第29話 心配事
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ショッピングモールAOZORAの「オリーブ」で不穏の空気が漂う。
惣菜部門で働く日野が急に倒れてしまう。
惣菜部門の従業員からの知らせを受け、店長の玉井と理貴は厨房へと駆け付ける。
日野こと日葵の母の身に何が起きてしまったのだろうか。
厨房の様子見ると聞かれた通り日野が仰向けになって倒れていた。
玉井「日野さん!大丈夫ですか!?」
日野「う…はい…」
理貴「よかった!意識はあるみたいですね!」
惣菜部門の従業員A「急にバタッと音が出てたらうつ伏せで倒れていたんです。」
惣菜部門の従業員B「頭を打っていないと思いますが…」
厨房で日野と一緒に作業している従業員が状況を話してくれた。
日野は今、仰向けの状態だが話からうつ伏せで倒れたそうである。
状況を説明してくれた従業員は二人とも女性であり、日野の首と両肩を両腕でゆっくり起こしながら外傷はないか
確かめたところ頭に出血や傷、こぶなどはなかった。
弁当容器に調理したおかずを積める作業中に起きたらしい。
日野「う…私なら大丈夫です…」
玉井「無理しないでください、大丈夫ですよ。」
自分のせいで混乱して仕事が停滞してしまうのを気にして起き上がろうとする日野だが店長である玉井が彼女を落ち着かせる。
幸いにも目立った怪我はなさそうで本人も意識はある。
しかし体の状態を見ると唇の色が白く、顔色もあまり良くない。
症状から見て貧血なのかもしれない。
弁当の品出しが遅れてしまわないように惣菜部門の従業員はそちらの作業を優先し
店長の玉井が中心に手が空いている従業員に協力しながら応急手当を行う。
理貴「私はできることはないですか?」
今は駄菓子屋の話をする場合ではないし呑気に休憩に行く暇なんてない。
理貴も自分ができることをやって日野を助けたいのである。
玉井「そうだね~う~んと…」
玉井は周りを見渡し理貴にどのような指示を出すか考えている咄嗟に思いつかない。
エビスじいちゃん(星川店長)だったらこの状況をどうするのか考えてしまう。
玉井「換気をお願いします、あとバイタル測定器と濡れタオルを2枚くらい持ってきて」
理貴「はい!」
とりあえず日野を安静にしたいことと、何か記録するものが必要だと思いつきその思いついたので理貴に指示を出す。
貧血であるなら無理に体を動かしたら悪化してしまう危険がある。
対処法としてはすぐにその場で横になり安静にするのが正しいのだが熱気がこもった厨房では安静できる場所とは言えない。
厨房の中は調理の火で熱く油のにおいや揚げ物のにおいが充満している。
日野の体調にもよるが労働環境によって倒れてしまった要因も含まれるだろう。
玉井「手が空いている人は援助を」
従業員「はい!」
理貴のバイタル測定器を事務所から持っていき、余ったタオルを2つ見つけ洗面器の水で濡らして厨房まで走っていく。
他の部門の従業員そして買い物客も何かの異変に気づいていた。
玉井は様子を見ながら、消防に連絡し救急車を手配してもらった。
日野が倒れて貧血になってしまった原因はおそらく過労によるかもしれない。
一人で娘を育てるシングルマザーのため今後の生活に支障が起きていないために病院で診察を受けるべきである。
理貴「持ってきました!」
理貴は玉井の指示通りにバイタル測定器と濡れタオル2つ持ってきた。
他の従業員は倉庫から扇風機を持ってきた。
玉井「ありがとう!」
濡れたタオルを枕代わりにして日野の頭に乗せて扇風機の風を送って熱を逃がすようにした。
その場で安静にすることが正しい対処法ではあるのだが
足を頭より15cmから30cm高くするのが良いらしくその姿勢にことをショック体位と呼ばれ
下半身の血液を心臓や脳に戻りやすくできるためこちらの対処法を取り入れたいところである。
日野の頭でタオルを乗せてしまい頭が足どころか体よりも高い位置になってしまったため
