第8話 お菓子の奢り
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事情を聞いて翔吉たちはエビスじいちゃんの駄菓子屋の力になれないか思いを巡らせていた。
いろいろ考えた結果駄菓子屋へ行ってお菓子を買うことが支援に繋がることに行き着く。
翔吉は親からお小遣いをいただいていており、慎吾と和河也を連れてお菓子を買うつもりである。
翔吉はみんなのお小遣いについて聞いてみるとみんなそんなにお金を持っておらず少ない資金でやりくりしているそうだ。
つまりお菓子を買う余裕すらないということだ。
翔吉が親からいただいたお小遣いは1000円しかなく心許ない。
お菓子を買うことが唯一の支援策ではあるがたった五人だけではどうしようない。
楓は少しでも役に立つために他の学年の生徒に協力を得ることを決断する。
教室から出る楓につられて日葵も教室から出ていった。
女子二人が教室から出る姿を口を開けてぽかんと見ていた翔吉。
翔吉「楓と日葵はどこへ行ったんだ?トイレか?」
もうすぐ先生が来てチャイムが鳴る時間だ。
楓と日葵はトイレに行ったかと思ったが慎吾が二人が教室を出ていった理由を話した。
翔吉「え〜今から行ったのかよ!」
慎吾「やめといたほうがいいと思うとだけどな、時間もねえし」
慎吾「楓も後先考えずに行動することあるからな」
和河也「楓も?」翔吉「ん?」
楓ともう一人後先考えずに行動する人がいるような言い方だった。
4年1組教室の前に立つ楓、それを止めようとする日葵。
日葵「やめようよ楓」
楓「でも…」
教室の扉を開けようとするが手と足が止まる。
上の学年と下の学年の関係だが仲はあまり良くない。
先生がうまくコントロールしているが見えないところで上の学年と下の学年で対立することもある。
やはり上下関係があるのは否めない。
翔吉たちも上の学年と喧嘩して返り討ちにあったこともあるし
楓も上の学年の女子と揉めたことがある。
下の学年の意見を理解しようとせず話を聞いてくれないこともある。
過ぎたことではあるがまだ日が浅く声を掛けづらい。
時間もないのに何も知らない上の学年にエビスじいちゃんの話を1から話すのは無謀だ。
4年1組教室にいる生徒が教室の扉の隙間から楓と目が合う。
楓「やば!」
楓はすぐに顔を引っ込めた。
4年1組の生徒「ん?なに?」
楓と目と合わせた生徒が立ってこちらに近づこうとしている。
すると学校のチャイムがなった。
チャイムが聞こえたのでその子は戻って席に着いた。
楓と日葵も3年1組教室に戻りそそくさに席に着いた。
慎吾「やっぱり無理だったか」
二人の落ち着かない様子を見るに交渉は失敗したと悟っていた。
楓「違うわよ、チャイムが聞こえたから戻っただけだよ」
慎吾「ああそうか、でももうやめとけやめとけ」
慎吾「日葵も楓のこと止めようとしていたんだろ?」
日葵「うん…」
日葵「教室の扉の前で立ち止まっていたの」
慎吾「結局声掛けられなかったってことかまあ賢明じゃね?」
楓「でも目が合っちゃって」
慎吾「え?マジで?おい気に触ったらどうするんだよ」
慎吾「なんか言われるかもしれねえぞ」
楓「いやわざわざそんな…」
4年生の誰かになぜ教室を覗いたのか問い詰められるかもしれない。
心配になりつつも机の中から教科書を取り出し1時間目の授業の準備をした。
楓は言われた時のことを考えていた。
もしなぜ教室を覗いたのか言われてきたら正直にエビスじいちゃんのことを話せばいいと思っていた。
声をかけづらくても逆に声をかけてもらったほうが好都合かもしれない。
しかし翔吉たちは上の学年に変なことに絡まれないか不安だった。
先生が教室に入ってきて先生のあいさつを経て1時間目と2時間目と過ぎていった。
2時間目終了後の休憩時間、先生が職員室に戻って3時間目の授業のため不在で
その時3年1組教室に4年生の生徒がやってきた。
案の定その生徒はなぜこちらの教室を覗いたのか朝の件を言及してきた。
小学4年生の関口千里である。
千里「あんたでしょ?楓、教室を覗いたのは」
