第11話 大人のお客さん
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売上1000円は駄菓子屋エビスに多くの課題を浮き彫りにさせる結果となった。
エビスじいちゃんは歯の治療を控えており経済面の負担が強いられる中で
駄菓子屋をより充実していかなければならない。
今後の駄菓子屋経営についてエビスじいちゃんと理貴は話し合いを始めたのであった。
第1の課題としてあげられるのはお菓子の充実である。
2日とも強く指摘を受けたのは品揃えの少なさだ。
前回はどこメーカーかわからないせんべいやスナック菓子など素朴なお菓子で種類も少なく最悪だったが
今回はグミしか売っていなかった。
今度はグミしか売っていないのかと言われる始末である。
グミオンリーのあの状況でエビスじいちゃんは子どもたちにどのように取り繕ったのか
当時の状況を思い浮かべて理貴に話した。
エビスじいちゃん「あの時はもうグミしか売っていないと素直に謝ってな」
エビスじいちゃん「好きなお菓子はあるのか聞き出してみたんじゃよ」
エビスじいちゃん「んで欲しいお菓子や要望を聞いてそれをこの駄菓子屋で用意しておけばその子は絶対買ってくれるし」
エビスじいちゃん「そうすれゃ余計にお菓子を仕入れるより安く済むじゃろ!」
闇雲にお菓子を仕入れず子どもが欲しいお菓子だけに的を絞れば
要望を出した子どものお客さんは買ってくれるだろうし
限られた資金の中では有効で安く済むというのがエビスじいちゃんの考えだ。
また要望を聞いておけば欲しいお菓子を売ってくれるという良い印象を与えることにも貢献し顧客満足と定着にも繋がる。
しかし理貴はエビスじいちゃんの考えにはあまり賛同できない様子である。
理貴「う〜ん親父の言ってることはわかるけどな〜」
理貴「まあ資金面においては安く済みそうなんだけど」
理貴「受注制で経営する店もあるけど駄菓子屋でそれをするのは見たことも聞いたこともねえな。俺が見た中では」
エビスじいちゃん「じゃがリクエストを聞いてくれる駄菓子屋はアリじゃろ!」
理貴「それもいいけどそれは種類が豊富でいろんなお菓子が売っていることが前提だよ。」
理貴「例えば目当てのチョコ菓子がなかったとしても替えがきくチョコや他すらないのは話にならないだろ。」
欲しいお菓子がなくても他の選択肢があるならいいがそれすらないのは確かに不便だ。
お菓子がなければ要望や意見を聞く前に他の店舗に行ってしまうのがほとんどだ。
仮に次に来店する機会がありリクエストがあったとしても
時間が過ぎたり気分次第では子どもはもちろん大人も食べたいものが変わってしまうことがよくある。
そんな呑気にお菓子を仕入れている暇はない。
ちゃんとスピード感を持ってお菓子の品揃えを充実してしっかり土台を整えておく必要がある。
理貴「知り合いや子どもだったからまだこれでもよかったけど」
理貴「大人の客がこれ見たらどうすんだ?」
理貴「特に玉井店長とか本多さんとかが見たら呆れちゃうんじゃない?」
エビスじいちゃん「あ〜それはアカンのう〜」
品揃えが圧倒的に少なく今やグミしかないこの駄菓子屋をあの二人が見たら幻滅してしまうかもしれない。
どちらともきっと種類や数が充実したお菓子が売られている普通の駄菓子屋をイメージしているはずだ。
息子として理貴は落ちぶれた元店長を見せたくないのが本音だろう。
あちらも店長時代のエビスじいちゃんにお世話になっていて助けられているので
逆にこの状況を理解してくれれば協力してくれるかもしれない。
だがまずは自分たちでできることはちゃんとやるべきてある。
エビスじいちゃん「子どもたちの前では多少冗談でも許して貰えるけど大人相手は厳しいのう」
エビスじいちゃん「ここの駄菓子屋は人気だからよく品薄になるって誤魔化してたわい。」
理貴「うまいこと言って盛り上げるのが親父の専売特許だからな」
理貴「あっち(オリーブ)にいた時は通用していたと思うけど今はそうはいかないじゃん」