血液のめぐりが悪くなり脳や心臓に戻りにくくなってしまう。
油などで染み込んだ床のためそのための配慮だったり頭を守るだったりの理由でタオルに頭を乗せたに過ぎない。
正しい対処法を知っている従業員が介入しショック体位を試み日野の足を高さを上げるためタオルとダンボール重ねて頭よりも高くした。
みんなの協力でなんとか日野を救えそうである。
しかし何人も日野の手当てに時間を使って業務がまわらなくなってしまう。
ある程度落ち着いてきたので玉井は理貴含め他の従業員に通常の業務に戻るように指示を出した。
玉井「みんなありがとう。それぞれ持ち場に戻って大丈夫だよ」
若干の遅れはあったが弁当と惣菜の品出しが完了し弁当コーナーに客が集まっている。
理貴「では、休憩に入ります」
玉井「うん、助けてくれてありがとう理貴君。休憩に行っていいよ」
やることはやったのであとは救助を待つのみ。
約20分後に救急車がショピングモールAOZORAに到着し客への配慮のため裏側の方に誘導した。
ショッピングモールAOZORAの正面とその入口は一般駐車場になっているが
裏は倉庫側でありスタッフ専用の駐車場と運搬用のトラックが駐車するための場所である。
救急隊に倉庫の入口のほうから入ってもらい日野を担架で運び救急車に乗せた。
搬送先の病院が決まり、ショッピングモールAOZORAから8km離れた遊凪恵病院らしい。
玉井は救急車を見送った後、休憩している理貴のほうに向かった。
玉井「お疲れ、理貴君」
理貴「お疲れ様です。」
理貴はいつも通り更衣室で休んでいた。
玉井もよく更衣室で休んでいてよく仲間や部下と談笑しているのでここが唯一落ち着ける場所なのである。
理貴「日野さんは大丈夫ですか?」
玉井「どうやら貧血だって、遊凪恵病院に1日入院するみたいだよ。」
玉井「ところでなんだけど確か日野さんには娘さんがいるんだよね?」
理貴「あ!そうか!はいそうですよ!」
日野には娘がいるのを聞いて理貴ははっと気づく。
まだやるべきことが他にあり、桜林小学校で日中過ごしている日葵に母のことを連絡しないといけない。
玉井「娘さんにこのこと伝えないといけないね」
理貴「あっ…日葵ちゃん…」
母が倒れたという知らせが耳に届けばきっとショックを受けてしまうだろう。
昨日の日葵の笑顔を見ただけに涙で顔を歪める日葵の顔を思い浮かべると胸を締め付ける。
連絡したくないのが本音だが家で母の帰りを待っているだろうし、母は1日入院なので家には戻ってこれない。
感染予防や衛生管理のためマスクを着用が義務付けられているが
日野と同じく惣菜部門の従業員から午前中から彼女の顔色はマスクをつけていても隠しきれないほど顔色があまり良くなかったそうだ。
また前日から多少ふらつきがあり疲れているような雰囲気も感じられたそうである。
多分日葵も母の体調のことで心配していただろう。
だからこそ日葵にはこの事態を受け入れるべきであり、母のことについて知らせなければいけない。
玉井は桜林小学校に連絡し日葵の母が貧血で倒れてしまったことを報告する。
さらに付け加えて救急車に運ばれ遊凪恵病院に搬送されたことも伝える。
そして容態についてのことも伝え意識があることも知らせた。
意識があると伝えるのがポイントで一番は安否を知らせるのが大事なのである。
パニックになると思われるが母の無事を知れば落ち着いてくれるはずだ。
日葵のことをどうするかは学校側が対応してくれるだろう。
店長として同じ仕事仲間としてそして人間としてやるべきことをやって胸を撫で下ろしてホッとした玉井であった。
玉井「はあ〜なんとか終わってね」
帰宅したいくらいに玉井はお疲れ気味である。
玉井のシフトは前で明るい時間帯で仕事をあがれるので、その際に日野の容態を知るため遊凪恵病院に行くそうである。
その後玉井は日野の件を含め報告書の作成のため事務所へ向かっていった。
理貴「一応親父に伝えておくか」
