだよ」
エビスじいちゃん「そうかわしそんなこと言ってたか」
子供たちの方がよく覚えていたようである。
話の内容を部分的に忘れてしまっているが子どものお客さんが来てくれたことは強い印象として記憶の中に残っている。


隼人「ねえねえお菓子は?」
エビスじいちゃん「え~とお菓子はのう」
ついにお菓子に目を向けた子どもたち。
このグミオンリーで種類も少ない陳列に子どもたちはどう反応するのだろうか。
聖太「グニャボヨだ!」
友也「スパークスライムもあるぞ!」
グミが売っていることに子どもたちは喜んでいる。
エビスじいちゃん(よしよしグミ買って正解じゃ!)
その喜んでいる子どもたちの反応を見てグミの買い入れた選択は間違っていないと自分の見立てまでも完璧と思った。
隼人「あれ~グミしか売ってない」
朝日「チョコは?スナックは?」
エビスじいちゃん(ゲゲゲゲゲゲ!)
翔吉たちもグミしか売っていない陳列に目が丸くなる。
翔吉「え?グミしかねえじゃん!!」
慎吾「この前はせんべいしか売ってなかったんじゃんか」
友也「なにこれ~」
エビスじいちゃん「うぐぐ!」
子どもたちのグミしか売っていない陳列に予想通り指摘されてエビスじいちゃんは焦る。
もうすでにわかっていたがこの現状をどう覆すのか
今こそ「オリーブ」で店長を務めた経験と知識が試される時だ。
エビスじいちゃん「子どもらはグミ好きじゃろ?翔吉君が言ってたぞい」
翔吉「まあ言ってたけどな」
和河也「そこは覚えているんだ」
慎吾「子どもが全員グミって好きってわけじゃないですよ」
エビスじいちゃん「うぬぬぬ…」
エビスじいちゃん「でも今回はグミ特集じゃ!」
決して子どもだからと言ってイコール全員グミが好きとは限らない。
人それぞれ好みがあるのは当然。
しかしエビスじいちゃんは引かずにグミしか売っていないことを開き直りグミ特集と言った。
これしか売っていないことを正直に言うのも商売なのかもしれない。
この駄菓子屋をグミ専門にでもするつもりなのだろうか。
多分違うはずだ。
朝日「でもなんでグミしか売っていないの?」
理由を言ってしまえば翔吉がグミはないかと言っていたこととグミしか仕入れていなかっただけである。
百歩譲ってここにいる子どもたちがグミが好きだったとしてもなぜグミしか売らないのか疑問は晴れない。
これで子どもたちが納得するとは思えない。
この疑問にエビスじいちゃんはどう切り返してくのだろうか。
エビスじいちゃんは顎に手を当てて髭の感触を確かめる。
これはかつての店長の風格を保つための仕草である。
エビスじいちゃん「ふむふむグミしかないのは申し訳ないが」
エビスじいちゃん「グミの他に食べたいお菓子はあるかのう~」
ここは正直に謝罪し冷静に子どもたちのお菓子のニーズを探ろうとしていた。
エビスじいちゃん「やっぱりチョコとかポテトチップスかい?」
慎吾「まあ単純に考えたらそうでしょう。」
和河也は慎吾の耳元で小言で語り掛ける。
和河也「ねえ?でもこの短い間でお菓子がいっぱい売られていると思う?」
慎吾「あ~そうだなタイミング悪かったかもな」
慎吾と和河也は品揃えが少ないこの駄菓子屋の現状に仕方ないと周りに気づかれないように小さく会話をしていた。
一昨日から今日までの際限なしに3日間あったとしても品揃えを充実するのは難しい。
翔吉たちのリクエストをまずはクリアするため先にグミを仕入れていた矢先のことだったのかもしれない。
昨日翔吉と約束をしていたが多分慎吾と和河也のこの前と同じ三人が来ることを想定したのだろう。
こんな準備中の段階で他の学年にこの駄菓子屋を紹介するのはタイミングが悪かったとしか言いようがない。
エビスじいちゃん「いや~わしの駄菓子屋は売れ過ぎての~お菓子がすぐに品不足になってしまうんじゃ」
エビスじいちゃん「ほれだから今グミしか売っておらんのじゃ」
翔吉たち(うん?)