楓「そうだよ。話したいことがあって」
楓は廊下に出て千里に事情を話した。
交渉はうまくいくのだろうか。
翔吉は何も関わりたくないので机に腕を置いて頬に手を当てて窓の外の景色を眺めていた。
和河也は出入り口側の席なので会話が聞こえてしまう。
彼は気まずそうに3時間目の授業で使う教科書を開いて一文字一文字読むが気になって教科書の内容が頭に入ってこない。
慎吾もそれが無難だろうと和河也の真似をした。
男子らは消極的であるが日葵は席を離れて扉越しで廊下で上の学年の千里を説得する楓を見守っていた。
包み隠さず一昨日にエビスじいちゃんの駄菓子屋に行ったことを話した。
だが千里は興味なさそうだった。
千里「ふ~んそう、それをわざわざ話してどうするつもりなの?」
楓「えっとだから…」
威圧的な千里に言葉が詰まる楓。
それを見兼ねて慎吾は仕方なく介入して楓をフォローする。
慎吾「まだあそこの駄菓子屋は小さいのでそこでお菓子1つでも買って支援してくれないかってことっす」
慎吾「そうだろ楓?」
楓「う…うん」
千里「駄菓子屋があるってことだけはわかったわ。」
千里「けどあまり関わってこないでくれる?鬱陶しいから」
千里は自分の教室に戻って行った。
慎吾と楓も自分の教室に戻った。
楓「ありがとう…慎吾」
慎吾の背中を見て照れ臭く楓は彼に感謝した。
和河也「シン!男前じゃん!」
和河也「いざって時にヒロインを守る主人公みたいだったぜ!」
和河也に褒められて慎吾はちょっと苦笑いしながら席に着いた。
慎吾「まあ話を聞いてくれただけでもいいんじゃね?」
しかし感触はあまり良くなかった。
あの様子だとあまり協力的ではない。
エビスじいちゃんの駄菓子屋エビスのことを話すことができただけでもよしとするしかない。
千里が駄菓子屋のことをクラスメイトに話してくれるかわからない。
内に留めて時間が過ぎて忘れ去れるなんてこともざらにある。
千里が自発的に言わなくても廊下で楓とどのような話をしたのか
クラスメイトに声をかけられることもあるから彼女の返事次第になる。
千里の4年1組クラスの人数は六人である。
全員に知ってもらえれば潜在的な顧客となりうる。
上の学年の生徒に話ができただけでも大きな一歩であり
エビスじいちゃんにとって嬉しい知らせなのでこの話を店に寄ったときに話ができる。
ただ気がかりなのは千里に「あまり関わってこないで」と言われたことである。
最近のことだが楓は千里と揉めていた。
内容はどうでもいいし、くだらないことだがお互いに譲れないものがあったようだ。
目を合わせたのが千里だったこともあり楓はその気まずさで彼女の前で喋るのが難しかったのだろう。
だから楓は踏み込んで千里に話すことができなかったようだ。
千里がエビスじいちゃんの駄菓子屋を広めてくれるかは本当に怪しくなってきた。
上の学年に協力を得るのは一旦やめたほうがいい。
慎吾「下の学年に声をかけた方がいいんじゃない?」
和河也「2年生の男子は朝日一人しかいなかったね」
2年1組クラスは四人しかおらずその内の男子は一人しかいない。
その男子生徒の名前は吉村朝日である。
男子が一人しかいなくて可哀想なので去年翔吉たちが2年生だった時から可愛がってあげているし他の学年からも可愛がられている。
朝日はとても大人しい性格なのでクラスメイトの女子三人にも可愛がられているかもしれない。
実際に男子が一人しかいない女子ばかりの教室はどんなものか見たことはないが
その情景を想像せずにはいられない。
和河也「なんだかあそこは修羅場だな~」
慎吾「何言ってかわかんねえよワカ」
小学2年生の教室の情景に変な妄想をする和河也であった。
黒一点である2年のクラスに対し1年は七人いるが女子が一人しかいないためあちらは紅一点である。
その女子の名前が野々花瀬奈である。
瀬奈も朝日と同じ境遇でもあり瀬奈に対しては楓たちや上の学年の女子たちに可愛がられている。
もしかすると朝日と瀬奈が桜林小学校全校生徒を繋げる希望になってくれるかもしれない。