決着がついたので休憩時間も残りわずかだが父にも日野のことについて連絡する。
駄菓子屋のことを話しておくように父から頼まれていた。
言いそびれてしまったがあの状況では致し方ない。
駄菓子屋の話はまた今度にしてまずは体を大事にするのが先決である。
理貴のシフトは中であり帰りが遅くなるので何が起きた時のために父にも共有しておきたい。
しかし共有したところで何ができるかは思いつかないが日葵の母が搬送先の病院を知らせて
運良くお見舞いにこぎつけることができれば駄菓子屋の話もできるかもしれない。
落ち着いたせいか駄菓子屋中心の話ばかりになってしまうのは申し訳ないが
日葵に対して何かできることがあれば喜んで協力したいのである。
父に電話した理貴。
繋がるか繋がらないかどうかは曖昧で父はあまり携帯ないしスマホを使用しないので電話に出ない可能性があるかもしれない。
基本父は寝床にスマホを置くかリビングのテーブルに大体は置いている。
駄菓子屋店内に持ち込むことはほとんどないので店内にいたらほぼ電話に出ないと思っていい。
しかし着信を入れておけば後で知った時になぜ早く知らせなかったと言われたら電話しても繋がらなかったと言い返すことができる。
3回着信してようやく父と電話が繋がった。
理貴「もしもし親父?」
エビスじいちゃん「おうどうしたんじゃ理貴?もうすぐ休憩も終わる頃じゃろ」
エビスじいちゃんは時計を見ながらそう言う。
経験則から休憩時間が過ぎ業務を再開する頃合いであることを把握しているのである。
理貴「うん、もうすぐ仕事に戻らなければいけないけど親父に伝えなければいけない話があるんだ」
エビスじいちゃん「なんじゃ?」
理貴「日葵のお母さん…日野さんが貧血で倒れてしまったみたいで」
エビスじいちゃん「なんじゃと!?」
理貴「玉井店長とみんなで応急処置して大事に至らなかったけど1日病院で入院だって…」
エビスじいちゃん「日葵ちゃんは?」
理貴「平日だから多分学校だと思う。」
理貴「玉井店長が学校に連絡したから大丈夫…」
エビスじいちゃん「けれども日葵ちゃんが心配じゃのう…」
理貴「そうだね…んで…駄菓子屋のことは日野さんに話すことはできなかったよ…」
エビスじいちゃん「うむ、こうなってしまっては無理じゃのう…」
理貴「ごめん!もうすぐ仕事だから切るね!」
エビスじいちゃん「おう」
伝えたいことは全て伝えたので理貴は電話を切って仕事へ戻っていった。
突然の知らせにパニックになるエビスじいちゃん。
家の廊下を右往左往して何にかできることはないか考えている。
まだ子どもである日葵にとっては不運な知らせであるはずだ。
駄菓子屋に学校のクラスと先生と一緒に笑顔で来店してきた彼女に悲報が届くなんて可哀想でならない。
日葵の母は意識があり病院で入院することになって無事であることを聞いて安心したが日葵本人のことが心配である。
日葵はこの一日をどう過ごすのだろうか。
学校には日葵の心の支えになってくれる人がたくさんいるが母がいないため
母以外で依るべとなる人が日葵にはいるのだろうか。
親族がいれば頼りになるのだがなぜ日葵の母が突然倒れてしまったのかエビスじいちゃんにはわからなかった。
エビスじいちゃん「まあ、お父さんがいれば大丈夫じゃろう…ん?」
エビスじいちゃん「でも理貴はさっき玉井が学校に連絡したと言っていたのう…」
玉井の対応は間違っていないと思われるが、まずは病院に連絡するのが絶対だが
次に連絡するのは学校よりも先に緊急連絡先とも呼べる親族に連絡するべきだろうし
親族に連絡したなら理貴もそっちを言うはずではないかと思ってしまう。
この違和感のある不安がより一掃日葵のことが心配になってしまうのだ。
エビスじいちゃん「ん?日野さん…日野さん…ってもしや…」
店長時代のことを思い返すエビスじいちゃん。
長年「オリーブ」で働いてきた中で印象に残る出来事もたくさんあって
社員の家族がなくなってしまうなどの計報が届くことも何度もあった。