経験を活かしながらではあるがエビスじいちゃんは悪い意味で店長時代の栄光にあぐらをかいているかもしれない。
多少盛って大々的に宣伝しても「オリーブ」のような大型のスーパーマーケットのように
家庭の食を支えるような店なら否が応でも需要になるし
エビスじいちゃんの冗談すら真に受ける消費者が特に常連客の中には結構いたはずだ。
言い訳言っていいわけではないが翔吉たちは支援する側にもなってくれてフォローしてくれた。
嘘を貫き通して売られている駄菓子屋として認知することが1つの大きな目標になりそうだ。
理貴「嘘を言わざるを得ない状況になっちゃたのも、このグミしかない品揃えの悪さだからだよな」
理貴「元から品揃えが悪いことは知っていたけどグミしかなかったのは迂闊だった。」
理貴「俺も謝るよ。悪い気づかなくて!」
エビスじいちゃん「過ぎたことは仕方ないしのう、次のことを考えんと」
理貴「じゃあ早速お菓子を仕入れに行こう!」
エビスじいちゃん「善は急げじゃな」
すぐに行動に移しお菓子を仕入れに行く二人であった。
コンビニを何件か回って仕入れるそうだ。
外に出ると既に空は真っ暗だった。
車に乗って運転するのは理貴である。
車の通りが少なく落ち着いている様子だが理貴は安全運転を心掛けている。
駄菓子屋運営についても理貴は慎重な姿勢を取っていることがうかがえられる。
前回はグミしか買わなかったので今回は幅広くいろんな種類のお菓子を買うつもりだ。
翔吉たちの意見からグミは売っていないかと言われてその意見を聞いてグミを買ったが
ハードグミである「グニャボヨ」を食べて歯を折ってしまうという悲惨な目に遭ってしまうが
同時に転機が訪れ歯科医院で翔吉と再開しさらには彼の父が「オリーブ」で働いている元部下だったのだ。
今後客足が増えると予想しているのである程度は品揃えを拡充していきたい。
どこからどこまでお菓子を補充すればいいのか正解はまったくわからないが
せめて二度と品揃えが少ないと言わないように十分な選択肢を増やせるように努めるべきである。
車の中でも駄菓子屋エビスの課題について話しており第2の課題は資金面である。
お菓子を仕入れているための資産は理貴の収入とエビスじいちゃんの年金で十分賄えている。
ちょっと無理をすれば品揃えを充実させてそれなりの駄菓子屋にすることは可能でお菓子を買うだけならなんとかできるが
環境設備や冷蔵ショーケースなどのランニングコストを考慮していくと厳しくなる。
環境が整えば第3、第4、第5の課題も自然に全てクリアできるが。
しかしそれをやったとしても今度は儲けが出るかどうかである。
翔吉たち、子どもたちの目線で見るとお金をそんなにもっていないため
資金面ではだいぶ苦労しているはずでできればただでお菓子を貰えたらと願いたくもなるだろう。
お小遣いには限界があり翔吉たちが下の子どもたちにお菓子を奢る中で揉めていたところ目の当たりにしている。
子どものお小遣いは当てにできないというのはもうわかってはいる。
安くしようとすると利益にならなくなってしまう。
そのような懸念があるからこの駄菓子屋の品揃えが悪いことにも起因している。
つまりリスクを背負ってでも駄菓子屋らしい本格的な駄菓子屋にするべきかで葛藤しているということだ。
こちらは適正価格で売って仕入れ額が下回る売上だったとしても
次の仕入れに活かせるほどの売上にはするべきでできるだけ精神的支柱にある収入源と貯金を無理に使わず
できるだけ生活に影響を及ばさないように駄菓子屋経営をするのが二人の理想なのだ。
妥協なく適正価格で売るなら子どもではなく大人のお客さんが必要だ。
エビスじいちゃん「う〜難しいのう〜大人のお客さんか〜」
理貴「経営を続けていくためには必要になるかもね」
エビスじいちゃん「お!コンビニが見えてきたぞい!」
理貴「よし、まずはここにするか」
駐車場に車を止めてコンビニの中に入った。
店員の「いらっしゃいませ」の声を聞きながら買い物かごを2個持ってお菓子が売っているコーナーに入り