上の学年より下の学年のほうが比較的に話しやすいかもしれないが大きな期待を持つのは禁物だ。
翔吉「朝日ならいいけど1年はな~生意気な奴いるし」
翔吉は背中を椅子の笠木に体重を少し加えて傾けながら愚痴を言っている。
上の学年にも下の学年にも自分にとっては気に入らない子がいて当然である。
うまくいくかわからないが一人でも多く駄菓子屋の顧客を集めたい。
慎吾「まあ俺もあの1年らは苦手だ。今日は朝日だけにするか。」
楓「今日は私もういいわ。後は慎吾たちに任せるわ。」
なんだがお疲れ気味の楓だが上の学年に勇気を持って声をかけたのだから十分役に立てている。
慎吾「まあ今日はショウにお菓子を買ってもらうだけだけどな」
和河也「放課後、朝日も誘ってみたら?」
慎吾「いいね。おいショウついでに朝日のお菓子も奢ってやれよ」
翔吉「え~なんで」
翔吉は手元にある1000円札を気にしていた。
自分の分を合わせて三人分のお菓子を買っておつりで余ったお金を貯金するという計画を事前に立てていたのだ。
それが朝日の分が追加されるとお金が減ってしまうのでそれが嫌で翔吉は不機嫌な顔をしている。
和河也「なんかいやそうだねショウ」
慎吾「今回は我慢しろよショウ」
翔吉は首を振ったまま1000円札をそっと戻した。
慎吾「あ~もうわかったよまたお菓子奢ってやるよ。」
慎吾がお菓子を奢ると聞いて翔吉はピクっと耳が動きそして慎吾の方に顔を振り向いた。
翔吉「本当だなシン!約束だぞ!」
慎吾「はいはい」
楓「お人よしでわかりやす過ぎよ」
日葵「でもよかったね。」
慎吾「あ~世話が焼けるぜ。」
こうして翔吉に後でお菓子を奢ることになった慎吾であった。
どこのお菓子を買って奢るのかわからないがエビスじいちゃんの駄菓子屋で奢るはずだ。
こうしたことを繰り返していけば少しは駄菓子屋も潤うはずだ。
放課後校舎を出た辺りで朝日を見つける。
翔吉「おーい朝日!」
朝日「なに?どうしたの翔吉君」
翔吉「今日暇か?」
朝日「うん」
慎吾と和河也もきて四人になったところでそれを見た隼人がからかってきた。
小学1年の浜田隼人でありこの子が翔吉の言う生意気な子なのだ。
隼人「また朝日のこといじめてる~」
翔吉「んなわけねえだろ!」
慎吾「さっさと帰れお前ら!」
さらに隼人だけじゃなくて他の1年生もやってきた。みんなやんちゃな子ばかりだ。
隼人「朝日連れてどっかいくの?」
翔吉「お前らには関係ねえだろ」
他の一年生たち「え~教えてよ~」
隼人を初め1年生たちは興味津々である。
翔吉「おい!どうすんだよこれ」
厄介な一年生たちに絡まれて振り切ることができない。
慎吾「仕方ないもう言っちゃうか」
いずれは1年生たちにも話す予定だったのでこの機会に今日話すことにした。
エビスじいちゃんの駄菓子屋に行くことを1年生に話した。
慎吾「そういうことだ」
隼人「へえ~お菓子!ねえ俺たちもお菓子奢れよ~」
翔吉「誰がお前らにお菓子を奢るか!」
翔吉「命令口調なのがムカつく!」
慎吾(いや…ありだな)
翔吉は1年生たちにお菓子を奢るのが嫌だが
慎吾は賛同するように隼人たち1年生たちにも誘おうとしている。
慎吾「わかった。翔吉が奢るってよ。」
翔吉「え~なんでだよ!」
慎吾「あいつらにお菓子奢るのは癪だが客を一人でも増やすためだ」
慎吾「その代わり俺とワカの分のお菓子はなしでいい」
慎吾「けど後でお菓子奢る約束は守っておく。それでいいかワカ?」
和河也「うん、もうしょうがないね。」
慎吾と和河也は自分たちの分のお菓子と引き換えに1年生たちの分に回した。
翔吉「あ~クソくらえだ!わかったよちくしょう!はあ~」
深く溜息をする翔吉。
隼人「やった!サンキュー!」
1年生男子全員が集まり2年生の朝日を入れて七人にお菓子を奢ることになった。
1000円しかないがこれで足りのだろうか。
残りの女子一人の瀬奈は会話を聞いてみていたが参加せずに2年生の女子三人に囲まれて下校した。
駄菓子屋エビスまでに向かうまでの間隼人たちの奇声をあげたりふざけたりしていた。
