第3話 方向性
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仕事から帰ってきたエビスじいちゃんの息子の理貴は家の車庫に駐車した。
エビスじいちゃんの家の車庫は木材で出来ており自作である。
時刻は18時頃である。
駄菓子屋エビスの営業終了時間は定まっていないがだいだい17時ぐらいにしている。
時間は過ぎているので閉まっていると思われるが一応駄菓子屋の中を覗いて見た。
駄菓子屋はまだ開いていた。
中の様子を確認してみると満面の笑みを浮かべるエビスじいちゃんがいた。
理貴「ただいま親父」
エビスじいちゃん「おう!おかえり」
エビスじいちゃんの本名を紹介すると名前は星川健仁(ほしかわ けんじ)である。
つまり息子の名前は星川理貴(ほしかわ りき)ということだ。
理貴「今日はなんだか嬉しそうじゃん。なんかいいことでもあったのか?」
嬉しそうだから理由を聞いてみると
エビスじいちゃん「はは!聞いて驚け!」
エビスじいちゃん「お菓子全部売れたんじゃよ!!」
理貴「え!?それ本当か!」
聞いて驚いてしまった理貴は確認のためお菓子の商品棚を見た。
確かにお菓子は全部売られ品切れになっていて賽銭箱にもお金が入っている。
賽銭箱も木材でエビスじいちゃんのお手製なのだが10円とか100円とかの小銭や硬貨ぐらいしか入らないだろうと
期待していなかったが1000円札が2つ入っていて
お札の偉人が賽銭箱から顔を出してこちらをにやりと睨みつけている感じであった。
全部数えて3250円入っていた。
駄菓子屋にあるお菓子が全部が売れれば3500円ぐらいの利益になるのでどこかで少し安くして売ったのだろう。
理貴「いや~嘘だろう」
お菓子が全部売れたのが夢のようで内心嬉しいのだがこれが信じられなくて理貴はまだ理解に追い付けていない。
エビスじいちゃん「嘘ではないぞ!」
エビスじいちゃんはメモ用紙を理貴に見せてどんなお客さんが来たのか漢字フルネームで書いてあった。
また字もエビスじいちゃんが書いたものではなく女の子が書くような丸みのある字だった。
これが来客リストなのだろう。
駄菓子屋を初めて昨日まで売り上げは芳しくなく0円の月もあり
売り上げがあった月でもエビスじいちゃんの友人か知人がたまに来てお菓子買ってくれるぐらいで
売り上げはせいぜい数百円程度であった。
それが今1桁増えてお菓子が完売してしまったのだ。
来客リストを見ると五人しかない。
一人だいたい600円くらい買い上げたという計算になるが賽銭箱には紙幣が2枚入っているので
五人のうち二人が1000円分以上のお菓子を買ったのだと思われる。
一応おつり用のお金を忍ばせてはいるが確認し硬貨や紙幣の数に変化がなかったため
ほぼ全員おつりなしでぴったりお金を出したのだろう。
またエビスじいちゃんが安く負けたのかもしれない。
理貴「この五人はどんな人だったの?」
駄菓子屋に来てくれた五人の詳細を聞くことにした理貴。
エビスじいちゃん「全員桜林小学校の子じゃ」
エビスじいちゃん「ほら今日は創立記念日だったじゃろ?」
理貴「あ~そうか」
理貴も桜林小学校の卒業生である。
エビスじいちゃん「感慨深いもんじゃのう~」
理貴「あり得なくはないけどたった小学生五人でお菓子が売り切れるとは思えないんだが」
理貴「親と一緒だったのかな?」
エビスじいちゃん「子供たちだけだったぞい。友達と一緒に来ていた感じじゃ」
理貴「え~?」
理貴は頭を抱えて不思議に思うばかりだ。
エビスじいちゃん「証拠もある。」
領収書を見せて金額は2950円であった。
エビスじいちゃん「この子が結構お金を持っていたそうじゃ」
来客リストの名前に日野日葵をエビスじいちゃんは指差した。
どうやら子がお菓子を買い占めたそうだ。
理貴「そうかそうか親父はこの子にお菓子を買えとせびったって訳だな。」
エビスじいちゃん「こら!そんな物騒なことはしとらん!」
理貴「ん?」
理貴は来客リストを見て身を覚えのある苗字の人を見つける。