お菓子の陳列の前に理貴は腕を組んでしゃがんだ。
エビスじいちゃんもお菓子が売っているコーナーの前に立っているが
大人のお客さんが頭をよぎりカウンターに立つ店員の後ろに並べられたタバコをみていた。
ちょうどタバコを買う大人のお客さんがいて銘柄や番号を言って
店員は後ろに並べられたタバコから客から言われた通りのものを探していた。
そして支払いを済ませてタバコを買った客がコンビニから出てくるところまでエビスじいちゃんは見ていた。
お菓子そっちのけでエビスじいちゃんはコンビニ内をぐるっと見てまわった。
またエビスじいちゃんの目に止まったのはお酒である。
アイスクリームと冷凍食品が入っている冷凍ショーケースをさかいに並べられた瓶酒とワインを見ていた。
ちょうどまた酒を買う人がいて瓶酒を持ってカウンターへ行った。
見た感じエビスじいちゃんより10歳から20歳ぐらい下の50から60歳ぐらいの男性である。
さらにスーツを着ている男性が買い物かごを片手に持って缶ビールに手を伸ばしていた。
買い物かごの中にはコンビニ弁当とビールのつまみになるものが入っていた。
多分この客は仕事の帰りなのだろう。
エビスじいちゃん(酒とタバコか…)
エビスじいちゃんはそちらの方には目を背きお菓子の選定をしている理貴のところに戻った。
理貴「おう親父、何かいいもの見つかったか?」
エビスじいちゃん「目移りするものばかりじゃよ」
エビスじいちゃん「コンビニもいろいろ売ってるな」
エビスじいちゃん「そっちもなんかいいお菓子を見つけたか?」
揺らいだ心をお菓子で軌道修正するエビスじいちゃん。
理貴が選んだお菓子は買い物かごに積まれており
チョコ菓子やスナック菓子そして駄菓子屋のイメージに合いそうなラムネ菓子や飴菓子などが入っている。
理貴「まあこんなもんかな」
エビスじいちゃん「あ〜これも頼む」
エビスじいちゃんは追加であたりめ、柿の種、ピーナッツ菓子などをかごに入れた。
どれも酒やビールのつまみを意識したようなお菓子である。
かなりお菓子を買い込んだがコンビニのお菓子を買い占めるのは迷惑だと思ったので
陳列されているお菓子の3分の1ぐらいの量にして次のコンビニで同じ量のお菓子を買い込むつもりだ。
理貴「ここはこれぐらいでいいだろう」
理貴「折角だからついでにアイスでも食わないか?」
エビスじいちゃん「わしはいらん歯が染みるかもしれん」
理貴「あ!治療中だったな」
お菓子を仕入れたついでに休憩としてアイスを食べようと提案した理貴であるが
エビスじいちゃんは治療中の歯があり冷たいアイスで歯が染みるのを心配し遠慮した。
理貴はアイスを買ったがエビスじいちゃんはアイスを買う代わりにホットのミルクティーを買った。
会計を済ませ、コンビニを出て車の中で理貴はアイスを食べて休憩した。
エビスじいちゃんの買ったホットのミルクティーはキャップ付き缶でキャップの蓋を開けて
ミルクティーを少量飲んで再びキャップを閉めた。
理貴「コンビニでこんなにお菓子を買ったのは初めてだな。」
理貴「ポイントカードのポイントも貯まるからいいかな」
エビスじいちゃん「じゃな」
エビスじいちゃんはミルクティーを見つめながら下を向いていた。
理貴「どうしたんだ親父?」
エビスじいちゃん「大人のお客さんのことでなさっきここのコンビニで酒とかタバコを買う人を見たんじゃ」
理貴「あ〜なるほど」
大人のお客さんをどうやって集客するのか悩んでいるのは理貴も同じだ。
理貴「オリーブも酒とかタバコとか売っていて、よく売れてはいるけど」
理貴「駄菓子屋でそれを売るってのはちょっと…」
理貴「なくはないのかな…う〜んわかんねえな」
エビスじいちゃん「わしらはタバコは吸わないし酒も飲めない下戸じゃ」
エビスじいちゃん「恵美須も酒も飲まなかったしタバコも吸わなかった…」
車の中で重く暗い雰囲気が漂う。
エビスじいちゃんと理貴の二人はライトで照らされているコンビニの中の様子をじっと見つめていた。