翔吉たちは怒って注意するが全然収拾がつかなかった。
エビスじいちゃんはというと翔吉が来るのを待っていたがお菓子の配置に悩んでいた。
どの配置にお菓子を陳列すれば子供たちに目が引くか試行錯誤していた。
これでいいと思った陳列も時間が経つにつれて自信が持てなくなり一からやり直してしまう。
エビスじいちゃん「あ~これでもない、ん~こうか?いや違うのう~」
エビスじいちゃんは時計を見てそろそろ翔吉たちが来る時間だと気づく。
そしてエビスじいちゃんはこの土壇場で重大なことに気づく。
エビスじいちゃん「あ~しもうた!よう見てたグミしか売っておらん!」
売ろうとしているお菓子がなんとグミしかないのだ。
配置がいまいち決まらない要因はお菓子のバリエーションがあまりにも少ないからだ。
コンビニに行ってチョコレートとかお菓子を買い足したいがここから1km離れていて
買い出しに行っている時に翔吉たちが来てしまうかもしれない。
エビスじいちゃん「うわあ~何やっとるんじゃわしは~」
なぜ早くそれに気づかなかったのか後悔している。
エビスじいちゃん「家に何かあるか探してみるか!」
エビスじいちゃん「枯れ木も山の賑わいじゃ!」
家に戻って残っているお菓子はないか探しに行った。
素朴なせんべいでも残ったお菓子でもつまらないものでもいいのでないよりましだ。
しかし家に戻ってきて探したがお菓子は見つからずいつも入っているお菓子入れは空っぽだった。
前までは家にあるお菓子だけを運用して駄菓子屋を経営したこともあってこの前それを売ってなくなってしまった。
今日はグミだけで乗り切るしかない。
エビスじいちゃん「味だけは種類がある…」
グミは「ジューシーグミ」、「スパークスライム」、「グニャボヨ」の3種しかない。
味はそれぞれ種類があるのでそれで誤魔化すしかない。
エビスじいちゃんの知っている「ジューシーグミ」は
リンゴ味、いちご味、マスカット味、グレープ味そして山形県限定のさくらんぼの5種類である。
理樹と玉井店長が好んで食べていたと言われる「スパークスライム」はコーラ味とソーダ味、レモン味の3種類である。
そしてエビスじいちゃんの歯を割ったハードグミ「グニャボヨ」は
コーラとソーダ、グレープとレモン、ストロベリーとアップルの3種類である。
「ジューシーグミ」のパッケージは果物のみずみずしさと新鮮さが伝わるイラストで
「スパークスライム」と「グニャボヨ」は奇抜なパッケージイラストだがなぜか似通って見える。
「スパークスライム」と「グニャボヨ」の製造メーカーは同じでそのメーカーの名前がユニークショクカンだった。
陳列のバリエーションの幅が広がらない理由がまた1つわかってしまうのであった。
エビスじいちゃん「くう~グミだけじゃとな~」
エビスじいちゃん「翔吉君たちはグミって言っておったしなんとかなるじゃろう」
翔吉が友達を連れてくるそうだがこの前一緒に来ていた友達だったら
このグミしか売っていない現状も話せば理解してくれるはずだと思う。
しかし他の友達も連れてくることも考えられるし「グミしかないの?」っと言われるのも心配だ。
その子に悪い印象を持たれるとこの駄菓子屋だけじゃなく翔吉たちの面目も立たなく恐れもある。
相手は子供とはいえお客様であることには変わらず緊張しているエビスじいちゃん。
店長としても務めた「オリーブ」での経験を発揮できるだろうか。
翔吉たち「お邪魔します」
エビスじいちゃん「来たか!らっしゃい!」
エビスじいちゃん「おうお前さんらか」
この前来てくれた慎吾と和河也だ。
この前と同じ三人だけだと思い内心ほっとしたエビスじいちゃんだったが
隼人たち「お邪魔しまーす!」
エビスじいちゃん「え?なんじゃ…いっぱい…あ…らっしゃい…」
エビスじいちゃん(こんなの時になぜじゃ~!!)
なんと翔吉たちだけじゃなく複数人の子供を連れて来た。
翔吉たち合わせて十人子供のお客さんがいる。
いっぱい子供が来てくれてうれしいが果たしてグミしか売っていない現状をエビスじいちゃんは乗り切ることができるだろうか。
続く