理貴「本多と日野って苗字は仕事の同僚にもいたな。」
理貴の仕事の同僚に苗字に本多と日野がいるそうだ。
エビスじいちゃん「この子らもしかしてお孫さんかのう?」
理貴「わかんないけど、聞いてみるかな。」
エビスじいちゃん「できればうちの駄菓子屋の宣伝もしておいてくれ」
理貴「はは、わかったよ」
エビスじいちゃん「んでそっちは順調か?」
理貴「こっちと比べたら100倍いや1000倍順調だよ。」
エビスじいちゃん「違う違う、お前の仕事ぶりはどうかってことじゃ」
エビスじいちゃんが理貴に聞きたいのは店の売り上げとかではなく仕事はうまくやっていけてるのかを聞きたいのである。
理貴が勤務しているのは大企業ススメグルメフーズが経営する「オリーブ」である。
「オリーブ」は全国で展開されている上位スーパーマーケットである。
駄菓子屋エビスと「オリーブ」を比べたら天と地の差があるのは明らかだ。
スーパーマーケット「オリーブ」の従業員として理貴はちゃんと仕事ができているのかということなのだ。
理貴はエンジニアに憧れていて地元の山形県から上京してIT関連の会社に就職するもうまくいかずクビになり
自信を失いとうとう自分自身も見失ってしまっていた。
そんな理貴を見かねてエビスじいちゃんが誘ってくれて地元に戻り理貴は「オリーブ」でアルバイトすることになった。
そして現在は正社員として働いてもらっている。
実はエビスじいちゃんはスーパーマーケット「オリーブ」の元従業員で正社員さらには店のリーダーも務めていた。
妻の恵美須が癌を患いその時から夫の健仁(エビスじいちゃん)が妻の看病のため退職した。
理貴が正社員になれたのはエビスじいちゃんの力だけでなく理貴本人の評価を考慮してのことでそうなったのである。
だからこそエビスじいちゃんは理貴のことを親としてはもちろん仕事のことも心配しているのだ。
理貴「ああ!言われなくたってちゃんとやってるさ」
理貴「もう二度と親父にも天国に行った母ちゃんにも迷惑かけたくないねえからな。」
理貴「恩返しだって親孝行だってしたいさ」
理貴「だからほら」
エビスじいちゃん「おお!」
理貴は封筒をエビスじいちゃんに渡した。
封筒の中身はお金で3万円が入っていた。
これが生活費兼駄菓子屋の経費というものだ。
足りなければ可能な限り出すそうである。
理貴「これが笑顔で待っていた理由だと思ってたよ。」
エビスじいちゃん「ははそうか、今日給料日じゃったな」
エビスじいちゃん「今月は年金貰えんからのう」
エビスじいちゃんの年金は年6回で支給額は13~14万円である。
今月は年金が支給されないのでこのように理貴が生活費なり駄菓子屋の経費などの仕送りをして生活を支えている。
理貴の手取りは約20万円前後である。
エビスじいちゃんの年金と理貴の仕事の収入で星川家は暮らしている。
そしてあわよくば駄菓子屋も副収入として得ていきたいと二人は思っている。
夕食を終えた後のことエビスじいちゃんと理貴は駄菓子屋に戻り
当時の情景を思い出しながら今日の出来事を理貴に話した。
エビスじいちゃん「リンゴを茹でていたんじゃがそのリンゴのにおいにつられて男の子一人が店にやってきたんじゃよ。眼鏡かけてたな。」
エビスじいちゃん「後に彼の友達が二人やってきてな。え~と名前はそうだなこやつらじゃ」
来客リストで男性の名前らしきものを指差した。
頭の中は記憶はもう名前と顔は一致していないだろう。
エビスじいちゃん「その子らにリンゴと麦茶を与えてな、そのお礼としてお菓子を買ってくれたんじゃ」
エビスじいちゃん「けど、グミはねえのかとか甘いジュースはねえのかとか言われたんじゃよ」
理貴「ほうほう」
具体的な話を聞いてこの駄菓子屋に進展があったということを理解する。
さらには指摘を受けたということで課題点や改善点が見えてきた。
品揃えや品数が少ないことは元からわかっていた。
本格的に駄菓子屋を経営しているのではなくエビスじいちゃんにとっては趣味程度の位置づけである。
そういうことなので品数や種類を抑えて小規模経営なのである。