その中でエビスじいちゃん(星川店長)が携わった中でより印象に残ったことがあり
それが調理のほうの部門で働く女性のアルバイト従業員が夫を失くしてしまう話だった。
夫が正社員で共働きしながら子育てする家庭であったが夫がなくなってしまい
子育てしていく上でアルバイト1本の収入では生活が苦しくなってしまうので
その女性のアルバイト従業員を正社員にさせたことをエビスじいちゃんは思い出す。
しかし正社員にしたのは誰なのか名前が思い出せなかったが
理貴から聞いた今日の「オリーブ」の出来事をきっかけに思い出す。
エビスじいちゃん「そうか!わしが日野さんを正社員にしたんじゃった!」
エビスじいちゃん「ということは…あ!こうしてはおれん!」
エビスじいちゃんは急いで身支度して家を出て行った。
時間を少し戻し、桜林小学校の職員室で玉井の連絡に対応したのは4年生の担任の住瀬先生である。
玉井からの連絡を受けた時間は給食を終えた後の昼休みの時間であり
ちょうど住瀬先生が職員室に戻ったころに電話が鳴り出しとっさに応答したのである。
住瀬先生「丹下先生!日葵のお母さんが!」
丹下先生「え!?なんですって!」
丹下先生も職員室にいたのですぐに伝えることができた。
住瀬先生も過去に日葵の担任をしたことがあるので彼女の家庭の事情を知っているのである。
丹下先生は急いで3年1組教室に駆けて行った。
丹下先生「日葵ちゃんいる?」
日葵「え?先生どうしたんですか!?」
楓「何かあったんですか?」
昼休みは翔吉たちが外の学校のグラウンドで遊んでいる一方で日葵と楓は教室で遊んでいた。
息を切らして戻ってきた丹下先生の表情を見て今日を要する事態であることがわかる。
しかもそれは日葵に向けてのことである。
言葉を選び慎重に丹下先生は日葵の母のことについて話す。
丹下先生「日葵ちゃん落ち着いて聞いてね…」
丹下先生「日葵ちゃんのお母さん、貧血で病院に入院したみたいなんだ」
日葵「え!?お母さんが病院に!?」
急に倒れたなんて言葉は使わずに日葵の母が病院に入院したことを伝える丹下先生。
驚いた反応をしてしまうが冷静さを保っていることが伺える。
楓「それで…日葵ちゃんのお母さん大丈夫なの?」
丹下先生「心配しないで意識はあるみたいで今日一日は病院に入院するみたいなんだ」
日葵「はい、そうですか…」
翔吉「おーい!!日葵大丈夫か?」
翔吉、慎吾、和河也が教室に戻ってきた。
日葵「うん…」
住瀬先生が外で遊んでいる翔吉たちを見つけ声をかけたらしく翔吉たちも事情を知って教室へ戻ってきたのである。
和河也「でも、どうしようか…」
慎吾「何か俺たちにできることはありませんか?」
丹下先生「ありがとう、みんな…びっくりしたよね」
丹下先生「日葵ちゃん、みんないるから大丈夫だよ」
日葵「はい…」
翔吉たちが戻ってきたが状況が変わるわけではないがせめて日葵のことを支えてほしい。
もしものことがあればみんなで協力するべきである。
丹下先生「病院に行ってお母さんに会いに行こう。」
日葵「はい」
丹下先生「午後の授業は自習にします。」
慎吾「わかりました」
丹下先生は日葵を連れて日葵の母が入院する遊凪恵病院へ行くことに決めた。
母の顔を見て無事であることを知れば日葵も安心するはずだ。
午後の授業がまた自習になって内心嬉しく思う翔吉ではあるが自習に至った経緯が深刻なものなので
今回の自習はより真剣に取り組まないといけないだろう。
石畳の階段を降りて校地から出た丹下先生と日葵。
付近に桜林小学校職員専用の駐車場がある。
そこに丹下先生の自家用車が駐車されている。
桜林小学校から遊凪恵病院までの距離は20km以上あるため移動には車が必須なのである。
職員専用の駐車場を目指す丹下先生と日葵の後ろから声が聞こえる。
エビスじいちゃん「おーーーい!日葵ちゃーん!」
日葵「エビスじいちゃん!?」
丹下先生「え?店長!?」
続く