エビスじいちゃんの言い方に聞き覚えがあり翔吉たちはデジャヴが起こる。
デジャヴとはまるで過去に体験したかのような既視感が起きる現象である。
これは気のせいではなくこの前最初に来たときせんべいやスナック菓子しかなくそれもどこのメーカーかわからないものばかりで
品揃えが少ない状況に対しエビスじいちゃんが苦し紛れに言った発言に類似しているのだ。
和河也「えっとエビスじいちゃん」
和河也はこの前と同じくツッコミを入れようとした瞬間慎吾が止めて翔吉と和河也の首に腕を回し円陣を組む。
また慎吾は和河也と翔吉に小言で話し出す。
慎吾「おい、エビスじいちゃんは今やべえ状況だ。」
和河也「なるほどエールを送れってことか」
翔吉「手助けしろってことか?」
慎吾「そういうことだ!話が早いぜ!」
翔吉たちはエビスじいちゃんの駄菓子屋を支える立場にある。
本当のことを言ってそれを知って隼人たち下級生を幻滅させ悪い印象を与えてしまうことは
駄菓子屋を支援するという意思とは背く行為となってしまう。
まずは駄菓子屋エビスを前進させていくために大々的な宣伝と来客してくれた子どもたちにポジティブな印象を与えることが必要不可欠だ。
そういうことで翔吉たちはエビスじいちゃん持ち上げ作戦を決行する。
翔吉「すげえんだぜこの店!」
慎吾「かなり繁盛しているみたいなんだぜ!」
和河也「本当はここ教えたくなかったんだよ!」
協力的な翔吉たちに驚くが嬉しくなり笑顔になる。
そしてエビスじいちゃんは調子に乗り始める。
エビスじいちゃん「前はチョコとポテトチップスとか全部あったんじゃがすぐに売り切れてしまったんじゃ」
エビスじいちゃん「本当にわしの駄菓子屋は人気なんじょ」
朝日「こんなところに店があったのは知らなかったけど人気なんですね」
エビスじいちゃん(ゲゲ!)
和河也(朝日鋭すぎ!)
売り切れになるほどこの駄菓子屋が人気なのか立地条件も加味して朝日はその言葉の真偽を問われる発言をする。
この鋭い朝日の本質をつくような呟きに背筋が寒くなる。
単なる子ども騙しでは子どもには通じないという風潮が垣間見る瞬間だった。
大人しくていい子な朝日は性格が故に真に受けてくれたが申し訳ないと思った。
だが朝日という子は将来いい大人になると勝手ながらエビスじいちゃんは思っていた。
エビスじいちゃん「わかってるのう〜お前さんはまた新しい発見をしたな!」
和河也「ねね!実はエビスじいちゃんわね!オリーブで店長してた大商人なんだよ!」
和「オリーブってあの大きなお店の?」
隼人「え?あおぞらの?」
エビスじいちゃん「ショッピングプラザAOZORAのオリーブじゃよ」
エビスじいちゃん「わしがそこで店長してたの翔吉に教えてもらったんか、なるほど」
慎吾「はい翔吉から聞きました。」
休み時間などでエビスじいちゃんが「オリーブ」で店長していたことを話題に一部やネタにするなりして翔吉が教えてくれたのだろう。
店長を務めていたという立派な経緯があれば噓ではあるがこの駄菓子屋は売れているという理由に納得することができ現実味も帯びてくるはずだ。
朝日「でもなんでこんなところでお菓子を売っているんですか?」
朝日「大きなお店で働いていたのにどうして?」
大商人と呼ばれるほど大きな地位にいた人がそれを手放して小さな駄菓子屋で商売を始めたのか朝日は疑問に思っている。
慎吾「事情を楓から聞いています。」
エビスじいちゃん「楓ちゃん?」
楓という名前を放った慎吾にエビスじいちゃんは楓という名前を思い出そうとした。
翔吉たちが同じ日に来店した後に来た二人組の女の子のことを思い出す。
楓という女の子が翔吉たちにエビスじいちゃんが駄菓子屋を始めた経緯を話してくれたのだろう。
それを知ったから翔吉たちは協力的になりこうして他の子どもたちを連れてきたのだと身の引き締まる思いをしながら理解した。