いや小規模経営の域にまで達していないかもしれない。
エビスじいちゃん「言われればそうじゃのう」
理貴「こうなっちゃっているのは仕方ねえよな」
理貴「ちょうど(駄菓子屋)開店した時期が夏になるころだったじゃん」
エビスじいちゃん「チョコ溶けちゃうもんな」
物置小屋を改築して安く駄菓子屋「エビス」を開店することができたが空調管理は考慮していなかった。
元は物置小屋だったことから冷暖房用エアコンも設置していなかったのも要因の1つだ。
暑い時期だったためお菓子の保存に悩まされていた。
お菓子を保存して多くのお菓子を並べるための環境がこの駄菓子屋には全然整っていない。
エビスじいちゃん「飲み物はどうすっかのう~」
エビスじいちゃん「タンクに麦茶淹れて1杯10円ぐらいでいいかなと思ってたんじゃが」
家の台所にウォータージャグが置いてあったのがわかり今日それが使われたのがうかがえる。
麦茶ではなくジュースが飲みたいと言うのも子供ならではのご指摘である。
今回は喉が渇いていて、リンゴのコンポートもあったため麦茶を飲んでくれた。
男の子三人が店を出て行ったあと女の子二人が店に来てくれたが、麦茶が足りなくなってしまったため家に連れ込みお茶を提供した。
次女の子二人に言われたのが駄菓子屋じゃなくてお茶会とか何かのコミュニティのほうがいいんじゃないかと
指摘を交えつつアドバイスしてくれた。
エビスじいちゃん「そういわれてしまうのも納得じゃ」
駄菓子屋の中の様子や家の中に招き入れてお茶を入れるその一連は駄菓子屋とかけ離れたものになっているかもしれない。
普段はエビスじいちゃんの同じ世代ぐらいの知人か友人がたまに来てお茶を出して世間話していたぐらいであった。
女の子に言われた指摘の通りにこの駄菓子屋はなっていると思われる。
理貴「サービスとか何かしてあげようってところは伝わっているんじゃないの?」
気にしなくてもエビスじいちゃんの真心は子供たちに伝わっているはずだ。
エビスじいちゃん「わしもあっちで働いていた身じゃからそれを活かしてお客様第一に行動しただけじゃよ。」
エビスじいちゃん「やっぱり恵美須のためにもここは駄菓子屋をとして貫いていきたいんじゃ。」
2階に上がり妻の恵美須の仏壇を見た。
エビスじいちゃん「あの子らにここを見せたんじゃ。」
線香鉢に3つ線香の燃えカスがあった。
1つはリンゴの差し入れをしてくれた友人でもう2つが女の子二人が線香を立ててくれたのだ。
女の子二人がお菓子を買い占めた理由がこれではっきりわかった。
理貴「もう~商売上手なんだから」
エビスじいちゃん「本当のこと言っただじゃよ。でもここに来てくれた子はみんな良い子じゃよ。」
楽しめるお菓子がなく不満を持っていたがうまくいっていないこの駄菓子屋を気遣って子供たちはお菓子を買ってくれたのだろう。
桜林小学校の生徒だったこともありこの日が創立記念日で休みだったためたまたま町の散策にこの駄菓子屋エビスを見つけてくれたのだ。
この次はあの子たちが来てくれるかはわからない。
次こそは子供たちが満足できるお菓子を提供してあげたい。
これから駄菓子屋エビスをどうしていくか方向性を考えていきたいところである。
エビスじいちゃん「とにかく飲み物はどうするかじゃな」
理貴「普通のジュース買って仕入れればいいんじゃない?」
エビスじいちゃん「仕入れる方なら簡単じゃが置くところがないんじゃよ。」
エビスじいちゃん「冷蔵庫は家にある1台しかない。余ったのがあればよかったんじゃけどな」
家庭用の冷蔵庫を使う訳にもいかない。
理貴「ああそうか…」
飲み物を買い揃えることはできるが保存環境が整っていない。
そのまま置いても飲み物がぬるくなってしまうのでよくない。
せめて暑い時期などは冷たい飲み物を提供するべきである。
エビスじいちゃん「駄菓子屋用に冷蔵庫を買うべきかのう」
エビスじいちゃん「え~とほら中身が見えるあの冷やすやつ、あれなんだっけかな?」
エビスじいちゃん「スーパーとかコンビニで飲み物とか冷やすあれ」