エビスじいちゃん「やっぱり酒とタバコはやめじゃやめじゃ!」
理貴「俺もそう思う。」
酒とタバコを出せば大人のお客さんの需要を満たせるかもしれないが
飽くまで駄菓子屋エビスは子どもたちをターゲットにした駄菓子屋である。
亡き妻、恵美須の思いを踏みにじるのではないかと思いエビスじいちゃんは思い踏みとどまった。
理貴「だからあたりめとか柿の種を追加で入れたのはそういうことか」
エビスじいちゃん「うむそういうことじゃ」
大人のお客さんの集客にある程度有効な酒とタバコをあきらめたがどこか諦めきれないところがあったようで
エビスじいちゃんがあたりめや柿の種など追加で買い物かごを入れたのはそういった抵抗なのだろう。
お酒のつまみになる菓子なら目に止まり大人が来店してくれるかもしれない。
ビールや酒のつまみと言いつつもお菓子なのでもちろん子どもも食べられるのでこの選択は賢明である。
理貴「こういうあたりめとかを好む子どももいると思うからいい選択なんじゃないかな」
エビスじいちゃん「じゃろ!わしの目に狂いはないはずじゃ!」
また車の中は徐々に明るい雰囲気を取り戻した。
タバコやお酒以外でどうやって大人のお客さんを集めるか次のコンビニを目指しながら話し合う。
あてがあるとすればエビスじいちゃんのかつての職場であり理貴が働いている「オリーブ」の従業員たちだろう。
現時点で最有力なのは玉井店長と本多である。
今のところ大人で力になってくれるのは彼らしかいない。
玉井店長なら客としてだけでなく支援する側にも立ってくれて
現「オリーブ」の店長として大きな力になってくれるはずだ。
本多には翔吉という息子がいてさらに二度の来店を果たした子どものお客さんである。
そして翔吉は駄菓子屋エビスの大きな希望だ。
手放したくないのでなんとしてでも常連として定着させるためにも本多の協力を得たいところだ。
理貴「もうちょい踏み込んでしつこい感じに積極的に話てみるよ」
エビスじいちゃん「集客で頼れるのは理貴しかおらんのう〜」
理貴「だったらまた店長に戻ってみるのもアリなんじゃないかな?」
エビスじいちゃん「それは勘弁じゃ〜」
集客でできることは理貴に任せてそれ以外でエビスじいちゃんは駄菓子屋経営に専念するのであった。
本多家ではリビングのテーブルで本多とその息子の翔吉がお互い向き合いながらエビスじいちゃんの駄菓子屋について話していた。
その横でソファに座って母はテレビを見ていた。
翔吉は今日の午後学校の帰りに友達と下の学年たちを連れて駄菓子屋エビスのことを話、父はビールを飲んで聞いていた。
翔吉の父「気前のいいところが星川店長のいいところであり悪いところでもあるんだよな」
翔吉の父「相変わらず粋な図らないなんかしちゃって」
翔吉の父「俺はそんな店長に救われたんだよな〜」
翔吉の父は「オリーブ」で働いていたエビスじいちゃんのことを話、翔吉はそれを聞いて彼の人柄を知る。
翔吉「友達と話し合ったんだけどやっぱりお菓子を買うってのが一番の支援になるんじゃないかって」
翔吉「けどお金がないんだよね〜」
翔吉の父「1000円だけじゃ物足りないよな」
翔吉の父「けど下の子にお菓子を奢ってやるとは成長したもんだな。店長のいいところが伝染したんじゃないか。」
翔吉「まあね〜」
翔吉「よーし追加でお小遣いを…」
しかし母の強い視線を感じ翔吉に追加でお小遣いを渡そうと財布のファスナーを開けようとする手が止まった。
どんな理由であれお小遣い交渉と変わらない。
しっかり母は見逃さず聞き逃さず鋭い眼光で翔吉に追加でお小遣いを渡そうとする父を止めた。
翔吉の母「翔吉にお小遣いあげちゃだめよ」
翔吉の父「わかったよ…やっぱりダメか…」
翔吉「マジか…」
何かを決意したのか翔吉の父は立ち上がる。
翔吉の父「明日仕事休みだしこうなったら星川店長の駄菓子屋見に行こうか!」
大人のお客さん第1号誕生か…。
続く
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