エビスじいちゃん「線香をあげてくれぬか?」
事情を知ってそうだから何も説明せず翔吉たちとその他の七人の子どもたちを駄菓子屋の2階に案内した。
2階に上がり奥に向かうとお仏壇があった。
和河也「恵美須さんですね…」
エビスじいちゃん「うむ…わしの妻じゃ」
なんとなくだが朝日も隼人たち1年生たちも状況を理解した。
子どもたちは一人一人線香を立てた。
閑散としていたこの駄菓子屋は動き出した。
悲しい過去を現すこの空間に明るい未来のある子どもたちが集まって来てくれたのだ。
仏壇に置いてある恵美須の写真の表情がより笑顔に見えた。
気のせいであったがエビスじいちゃんの目が潤んだ。
エビスじいちゃん「恵美須…」
隼人が以外にも大人びていて恵美須の仏壇の前に静かに頭を下げて合掌していた。
さらに隼人は友達に線香の立てた方や所作を教えていた。
翔吉たちはいつもやんちゃな隼人の意外な一面を見て驚いていた。
3年生である慎吾が教えようとしたが1年生の隼人のほうが詳しかった。
エビスじいちゃん「おぬし小さいのに詳しいのう」
隼人「去年俺のおじいちゃんは死んじゃったんだ。」
隼人「お菓子いっぱい買ってくれたしお小遣いもくれたんだ…」
エビスじいちゃん「そうか…」
隼人にも辛い過去があったようでその過程で線香を立てるなどお仏壇の前での所作を覚えたようだ。
優しくしてくれた隼人のおじいさんは去年この世から去った話を聞いて
エビスじいちゃんはそのおじいさんの代わりになって隼人を可愛がりたいと思うようになった。
もちろん他の子どもたちも同じく愛情を注いでいくつもりだ。


さて今回エビスじいちゃんの駄菓子屋に訪れた目的はお菓子を買うことである。
翔吉たちにお菓子を奢ってもらうことを思い出し大人っぽかった隼人はまたやんちゃ坊主に戻ってしまう。
隼人「翔吉~お菓子奢って!」
エビスじいちゃん「下の子どもたちにお菓子を奢るとは翔吉は偉いのう~」
翔吉「まっそれほどでもあるけどな~」
翔吉の懐には1000円札一枚しかないためこれだけで子どもたちの分のお菓子を買えるのだろうか。
1階に下りる翔吉だがお金の計算をしている。
自分と慎吾と和河也の抜きにして七人分のお菓子を買うには平均で140円が限度だ。
エビスじいちゃんはグミ菓子をいったいどのような値段で売るのだろうか。
売っているグミ菓子を見ると「ジューシーグミ」、「スパークスライム」、「グニャボヨ」の3種類しかない。
値札がついていないため値段がいくらかわからない。
隼人「ねえこれいくらなの?」
エビスじいちゃん「あ?忘れてた!」
まだいくらで売るかも決めていなかった。
値段はエビスじいちゃんの裁量で決まるが一般的に店で売っている値段では
「ジューシーグミ」は150円で「スパークスライム」は160円から180円で「グニャボヨ」に180円から200円ぐらいしている。
翔吉(あ…詰んだ)
翔吉はこれらのグミを他の店で見て相場を把握しているため1000円で七人分のお菓子が買えないとわかってしまった。
この中でも安い「ジューシーグミ」でも七人分で購入した際合計で1050円になってしまう。
慎吾も気づく。
慎吾「七人全員買えなくね?」
翔吉「こうなれゃあ…」
翔吉は朝日の肩にポンっと手を置く。
翔吉「朝日、お前のお菓子の分はまた今度な…」
朝日「え?」
朝日は翔吉にお菓子だと困惑する。
朝日のお菓子の分を見送れば1000円以内に済む。
しかしそれは六人全員が「ジューシーグミ」を選べばの話だ。
そううまくいかず隼人たちは「スパークスライム」や「グニャボヨ」ばかり手に取ってしまう。
翔吉「なんでお前ら高いのばっか選んでんだよ!」
隼人「え?翔吉奢ってくれるって言ったじゃん!」
翔吉「そうだけどお前らはこっちにしろよ!」