理貴「う~んと、あ!あれか!ショーケースか!」
エビスじいちゃん「それじゃ!それじゃ!」
二人は冷蔵ショーケースを思い浮かんだ。
冷蔵ショーケースは食品や飲料を冷やす冷蔵庫で扉や壁面部分が透明ガラスになっているので
冷やしながら商品を展示することができる。
何が売っているのかわかりやすくなるので販売効果が期待できる。
喉が渇いていて飲み物が欲しい客のニーズに応えられる。
冷蔵ショーケースがあれば翔吉たちが指摘してくれた問題点をクリアすることができる。
理貴はスマホで冷蔵ショーケースを調べたのだが
理貴「あ~高いな~」
金額を見たら5万円以上するそうだ。
エビスじいちゃん「それくらいはするじゃろうよ」
エビスじいちゃん「電気代とかも馬鹿にできんな。」
理貴「あと売れんのか?」
エビスじいちゃん「それも厳しいのう~」
冷蔵ショーケースを購入するコスト面も設置できても維持費などの電気代も無視できない。
また採算の見込みが立っていない。
飲み物もお菓子だけでは単価が低いし今のやり方では利益が出にくいはずだ。
安易にそれを買ってコストばかりがかかってしまうと大きな赤字となってしまう。
経営は赤字続きではあるが超小規模で運営しているので家計や生活に影響を及ぼしていないのが幸いである。
理貴「前にも同じような話をしたような気が…」
理貴「それで結局買うのを諦めたんじゃなかったっけ?」
理貴「タンクで麦茶を淹れて氷入れて冷やして1杯10円で出しときゃ安価で済むでしょ?ってね」
エビスじいちゃん「忘れたがそうだったかもしれん」
飲み物を冷やす策を考えて結局いらないという考えに行きつくのを何度も繰り返しいたかもしれない。
エビスじいちゃん「これからのことを考えんといかんな」
改めて経営の難しさを理解するエビスじいちゃん。
エビスじいちゃん「はあまたあの子が来たとき言われるじゃろうな」
翔吉たちがまた来てくれるかわからないが違う客が来て同じような指摘を受けるのだけは避けた方がいいかもしれない。
理貴「もうそれだったら飲み物は売らないって方針にしちゃってもいいんじゃないか?」
理貴「足し算だけじゃなくて引き算するのも経営では肝心なんじゃないの?」
エビスじいちゃん「アドバイスかなんかの格言かなんかか?」
理貴「はは、まあまずはお菓子のほうを充実したら?」
理貴「もうちょい仕送り出しておこうか?」
エビスじいちゃん「今はまだいいんじゃができれば無理はしない。」
エビスじいちゃん「売れて得た利益だけで経営してきたいというのもある。」
売上で得た利益だけで経営するのは理想であり経営者なら誰でもそう考えるはずだ。
エビスじいちゃん「いらないもんとか売ってそれを駄菓子屋経営に回していきたいのう~」
理貴「それもおもしろいね」
無理せず家計や生活に及ぼさない程度に余力や資金が十分あった上で金策を練って駄菓子屋を豊かにしていきたいという考えだ。
まずはお菓子を充実させていきたい。
お菓子は全て買い尽くされているので0からのお菓子の買い出しである。
エビスじいちゃん「グミって今の子供たちに人気なのか?」
理貴「わかんねえけど俺も好きだし買っておいて損はないと思うぜ」
理貴「本人がそう言ってたんだから次来たときは買ってくれるんじゃない?」
翔吉たちがいっていたグミを駄菓子屋で売れば少なくとも本人たちは喜ぶのではないだろうか。
リピーターとして翔吉たちが来てくれるだろうし良い印象を持ってくれれば
宣伝してくれて新しい顧客を獲得できるかもしれない。
エビスじいちゃん「よしお菓子買うかのう!」
理貴「どこで買う?」
エビスじいちゃん「う~んそうじゃ久しぶりに「オリーブ」にでも行ってみようかのう。気になるし」
理貴「明日俺仕事休みだからちょうどいいな。俺も一緒に行くよ。今どうなっているか教えるよ。」
明日エビスじいちゃんは従業員として働いていたスーパーマーケット「オリーブ」で駄菓子屋のお菓子を調達することに決めた。
動き始めた駄菓子屋「エビス」はどのように発展していくのだろうか。
続く