翔吉は「ジューシーグミ」を手に取ってこちらを買うように強要する。
「グニャボヨ」を手に取って見せて聖太「これがいい!」
翔吉「ダメだ!和「なんでだよ!!」慎吾「我慢しろよ!」茂「やだやだ!」
翔吉たち3年生と隼人たち1年生のお菓子をめぐる喧嘩が始まってしまった。
だがすぐにエビスじいちゃんが止めに入った。
エビスじいちゃん「喧嘩するでない!どうしたんじゃ何かあったのか?」
隼人「だって翔吉がお菓子買ってくれるって言ったけど好きなの選ばせてくれないんだ!」
翔吉「今俺1000円しかねえんだよ!」
和河也「だから「スパークスライム」と「グニャボヨ」は買えないんだ」
1年生たち「え!!」
慎吾「やっぱりそっち買いたいんだったら誰か我慢するしかねえぞ。それでいいのか?」
慎吾「すでに朝日の分は買えなくなっちまったけど。お前は2年生だし悪いけど我慢してくれないか?」
朝日「うん。わかったよ」
自分の分の買えないことがわかったので朝日は1年生にお菓子を譲ることにした。
エビスじいちゃん(そういことじゃったかいろいろ考えてくれてたんじゃな)
資金に限りがある中で欲しいお菓子は買えないがそれでも子どもたち全員にお菓子を奢ってあげようとする上の学年である3年生の翔吉たちに感激する。
慎吾「最低ラインは150円までだ。値札にはないけどお前らが欲しい菓子はそれより高いんだよ!」
隼人「だったら俺達の分はいいよ」
茂「勝手に着いてきただけだからね。」
エビスじいちゃん「なんと…」
どうやら申し訳なく思ったのか1年生達はお菓子は見送るそうである。
本を正せば隼人たち1年生がこの場にいなければ四人でお菓子を購入できていた。
翔吉「おっお前ら」
慎吾「でも逆にそれ困るな…」
断念して上の学年にお菓子を譲らせる1年生の姿勢には上の学年の立場にある翔吉たちとしては気まずく思う。
朝日「だったらみんなで分けない?」
和河也「それグットアイデアだよ!」
和河也は親指を立てて朝日の意見に賛成する。
そして翔吉と慎吾も賛成する。
みんなで分けてお菓子を食べれば不公平感はなくなる。
翔吉「そうしようぜ!1000円分でどれか好きなグミを買おうぜ!」
隼人「いいのか?翔吉兄ちゃん!」
翔吉「おうよ!」
翔吉を呼びつけしていた隼人だが3年生としての上の学年に対する敬意を持つようになったのか兄ちゃん付して呼ぶようになった。
エビスじいちゃん「お前さんら本当にいい子じゃのう〜」
少子化の影響で例外なく桜林小学校の生徒は減り続けてはいるが子どもたちの絆の糸は切れずむしろもっと太く結ばれている。
違う学年間での衝突や意見の食い違いはあるけどお互いをわかり会えたその先には世代を超えた思いやりという大きな繋がりが生まれる。
少ない資金ながら駄菓子屋を支援していこうという翔吉たちの姿勢に胸を打たれたエビスじいちゃん。
エビスじいちゃん「よし!お前さんら全員お菓子1つずつ好きなお菓子を選んで良いぞ!」
エビスじいちゃん「それで合計1000円じゃ!」
翔吉「いいんすか!?」
エビスじいちゃん「わしが決めたからいいんじゃ!」
隼人「やったーー!ありがとうエビスじいちゃん」
秀木「ありがとうエビスじいちゃん!」
エビスじいちゃん「翔吉たちもいいぞどれか好きなもの買っていいぞ」
十人分のお菓子「スパークスライム」と「グニャボヨ」これ全部合わせて1000円で購入ということになった。
1年生達もエビスじいちゃんと呼ばれるようになった。
エビスじいちゃんはやりきった感がでたようだ。
そしてかつての「オリーブ」の店長として威厳も保てたと自負している。
エビスじいちゃんはそう呼ばれるのを待っていたようで腕を組み深く頷いた。
しかしエビスじいちゃんの気前のいい対応に翔吉たちは複雑さと気まずささらに申し訳なさがでてくる。
おそらくこのお菓子を仕入れた額は1000円では収まるはずがないのだ。
それを察してか翔吉たちは「スパークスライム」と「グニャボヨ」より原価が安い「ジューシーグミ」を買った。
やっぱり1年生たちは「スパークスライム」と「グニャボヨ」をそれぞれ買っていた。
朝日は空気を読んだのか翔吉たちと同じく「ジューシーグミ」を買った。
エビスじいちゃん「喉は乾いてないかの?奢ってやるぞい!」
隼人「え?それもいいの!?ありがとう!」
駄菓子屋のお菓子を買ってくれたのが嬉しいかったのか
エビスじいちゃんは少しでも子どもたちに良い印象を与えるため飲み物を奢るそうだ。
慎吾「そこまではいいですって…」
エビスじいちゃん「いいんじゃ!わしは嬉しいのじゃ。また来てくれて」
エビスじいちゃん「それにこんなかわいい子どもたちを連れてきてくれて」
エビスじいちゃん「グミは仕入れたがまだジュースは難しいんじゃ」
エビスじいちゃん「その詫びの印に奢ってやろう」
エビスじいちゃんはなによりも子どもたちの笑顔が宝物なのだ。
翔吉たちのリクエストに添えなかったことへのお詫びでジュースを奢るようだ。
このジュースを奢るというのもこの駄菓子屋経営の戦力ということなのか。
とりあえずエビスじいちゃんの考えに委ねるしかなく一旦外へ出た。
エビスじいちゃんと子どもたちは近くの自販機に行った。
エビスじいちゃん「どれか好きなの選んで良いぞ〜」
エビスじいちゃん(あ〜やってもうた〜)
いけないとは思っていたようだが子どもたちの笑顔には敵わず財布の紐が緩んでしまうのだ。
エビスじいちゃんが財布から取り出して1000円札を自販機のお札投入口に入れた。
和河也「まさか…あの1000円札って…」
翔吉「それ以上言うな…ワカ…」
和河也「流石わ…大商人…グロすぎる…」
和河也「あ〜これじゃゲームで小さいアイテムショップでレアアイテムを売却しているようなもんじゃん!」
慎吾「支援するどころか逆に迷惑かけてね?これ…」
子どもたちは自販機で150円以上の飲み物を選んでいく。
自販機のボタンスイッチが押してピッと鳴ると同時に投入金額の数字が1000から減っていく。
そして商品取出口にゴトンと飲み物が出てきた。
翔吉「エビスじいちゃん!俺たちは遠慮します!」
翔吉「シン!ワカ!朝日ずらかるぞ!」
朝日「え!?あっはい!」
見るに耐えなくなり翔吉たちは遠慮して走って帰ってしまった。
エビスじいちゃん(翔吉君ら〜気遣ってくれるんか〜申し訳ない〜)
翔吉「あとこれやる!」
慎吾「これでも食ってろ!」
翔吉たちは道の途中で朝日に「ジューシーグミ」をあげたのだった。





そして18時、理貴が仕事から帰ってきた。
エビスじいちゃんは台所で夕飯を作っていた。
理貴「ただいま」
エビスじいちゃん「おう…おかえり」
理貴「午後にあの例の子がここの駄菓子を買ってくれるって話だったじゃん」
理貴「いくら売れた?」
エビスじいちゃん「1000円じゃ」
理貴「1000円!やったじゃん!」
売上が1000円と聞いて成果が出始めたと思っている理貴。
単純な売上しか理貴は見ていないので当然の反応だ。
理貴「そうか、どれどれ〜」
リビングの畳に座っていた理貴だがすぐさま立ち上がった。
エビスじいちゃん「どうしたんじゃ?そろそろ夕飯じゃぞ。トイレか?」
理貴「え?何が売れたか見るんだけだよ」
エビスじいちゃん「あ!えっ」
冷や汗をエビスじいちゃん。
理貴は売り上げの1000円の詳細を知るべくお菓子の在庫を調べようとしているのだ。
リビングの畳から立ち上がる姿は収益の右肩上がりを期待するが如くの立ち上がりようだった。
お菓子の在庫を見られたら売上1000円の真実が暴かれてしまう。
どうするエビスじいちゃん…。

続く


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